“銅鑼(どら)” の例文
最初はガンガンという銅鑼(どら)の音で、よく聞えなかったが、注意して聞くと、「人が来るから、そこへ坐ってはいけない」というのだ。
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
銅鑼(どら)が鳴ってから一件の背広を届けに、兄が、母の表現を借りると、スルスルと猿(ましら)のように、人波をかきわけ登ってきてくれました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
張任は、こう勇断を下して、やがて一発の烽火(のろし)をあいずに、銅鑼(どら)、鼓(つづみ)の震動、喊声(かんせい)の潮、一時に天地をうごかして、城門をひらいた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若者は盌(もい)を蹴って部屋の外へ馳け出した。間もなく、法螺(ほら)が神庫(ほくら)の前で高く鳴った。それに応じて、銅鑼(どら)が宮の方々から鳴り出した。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
昔通りのくぐり門をはいって、幅の狭い御影石(みかげいし)の石だたみを、玄関の前へ来ると、ここには、式台の柱に、銅鑼(どら)が一つ下っている。
野呂松人形 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
間もなく食事を知らせる銅鑼(どら)が鳴った。色とりどり実にふんだんな卓上の盛花、隅の食器棚の上に並べられた支那焼花瓶、左右の大聯(おおれん)。
長崎の一瞥 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ピアノの鍵盤(けんばん)とピアノの音とが、銅鑼(どら)のクローズアップとその音とに交互にカットバックされるところなどあったように記憶する。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
すべて、海上(かいじやう)の規則(きそく)では、船(ふね)の出港(しゆつかう)の十分(ぷん)乃至(ないし)十五分(ふん)前(まへ)に、船中(せんちう)を布(ふ)れ廻(まは)る銅鑼(どら)の響(ひゞき)の聽(きこ)ゆると共(とも)に本船(ほんせん)を立去(たちさ)らねばならぬのである。
この過程を二三度繰り返して、最後の幻覚から喚(よ)び醒まされた時は、タンホイゼルのマーチで銅鑼(どら)を敲(たた)き大喇叭(おおらっぱ)を吹くところであった。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この時巨大な真鍮(しんちゅう)の銅鑼(どら)でも、強い力で打ったらしい、陰気な金属性の音が聞こえ、それが長い尾を引いて、城の隅々へまで行き渡った。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
六時(じ)が七時(じ)になつても、船(ふね)はひた/\と波止場(はとば)の際(きは)まで押(お)し寄(よ)せて居(ゐ)ながら、まだなか/\著(つ)けさうにない。其(そ)のうち又(また)しても銅鑼(どら)が鳴(な)る。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
乱脈なヒクソスの進軍歌を喚(わめ)きたてながら、吾と吾が胸を滅多打ちの銅鑼(どら)と掻き鳴らす乱痴気騒ぎの風を巻き起してここを先途と突進した。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
火が十分燃えあがるのを見とどけて、藻に似た女は持っている唐団扇をたかく挙げると、それを合図に耳もつぶすような銅鑼(どら)の音が響いた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
揚幕の中からは猛烈な囃しの音、特に銅鑼(どら)を叩いて居る、五十恰好の親爺は、妙にソハソハした樣子で、首だけ出して水槽を覗いて居ります。
洋画家中村不折氏の玄関には銅鑼(どら)が吊(つる)してある。案内を頼む客は、主人の画家(ゑかき)の頭を叩く積りで、この銅鑼を鳴らさねばならぬ事になつてゐる。
汽笛や銅鑼(どら)が暗い海面を掃き、船員達が走り廻り、マストには発火現場眼じるしの旗があがり、稽古とは知っていてもさすがに好い気もちはしない。
朝まだき、とつぜん銅鑼(どら)や長喇叭(らっぱ)の音がとどろいた。みると、耳飾塔(エーゴ)や緑光瓔珞(ようらく)をたれたチベット貴婦人、尼僧や高僧(ギクー)をしたがえて活仏(げぶつ)が到着した。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
たちまち船首のほうからけたたましい銅鑼(どら)の音が響き始めた。船の上下は最後のどよめきに揺らぐように見えた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
が、士官(オフィサー)はただ冷やかな笑みを口許に泛(うか)めているのみで、いっかな通じようともせぬ。見送り人は続々と下船して銅鑼(どら)はいよいよ身近く鳴り響いてきた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「そうだろう、いい花だろう、桃の花だよう、桃の花なんだ」と、声高に銅鑼(どら)声を上げつつ、恰(まる)で兵隊ごっこをする子供のように先頭を切って出て行った。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
そのとき、解纜(かいらん)を知らせる銅鑼(どら)の音が、船首の方から響いてきた。いよいよお別れだ。私は帽子に手をかけた。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すると、不意に、この音も無くしんとした天地を破つて、銅鑼(どら)を叩いたなら、かういふ厭(いや)な音が為(す)るであらうと思はれる間の抜けたしかも急な鐘の乱打の響!
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
先刻寄ったあの大波止へ種々(いろいろ)の恰好に拵えた燈籠を持って此方からは勿論稲佐辺からもジャン/\銅鑼(どら)を鳴らして集まって来る。此処から見ていると綺麗だぜ
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ところで、白い帽子の白詰め襟の老ボーイ、食堂の入口に現れるなり、燦爛(さんらん)と、さて悲しげに笑ったが、左に銅鑼(どら)、右に撥(ばち)、じゃん、じゃららん、らんらんらんらん。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
銅鑼(どら)の連打にはじまつて、胡弓、笛、鐃鈸(にょうはつ)などの、騒々しい合奏になる。それを先頭に、行列が繰りこんで来た。雲つくやうな謝将軍が、ゆたりゆたり揺れながら来る。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
そしてちょっと休んだ後、銅鑼(どら)やティムパニの大きな音で、公(おおやけ)の威勢をもって軍歌を奏し出した。
会席の真似事をして銅鑼(どら)を打つ。会席では用意が整えられたしらせに銅鑼を打って、路次の待合客に入室をうながす合図とする。それを打つには秘訣がある。呼吸がある。
タネが一くさり歌い終ると、待っていたように、艀の船頭が、銅鑼(どら)声をはりあげて歌いだした。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
夕食の銅鑼(どら)が鳴つてゐる。人々は散つて行つた。一筋の澪(みを)を長く引いて、艦隊は南下した。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
伴奏の楽器も亦いまのようにハモニカなんかではなくて、流しの声色やと同様に銅鑼(どら)に拍子木(ひょうしぎ)。操る人は舞台の蔭に身を隠していて声だけしか聞えない。口跡もなかなか渋かった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
慵(だる)い体を木蔭のベンチに腰かけて、袂から甘納豆(あまなっとう)を撮(つま)んではそっと食べていると、池の向うの柳の蔭に人影が夢のように動いて、気疎(けうと)い楽隊や囃(はやし)の音、騒々しい銅鑼(どら)のようなものの響きが
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
にわかにとどろく軍馬の音! 法螺(ほら)! 陣太鼓(じんだいこ)! 銅鑼(どら)ぶうぶうどんどん。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
正面成吉思汗(ジンギスカン)の天幕(ユルタ)の外に、竿頭に白馬の尾を結びつけたる旗印を九本立て、その他三角形の小旗、槍、鼓、銅鑼(どら)、楯などを飾る。上手下手、及び中央と、舞台三個処におおいなる篝火を焚く。
月がすッと山のかなたに落ちていったと思うと、林や谷のあたりから、天地もくずれるばかりのときの声が上がって、金鼓(きんこ)、銅鑼(どら)の音がとどろきわたった。明軍(みんぐん)は月の入りを待っていたのである。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
島で銅鑼(どら)がだるそうにぼんぼんと鳴り椰子の木もパンの木も一ぱいにからだをひろげてだらしなくねむっているよう、赤い魚も水の中でもうふらふら泳いだりじっととまったりして夢(ゆめ)を見ているんだ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
琉球で物迷(ものまよ)いと名づけて物に隠された人を探すのにも、部落中の青年は手分けをして、森や洞窟などの中を棒を持ち銅鑼(どら)を叩き、どこそこの誰々やい、赤豆飯(あかまめまい)を食えよと大きな声で呼びまわるという。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その先は改良剣舞の銅鑼(どら)と拍子木入りの荒々しい野性の鳴もの。
美少年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのとき、食事を知らすらしい支那風の銅鑼(どら)が鳴りひびいた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その代り、銅鑼(どら)が鳴るまで、ベンゲットの話をし、なお
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
わが一人(ひとり)とり残されし冷たき心を苛(さいな)むその銅鑼(どら)……
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
港の銅鑼(どら)の音は、彼の心を異境の空に誘惑した。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
時にはあの出航の銅鑼(どら)のように
死の淵より (新字新仮名) / 高見順(著)
沖(おき)の船より銅鑼(どら)の音(ね)ひびく。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
銅鑼(どら)だ、太皷(たいこ)だ、法螺貝(ほらがひ)だ
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
もう何刻(なんどき)ごろか。表の方では、花聟の列でも着いたのか、銅鑼(どら)や太鼓の音。そして“聟迎えの俚歌(さとうた)”などが賑やかに聞えだしている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんだ」と主人は水中で銅鑼(どら)を叩(たた)くような声を出す。返事が気に入らないと見えて妻君はまた「あなたちょっと」と出直す。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
揚幕(あげまく)の中からは猛烈な囃しの音、特に銅鑼(どら)を叩いている、五十恰好の親爺(おやじ)は、妙にソワソワした様子で、首だけ出して水槽を覗いております。
君が横浜を出帆した日、銅鑼(どら)が鳴って、見送りに来た連中が、皆、梯子(はしご)伝いに、船から波止場(はとば)へおりると、僕はジョオンズといっしょになった。
出帆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
銅鑼(どら)が鳴り、渡りはしごがひき上げられ、音楽やテープの色どりのうちに、そろそろと巨大な客船は岸壁をはなれる。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
銅鑼(どら)が鳴った。兵士(つわもの)たちの銅鉾(どうぼこ)を叩いて馳せ寄る響が、武器庫(ぶきぐら)の方へ押し寄せ、更に贄殿(にえどの)へ向って雪崩(なだ)れて来た。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)