えい)” の例文
旧字:
破穴やぶれあなからのぞいていますが、これを少しも知りませんで、又作はぐい飲み、猪口ちょくで五六杯あおり附け、追々えいが廻って来た様子で
折角いい機嫌きげんで帰って来た八助のえいをすっかりさまして、秦野屋の足はまた何処へ向ってゆくか、宙を飛んで寺町のやみへ消え去りました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
電車に乗ってから、暫らくの間信一郎は夫人に対するえいから、めなかった。それは確かに酔心地よいごこちとでも云うべきものだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ワイニンゲルなんぞの足跡そくせきを踏んでけば、厭世は免れないね。しかし恋愛なんという概念のうちには人生のえいを含んでいる。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼等はえいに乗じて夜店の商品を踏み壊し、カフエーに乱入して店内の器具のみならず家屋にも多大の損害を与え、制御の任に当る警吏と相争うに至った。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
鉄道病と云っても、私の取り憑かれた奴は、よく世間の婦人にあるような、ふねくるまえいとか眩暈めまいとか云うのとは、全く異なった苦悩と恐怖とを感ずるのである。
恐怖 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
琵琶びわの銘ある鏡の明かなるをんで、叡山の天狗共が、よいぬすんだ神酒みきえいに乗じて、曇れる気息いきを一面に吹き掛けたように——光るものの底に沈んだ上には
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
心はとどろく、みゃくは鳴る、酒のえいを円タクに蒸されて、汗ばんだのを、車を下りてから一度夜風にあたった。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがてえいも十二分にまはりけん、照射ともしが膝を枕にして、前後も知らず高鼾たかいびき霎時しばしこだまに響きけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
小猿雪山に登りて大薬王樹という樹の枝を伐って、帰り来りて酔い臥したる猿どもをずるに、たちまちえいめ心たけくなって竜を責む。竜王光を放ってせめぎけるを大王矢を射出す。
一、 井戸端いどばたの桜あぶなし酒のえい 秋色しゅうしき
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
父がえい家の新酒しんしゅの嬉しさに 召波
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
と悦んで居る処へ酒を勧めたからグッスリえいが廻り、伽羅大尽は碁盤の上へ俯伏うっぷしてスヤリ/\と眠ってしまいました。隣座敷で番頭新造が
上条へ帰った時は、僕は草臥くたびれと酒のえいとのために、岡田と話すことも出来ずに、別れて寝た。翌日大学から帰って見ればもう岡田はいなかった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
急にえいが発してきたような顔も見当るし、わざと、さりげない話をとってつけたようにし出す者もあるし、露骨に
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
閑静な席で、対坐に人まぜせぬ酒の中に、話がここへ来たころは、その杯を受けた筆者わたしえいが廻った。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瓢箪ひょうたんえいを飾る三五の癡漢うつけものが、天下の高笑たかわらいに、腕を振ってうしろから押して来る。甲野さんと宗近さんは、たいを斜めにえらがる人を通した。色の世界は今がさかりである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不自然な、強制的なアルコールのえいが次第次第に肥え太った私の肉体へ浸潤して来た。
恐怖 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかしどういうわけか一同の如く心の底から陶然とえいを催す様子は更に見えなかった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
此方こっちも床へ這入りは這入ったが、ぎこちなくって布団の外へはみ出す様、お園はウンともスンとも云わないから、なんだか極りが悪いのでえいさめて来て
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
酒のえいはまわるし、腹は満ちてくるし、一同はようやく、夜来のつかれが皮膚の上べに出て来る心地がしてきた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慄悚ぞっとした、玉露を飲んで、中気ぐすりめさせられた。そのいやな心持。えいめたといううちにも、エイと掛声で、上框あがりがまちに腰を落して、直してあった下駄を突っかける時
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
己はラシイヌを手に持って、当てもなく上野の山をあちこち歩き廻っているうちに、不安の念が次第に増長して来て、脈搏みゃくはくの急になるのを感じた。丁度酒のえいめぐって来るようであった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と云って、見ると、持ってる一刀が真赤に鮮血のりみて居るので、ハッとお驚きになるとえいが少しめまして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
つづみは鳴る、笛は鳴る、えいはめぐる。——ただ羅門塔十郎だけは酔えなかった。余りに厳粛な龍山公の前では、窮屈に坐ったきり、膝を崩すこともゆるされない。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
郡の部に属する内藤新宿の町端まちはずれに、近頃新開で土の色赤く、日当ひあたりのいい冠木門かぶきもんから、目のふちほんのりとえいを帯びて、杖を小脇に、つかつかと出た一名の瀟洒しょうしゃたる人物がある。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
車の上では稍々やや強く顔に当る風も、まだえいが残っているので、かえって快い。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
河岸へ立上たちあがりますに、ブーと吹きおろす寒風に袖もたもともつらゝのように氷って、ずぶ濡れゆえ、えいが醒めてみると夢のような心もちで、判然はっきり分りませんけれども
小県ちいさがた下和田宿しもわだじゅくに着いて、いかがわしい旅籠はたごでいかがわしい女どもを揚げ、いかがわしい酒とさかなで、昼の仲直りということになり、えいがたけなわとなるに及んでは
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昼間歩行あるき廻った疲れが出た菅子は、髪も衣紋も、帯も姿もえたようで、顔だけは、ほんのりした——麦酒ビイルは苦くて嫌い、と葡萄酒を硝子杯コップに二ツばかりの——えいさえ醒めず
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
作「止せよ兄貴、己酒のえいも何もめて仕舞った、兄貴止せよ、姉御、見込んだら放さねえ男だから、なア、仕方がねえから放しなさえ、だが、敲くのは止せよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
光秀の面色は、そのえいも、きんか頭のひたいの照りまでも、さっとせて、土のように変じていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金の額ぶちのように背負しょって、揚々として大得意のていで、紅閨こうけいのあとを一散歩、ぜいる黒外套が、悠然と、柳を眺め、池をのぞき、火の見を仰いで、移香うつりが惜気おしげなく、えいざましに
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毎日はんで押したようにつづきましたが、丁字ちょうじ風呂の二階に、ぽッと春の灯が橙色だいだいいろにともるころになりますと、お蝶も、日本左衛門も、期せずしてえいのさめたようなひとみに変り
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と一盃飲んでお梅にす、お梅が飲んで和尚に献す。そのうち酒のえいが廻って来まして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
は更けて、夏とはいえど、風冷々ひやひやと身に染みて、戦慄ぞっと寒気のさすほどに、えいさえめて茫然と金時は破垣やれがき依懸よりかかり、眠気つきたる身体からだ重量おもみに、竹はめっきと折れたりけり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつおさえつ酒を飲んで居るうちに、互にえいが発して参りました。の女は目のふちをボッと桜色にして、何とも云えない自堕落な姿なりに成りましたが、治平はちゃんとして居ります。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
真面目な話にえいもさめたか、愛吉は肩肱かたひじ内端うちはにして、見るとさみしそうであわれである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうなることかと、満堂の人々はえいをさまし、口腔くちの乾く思いをじっと抱いていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うめえ仕事もねえのサ……親方御免なせえ……お爺さん熱くして一本けておくれ、お爺さん、カラどうもえいが醒めちゃア生地いくじがねえんだ、寒い時とこええ時は酒でなくッちゃアしのげねえから
店の亭主が向顱巻むこうはちまき気競きそうから菊正宗のえいが一層はげしい。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もとより好きな酒、又市二三杯飲むうち、少し止めて居たから顔へ色がぼうと出ましたけれども、桜色という訳にはいきません、栗皮茶くりかわちゃのような色に成りましたが、だん/\えいが廻りますと
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と気が附いたから少し酒のえいめた。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)