トップ
>
逸
>
いっ
ふりがな文庫
“
逸
(
いっ
)” の例文
わが手の
利
(
き
)
かぬ先にわが失えるものはすでに多い。わが手筆を持つの力を得てより
逸
(
いっ
)
するものまた少からずと云っても
嘘
(
うそ
)
にはならない。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
長蛇
(
ちょうだ
)
を
逸
(
いっ
)
した
伊那丸
(
いなまる
)
は、なおも、四、五
間
(
けん
)
ほど、追いかけてゆくのを、待てと、
坂部十郎太
(
さかべじゅうろうた
)
の陣刀が、そのうしろから
慕
(
した
)
いよった。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ちょっと向うがこちらの気に負けて静止した時を
逸
(
いっ
)
せず
狙
(
ねら
)
わなければ
逃
(
に
)
げてしまう。この感じは、実は研究全体についてもいえるのである。
実験室の記憶
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
好機
逸
(
いっ
)
すべからずとて、
遂
(
つい
)
に母上までも
欺
(
あざむ
)
き参らせ、親友の招きに応ずと言い
繕
(
つくろ
)
いて、一週間ばかりの
暇
(
いとま
)
を乞い、翌日家の
軒端
(
のきば
)
を立ち
出
(
い
)
でぬ。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
こんなわけで、
折角
(
せっかく
)
生捕
(
いけど
)
ったたった一匹のルナ・アミーバーでありましたが、惜しくも
天空
(
てんくう
)
に
逸
(
いっ
)
し去ってしまったのです。
崩れる鬼影
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
▼ もっと見る
多くの
秀
(
すぐ
)
れた句を書いているのは、彼の気質が若々しく、枯淡や洒脱を本領とする一般俳人の中にあって、
範疇
(
はんちゅう
)
を
逸
(
いっ
)
する青春性を持っていたのと
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
基経は先刻から
黒鶫
(
くろつぐみ
)
の去らぬ
梢
(
こずえ
)
の姿を見ていたが、この機会を
逸
(
いっ
)
してはならぬと、突然、基経は鶫を指差していった。
姫たちばな
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
大浦自身の言葉によれば、彼は必ずしも勇士のように、一死を
賭
(
と
)
してかかったのではない。賞与を打算に加えた上、
捉
(
とら
)
うべき盗人を
逸
(
いっ
)
したのである。
保吉の手帳から
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ひとり三年は単純であるかわりに元気が
溌剌
(
はつらつ
)
として
常軌
(
じょうき
)
を
逸
(
いっ
)
する、しかも有名な木俣ライオンが牛耳をとっている
ああ玉杯に花うけて
(新字新仮名)
/
佐藤紅緑
(著)
矢田はこの機
逸
(
いっ
)
すべからずと、あたりを見廻したが、
折悪
(
おりあ
)
しく円タクが通らないので、二人はそのまま立止った。
つゆのあとさき
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
それにしても、井関さんの今度のいたずらは、彼が井上と私との親密な関係を、よく知らなかったとはいえ、殆ど
常軌
(
じょうき
)
を
逸
(
いっ
)
していると云わねばなりません。
覆面の舞踏者
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
彼は「えい!」と一声叫ぶと、パッと
右手
(
めて
)
へ身を
逸
(
いっ
)
したが、そこは芒の原であった。甚三の馬が悠々と、主人の兇事も知らぬ顔に、一心に草を食っていた。
名人地獄
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
その
怯懦
(
きょうだ
)
と愚鈍からみすみすそれを
逸
(
いっ
)
し去ったのは、すくなくともこの場合、当然身を
挺
(
てい
)
して警察と公安を援助すべき公共的義務精神の熱意と果敢さにおいて
女肉を料理する男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
果
(
はた
)
して外国人に
干渉
(
かんしょう
)
の意あらんにはこの
機会
(
きかい
)
こそ
逸
(
いっ
)
すべからざるはずなるに、
然
(
しか
)
るに当時外人の
挙動
(
きょどう
)
を見れば、別に
異
(
こと
)
なりたる
様子
(
ようす
)
もなく、長州
騒動
(
そうどう
)
の
沙汰
(
さた
)
のごとき
瘠我慢の説:04 瘠我慢の説に対する評論について
(新字新仮名)
/
石河幹明
(著)
彼はどこかこのあたりの別荘へ来ている者だろうと思ったきりで、それ以上べつに好奇心も起らないので、女のことは意識の外に
逸
(
いっ
)
してその土手を
上流
(
かみて
)
の方へ歩いて往った。
蟇の血
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
近く論ずれば今の
所謂
(
いわゆる
)
立国の有らん限り、遠く思えば人類のあらん限り、人間万事、数理の
外
(
ほか
)
に
逸
(
いっ
)
することは叶わず、独立の外に
依
(
よ
)
る所なしと
云
(
い
)
うべきこの大切なる一義を
福翁自伝:02 福翁自伝
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
竹敷
(
たけじき
)
を出た上村艦隊が暴雨のために敵を
逸
(
いっ
)
して帰着したということが書いてある。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
しかし十五分もたつとすでに、かれは、自分の知る限りでの最も味わいがいのあるこの境遇を、こんなふうに心で見すてて、つまらない仕事で
逸
(
いっ
)
してしまうのは、もったいない気がした。
ヴェニスに死す
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
暗くなっては敵を
逸
(
いっ
)
する
懼
(
おそ
)
れがあるので、一時も早く
絡
(
から
)
め捕ってしまおうと、御用の勢は、各自手慣れの十手を円形につき突けて——さて、駈けあがろうとはあせるものの、
高処
(
こうしょ
)
の左剣
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
なんとなく思想発表の好機を
逸
(
いっ
)
するような心持ちを禁じえぬゆえ「煩悶と自由」の終りに特に一篇を書きそえた例になろうて本書にも新たに一文を書きつづって巻末に追加することとした。
我らの哲学
(新字新仮名)
/
丘浅次郎
(著)
それだけで
止
(
よ
)
せば、おそらく誰も気の付くものはなかったでしょうが、一度銀簪の誘惑に負けて血を見ると、常軌を
逸
(
いっ
)
したお才の頭は果てしもなく狂って、自分より若くて美しい女さえ見れば
銭形平次捕物控:004 呪いの銀簪
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
ずっと前の事であるが、
或
(
ある
)
人から
気味合
(
きみあい
)
の
妙
(
みょう
)
な
談
(
はなし
)
を聞いたことがある。そしてその話を今だに忘れていないが、人名や地名は今は既に
林間
(
りんかん
)
の
焚火
(
たきび
)
の煙のように、
何処
(
どこ
)
か知らぬところに
逸
(
いっ
)
し去っている。
観画談
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
褒められる機会があれば決して
逸
(
いっ
)
さない。
凡人伝
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
そのあいだに、
天野
(
あまの
)
、
猪子
(
いのこ
)
、
足助
(
あすけ
)
などが、
鉾先
(
ほこさき
)
をそろえてきたため、みすみす
長蛇
(
ちょうだ
)
を
逸
(
いっ
)
しながら、それと戦わねばならなかった。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかしそれがために、私は機会を
逸
(
いっ
)
したと同様の結果に
陥
(
おちい
)
ってしまいました。私は自分について、ついに
一言
(
いちごん
)
も口を開く事ができませんでした。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そしてかの美貌の男か、美女か、小山すみれかに
行逢
(
ゆきあ
)
えば、直ちに補えるつもりでいたけれど、結局この重要なる三人の人物を
空
(
むな
)
しく
逸
(
いっ
)
してしまった。
鞄らしくない鞄
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
常子はこの馬の脚に
名状
(
めいじょう
)
の出来ぬ
嫌悪
(
けんお
)
を感じた。しかし今を
逸
(
いっ
)
したが最後、二度と夫に会われぬことを感じた。夫はやはり悲しそうに彼女の顔を眺めている。
馬の脚
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
殊
(
こと
)
に犯罪には
常軌
(
じょうき
)
を
逸
(
いっ
)
した馬鹿馬鹿しい事がつきものです。そういうものを馬鹿にしないことが犯罪を解く者の
秘訣
(
ひけつ
)
です。……こんなことを外国の有名な探偵家がいい
遺
(
のこ
)
していますよ
一寸法師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
云いながら好機
逸
(
いっ
)
すべからずと彼は山吹の手をとった。それからそっと腰をかける。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
之を喩えば音楽、茶の湯、挿花の風流を台所に試みて無益なるが如し。
然
(
し
)
かのみならず古文古歌の故事は往々浮華に流れて物理の思想に乏しく、言葉は優美にして其実は婬風に
逸
(
いっ
)
するもの多し。
新女大学
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
おかげでもう一歩というところであたら
長蛇
(
ちょうだ
)
を
逸
(
いっ
)
したのは、すべてお藤のしわざで、ひっこんでいさえすれば、見事若造を斬り棄てて坤竜丸を収め得たものを! さ、いったい全体だれに頼まれて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
世にも
強
(
し
)
い、それが意のごとくにならないところからまた、よけい常軌を
逸
(
いっ
)
した言動になったりするふうの見える文覚であった。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
したがって、それを利用できる時に利用しなければ、私の過去をあなたの頭に間接の経験として教えて上げる機会を永久に
逸
(
いっ
)
するようになります。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
無辜
(
むこ
)
のものを罪に陥れ、有罪者を
逸
(
いっ
)
することがあるといっていますね。
心理試験
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
鵜
(
う
)
の目
鷹
(
たか
)
の目で珍ダネを探している新聞記者が
逸
(
いっ
)
する筈はなかった。
火葬国風景
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
「まず
逸
(
いっ
)
する心配はない」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
(かくの如き時は生涯二度とはありませぬぞ。秀吉とて明日はこの世の者でないかも知れず、かかる時を
逸
(
いっ
)
して悔いを
千載
(
せんざい
)
にのこし給うな)
新書太閤記:08 第八分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「艦隊ハ午後九時二十分北緯四十度東経百三十七度ノ洋上ニ
於
(
おい
)
テ、高度約二千
米
(
メートル
)
ヲ保チ、南東ニ飛行中ノ敵超重爆撃機四機ヲ発見セリ、直チニ艦上機ヲ
以
(
もっ
)
テ急追攻撃セシメタルモ、天暗ク敵影ヲ
逸
(
いっ
)
スルオソレアリ」
空襲警報
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
従って誰も彼も、
立居振舞
(
たちいふるまい
)
が
常規
(
じょうき
)
を
逸
(
いっ
)
しています。
湖畔亭事件
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
隊伍を
整
(
ととの
)
えて駈け出ようとした時では、たとえ駈けつけて行っても、時間として、信長を救うべき機はすでに
逸
(
いっ
)
していたものといってよい。
新書太閤記:07 第七分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
尚更
(
なおさら
)
逸
(
いっ
)
することのできない話である。
赤外線男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
「いたずらに、大事をとって、上方の戦況を、にらみ合せていたのでは、ついに機を
逸
(
いっ
)
すばかりか、逆に鎌倉方の先手を食うかもしれませぬ」
私本太平記:08 新田帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「うるさい。うるさいっ。
下司
(
げす
)
めが、まだ
吠
(
ほ
)
えおるか。……ええ、時遅れては大事を
逸
(
いっ
)
す。源右衛門、こやつを、引離せ」
茶漬三略
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「
正隆
(
まさたか
)
、正遠、正光らもおるな。
逸
(
いっ
)
しはしたが、尊氏もきもにこたえたはず、直義とて同様。このうえは
雑軍
(
ぞうぐん
)
端武者
(
はむしゃ
)
の手を待って死ぬはおろか」
私本太平記:12 湊川帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
『——われわれは、まんまと、その下手人に、
騙
(
たば
)
かられたのじゃ。折角、御城内にいたものを、
逸
(
いっ
)
してしもうたのだ』
夏虫行燈
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
組々の親方どもは、人夫達の気もちを充分に
弁
(
わきま
)
えておるであろう。このときを
逸
(
いっ
)
しては、汝らの願い事を、殿のお耳へじかに聞いて戴く折はないぞ。
新書太閤記:07 第七分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「敵将義貞の首を、お目にかけるつもりでいたのに、事成らず、
逸
(
いっ
)
しました」と、しきりに残念がるのでもあった。
私本太平記:08 新田帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
経家は、いま使者をうけたこの
機
(
しお
)
を
逸
(
いっ
)
すべきではないと、独り問い独り答えたあげく、やがて茂助へ向って云った。
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「
未練
(
みれん
)
にはございますが、いまを措いては、まったく時を
逸
(
いっ
)
します。あわれ、まいちど、御集議にかけ給わって」
私本太平記:10 風花帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
故に、三国志は、
強
(
し
)
いて簡略にしたり
抄訳
(
しょうやく
)
したものでは、大事な詩味も
逸
(
いっ
)
してしまうし、もっと重要な人の胸底を搏つものを
失
(
な
)
くしてしまうおそれがある。
三国志:01 序
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
逸
常用漢字
中学
部首:⾡
11画
“逸”を含む語句
独逸
飄逸
都々逸
逸見
逸早
逸物
逸話
安逸
逸足
逸出
逸品
逸散
獨逸
放逸
逸人
逸脱
逸駿
見逸
逸雄
逸作
...