途方とはう)” の例文
さうして初めて途方とはうにくれ、困惑した。初めて身邊をあちこちぐる/\と見まはして、周圍はたゞはかり知られぬ深い淵だと思つた。
すると河の泥に隠れてゐた、途方とはうもなく大きなひるが、その頃はまだ短かつた、お前の先祖の鼻の先へ、吸ひついてしまつたのに違ひない。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
御米およねなほした。宗助そうすけ途方とはうれて、發作ほつさをさまるのをおだやかにつてゐた。さうして、ゆつくり御米およね説明せつめいいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ふるはしアノ白々しら/″\しいといふとき長庵は顏色がんしよくかへて五十兩には何事ぞや拙者はさらおぼえなき大金を拙者に渡したなどとは途方とはうなき事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
つきゆきはなおろいぬんだとては一句いつくつくねこさかなぬすんだとては一杯いつぱいなにかにつけて途方とはうもなくうれしがる事おかめが甘酒あまざけふとおなじ。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
途方とはうにくれてよめ塩原しほばら内井戸うちゐど飛込とびこんで幽霊いうれいに出るといふのがつぶはじめで、あの大きなうちつぶれてしまつたが、なんとこれは面白おもしろ怪談くわいだんだらう
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
此兒このこわたし弟子でしにするといふのですか貴樣あなたは? 途方とはうもないこと、此兒このこわたし師匠しゝやうだ、わたし此兒このこならいたいくらゐだ!』
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いゝえ、うではありません』とつて白兎しろうさぎは、『じつ不思議ふしぎだ』(陪審官ばいしんくわんみん途方とはうれてしまひました)
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
二人は途方とはうに暮れ、どこへ行くあてもなく、溝に沿つた暗い路地をうろついてゐた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
ある猟人かりうどが、やまかりにゆきますと、何処どこからか鸚鵡あうむ啼声なきごゑきこえます。こゑはすれども姿すがたえぬ、猟人かりうど途方とはうにくれて「おまへはどこにゐる」とひますと「わたしはこ〻にゐる」とこたへた。
吃驚びつくりしたのやら、あきれたのやら、ぎよつとしたのやら、途方とはうもねえ、とつたつらをしたのやら、突張つツぱつてあわてたのやら、ばかりぱち/\してすくんだのやら、五六ぴきはひつたのをとゞけられた。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
全體ぜんたいなにうしたのだらう、れはおまへおこられることはしもしないに、なに其樣そんなにはらつの、とのぞんで途方とはうにくるれば、美登利みどりぬぐふて正太しようたさんわたしおこつてるのではりません。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「誰でせう。そんな途方とはうもないことをしたのは」
ドン・キホオテりうに、途方とはうも無い勇氣を出して
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
途方とはうに暮れた私にいこひの場所を惠んでくれるやうな氣にさせることは、もうとても出來さうもなく思はれるのであつた。
偖質屋よりは今日中猶豫いうよ致し明日は是非とも質物しちもつ相流し候旨ことわりに來りければ文右衞門は途方とはうにくれ如何はせんと女房お政に相談さうだんなしけるにお政も太息といき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
昔の人で了簡れうけんせまいから、途方とはうれてすご/\とうちかへり、女房にようばう一伍一什いちぶしじうを話し、此上このうへ夫婦別ふうふわかれをして、七歳なゝつばかりになる女の子を女房にようばうあづけて、くにかへるより仕方しかたがない。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
わたし途方とはうにくれた。——成程なるほどちら/\と、……
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小僧は途方とはうもないことを言ひます。
致せしやと申故兩人は途方とはうに暮てこたへも出來ざれば三吉小猿は汝等なんぢら役所へ來れとお時文藏並にともの吉平三人へ繩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかし、私は誰にも見られたくないのだ、行きずりの人達は、明らかに目的もなく途方とはうに暮れて、この道標の傍に佇んでゐる私を、一體何をしてゐるのかといぶかるだらう。