護謨ゴム)” の例文
てのひらは痛むし、首筋は腫れるし、胃袋もどうやら紅茶臭くなっているようだ、その他の部分も少し休養させなくては護謨ゴムが伸びてしまう
一人は細いつえ言訳いいわけほどに身をもたせて、護謨ゴムびき靴の右の爪先つまさきを、たてに地に突いて、左足一本で細長いからだの中心をささえている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
したがって、套靴オヴァ・シューズを付けた人物の来た時刻が、護謨ゴム製の長靴と思われる方と同時か、あるいはそれより以後である事は明らかなのである。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
逆巻くなみのように、こずえや枝葉を空に振り乱して荒れ狂っている原始林の中を整頓せいとんして、護謨ゴムの植林がある。青臭い厚ぼったいゴムの匂いがする。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まくりや、米の粉は心得たろうが、しらしらあけでも夜中でも酒精アルコオルで牛乳をあっためて、嬰児あかんぼの口へ護謨ゴムの管で含ませようという世の中じゃあなかった。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その拍子にぐにゃりと柔かいが、しかし弾力のあるあたかも護謨ゴムの如きものの上に、両掌と膝頭とを突いたのだった。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
甲谷はイギリス政府の護謨ゴム制限撤廃の声明が、今頃自分の嫁探しにこんなに早く、影響を及ぼそうとは考えなかった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
これを例えば当時の封建社会は、既にその弾力を失したる護謨ゴム枕の如し、しこうして空気の量は倍々ますますその中に膨脹し来る。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その店のある階床フロアには固護謨ゴム製の品を山と積んだ卓子が沢山あった。櫛、腕輪、胸にさす留針ピン、安っぽい装身具、すべて言語に絶した野蛮な物である。
トラカルの護謨ゴムの管から際限もなく流れ落つる濃黄色の液體を目撃するまでは、確かにさうと信じかねてゐた。
郁雨に与ふ (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ジヨホオルでの護謨ゴム栽培は一年の借地料が一エエカア五十銭だ。づ山地の密林をり開いて無数の大木を焼棄するのに費用がる。この焼棄が容易で無い。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
護謨ゴムの手袋を拝借して、手術室に行って見物する、手術と云っても、盲腸炎やヘルニアの切開ぐらいだが、雨の日の退屈まぎれには、目先きが変って面白かった。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
しかし、父はず、曳舟通りなんぞにある護謨ゴム会社や石鹸工場のなかへ私を連れてはいり、しばらく用談をしている間、私を事務所の入口に一人で待たせておいた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
色のついた線を作るには細い格子のようなものと護謨ゴム写真と同じ法で板に写しこれを染めるのである。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
帽子を被って二重マントを着た、護謨ゴム長靴ばきの彼れの姿が、自分ながら小恥こはずかしいように想像された。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
片隅かたすみ外套がいとうを脱捨つれば、彼は黒綾くろあやのモオニングのあたらしからぬに、濃納戸地こいなんどじ黒縞くろじま穿袴ズボンゆたかなるを着けて、きよらならぬ護謨ゴムのカラ、カフ、鼠色ねずみいろ紋繻子もんじゆす頸飾えりかざりしたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
が、彼はかたきの勝平からさうした恩恵を受けたことを、死ぬほど恥しがつて、学業を捨ててしまつて、遠縁の親戚が経営してゐるボルネオの護謨ゴム園に走らうとしてゐる。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
運転手ははずしたタイヤをガバガバガバと地上にひっ転がすと、今度のまた破損の箇処にゴムの継ぎを当て当て、アラビヤ護謨ゴム粘着くっつけると、トントンと叩いて見た。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
彼は和服を一番悪い洋服に着換えて護謨ゴムの長靴を穿き、レインコートに防水帽をかぶって出かけたが、半丁ほど行って振り返ると、後からお春がいて来るのに心づいた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
順天では朝鮮靴、七宝の指輪、刺繍ししゅうの類など。中でも靴は形がすぐれ細工も見事であった。惜しいことに今は一般にこの種のものが廃れ、到るところ護謨ゴム靴に代られている。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
秋子の盲乳めくらぢちによりも一層安々と、護謨ゴムの乳首に吸いついて、咽せるほど吸っている子供の様子を、順造は涙ぐましい心地で眺めた。秋子も首を伸して、その方を眺めていた。
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「俺はあの女を泣かせる事に興味を覚えていた。あの女を叩くと、まるで護謨ゴムのように弾きかえって、体いっぱい力を入れて泣くのが、見ていてとてもいい気持ちだった。」
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
護謨ゴムの林の奥を目がけてヒューッとその矢を放すと同時に、木立の上から南洋鷹が弾丸のように落ちて来た。武器の手入れをする土人もある。銅笛を吹いている土人もある。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
胴体もことごとく、灰黒色の護謨ゴム布で包んで、手にはやはり護謨と、絹の二重の黒手袋を、又、両脚にも寒海の漁夫が穿くような巨大なゴムの長靴を穿うがっておりますが、その中に
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「マガイ」とは馬爪ばづ鼈甲べっこうに似たらしめたるにて、現今の護謨ゴム象牙ぞうげせると同じく似て非なるものなれば、これを以て妾を呼びしことの如何いかばかり名言なりしかを知るべし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
兩側にはいとすぎ、亞刺比亞アラビア護謨ゴムの木(アカチア)茂りあひて、その下かげに今樣なる石像、噴水などあり。中央には四つの石獅に圍まれたる、セソストリス時代の記念塔あり。
早く頬摺ほおずりしてひざの上に乗せ取り、護謨ゴム人形空気鉄砲珍らしき手玩具おもちゃ数々の家苞いえづとって、喜ぶ様子見たき者と足をつまて三階四階の高楼たかどのより日本の方角いたずらにながめしも度々なりしが
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして加之しかのみならず、事実を興味深く粉飾するために、何の小説にも一様に、護謨ゴム靴の刑事と、お高祖頭巾こそずきんの賊とが現れ、色悪と当時称せられた姦淫が事件の裏にひそんでいるのに極まっていた。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
護謨ゴム管を透して薬剤注入の用意をなし、全くその手術を終りたるは八時半なりし。
早稲田大学 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
僕たちの車の硝子ガラスが、護謨ゴムまりをたたきつけたかのようにジジーンと音を立てた。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
敬二東道の下に章子を帯同、一路自動車にて奥田彩坡さいは経営の士乃セナイ護謨ゴム園を訪ふ。横光利一よこみつりいち同道。帰途タンジヨン・カトンの玉川ガーデン、敬二居等に立寄り、今日の吟行地植物園に下車。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
○ベースボールに要するもの はおよそ千坪ばかりの平坦なる地面(芝生しばふならばなおし)皮にて包みたる小球ボール(直径二寸ばかりにして中は護謨ゴム、糸のたぐいにて充実じゅうじつしたるもの)投者ピッチャーが投げたる球を
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
下半身不随のこの老史学者は、ちょうど傷病兵でも使うような、護謨ゴム輪で滑かに走る手働四輪車の上に載っているからだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この色の前に平身せざるものは、弾力なき護謨ゴムである。一個の人として世間に通用せぬ。小野さんはいい色だと思った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
非常に貧弱な魚のスープ、それ程不味くもない豆の糊状物ペースト、生で膳にのせ、割合に美味な海胆うにの卵、護謨ゴムのように強靭で、疑もなく栄養分はあるのだろうが
上り口をちょっと入った処に、茶の詰襟の服で、護謨ゴムのぼろ靴を穿いて、ぐたぐたのパナマを被った男が、ばちてのひらたたきながら、用ありそうに立っている。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十二三年前にふみの上のまじはりせし同氏は今新嘉坡シンガポウルより五六十里奥の山にて護謨ゴムの栽培に従事されるよしにさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
が、彼はかたきの勝平からそうした恩恵を受けたことを、死ぬほど恥しがって、学業を捨ててしまって、遠縁の親戚しんせきが経営しているボルネオの護謨ゴム園に走ろうとしている。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
扉のところによれよれになった護謨ゴムのようなものがはさまっていて、開ける拍子にぽろりと落ちたので、それも拾って、ハンケチと一緒にポケットの中に入れてしまいました。
機密の魅惑 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
それに犬の男根のような若芽の護謨ゴム苗や、浅緑の三尺バナナや、青くて柔かな豆の葉や、深い緑のトマトの葉、褐色の鳳梨パイナップルやが、朱紅色の土の上に、まるで印度更紗インドさらさのように
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ハッと眼が覚めて前方まえを見ると朝陽に照らされた護謨ゴム林が壁のように立っているじゃないか! 思わず僕は飛び起きたね。そうしてみんなを揺り起こして船をその岸へ着けたものさ。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お尻の上の帯をゆすぶりゆすぶり玄関のドアを開いて、新派悲劇みたいな姿態ポーズを作って案内したから吾輩も堂々と玄関のマットの上に片跛かたびっこ護謨ゴム靴を脱いで、古山高帽を帽子掛にかけた。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
回教の寺院へ参り、それより護謨ゴム園を見に行く。四十哩の速力で三四十分の間、両側は護謨林ばかりだ。紅葉期らしく、護謨は紅葉。突如として香料の匂いが林中から吹き襲う。香木があるらしい。
欧洲紀行 (新字新仮名) / 横光利一(著)
私の父は本所に小さな護謨ゴム工場を持っていた。それが今度すっかり焼けてしまったので、その善後策を講ずるために、殆んど毎日のように父は出歩いていたので、私はいつも一人で留守番をしていた。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
護謨ゴムの新原料
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし、他からの運動には全然無抵抗で、まるで、柔軟な蝋か護謨ゴムの人形のように、手足はその動かされた所の位置に、いつまでも停止している。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
手持無沙汰てもちぶさたなのは鉛筆えんぴつしりに着いている、護謨ゴムの頭でテーブルの上へしきりに何か書いている。野だは時々山嵐に話しかけるが、山嵐は一向応じない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すべて壮年期の椰子やしばかりで、其間そのあひだに近年護謨ゴム栽培𤍠の流行する影響から若木わかぎ護謨樹ゴムじゆを植ゑた所もある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
窓が両開き硝子ドアであり、華麗のカーテンがかかって居り、床が護謨ゴム敷になって居り、煖炉の前にオリエンタルカラーの、段通だんつうが一面に敷いてあるのも、好ましい趣味でありましたよ。
「車輛会社にゃかなわん。護謨ゴム輪でん何でんチャアンと持っとる。はっはっは。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)