しょう)” の例文
夏の日、大切なお客が来るとわたしは彼をそこへしょうじ入れた。このうえない召使いが床をぬぐい、家具の塵をはらい、什器じゅうきを整頓した。
彼はにわかに、こう謝して、賓客の礼を与え、座にしょうじて、あらためて闞沢の使いをねぎらい、酒宴をもうけて、さらに意見を求めた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今まで姿を見せなかったのは、つまり、この不時の珍客のために、奥の座敷に手入れをして、しょうじまいらすべき室をしつらえていたのだ。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たびたび来ているとみえて、顔なじみらしい女中がふたり、あたふたと顔を並べ乍ら下へもおかずに新兵衛をしょうじあげた。
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
と社長は食後僕達を別間にしょうじて、お礼を述べながら、金一封を尚子に推し進めた。足繁く通って貰った車代だと言う。
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おのが世が来た、とほくそ笑みをした——が、氏の神祭りにも、語部をしょうじて、神語りを語らそうともせられなかった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
二階の書斎にしょうじ入れると、背広姿の花田警部は、ニコニコして、ジョニー・ウォーカーのグラスを受けた。むろん、あの夜のウィスキーではない。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すると天和堂のお内儀かみさんはかねて知合いと見えて、さっそく椅子を指してどうかお掛け下さいと言ってしょうじたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
僕はK君を置き炬燵にしょうじ、差し当りの用談をすませることにした。しまの背広を着たK君はもとは奉天ほうてんの特派員、——今は本社詰めの新聞記者だった。
年末の一日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まあお客様からとしょうじたら、「私も一緒に御免蒙りましょう」と婦人が云って、夫婦一緒にさっさと入って了った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
刑部はこれを疑う材料もなかったので、一室にしょうじて、万一の場合、後で苦情をいわれぬくらいには歓待した。
三浦右衛門の最後 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
金帛きんはくを以て謝することの出来ぬものも、米穀菜蔬さいそおくって庖厨ほうちゅうにぎわした。後には遠方からかごを以て迎えられることもある。馬を以てしょうぜられることもある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
入り口ですまそうとするのを、「まアまアほんとうにお久しぶりでしたね」と無理に奥の座敷へとしょうされた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
説諭せつゆされましたので、勝五郎はの尋ねてまいったお若と伊之助、それにせがれの岩次をつれて参りました。高根晋齋は三人の親子を奥へしょうじて対面に相成りまする。
「——はもあみだぶつ、はも仏と唱うれば、ふならく世界に生れ、こちへ鯒へとしょうぜられ……仏と雑魚ざこして居べし。されば……干鯛ひだい貝らいし、真経には、たことくあのくたら——」
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時一人の檀那だんなが栄西をしょうじて絹一疋を施した。栄西は歓喜のあまり人にも持たしめず、自ら懐中して寺に帰り、知事に与えて言った、「さあこれが明日の朝の粥だ」。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
加賀の金沢などではこの遊びをオジャコトといっている。御座は年忌ねんきでなくとも僧をしょうじ、説教を聴聞ちょうもんする人寄ひとよせであるが、やはり法事のように食物が出たものと思われる。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いろり附近まわりに四人の男女が控えてた。男は怪量を上座じょうざしょうじてから四人をり返った。
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あわてて火鉢の前にしょうずる機転の遅鈍まずきも、正直ばかりで世態知悉のみこまぬ姿なるべし。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
諸国に率先そっせんして、婦人の団結をはかり、しばしば志士論客ろんかくしょうじては天賦てんぷ人権自由平等の説を聴き、おさおさ女子古来の陋習ろうしゅうを破らん事を務めしに、風潮の向かう所入会者引きも切らず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
心ゆくばかり半日を語り尽して酒亭を出でしが表通は相撲の打出し間際にて電車の雑沓はなはだしかりければ、しばしがうちとて再びわが隠家かくれがの二階にしょうじて初夜過ぐる頃までも語りつづけぬ。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
うや/\しく持佛堂にしょうじ入れて、深夜の御光臨は何御用にて候哉そうろうやと問うと、丞相の霊が答えて、自分は口惜しくも濁世じょくせに生れ合わせて無実の讒奏をこうむり、左遷流罪させんるざいの身となったについては
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ねんごろに客間にしょうぜし加藤夫人もその話の要件を聞くよりはたと胸をつきぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
は如何にとて皆々せまどひ、御酒肴ごしゅこう取りあへず奥座敷にしょうじ参らするうち、妾も化粧をあらためて御席にまかり出で侍りしが、の御仁体を見奉みたてまつるに、半面は焼けただれてひとへに土くれの如く
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
死苦に臨むもなお一旦吐いた毒をとりいれず、いわんや今更に棄つるところの薬を収めんやと。『十誦律毘尼序じゅうじゅりつびにじょ』にこの譚の異伝あり。大要を挙げんに、舎婆提しゃばていの一居士諸僧をしょうぜしに舎利弗上座たり。
日は急がしきにつれて矢のごとく飛びぬ。露深く霧白く、庭の錦木にしきぎの色にほのめくある朝のこと、突然車を寄せて笑ましげに入り来るは辰弥なり。善平は待ち構えたるごとく喜び立って上にしょうじぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
郭中かくちゅうは一面燦々さんさんたる燈燭である。中央のひろい一殿に、彼はしょうじられた。しかし彼は、椅子いすらず、宋江を見ると、下に坐って
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
建久二年の頃法然をしょうじて大仏殿のまだ半作であった軒の下で観経かんぎょう曼陀羅まんだら、浄土五祖の姿を供養し、浄土の三部経を講じて貰うことになったが
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しょうぜられるまゝに上り込むと、主人公は同僚の長谷川君と対局していた。斯ういう場合千吉君は覚悟が好い。分っても分らなくても神妙に見物している。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
主人は疲れて大にいやであったが、遠方から来たものを、と勉強して兎に角戸をあけて内にしょうじた。吉祥寺きちじょうじから来たと云う車夫は、柳行李やなぎごうりを置いて帰った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
貞固は留守居に任ぜられた日に、家に帰るとすぐに、折簡せっかんして抽斎をしょうじた。そしてかたちを改めていった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ひとりで心得、ひとりでせかせかとはしゃぎながら座敷を取りかたづけると、やがてしょうじあげてきた者は、まこと天女ではないかと思われる一個の容易ならぬ美人でした。
懐奘を初めて首座しゅそしょうじた夜、道元は衆に向かって言った、——当寺初めて首座を請じて今日秉払ひんぽつを行なわせる。しゅの少なきを憂うるなかれ。身の初心なるを顧みるなかれ。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
手をとらんばかりにして、廊下のドアをひらき、書斎らしい洋間にしょうじ入れた。
悪霊物語 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
有験うげんの高僧貴僧百人、神泉苑しんせんえんの池にて、仁王経にんおうきょうこうたてまつらば、八大竜王はちだいりゅうおう慈現じげん納受のうじゅたれたまふべし、と申しければ、百人の高僧貴僧をしょうじ、仁王経を講ぜられしかども、其験そのしるしもなかりけり。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
且角倉氏は誓願寺の中興教山上人をしょうじて導師とし、死者に各法号を授けて無縁塔に刻し、大佛殿建築の残材、聚楽第じゅらくだいの建物を譲り受けて一寺を創建し、幕府の許可を得て慈周山瑞泉寺と号した。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もとより如何いかなる人にても、かつて面会をこばみし事のなき妾は、直ちに書生をして客室かくしつしょうぜしめ、やがて出でて面せしに、何思いけん氏は妾の顔を凝視ぎょうししつつ、口の内にてこれは意外これは意外といい
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
と奥の間へ案内をして上座かみざしょうじ、伴藏は慇懃いんぎんに両手をつかえ
かの比丘をしょうじて説法せしめると、一同開悟せぬはなかった。
と、彼は畏るる孟獲の手をとって、帳上にしょうじ、夫人一族にも席をあたえて、歓宴を共にし、また杯と杯とを以て、こう約した。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と目を円くして取次いだのにはすくなからず驚いた。家までついて来たのである。大谷夫人は玄関へ出てしょうじたが、丸尾夫人はお辞儀をするばかりで応じない。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
朝、珍らしく角田つのだの新五郎さんが来た。何事か知らぬが、もうこゝでと云うのを無理やりに座敷ざしきしょうじた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
とお雪ちゃんが、関守氏の相当な足ごしらえを見ながら、炉辺にしょうじますと、関守氏は
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ことばゆかしくしょうじながら、いっときも待ちきれないというように、そこの床の間に飾ってある桃の節句の祝いびなを指さしたので、静かに見ながめると、なにさまちと不審なのです。
有験うげんの高僧貴僧百人、神泉苑の池にて、仁王経にんのうきょうを講じ奉らば、八大竜王も慈現納受じげんのうじゅたれ給うべし、と申しければ、百人の高僧貴僧をしょうじ、仁王経を講ぜられしかども、そのしるしもなかりけり。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兎も角も奥へしょうじ入れて、徳善院へその旨を知らせ、指図を仰いだ。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
社会部記者と称する男は、むしこころよく支配人の部屋へしょうじられた。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「わたくしから、玉清観の道主におすがりしたのじゃ。天下の道士をしょうじて香を焚き、行を営んで、鬼神のお怒りをなだめていただくように」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と夫人も斎藤さんをしょうじながら、俊一君に目まぜをした。心配しなくても宜いよという意味だった。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
上西門院は深く法然に帰依していたが、或時法然をしょうじて七カ日の間説戒せっかいがあったが、円戒の奥旨を述べていると一つの蛇がカラガキの上に七日の間じっとして聴聞の様子に見えた。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)