葡萄酒ぶどうしゅ)” の例文
あの葡萄酒ぶどうしゅや酒の豊富な貯えには、錠や、かんぬきや、秘密の穴蔵などは、あまり大して保護をしてくれる物にならないのが普通であった。
「本物の葡萄酒ぶどうしゅに違いない。グランテールが眠ってるのは仕合わせだ。やつが起きていたら、なかなかこのまま放っておきはすまい。」
こういう場合予防のために葡萄酒ぶどうしゅなどを飲まされるものかどうか彼は全く知らなかったが、何しろ特別の手当を受ける事はいやであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これはイーストばかりでなく麦酒でも葡萄酒ぶどうしゅでもラムネでもソーダ水でも醗酵性の飲料は壜の口を上にして立てておいてはいけません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
卓上に伏せてある洋盃コップを起して、葡萄酒ぶどうしゅぎながら、こんな事を云う女の素振りは、思ったよりもしとやかに打ちしおれて居た。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
砂糖と葡萄酒ぶどうしゅとを入れたりなすってもあまり召上らず、お出かけの跡に色の附いた牛乳が、お机の傍に手附かずにあるのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
店先には葡萄酒ぶどうしゅの立飲をしている労働者風の仏蘭西フランス人も見えた。帳場のところに居た主婦かみさんは親しげな挨拶あいさつと握手とで岡を迎えた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それまで葡萄酒ぶどうしゅを保存するのに止むを得ずアルコールを混ぜていたのでしたが、それでは値段も高くなり、また健康にも害があったのです。
ルイ・パストゥール (新字新仮名) / 石原純(著)
大勢の人に交り食事をするのもまた楽しいものです。私はほんのまじないほど葡萄酒ぶどうしゅを飲み、陶然とした気持で飯屋を出ます。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
そして彼の口にぷーんといい匂いのする葡萄酒ぶどうしゅの壜をあてがった。夜明までにずいぶんながい時間がかかったように思った。
氷河期の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
絹の飛白かすりのような服に紅いバンドを締めた夫人は、葡萄酒ぶどうしゅを一同にぎながら梶のそばまで来ると優しく梶に握手をして彼の横へ腰を降ろした。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
学生は料理屋へ大晦日おおみそかの晩から行っていまして、ボオレと云って、シャンパンに葡萄酒ぶどうしゅに砂糖に炭酸水と云うように、いろいろ交ぜて温めて
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一本はボルドウの白葡萄酒ぶどうしゅ、他の一本は無論男のために用意せられたものですが、三鞭シャンパン酒などではなく、何とも知れぬ不思議な味の酒でした。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それと同じで神聖土曜にも二時過ぎまで断食をいたしまして、二時過ぎにはじめてパンを少々と水を飲み、葡萄酒ぶどうしゅを一杯だけいただきまする。
それ以来これに代わるべき実直な奉公人が見付からぬ処からわたしは折々手ずからパンを切り珈琲コーヒーわかしまた葡萄酒ぶどうしゅの栓をも抜くようになった。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
香苗の父は数年まえから新しい事業をはじめていた、日本ではまだよく知られていない葡萄酒ぶどうしゅの醸造を思い立ったのである。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
食事のときに、一杯ずつ与える葡萄酒ぶどうしゅを、父はもう一杯とせがむのを、母は毒だと断るのにいつも喧嘩けんかのような騒ぎでした
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わけて紅玉べにだまを溶かしたような葡萄酒ぶどうしゅ愛飲あいいんし、時々、菓子器に盛ってある南蛮菓子を取っては食べ、かつ語るのであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
銀子が見たこともない茨蟹いばらがにの脚の切ったのや、甲羅こうらの中味のいだのに、葡萄酒ぶどうしゅなども出て、食べ方を教わったりした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
田部からの電話はきんにとっては思いがけなかったし、上等の葡萄酒ぶどうしゅにでもお眼にかかったような気がした。田部は、思い出にられて来るだけだ。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
はじめの烏、又、旅行用手提げの中より、葡萄酒ぶどうしゅびん取出とりいだし卓子テエブルの上に置く。後の烏、青き酒、赤き酒の瓶、続いてコツプを取出とりいだして並べそろふ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「とろけてしまうなんて、まるでれたようで意気ですこと。おやっちゃん、あたくしゃ葡萄酒ぶどうしゅでのみましたよ。」
其処そこでいま、ちょっとペンを置いて、葡萄酒ぶどうしゅを一杯ひっかけ、Westminsterを二三本吹かしたところだ。
鳥料理 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
女はしぶしぶ立上って、大きな皿に御馳走ごちそうを取りわけると、小さな葡萄酒ぶどうしゅのコップを添えて少女の前に差し出した。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
とはいえ、その冗談は、大盃おおさかずきになみなみと注いだすばらしいホックハイム葡萄酒ぶどうしゅでいつも威勢をつけられた。
「うん、君らしく勇敢に戦ったな。敵ながら感心したぞ。つかれただろう。どうだい、葡萄酒ぶどうしゅをやろうか?」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
梨の実の出盛りに庭阪に行き、または葡萄酒ぶどうしゅの仕入時にローヌのたになどをあるいて見ると、盗まれて見なければ豊年の悦喜えつきが、徹底せぬような顔した人がいる。
これに反して西洋酒はシヤンパンは言ふまでもなく葡萄酒ぶどうしゅでもビールでもブランデーでもいくらか飲みやすい所があつて、日本酒のやうに変テコな味がしない。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
とうとうその苦心の外套をも廃止して、中学時代からのボロボロのマントを、頭からすっぽりかぶって、喫茶店へ葡萄酒ぶどうしゅ飲みに出かけたりするようになりました。
おしゃれ童子 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は押入れの戸をあけて、一本の葡萄酒ぶどうしゅの瓶をとり出した。そして、それを台のついた小さなグラスに汲んでちびりちびりとやり初めた。よいが快く廻って行った。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
十字架を地に置く者、穴を掘る者、釘と金槌かなづちとを揃える者、等々。かくて没薬もつやくを混ぜた葡萄酒ぶどうしゅをイエスにすすめました。これは苦痛を軽減するための麻酔剤です。
産婆はまりでもつくようにその胸をはげしくたたきながら、葡萄酒ぶどうしゅ葡萄酒といっていた。看護婦がそれを持って来た。産婆は顔と言葉とでその酒をたらいの中にあけろと命じた。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
葡萄酒ぶどうしゅ一壜ひとびんきりで、それもあやしげな、くびのところがふくれ返ったどす黒い代物しろもので、中身はプーンと桃色ももいろのペンキのにおいがした。もっとも、誰一人それは飲まなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その後でまた他のうたを歌い、なお次に、友情と音楽と葡萄酒ぶどうしゅとに関するものを、三部合唱で歌った。響きわたる笑声とたえず触れ合う杯の音とで、すべてが伴奏された。
ちょうど、それだけのすうの小さなびんならんでいるようで、ジャンセエニュ先生せんせいは、そのびんの一つ一つへ学問という葡萄酒ぶどうしゅをつぎんでいらっしゃるのだというがします。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
愛好する葡萄酒ぶどうしゅの違いでさえ、ヨーロッパのいろいろな時代や国民のそれぞれの特質を表わしているように、茶の理想もいろいろな情調の東洋文化の特徴を表わしている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
葡萄酒ぶどうしゅや、麦酒の空壜あきびんを海に捨てれば、毒物を流して日本人を鏖殺おうさつするの計画と怖れ、釣床に疲れている水兵を見て異人は惨酷だ、悪事を為したものには相違なかろうが
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
フランスには葡萄酒ぶどうしゅ、ドイツにはビール、中国には老酒ラオチュウ、日本には日本酒というふうに、それぞれの国に「国の酒」があるわけであるが、アメリカには、そういう酒はない。
パーティ物語 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「あら! それ赤酒なの? 葡萄酒ぶどうしゅじゃないの? 赤酒ならもらうわ。わたし、赤酒大好きよ」
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
火山の名をつけた旗亭きていで昼飯を食った。卓上に出て来た葡萄酒ぶどうしゅの名もやはり同じ名であった。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ごくかいつまんだだけをお話しても、杜子春が金のさかずきに西洋から来た葡萄酒ぶどうしゅんで、天竺てんじく生れの魔法使が刀をんで見せる芸に見とれていると、そのまわりには二十人の女たちが
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
葡萄酒ぶどうしゅかった。音楽は人にびるように聞えて来る。夏のの人を酔わせるような微温ぬるみがある。男はちょいと女の目を見た。その目の中には無限の愛情と好意とが輝いていた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
ビロオドのように青い空と、熱い葡萄酒ぶどうしゅと、甘い肉感でしょう。……要するに、僕はそんなものは嫌いなのです。らないのです。そんなベレッツァはみんな僕をいらいらさせるばかりですもの。
二人も不憫ふびんに思い、蔵前くらまえの座敷に有合ありあ違棚ちがいだな葡萄酒ぶどうしゅとコップを取出して、両人ふたりの前へ差出さしだせば、涙ながらにおいさが飲んで重二郎へしまするを見て、丈助はよろこび、にやりと笑いながら。
この花は黒朱子くろじゅすででもこしらえたわりがたのコップのように見えますが、その黒いのは、たとえば葡萄酒ぶどうしゅが黒く見えると同じです。この花の下を始終しじゅうったり来たりするありに私はたずねます。
おきなぐさ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
にんじんは、これからもう、食事の時に、葡萄酒ぶどうしゅを飲まないことになった。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
妙義葡萄酒ぶどうしゅ醸造所というのに辿たどり着いて、ふたりは縁台に腰をかけました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
食事の時は、赤葡萄酒ぶどうしゅを大ぶ飲んで、しまいにコニャックを一杯飲んだ。
なまじっかな見舞金や香奠こうでん金子きんす百円とか、葡萄酒ぶどうしゅ三本位を片足代とか何んとかいって番頭長八が持参したりしては、全く仏壇からぬっと青い片足を出して気絶でもさせてやりたくなりはしないか。
ははあ! 君はまだ飲まない葡萄酒ぶどうしゅに酔っているのだ!