ぶし)” の例文
通りかかるホーカイぶしの男女が二人、「まア御覧よ。お月様。」といってしばらく立止ったのち、山谷堀の岸辺きしべに曲るが否や当付あてつけがましく
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
にんは、つねに、こうしたときの用意よういにしまっておいたかつおぶしや、こんぶなどをとりして、わずかにえをしのいだのでした。
南方物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
入口の格子を叩いたのは、顔見知りの隣町の指物職人というよりは、小博奕ばくちを渡世にして居る、投げぶしの小三郎という男でした。
そういう場合、いつも槍玉やりだまに上るのは一寸法師の緑さんだった。下品な調子で彼を読込んだ万歳ぶしが、次から次へと歌われた。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それまではどこでもねこつなをつけて、うちの中にれて、かつぶしのごはんをべさせて、だいじにしてっておいたのです。
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
たとい昼間はすきくわをかついでいても、夜は若い男の燃える血をおさえ切れないで、手拭を肩にそそりぶしの一つもうなって
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しだれ柳、辻行燈つじあんどん編笠あみがさ茶屋の灯などが雨のように光る中を、土手から大門へと、四ツ手が駈ける、うかれ客が流れこむ、投げぶしがよろけて行く。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身丈恰好せいかっこうくって、衣服なりが本当で、持物が本筋で、声が美くって、一ちゅうぶしが出来るというのだから女はベタ惚れ
まア、あそこいらに行つて、野調に富んだドツサリぶしでも聞いてゐれば、夏なんか何処かに行つて了ふでせうね。
談片 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
これ此家このや旦那だんな殿の寝所しんじよならめと腰障子をすこしつきやぶりて、是より入つて見れば夫婦枕をならべて、前後も知らず連れぶしいびきに、(中略)まづ内儀ないぎの顔をさしのぞいて見れば
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
津堅島つけんじまのシヌグ歌にツヅムヌ・ユリムヌというのは、粒物つぶものすなわち穀類とものすなわちいそに拾う物とのことらしいが、宮古島の世直よなおぶしでは、その粒をスズとも発音している。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ナマリぶしじゃかズウズウ武士じゃか存ぜぬが、まこと武士もののふならば武士が表芸の弓修業に賭物かけもの致すとは何ごとぞよ。その昔剣聖けんせい上泉伊勢守こうずみいせのかみも武人心得おくべき条々に遺訓して仰せじゃ。
(すきなおかた相乘人力車あひのりじんりきしやくらいとこいてくれ、車夫くるまやさん十錢じつせんはずむ、かはすかほに、そのが、おつだね)——流行唄はやりうたさへあつた。おつだねぶし名題なだいをあげたほどである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
孟子もうしはゝやおどろかん上達じようたつすみやかさ、うまいとめられて今宵こよひも一まわりと生意氣なまいきは七つ八つよりつのりて、やがてはかた置手おきてぬぐひ、鼻歌はなうたのそゝりぶし、十五の少年せうねんがませかたおそろし
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「物言いぶしも優しくすることだね。障子をガタンなんてやっちゃいけない」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
オッペケぶしで売り出した新派の頭領川上音二郎、駒形の浅草座で「意外又意外」など前受専門の狂言大当り、つづいて日清戦争、得たり賢しとさっそく戦争劇に取りかかり、自分は新聞記者の役
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
手習いがいやなのではなく、寺院おてら夫人だいこくさんが、針ばかりもたせようとするのが嫌だったのだ。もっとも、近松ちかまつ西鶴さいかくの生ていた時代に遠くなく、もっとも義太夫ぶし膾炙かいしゃしていた京阪けいはん地方である。
木島さんは酔って、チャッキリぶしというものを歌った。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
鈴をたよりにおむろぶし
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とほりかゝるホーカイぶしの男女が二人、「まア御覧ごらんよ。お月様。」とつてしばら立止たちどまつたのち山谷堀さんやぼり岸辺きしべまがるがいな当付あてつけがましく
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「よろしゅうございます。ねずみがわるささえしなければ、わたくしどももがまんして、あわびかいでかつぶしのごはんやしるかけめしべて満足まんぞくしています。」
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
夫婦づれで編笠あみがさをかぶって脚絆きゃはんをつけて歩いて行くホウカイぶし、七色の護謨風船ごむふうせんを飛ばして売って歩くおやじ、時には美しく着飾った近所の豪家の娘なども通った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
この頃は世の中が物騒になって、辻斬つじぎりがはやるという噂があるので、まだ宵ながらここらの海岸に人通りも少なかった。品川がよいのそそりぶしもきこえなかった。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「やあ、かわいらしいねこだな。おかあさん、てねこならうちってやりましょうよ。」といって、子供こどもたちは、かつおぶしけずって、ごはんをやったり、大騒おおさわぎをしました。
ねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ならの一枝をその三把の苗の真中にして、ここを植えるときに田の神ぶしを歌い、またその楢の枝を田の神降臨の目標だといったそうだが、これまたすでに植田の中のことであって
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ある三十男は気が変になって、いつも赤いハンケチを持ち、匂袋においぶくろをさげて綾之助の後をついて歩いた。その人はいつも五行本の書風に真似まね、文句も浄るりぶしの手紙を、半年のうちに百数十通おくった。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
表は次第に賑やかになって、灯の影の明るい仲の町には人の跫音あしおとが忙がしくきこえた。誰を呼ぶのか、女の甲走かんばしった声もおちこちにひびいた。いなせな地廻りのそそりぶしもきこえた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しんちゃんは、うちしてゆきました。ごはんにかつおぶしをかけて、おさらにれてってきました。一ぴきは、ちいさなあたまってべました。一ぴきは、はこのすみでふるえていました。
僕たちは愛するけれど (新字新仮名) / 小川未明(著)
島の港々から漕ぎ寄せて来る船、そこにどつさりぶしを唄ふ芸者が乗つてゐたり、宿屋の名の黒々と記されてある番傘を持つた酌婦らしい女が蓮葉に客に物を言つてゐるのも何となくなつかしい。
隠岐がよひの船 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
ひやかしのそそりぶしも浮いてきこえた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)