端折はしょ)” の例文
とひょいと立つと、端折はしょった太脛ふくらはぎつつましい見得みえものう、ト身を返して、背後うしろを見せて、つかつかと摺足すりあしして、奥のかたへ駈込みながら
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時お玉はふいと自分の饒舌しゃべっているのに気が附いて、顔を赤くして、急に話を端折はしょって、元の詞数の少い対話に戻ってしまう。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
端折はしょりのしごきを解きて、ひざの上に抱かれたまま身をそらすようにして仰向あおむきに打倒れて、「みんな取って頂戴ちょうだい足袋たびもよ。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と話をして居る処へ帰って来たのは、此の村の人で、年齢とし二十二三になる男で、尻を端折はしょり、寒さをもいとわずスタ/\帰って参り
あい縞物しまものの尻を端折はしょって、素足すあしに下駄がけのちは、何だか鑑定がつかない。野生やせいひげだけで判断するとまさに野武士のぶしの価値はある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから本所まで、暑い時分で、尻を端折はしょって駆け出すわけにも行かず、町駕籠まちかごを飛ばして、行き着いたのは、かれこれ昼頃。
このあたりへは小娘まで遊びに来て、腕まくりをしたり、尻を端折はしょったりして、足を水に浸しながら余念なく遊び廻っていた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
故意わざとだろう、古風な装いをして、紫被布ひふなんか着て、短かく端折はしょった裾から浅黄色の足袋をのぞかせ、すっきりとしたいい姿を見せていた。
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
くるりと裾を端折はしょって、膝まで水につかりながら、二本の木の竿に結びつけた破れた曳網ひきあみをひっぱって池の中を歩いていた。
外はようやく白みかけた時刻で、大音寺の前まで来ると、雨がぱらついて来、彼は裾を端折はしょって、小走りに道をいそいだ。
もう着換えのすんだ慎太郎は、梯子の上り口にたたずんでいた。そこから見える台所のさきには、美津みつが裾を端折はしょったまま、雑巾ぞうきんか何かかけている。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
外記は浅黄色の単衣ひとえものの裾を高くからげて、大小を落し差しにしていた。女は緋の長襦袢の上に黒ずんだ縮緬を端折はしょって、水色の細紐しごきを結んでいた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
七兵衛はしり端折はしょった。そうして、すっと、歩き出した。今までくるわの中をブラリブラリと歩いていたのとは足並あしなみが違う。
それでも甲斐々々かいがいしい仕事ができないので、襷掛たすきがけでもする時には、裾をたくり上げたり端折はしょったりしたのだが、やはりずるずるとしてよくは働けない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私も娘もよろこんだ。この辺の砂はまぶしいくらい白く、椰子やしの密林の列端はすそ端折はしょったように海の中に入っている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と、口で、拍子をとって、尻を端折はしょった。そして、鉢巻をしめて高座へ上って、手をかざして、延び上りながら
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
若僧は先ずみずから尻を高く端折はしょって蓑を甲斐〻〻かいがいしく手早く着けて、そして大噐氏にも手伝って一ツの蓑を着けさせ、竹の皮笠かわがさかぶせ、そのひもきびしく結んでくれた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
グイとお尻を端折はしょったお六。長庵とつれ立ってスタスタ、旦那の造酒を置いてきぼりにして逐電ちくでんする。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
血刀を下げて突っ立ったのは、例のつけて来た浪人であったが、裾を高々と端折はしょっていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二人ふたり問答もんどうはまだいろいろありますが、ずこのへん端折はしょることにいたしましょう。
あるいは余り文章が長くなることを憂へて短くするとならば、それはほかの処をいくらでも端折はしょつて書くはいが、肝腎かんじんな目的物を写す処は何処までも精密にかかねば面白くない。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
どう見ても貴族の娘だ、ろうたけたいつぎぬすそ端折はしょって、侍女こしもともついていた。二人して泣いてなにかせがんでいるらしい。俺は、樹蔭にかくれて、罪なことだが、そっと見ていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それをしるす丈けでも、十分一篇の小説が出来上る程ですが、この物語の本題には直接関係のない事柄ですから、残念ながら、端折はしょって、ごく簡単に二三の例をお話するにとどめましょう。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
帆村も丹前のはしを高々と端折はしょって、腕まくりをし、一行の後からついていった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
目立たぬ黒絣くろがすり単衣ひとえのうえに、小柄な浅山のインバネスなどを着込んで、半分つぼめた男持ちの蝙蝠傘こうもりがさに顔を隠し、裾を端折はしょって出て行くお庄のとぼけた姿を見て、従姉あねは腹を抱えて笑った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「それじゃ、困ったって知らないぞ」と定雄は云うとしり端折はしょった。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
養子は着物を短く端折はしょって、膝から下をむき出しに日にさらしていた。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
夢かとばかり、旅僧の手から、坊やを抱取った清葉は、一度、継母とともに立退たちのいて出直したので、凜々りりしく腰帯で端折はしょっていた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
叔父はこの言葉を証拠立しょうこだてるためだか何だか、さっそく立って浴衣ゆかたの尻を端折はしょって下へ降りた。姉弟きょうだい三人もそのままの姿で縁から降りた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
梅にうぐいすやら、浦島が子やら、たかやら、どれもどれも小さいたけの短いふくなので、天井の高い壁にかけられたのが、しり端折はしょったように見える。
普請中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
八五郎は駆け出しました、が、思い直した様子で立止まると、すそを七三に端折はしょって、手拭でヒョイと顔を包んだものです。
お聞遊ばすほうでもそれで御承知下されて、お喋りする方でも詰らないところは端折はしょって飛して仕舞うと申す次第で。
ときにはあねさまかぶりにたすきをかけ、裾を端折はしょったままで、——たぶん洗濯かなんかしていたのだろうが、——あたふたと土堤へ駆けだして来たりする。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
最初のような話しかたでは長くなりすぎるので、中ほどから大分端折はしょってみた。この後に見つかる資料と合わせて、なるべくもう一度書いておこうと思う。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
尻を端折はしょって番傘をさげて、半七は暗い往来をたどってゆくと、神明前の大通りで足駄の鼻緒をふみ切った。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
道子は着物の裾を端折はしょって堤防の上を駆けた。髪はほどけて肩に振りかかった。ともすれば堤防の上から足を踏みはずしはしないかと思うほどまっしぐらに駆けた。
快走 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
銀ごしらえの脇差わきざし打込ぶっこんだ具合、笠の紐の結び様から着物の端折はしょりあんばい、これもなかなか旅慣れた人らしいが、入って来ると笠の中から七兵衛をジロリと見ました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
前へ行くその人は、六十近い、白髯しらひげの人で、後方うしろのは供人であろうか? 肩から紐で、木箱を腰に垂れていた。二人とも、白い下着の上に黄麻を重ね、裾を端折はしょって、紺脚絆きゃはんだ。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
荒い大阪格子を立てた中仕切へ、鈴のついたリボンのすだれが下げてある。其下の上框あがりがまちに腰をかけて靴を脱ぐうちに女は雑巾ぞうきんで足をふき、端折はしょった裾もおろさず下座敷の電燈をひねり
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
左の脚が膝の上まで、裾から捲くれて見えているのは、裾を端折はしょっているからであろう。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
外へ出ると、裾を端折はしょって夜露のふかい中をてくてくともう歩み出して行く。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半之丞はちょうど一里ばかり離れた「か」の字村のある家へ建前たてまえか何かに行っていました。が、この町が火事だと聞くが早いか、尻を端折はしょも惜しいように「お」の字街道かいどうへ飛び出したそうです。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ぐいと裾を端折はしょって、彦兵衛は表を指して走り出した。
と、もう縞の小袖をしゃんと端折はしょって、昼夜帯を引掛ひっかけに結んだが、あか扱帯しごきのどこかが漆の葉のように、くれないにちらめくばかり。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八五郎は気軽に尻を端折はしょりました。少し花道を駆け出すような調子ですが、文句のないのと気の早いのと、そして鼻の良いのがこの男の取柄とりえです。
門野ははかまを脱いで、尻を端折はしょって、重ね箪笥だんすを車夫と一所に座敷へ抱え込みながら、先生どうです、この服装なりは、笑っちゃ不可いけませんよと云った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はかますそ端折はしょって脊割羽織せわりばおりちゃくし、短かいのを差して手頃の棒を持って無提灯むぢょうちんで、だん/\御花壇の方から廻りまして、畠岸はたけぎしの方へついて参りますと
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ときにはあねさまかぶりにたすきをかけ、すそ端折はしょったままで、——たぶん洗濯せんたくかなんかしていたのだろうが、——あたふたと土堤へ駆けだして来たりする。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これから先は端折はしょって話すよ。これまでのような珍らしい話とは違って、いつ誰がどこで遣っても同じ事だからね。一体支那人はいざとなると、覚悟が好い。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
つい見かねて「おい、尻を端折はしょったらどうだ」といってやりましたが、小僧は振り向きもしないので、こんどは命令的に「おい、尻を端折れ」といいましたが
江戸の化物 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)