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稍
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やや
ふりがな文庫
“
稍
(
やや
)” の例文
これから駒津岳の頂上へ懸けて偃松が深いので、元は登降に
可
(
か
)
なり困難であったが、今は多少の切明けもあるので
稍
(
やや
)
登りよくなった。
朝香宮殿下に侍して南アルプスの旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
それから
稍
(
やや
)
あって、頭の君はまた道綱に取り次がせて、私に「こないだはお目にかかれずに帰りましたので、又お伺いいたしました」
ほととぎす
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
ここにも夜店がつづき、
祠
(
ほこら
)
の横手の
稍
(
やや
)
広い空地は、植木屋が一面に並べた
薔薇
(
ばら
)
や
百合
(
ゆり
)
夏菊などの鉢物に時ならぬ花壇をつくっている。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
秋山は子供を六人拵えて、小林は三人拵えて、秋山は
稍
(
やや
)
ずるく、小林は掘り出した切り株の如く「飛んでもねえ世の中」を渡っていた。
坑夫の子
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
モチの木の皮をはいで石でたたいて強いモチを作り、
竹竿
(
たけざお
)
のさきに指をなめては其をまきつける楽しさを今でも
稍
(
やや
)
感傷的に思出す。
蝉の美と造型
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
▼ もっと見る
もう冬と名のつく月に入ったのだったが、今夜はそう寒くもなかった。しかしこう霧が降りていては、連絡をとるのに
稍
(
やや
)
困難を
覚
(
おぼ
)
えた。
間諜座事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
籠は上に、棚の
丈
(
たけ
)
稍
(
やや
)
高ければ、
打仰
(
うちあお
)
ぐやうにした、
眉
(
まゆ
)
の優しさ。
鬢
(
びん
)
の毛はひた/\と、羽織の
襟
(
えり
)
に着きながら、肩も
頸
(
うなじ
)
も細かつた。
印度更紗
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
人間の行為に全く純粋な動機は殆ど無いとしても、F君の行為を催起した動機は、その不純の程度が
稍
(
やや
)
甚
(
はなはだ
)
しくはあるまいかと疑われる。
二人の友
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
「へえ、そんなもんですかな」と門野は
稍
(
やや
)
真面目
(
まじめ
)
な顔をした。代助はそれぎり黙ってしまった。門野はこれより以上通じない男である。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
彼等はこうして
稍
(
やや
)
しばらく歩いて行ったが、やがて裏街の或る小さな飲食店の前に立ちどまると、乞食は戸をあけて、盲に声をかけた。
幻想
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
稍
(
やや
)
久しく迷って居たが、終に思い切って舟を返すと、其の歌の声は遠くなり近くなり、久しい間幽かに響いて居たと云うことであった。
漁師の娘
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
但しこれは爪先の形が右足のそれよりも
稍
(
やや
)
ハッキリと現われていて、
身体
(
からだ
)
の重みが幾分余計に、左足にかかっていた事を証明している。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
低声
(
こごえ
)
でこんな唄を
謳
(
うた
)
いながら、お葉は
微酔
(
ほろよい
)
機嫌で
門
(
かど
)
に出た。お葉は東京深川生れの、色の
稍
(
やや
)
蒼白い、
細面
(
ほそおもて
)
の、眉の長い女であった。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
男は外国織物と思わるる
稍
(
やや
)
堅い
茵
(
しとね
)
の上にむんずと坐った。室隅には炭火が顔は見せねど有りしと知られて、
室
(
へや
)
はほんのりと暖かであった。
雪たたき
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
最も
細
(
ほそ
)
く作られたるものは其
原料
(
げんれう
)
甚だ
見分
(
みわ
)
け難けれど
稍
(
やや
)
太
(
ふと
)
きもの及び
未成
(
みせい
)
のものを
列
(
つら
)
ね考ふれば、あかがひの
縁
(
へり
)
の
部分
(
ぶぶん
)
なる事を知るを得。
コロボックル風俗考
(旧字旧仮名)
/
坪井正五郎
(著)
去年の草の立ち枯れたのと、今年生えて
稍
(
やや
)
茎を立て初めたのとがまじりあって、屋敷地から
喰
(
は
)
み出し、道の上までも延びて居る。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
訣別
(
けつべつ
)
の歌だから、
稍
(
やや
)
形式になり易いところだが、海上の小島を以て来てその気持を形式化から救っている。第四句が中心である。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
智恵子の病気は赤痢——然も
稍
(
やや
)
烈しい、チフス性らしい赤痢であつた。そして午前九時頃には担荷に乗せられて、隔離病舎に収容された。
鳥影
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
縁に余白がなくなっているので、手に把って暫く眺めていると、どうも
掾
(
えん
)
側が狭すぎて、
稍
(
やや
)
窮窟な感じを与えるのが
暇
(
きず
)
である。
愛書癖
(新字新仮名)
/
辰野隆
(著)
稍
(
やや
)
高等なる動物において見るような目的あり且つ多少意識を伴うが、未だ目的が明瞭に意識されて居らぬ本能的動作とも区別せねばならぬ。
善の研究
(新字新仮名)
/
西田幾多郎
(著)
すなわちその目的地は豊後南海部郡
因尾
(
インビ
)
村の地内であって、そこは佐伯町から
稍
(
やや
)
南よりの西方七里程も奥の地点で井ノ内谷という処である。
植物記
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
彼
若
(
も
)
し
実
(
まこと
)
に人を懼るると
為
(
せ
)
ば、彼の人を懼るる
所以
(
ゆゑん
)
と、我より彼の人を懼るる所以と
為
(
な
)
す者とは、
或
(
あるひ
)
は
稍
(
やや
)
趣
(
おもむき
)
を
異
(
こと
)
にせざらんや。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
厨川君は、薬師仏の背後の壇上にある聖観音の首に、鏡を
稍
(
やや
)
下向きに掛けて置き、薬師三尊の中の月光像の背後で、線香花火を燃やしたのだ。
後光殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
一寸
(
ちょっと
)
考えると、潤いのあるという事は味があるというよりは
稍
(
やや
)
狭義に思考せられるが、潤いがあっても味いは無いという事は、想像が出来ない。
歌の潤い
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
その次の
稍
(
やや
)
広い小みちもお墓のないことは同じだった。僕等は今度は引き返す代りに生け垣の間を左へ曲った。けれどもお墓は見当らなかった。
年末の一日
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
始めてこゝに移りし頃は
僅
(
わずか
)
に竹藪を開きたる跡とおぼしく草も木も無き裸の庭なりしを、やがて家主なる人の小松三本を栽ゑて
稍
(
やや
)
物めかしたるに
小園の記
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
曲は露土戦争の悲壮な結末を表はしてゐるらしく、その沈痛に徹した弾音がときに
稍
(
やや
)
たかまつて、暗い七月の夜の空気を静かにふるはせるのであつた。
水と砂
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
奴さん
稍
(
やや
)
精神がはっきりしたので、己の寝室へ帰って往ったのだ、そして、室の中へはいってみると、細君は己の寝台の上ですやすや
睡
(
ねむ
)
っているのだ
雨夜草紙
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
其の
中
(
うち
)
徳川勢
稍
(
やや
)
後退した。朝倉勢、すわいくさに勝ちたるぞとて姉川を渡りて左岸に殺到したところ、徳川勢ひき寄せて、左右より之れを迎え撃った。
姉川合戦
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
川田功氏の「砲弾を潜りて」は、日本のあらゆる戦争文学の中、第一位に置かる
可
(
べ
)
き名作であった。「尼港の怪婦人」に至っては、遺憾ながら
稍
(
やや
)
落ちる。
マイクロフォン―雑感―:「新青年」一九二五年一二月
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
さうして二人の実際の上の交りが隔つて来ると同じやうに思想の上にも
稍
(
やや
)
はつきりと相異を見出すやうになつた。
平塚明子論
(新字旧仮名)
/
伊藤野枝
(著)
それどころか英米の資本主義国家の手先となって、
稍
(
やや
)
もすれば物質によって他国の貧民に慈恵し、安っぽい愛と同情とを強いている。人生は愛以外にない。
反キリスト教運動
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
訳者
嘗
(
かつ
)
て十年の昔、
白耳義
(
ベルギー
)
文学を紹介し、
稍
(
やや
)
後れて、仏蘭西詩壇の新声、特にヴェルレエヌ、ヴェルハアレン、ロオデンバッハ、マラルメの事を説きし時
海潮音
(新字旧仮名)
/
上田敏
(著)
濃い暗い
稍
(
やや
)
冷たい紫の
莟
(
つぼみ
)
が破れ開いて、中からほんのり暖かい薄紫の
陽炎
(
かげろう
)
が燃え出る。さうして花の散り終るまでにはもう大きな葉が一杯に密集してしまふ。
木蓮
(新字旧仮名)
/
寺田寅彦
(著)
可愛がって育てると、葉は
紫苑
(
しおん
)
のさきの方に似て
稍
(
やや
)
強く、スッとして花は単弁で野菊に似て
稍
(
やや
)
大きかった。
紫式部:――忙しき目覚めに
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
円
(
まる
)
いなだらかな小山のような所を
下
(
おり
)
ると、幾万とも数知れぬ
蓮華草
(
れんげそう
)
が
紅
(
あこ
)
う燃えて
咲揃
(
さきそろ
)
う、これにまた目覚めながら
畷
(
なわて
)
を拾うと、そこは
稍
(
やや
)
広い街道に
成
(
な
)
っていた。
菜の花物語
(新字新仮名)
/
児玉花外
(著)
彼女の顔はいつものように
稍
(
やや
)
愁をおびてはいますが、極めて平和で、私を見るといきなり斯う云いました。
悪魔の弟子
(新字新仮名)
/
浜尾四郎
(著)
実に
危
(
あやう
)
いことでありまして、其の
中
(
うち
)
に幾百里吹流されましたか、山三郎にもとんと分りません、
稍
(
やや
)
暫くたって一つの大浪にどゝどゝどーんと打揚げられまして
松の操美人の生埋:02 侠骨今に馨く賊胆猶お腥し
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
彼の眼は
黒瞳
(
くろめ
)
がちで、やさしいうるほひがあつた。眉も恰好がよかつた。鼻筋もよく通つて、その下には
稍
(
やや
)
肉感的な紅味のある唇が心持ふくらんで持上つてゐた。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
で、生来始て
稍
(
やや
)
真面目になって再び筆硯に親しもうとしたが、もう小説も何だか馬鹿らしくて
些
(
ちっ
)
とも書けない。
泰西
(
たいせい
)
の名家の作を読んで見ても、
矢張
(
やっぱり
)
馬鹿らしい。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
新らしい力の加えられた年を迎えて、新年と云う、
稍
(
やや
)
コンベンショナルな形式を脱して、より大きな充実を感じずには居られないのである。愛する者の上に幸あれ。
日記:06 一九二〇年(大正九年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
二十五といへば
稍
(
やや
)
婚期遅れの方だが、しかし清潔に澄んだ瞳には
屈託
(
くつたく
)
のない若さがたたへられてゐて
木の都
(新字旧仮名)
/
織田作之助
(著)
泉原は家主の婆さんからその話をきいて、すっかり気を
挫
(
くじ
)
かれて
了
(
しま
)
った。
稍
(
やや
)
明るくなりかけていた気持が大きな
掌
(
たなごころ
)
で押えつけられたように、
倏忽
(
たちまち
)
真暗になって了った。
緑衣の女
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
笑い/\、そう言うと、長田は興ありそうに聞いていたが、居なくなると言ったので初めて、
稍
(
やや
)
同情したらしい笑顔になって、私の顔を珍らしく優しく
見戍
(
みまも
)
りながら
別れたる妻に送る手紙
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
事実病人は注射されてから
稍
(
やや
)
安静になり、医師と、看護婦と、母親に附き添われて運ばれて行った。
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
ただ、眉毛は夫人より
稍
(
やや
)
薄く
顎
(
あご
)
の少しつまり加減な所と、濃いおしろいの下にはっきり想像出来るなめらかな頬の青味が、此令嬢を夫人より少し内気らしく感ぜしめる。
動かぬ女
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
と言って、
稍
(
やや
)
暫時
(
しばらく
)
奥様の御顔を見つめておりましたが、やがて、思付いたように立上りました。
旧主人
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
天日
(
てんじつ
)
を遮るものがない、
且
(
かつ
)
此
(
この
)
山は、殆ど上りばかりで、足を休める平坦な
途
(
みち
)
がない、暑いのと、急なのとで、一行
稍
(
やや
)
疲れ気味が見え出したが、
此処
(
ここ
)
で疲れては仕様がないと
武甲山に登る
(新字新仮名)
/
河井酔茗
(著)
それは貝類の肌のような白みのなかに
稍
(
やや
)
うっすりしたオレンヂいろを交ぜたような光沢をもったところの、殆ど、日本人としては稀に見る皮膚の純白さをもっていたのである。
幻影の都市
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
と近年
遽
(
にわ
)
かに女の問題は、所謂識者の口に筆に難解の謎の如く、是非論評せらるゝに至れるが、而も其多くは身勝手なる男子が
稍
(
やや
)
覚醒せんとしつゝある、我等婦人の気運を見て
肱鉄砲
(新字旧仮名)
/
管野須賀子
(著)
稍
漢検1級
部首:⽲
12画
“稍”を含む語句
稍々
稍〻
稍深
稍霎時
稍難航
稍覚暖
稍羞
稍緒
稍疲
稍然
稍明
稍後
稍傲
稍仰向
稍事
稍久
稍与二月気候相似
稍〻物