祭礼まつり)” の例文
旧字:祭禮
「御縁のはじまりはもう少し前にさかのぼるのね、そもそもあの松本の浅間のお祭礼まつりの晩——あの時こそ、ほんとうに失礼しちゃいましたわ」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで裸体はだかで手をかれて、土間の隅を抜けて、隣家となり連込つれこまれる時分には、とびが鳴いて、遠くで大勢の人声、祭礼まつり太鼓たいこが聞えました。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お高の家だけが、歯の抜けたように、祭礼まつり提灯ちょうちんともっていなかった。養父ちちの彦兵衛は、そんな費用も惜しんで、町内の交際つきあいを断っていた。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今ネ、御輿の飾りを取って了ったところだ。鳳凰ほうおうも下した。これからが祭礼まつりだ。ウンと一つ今年はあばれ廻ってくれるぞ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
祭礼まつりちぎりを結んだ女の色香に飽きたならば、直ちに午過ひるすぎ市場フエリヤきての女の手を取り給へ。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
床屋の主人は何んでも世話を焼いて、此所ここで話が決まるという風。お祭礼まつりの相談、婚礼の話——夫婦別れの悶着もんちゃく、そんなことに床屋の主人は主となって口を利いたものです。
はい……お祖父さん昨夜ゆうべ祭礼まつりで講釈師の桃林とうりんの弟子の桃柳とうりゅうと云うのが来ましたが、始めて此処へ来たもんだから座敷をてやろうと旦那さまがお口をお利きなすったもんですから
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
諏訪すわ神社の祭礼まつりももう直ぐだなと云うと、住職の全達が笑いながら、諏訪の祭りが見たければ直ぐ出て行け、十月までには間に合うだろうと云って、みんなが大きい声で笑っていました
……何が美しいと云ったところで江戸の祭礼まつりかなうものはまず他にはありませんな。揃いの衣裳。山車だし屋台。芸妓げいしゃ手古舞てこまい。笛太鼓。ワイショワイショワイショワイショとたる天神をかつぎ廻ります。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まわりは空地なので、祭礼まつりの提燈の灯もここまではとどかない。
『八幡様のお祭礼まつりにや、まだ十日もあるべえどら。』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
で、お宗旨ちがいの神社の境内、額の古びた木の鳥居のかたわらに、裕福な仕舞家しもたやの土蔵の羽目板を背後うしろにして、秋の祭礼まつりに、日南ひなたに店を出している。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……まして新之助という男は、祭礼まつりの神輿をケシかけて、手前の家を、野原のように若者に踏み荒させ、そのごたくさまぎれに、養女むすめさらって行った悪い奴でございます。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新しい年を迎え顔な人達は祭礼まつりの季節にもまさって楽しげに町々をったり来たりしていた。川蒸汽の音の聞えるところへ出ると、新大橋の方角へ流れて行く隅田川すみだがわの水が見える。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
村のお祭礼まつりの時に用いまする鬼の面が家にござりました、それを手にとると自分の面へこういうふうにかぶりまして、そうしてそのまま盗賊の前へ向って行ったのでござります。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
祭礼まつりのさざめきもおさまって、もう、かれこれ丑満うしみつ
東京でいちじるしくすたれたものは祭礼まつりである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
宗介天狗むねすけてんぐ祭礼まつりなのである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やぼねの下に流るる道は、細き水銀の川のごとく、柱の黒い家のさま、あたかもかわうそ祭礼まつりをして、白張しらはり地口行燈じぐちあんどんを掛連ねた、鉄橋を渡るようである。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こわれた窓のすだれ越しに、向う側の祭礼まつり提灯の明りが、かすかに流れこんでいるだけである。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう、そうなっては、英雄なんぞは出ろといったって、こんなところへ出て来やしねえ。出て来るものは、女郎屋と、酒場と、踊りと、お祭礼まつりと、夜遊びと、乱痴気だけのものだ。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
神明の祭礼まつりの夜であった。
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
神の氏子のこの数々の町に、やがて、あやかしのあろうとてか——その年、秋のこの祭礼まつりに限って、見馴みなれない、商人あきゅうどが、妙な、かわったものを売った。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何の祭礼まつり。何の踊り。やれ彼岸ひがんの盆のと——小さな生活を忙しく派手に——悲しみの葬式や病人の世話事までも、寄り合世帯のように賑やかに送っている——裏町住居のおもしろさ。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祭礼まつりでもないはずなのに、誰が、何の必要あって、あんなに火を燃やし出した?
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
りく 内の背戸にありますと、ただの草ッ葉なんですけれど、奥さんがそうしておけなさいますと、お祭礼まつりの時の余所行よそゆきのお曠衣はれのように綺麗きれいですわ。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それも人を迷わしに来たのではない、人間と共に楽しみに来たのだから、それは怖いことではなく、賀すべきことである、いよいよこのお祭礼まつりの景気と瑞祥ずいしょうを示す所以ゆえんであると解釈がついてみると
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
足をおさえた片手をうしろへ、腰の両提ふたつさげの中をちゃらちゃらさせて、爺様じさま頼んます、鎮守ちんじゅ祭礼まつりを見に、頼まれた和郎わろじゃ、と言うと、船を寄せた老人としよりの腰は
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お祭礼まつりでもないようだし、ああ、だんだん大湊の町へ近くなる」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これはしたり! 祭礼まつり谷間たにまの里からかけて、此処ここがそのとまりらしい。見たところで、薄くなって段々に下へ灯影ひかげが濃くなって次第ににぎやかになっています。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おりからそこの鎮守ちんじゅにお祭礼まつりがありました。
いつでも俺は、気の向いた時、勝手にふらりと実家さとくだが、今度は山から迎いが来たよ。祭礼まつりに就いてだ。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
祭礼まつりそろいかな、蛤提灯——こんなのに河豚も栄螺さざえもある、畑のものじゃ瓜もあら。……茄子なすびもあら。」
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところが、の形の、一方はそれ祭礼まつりに続く谷のみちでございましょう。その谷の方に寄った畳なら八畳ばかり、油が広くにじんだていに、草がすっぺりと禿げました。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふりのむずかしき、舞の難き、祭礼まつりに異様なる扮装いでたちして大路を練りありくそれとは同じからず。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世はいくさでも、胡蝶ちょうが舞う、撫子なでしこ桔梗ききょうも咲くぞ。——馬鹿めが。(呵々からからと笑う)ここに獅子がいる。お祭礼まつりだと思って騒げ。(鑿を当てつつ)槍、刀、弓矢、鉄砲、城の奴等やつら
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このあたりを、ちらほらと、そぞろ歩行あるきの人通り。見附正面の総湯の門には、浅葱あさぎに、紺に、茶の旗が、納手拭おさめてぬぐいのように立って、湯の中は祭礼まつりかと思う人声の、女まじりの賑かさ。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それへ出ると、何処どこでも広々と見えますので、最初左の浜庇はまびさし、今度は右のかやの屋根と、二、三箇処がしょ、その切目きれめへ出て、のぞいたが、何処どこにも、祭礼まつりらしい処はない。海はあかるく、谷はけぶって。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なんの、お前様めえさまさるとほ二十八方仏子柑にじふはつぱうぶしかん山間やまあひぢや。伐出きりだいて谿河たにがはながせばながす……駕籠かごわたしの藤蔓ふぢづるむにせい、船大工ふなだいくりましねえ。——私等わしらうちは、村里町むらざとまち祭礼まつり花車人形だしにんぎやう
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夜寒よさむしろに焼尽して、塚のしるしの小松もあらず……荒寥こうりょうとして砂に人なき光景ありさまは、祭礼まつりに地震して、土の下に埋れた町の、壁の肉も、柱の血も、そのまま一落の白髑髏しゃれこうべと化し果てたる趣あり。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……お前たちの二日分の祭礼まつりの小遣いより高い、と云って聞かせました。——その時以来、腹のくちい、という味を知らなかったのです。しかし、ぼんやり突立つったっては、よくこの店をのぞいたものです。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「神田の祭礼まつりに叩き売っても、娘の縁で借りるもんかい。河野!」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)