硝子ガラス)” の例文
ボヘメヤ硝子ガラス色のサーチライトが、空気よりも軽く、淋しい、水か硝子のように当てどもなく、そこはかとなくき散らされていた。
髪切虫 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その前にはスエ子の誕生祝に三越へ行って硝子ガラス製の奇麗きれいな丸いボンボンいれを買ってやりました。やすいもの、だがいい趣味のもの。
少佐はその壊れ目にステッキを突込んで、てこのようにして、とうとう鎧戸をこじり開けました。次に彼は窓の硝子ガラスを叩き破りました。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
九月朔日ついたちの朝は、南風みなみ真当面まともに吹きつけて、縁側の硝子ガラス戸を閉めると蒸暑く、あけると部屋の中のものが舞上って為方しかたがなかった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
私はそんなことになんか構っていられないと云った風に、元気よく窓も、それからバルコンに通じる硝子ガラス扉も、すっかり開け放した。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
バネがきしきしとたわむ音を聞きながら、じいつと、天井のくもり硝子ガラスの電燈を見つめてゐた。心に去来するものは、何もなかつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
私の眼は彼の室の中を一目ひとめ見るやいなや、あたかも硝子ガラスで作った義眼のように、動く能力を失いました。私は棒立ぼうだちにすくみました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
正面やゝ高きところに鉄格子をはめたスリ硝子ガラスの小窓。外の光がその小窓から射し込んで、茶の間の一部をかすかに浮き出させてゐる。
世帯休業 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
大小の時計が硝子ガラス窓の向側に手際よく列べられている中に、唯一つ嬰児の拳ほどの、銀製の髑髏どくろが僕等に向って硝子越しに嗤っていた。
汝自身を知れ:ベルンにて (新字新仮名) / 辰野隆(著)
硝子ガラス窓からの熱の輻射と伝導であろうという見込みで、硝子戸の内側に雨戸を入れることにしたのが、主な特徴と言えるであろう。
防寒戸 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
東小門外の駐在所で、る晩巡査が一人机に向っていると、急に恐ろしい音を立ててガリガリと入口の硝子ガラス戸を引掻くものがある。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
さっき米原まいばらを通り越したから、もう岐阜県のさかいに近づいているのに相違ない。硝子ガラス窓から外を見ると、どこも一面にまっ暗である。
西郷隆盛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
硝子ガラスは水晶に比して活用の便あり、以て窻戸を装ふべし、以て洋燈のホヤとなすべし、天下あまねく其の活用の便を認むるを得るなり。
人生に相渉るとは何の謂ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
このお夜食を食べ終る頃、火の番が廻って来て、拍子木が表の薄硝子ガラスの障子に響けば看板、時間まえでも表戸をおろすことになっている。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
つねにいわく、妻を持つ人はその飾具の勘定に悩殺さる、あたかも猴をう者が不断その破損する硝子ガラス代を償わざるべからざるごとしと。
まぶしいものが一せん硝子ガラスとほしてわたしつた。そして一しゆんのち小松こまつえだはもうかつた。それはひかりなかひかかゞや斑點はんてんであつた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
……硝子ガラス板は透明だが、ちゃんと形が見える。これは反射のない場合でも、光は空気の中よりも硝子の中でひどく屈折するからだ。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
子爵と探偵は、頸飾のおいてある卓子テーブルを間に向合むきあって坐った。龍介は窓際の長椅子に腰かけて、窓硝子ガラスに身を、もたせかけていた。
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
赤や紫の硝子ガラスをきれいに入れた硝子があった。ベルセネフは起って往ってその一枚を開けた。暗いところから涼しい風が入って来た。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
濾光障というと面倒ですが、酸化ニッケルで着色した黒いガラスで、それには 30651 という硝子ガラス番号まで付いて居ります。
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
久方ぶりに相見あいまみえる餅菓子、どら焼・ようかん・金つばの類が硝子ガラス器のうえにほとんど宗教的尊崇をもってうやうやしく安置してある。
で、部屋の中は静かであって、南京龕ナンキンずしから射して来る光に、蒐集棚の硝子ガラスが光り、蒐集箱の硝子が光り、額の金縁が光って見えた。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私達が深谷氏の船室ケビンへはいると間もなく、海に面した丸窓の硝子ガラス扉へ、大粒な雨が、激しい音を立てて、横降りに吹き当り始めた。
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
私は二人に「そっちを見てろよ」と云って、室の隅ッこに行き、その硝子ガラスの便器に用を足した。伊藤は肩をクッ/\と動かして笑った。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
今度こんどふたつのさけごゑがして、また硝子ガラスのミリ/\とれるおとがしました。『胡瓜きうり苗床なへどこいくつあるんだらう!』とあいちやんはおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
モン・パルナッス通いの電車の音や大きな荷馬車の音やその他石造の街路から窓の硝子ガラスに伝わって来る恐ろしい町の響のかわりに
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
生憎ルームの電燈が消えているので、車内は暗くって、硝子ガラス窓から、時折さし込む街燈の灯も、シートの下までは届かなかった。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
少し草臥くたびれ加減の私の二円五十銭のネクタイは、たとえ硝子ガラスでも燦然さんぜんたる光のせいで、たちまち五円ぐらいの値打にり上ってしまった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
おまっちゃんは糸で編んだ網に入れてある、薄い硝子ガラスの金魚入れから水がって廻るように、丸い大きな眼に涙を一ぱいためこらえていた。
それにこの部屋は、東側が全部すり硝子ガラスの窓なので、日の出とともに光が八畳間一ぱいに氾濫はんらんして、まぶしく、とても眠って居られない。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かの地底の研究所から鉄の窓を開き、厚い硝子ガラス越しにこのかたちを観測していたが、かかる異様な現象のよって起こる訳を合点がてんした。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
新子が、そこに立ちわずらっているとき、電光のひらめきとほとんど同時に、硝子ガラス板を千枚も重ねて、大きい鉄槌で叩き潰したような音がした。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
窓の側を通ると、私は時々鎧戸よろひどを開けて外を見た。雪が劇しく降つてゐた。もう吹きたまりが、下の方の硝子ガラスにくつゝいてゐた。
冬の庭は障子硝子ガラスから一と目眺めたきり、それ以上眺めることがすくないものであるから、その瞬間に何かが視覚を打たなければならない。
冬の庭 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
写真師は乗合自動車に乗る時に拇指おやゆびをはさまれて骨を挫き、助手が家へ帰ってみると、子供の一人は硝子ガラス窓にぶつかって重傷を負っていた。
怪談綺談 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
今こそこんな処へ来てゐるが、前は、それはもう、硝子ガラスでこさへた立派な家の中に居たんだ。ひよどりを、四人も育てて教へてやったんだ。
鳥箱先生とフウねずみ (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
入口の左手が一間の欞子窓れんじまどになっていて、自由に手の入るだけの荒い出格子でごうしの奥に硝子戸ガラスどが立っていて、下の方だけ硝子ガラスをはめてある。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そして硝子ガラス窓をあけて、むっとするようにこもった宵の空気を涼しい夜気と換えた。彼はじっと坐ったまま崖の方を見ていた。
ある崖上の感情 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
俺は支那街の、薄汚い豚の骨や硝子ガラス のカケラの転がった空地に寝込んでいたのだ。さんざ歩きとばしたことだけが思い出せた。
苦力頭の表情 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
「林小父さんは此頃どうしていらしって?」編物を膝へ置いて、硝子ガラス戸越しにぼんやりと戸外を眺めていたビアトレスは、突然声をかけた。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
橋の両側も通路だが、中央の通路は両側に商家が並んで織物や土地の名物の硝子ガラスの器又はモザイクの細工物などを売つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
栗色に塗られたペンキはげて、窓の硝子ガラスも大分こはれ、ブリキ製の烟出けむだし錆腐さびくさツて、見るから淋しい鈍い色彩の建物である。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
立並んだ軽便ホテルの裏街から、ホテルの硝子ガラス戸ごしに見える、アカダマの楼上のムーラン・ルージュが風をはらんでいる。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
ドアなどはとうのむかしになくなって、板敷きの床のあいだから草がえだし、枠だけになった硝子ガラス窓を風が吹きぬけていた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
おわりてねむりに就くころは、ひがし窓の硝子ガラスはやほの暗うなりて、笛の音も断えたりしが、この夜イイダ姫おも影に見えぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
三方岡をめぐらし、厚硝子ガラスの大鏡をほうり出したような三角形の小湖水を中にして、寺あり学校あり、農家も多く旅舎やどやもある。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それは、その数日前から降りつづいた秋雨がなおも降り止まず、瀟々しょうしょうと病室の縁側の硝子ガラス障子に打ち煙っている日であった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その背後の座席に、あなたが坐っていて、人形をかざし、こちらに見せびらかすようにして顔を硝子ガラスしつけていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
お由羅は、緋羅紗のしとねの上へ坐っていたし、その側の、硝子ガラスの鏡、モザイックの手函、硝子の瓶——そうした調度類は、悉く舶来品であった。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
板からはがすと、布はこてをかけたように平に、糊をつけたようにピンとしている。我国で湿った手布ハンカチーフを窓硝子ガラスに張りつけるのと同じ考である。