白雲しらくも)” の例文
下襲したがさねの緋鹿子ひがのこに、足手あしてゆき照映てりはえて、をんなはだえ朝桜あさざくら白雲しらくもうらかげかよふ、とうちに、をとこかほあをつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ここを通るは白雲しらくも眞珠船しんじゆぶね、ついそのさきを滑りゆく水枝みづえいかだ……それ、眼のしたせきの波、渦卷くもやのそのなかに、船もいかだもあらばこそ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
此の日の死骸は白雲しらくも村から東今出川迄横わり、大内及び土岐氏の討ち取った首級は、車八輛に積んでも尚余り有ったと云う。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
大空に漂う白雲しらくもの一つあり。わらべ、丘にのぼり松の小かげに横たわりて、ひたすらこれをながめいたりしが、そのまま寝入りぬ。夢は楽しかりき。
詩想 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そのうち、やまうえにわく白雲しらくもが、うみのほうへながれていったとき、その姿すがたを、いくたび、この水面すいめんにうつしたかしれません。
うずめられた鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
少し大きい唇にさした嚥脂べにの、これもあくどい色の今は怖ろしいよう、そして釣目つりめは遠い白雲しらくもを一直線に眺めている。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
本職でなくてもい。腫物できもののあるのや禿頭病とくとうびょう白雲しらくも田虫たむし湿瘡しっそう皮癬ひぜんなんてのを見繕みつくろって、かわり立ち代り坐り込ませる。これなら親類にいくらもあるだろう?
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
半七 白雲しらくもあたまの小僧なんぞに用はねえ。大きい犬っころ十二匹をみんなここへ引っ張り出してください。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「後れゐて吾が恋ひ居れば白雲しらくもの棚引く山を今日か越ゆらむ」(巻九・一六八一)、「たまがつま島熊山の夕暮にひとりか君が山路越ゆらむ」(巻十二・三一九三)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ひとり窓のかたわらに座しおる。夕陽ゆうひ。)夕陽の照すしめった空気に包まれて山々が輝いている。棚引いている白雲しらくもは、上の方に黄金色こがねいろふちを取って、その影は灰色に見えている。
こういう騒ぎをよそにして、岡埜おかの大福餅だいふくもちの土手下にこもを敷いた親子づれの乞食。親のほうはいざりでてんぼう。子供のほうは五つばかりで、これも目もあてられない白雲しらくもあたま。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
暫くしてかの女が、空に浮く白雲しらくもの一群に眼をあげた時に、かの女は涙ぐんでた。かの女は逸作と息子との領土を持ちながらやっぱりまだ不平があった。世の中にもかの女自身にも。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
白雲しらくも頭の小僧から十年の年季を勤め上げて礼奉公が二年、立派な白鼠といわれ多年チュウ勤の功によって分けて貰えば、一軒の出店の主人、暖簾のお蔭で本店同様のお引立てを蒙ったものだが
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
水気の少い野の住居は、一甕ひとかめの水も琵琶びわ洞庭どうていである。太平洋大西洋である。書斎しょさいから見ると、甕の水に青空が落ちて、其処に水中の天がある。時々は白雲しらくもが浮く。空を飛ぶ五位鷺ごいさぎの影もぎる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
舞ひたちさわぐ白雲しらくも
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
白雲しらくも向伏むかふすかぎり。
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
幾山河いくやまかは白雲しらくも
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
くもくもきたり、やがてみづごとれぬ。白雲しらくも行衞ゆくへまがふ、蘆間あしまふねあり。あは蕎麥そば色紙畠しきしばたけ小田をだ棚田たなだ案山子かゝしとほ夕越ゆふごえて、よひくらきにふなばたしろし。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二人ふたり少年しょうねんは、まついただきと、さらにはるかにたかく、とおい、あおそらかぶ、白雲しらくも見上みあげてわらっていました。
町はずれの空き地 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あをによし奈良ならみやこにたなびけるあま白雲しらくもれどかぬかも 〔巻十五・三六〇二〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
白雲しらくも向伏むかふすかぎり。
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
舞ひたちさわぐ白雲しらくも
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
うすい、白雲しらくもやぶって、日光にっこうはかっとまち建物たてものらしていました。くるまとおります。自転車じてんしゃはしっていきます。
芽は伸びる (新字新仮名) / 小川未明(著)
ただあぜのような街道かいどうばたまで、福井の車夫は、笠を手にして見送りつつ、われさえ指すかたを知らぬさまながら、かたばかり日にやけた黒い手を挙げて、白雲しらくも前途ゆくてを指した。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここにありて筑紫つくしやいづく白雲しらくも棚引たなびやまかたにしあるらし 〔巻四・五七四〕 大伴旅人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その老人としよりは、年紀とし十八九の時分から一時ひとしきり、この世の中から行方が知れなくなって、今までの間、甲州の山続き白雲しらくもという峰に閉籠とじこもって、人足ひとあしの絶えた処で、行い澄して
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見上みあげると、あたまうえをおもしろそうに、白雲しらくもがゆるゆるとしてながれてゆきました。
曠野 (新字新仮名) / 小川未明(著)
月の光いまだてらさず白雲しらくもは谷べにふかく沈みたるらし
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)