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此方
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こっち
ふりがな文庫
“
此方
(
こっち
)” の例文
「湯河原までじゃ、十五円で参りましょう。本当なれば、もう少し頂くのでございますけれども、
此方
(
こっち
)
からお勧めするのですから。」
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
初
(
はじめ
)
のようにからかう勇気がなくなり、
此方
(
こっち
)
も巡査の様子を見詰めていると、巡査はやはりだまったままわたくしの紙入を調べ出した。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
立派なところへ縁づいてでもくれるんならいいが、又のこのこと花柳界へ戻って行かれちゃ、それだけ
此方
(
こっち
)
も世間が狭くなるからな。
蓼喰う虫
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
ふみ「お
芳
(
よし
)
や、そこ開けて遣っておくれ……
此方
(
こっち
)
だよ、此方へお這入りなさい……あらまア穢い
服装
(
なり
)
でマア、またお出でなすったね」
松と藤芸妓の替紋
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
斯
(
こ
)
う
云
(
い
)
うのは全く
此方
(
こっち
)
が悪い。人の勉強するのを面白くないとは
怪
(
け
)
しからぬ事だけれども、何分
興
(
きょう
)
がないから
窃
(
そっ
)
と両三人に相談して
福翁自伝:02 福翁自伝
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
▼ もっと見る
尤もその間に梅子は電話口へ二返呼ばれた。
然
(
しか
)
し、嫂の様子に別段変った所もないので、代助は
此方
(
こっち
)
から進んで何にも聞かなかった。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
一人だから余計に存在を認められるのか、家庭の一員として充分の権利と尊敬を享有しているのらしく、却って
此方
(
こっち
)
が羨ましかった。
ぐうたら道中記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
とも
角
(
かく
)
、明日のパンに困っては、売る
当
(
あて
)
もない原稿を書いて、運の
賽
(
さい
)
の目が
此方
(
こっち
)
へ廻って来るのを待っているわけにも参りません。
奇談クラブ〔戦後版〕:05 代作恋文
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
噺
(
はなし
)
の方は色気があるが、
此方
(
こっち
)
はお色気には縁の遠い方だった。だが色っぽくないことは、八人組も
御多聞
(
ごたぶん
)
に
洩
(
も
)
れないのが多かった。
「明治のおもかげ」序にかえて
(新字新仮名)
/
喜多村緑郎
(著)
「そりゃあ
然
(
そ
)
うだろう、惚れてるからな」
嘲笑
(
あざわら
)
うように鼻を鳴らした。「女を占めようと思ったら、決して
此方
(
こっち
)
で惚れちゃあ
不可
(
いけ
)
ねえ」
隠亡堀
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
が、その声がすると、女はきゅうに
此方
(
こっち
)
を向いて、びっくりしたような
顔貌
(
かお
)
で、いままでよりかずっと早足で歩き出したのです。
ゆめの話
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
「ですが、私の為に
態々
(
わざわざ
)
帰郷させるのも気の毒ですから、
此方
(
こっち
)
は別に急ぐ訳でもないから、冬季休業まで延期しろと云って
与
(
や
)
りました。」
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
夜になってから、お島は養父に
吩咐
(
いいつ
)
かって、近所をそっち
此方
(
こっち
)
尋ねてあるいた。青柳の家へもいって見たが、見つからなかった。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
お勢が
開懸
(
あけか
)
けた障子に
掴
(
つか
)
まッて、出るでも無く出ないでもなく、唯
此方
(
こっち
)
へ背を向けて
立在
(
たたず
)
んだままで坐舗の
裏
(
うち
)
を
窺
(
のぞ
)
き込んでいる。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
最初の形勢では容易に中川君
同胞
(
きょうだい
)
が承知しそうもなかったけれども案じるよりは
産
(
う
)
むが安く、今では向うの方がかえって
此方
(
こっち
)
より熱心だ。
食道楽:春の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
『たしか、馬廻り役の近松勘六だったと思う。あの顔は、
慥
(
たし
)
かに覚えているのだが、よく思い出せない。もう
此方
(
こっち
)
の
懐中
(
ふところ
)
も油断がならん』
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
背には
乳飲児
(
ちのみご
)
を
負
(
おぶ
)
って、なるたけ
此方
(
こっち
)
の顔を見ないように急いで、通り違ってしまった。きっと、森の中の家に来ているのだろうといった。
凍える女
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
そこに恐ろしい顔をした女がいて、今にも何かを掴み取ろうとするようにして両手をかまえ、凄い涙を浮べた眼で
此方
(
こっち
)
を見ていた。後妻は
前妻の怪異
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
いや、
最
(
も
)
う六十になるが忘れないとさ、此の人は又
然
(
そ
)
ういふよ、其れから
此方
(
こっち
)
、都にも
鄙
(
ひな
)
にも、其れだけの美女を見ないツて。
二世の契
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
此方
(
こっち
)
ではツァイスの顕微鏡を要求しているのに露店で売っている虫眼鏡をよこして「見える」「見える」と云って主張するようなものである。
ラジオ雑感
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
闇太郎——ここまで来て、もう
此方
(
こっち
)
のものだと思った。石置場の暗がりに飛び込んでしまえば、どのような鋭い探索の目も、及ばぬであろう。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
それにはその者の身分も調べて、
此方
(
こっち
)
の身分との釣合も考えなければなりませんし、血統を調べなければなりません。それに人物が第一です。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
ヂュリ
予
(
わし
)
の
骨々
(
ほね/″\
)
を
其方
(
そなた
)
に
與
(
や
)
っても、
速
(
はや
)
う
其
(
その
)
消息
(
しらせ
)
が
此方
(
こっち
)
へ
欲
(
ほ
)
しい。これ、どうぞ
聞
(
き
)
かしてたも。なう、
乳母
(
うば
)
や、
乳母
(
うば
)
いなう、
如何
(
どう
)
ぢゃぞいの?
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
段六
彼方
(
あっち
)
此方
(
こっち
)
をおびえた顔で見廻しながら、後退りに歩いて七三。早田呆れて見ながら、これも後退り。遠くで大砲の音。
天狗外伝 斬られの仙太
(新字新仮名)
/
三好十郎
(著)
あの老人程
舵
(
かじ
)
の取り
難
(
にく
)
い人はないから貴所が
其所
(
そこ
)
を巧にやってくれるなら
此方
(
こっち
)
は又井下伯に頼んで十分の手順をする、何卒か宜しく
御頼
(
おたのみ
)
します。
富岡先生
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
ハテな誰だろう、
此方
(
こっち
)
へ向けば好いと、気を揉んで待ったけれど、歩む許りで此方へ向かず、早や鏡から離れ相に成った。
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
もう御飯になるから御帰りとか、寒いから内へ御入りとかいって子供を呼ぶ声が、
彼方
(
あっち
)
の家からも
此方
(
こっち
)
の家からも聞える。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
作者の道楽かもしくは、お庭の石を
彼方
(
あっち
)
此方
(
こっち
)
と動かしては眺めるのと同じ格の一種の隠居仕事かも知れないと思われる。
創作人物の名前について
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
彼は急に金持ちの慈善家になったという不思議な感じがすると同時に、
此方
(
こっち
)
をそう思いこんでしまった相手の幻想によって
擽
(
こそ
)
ぐられるのであった。
幻想
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
ゆうべ狼を曳出しに行った時、母さんにこれからチイ公をやっつけに出掛けるんだと口を滑らしたのが
此方
(
こっち
)
には仕合せで、危うく君が助かったんだ
殺生谷の鬼火
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
「そりゃ、その時は口を利く人はあったの。ですけれど
此方
(
こっち
)
がお母さんと二人きりだったから甘く
皆
(
みん
)
なに欺されたの。」
別れたる妻に送る手紙
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
そのとき、知っていたのかどうか、利助は着物を着ながら、
此方
(
こっち
)
を振り向いた。そしてじっと、利平の顔を見た……と思った、その眼、その眼……。
眼
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
そんな訳なので、息子の云い出さないうちは
此方
(
こっち
)
からその事を云い出すのも何と云う事はなしてれ気味なので、余計ずるずるになるばかりであった。
栄蔵の死
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
そうそう
此方
(
こっち
)
の勝手な時に呼び出されては、困るだろう。知栄だってお前がいないもんだから
何時迄
(
いつまで
)
もねやしないし。
女の一生
(新字新仮名)
/
森本薫
(著)
悪くすると天晴な好い若い者が、愍むべし「お茶壺」になって、ただ
彼方
(
あっち
)
から
此方
(
こっち
)
へ渡って歩く事になります。今後はもう国外旅行が宜さそうですネ。
旅行の今昔
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
……といえば麻布の
狸穴
(
まみあな
)
にいるものとばかり
此方
(
こっち
)
は思っている。——麻布にいるものがそんな目に逢うわけはない。
春泥
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
だが彼は妙に気が
急
(
せ
)
いた。無理をしまいと思うと
猶更
(
なおさら
)
焦々
(
いらいら
)
した。時々箕島刑事の方に横眼を流して見ると、それとなく
此方
(
こっち
)
を警戒して居る風があった。
乗合自動車
(新字新仮名)
/
川田功
(著)
するとそのうちに何かのきっかけで「Aの気持もよくわかっていると云うのならなぜ
此方
(
こっち
)
を骨折ろうとしないんだ」
橡の花
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
どんな
話
(
はなし
)
をするのであろうか、
彼処
(
かしこ
)
へ
行
(
い
)
っても
処方書
(
しょほうがき
)
を
示
(
しめ
)
さぬでは
無
(
な
)
いかと、
彼方
(
あっち
)
でも、
此方
(
こっち
)
でも、
彼
(
かれ
)
が
近頃
(
ちかごろ
)
の
奇
(
き
)
なる
挙動
(
きょどう
)
の
評判
(
ひょうばん
)
で
持切
(
もちき
)
っている
始末
(
しまつ
)
。
六号室
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
これは小供が
彼方
(
あっち
)
向いているのを、美味しい物即ち肉を喰わせてやるから、
此方
(
こっち
)
へ向けといって
引張込
(
ひっぱりこ
)
む意で、これがいわゆる育の字の講釈だそうである。
教育の目的
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
なぜなら、庭に向いた窓の向うから、しきりに
此方
(
こっち
)
を覗きこんでいる者があった。その円い顔——
紛
(
まぎ
)
れもなく、逃げたとばかり思っていた松永の笑顔だった。
俘囚
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
ちょうちんを灯けた牛車が橋を
此方
(
こっち
)
へ渡り切った頃、そのかげから、鉄ちゃんがひょっこり現われて来た。
鋳物工場
(新字新仮名)
/
戸田豊子
(著)
「
忍路高島
(
おしょろたかしま
)
ですか。あれは流石に松前から
此方
(
こっち
)
のものですね。信濃の追分とはまた味がちがっていい。」
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
昨夜
(
ゆうべ
)
は隣の室で女の泣くのを聞きながら眠ったっけが、今夜は何を聞いて眠るんだろうと思いながら行くんだ。初めての宿屋じゃ
此方
(
こっち
)
の誰だかをちっとも知らない。
一利己主義者と友人との対話
(新字新仮名)
/
石川啄木
(著)
我国にも
有形無形
(
うけいむけい
)
の
怪物
(
ばけもの
)
が
彼方
(
あっち
)
にも
此方
(
こっち
)
にもゴロリゴロリ
転
(
ころが
)
って世の中はまるで
百鬼夜行
(
ひゃっきやこう
)
の姿である。
大きな怪物
(新字新仮名)
/
平井金三
(著)
同じ姿でしかも黙って
此方
(
こっち
)
を向いて今にも自分の方へ来そうなので、もう彼も
堪
(
たま
)
らなくなったから、急いで
母家
(
おもや
)
へ駆けこんで
床
(
とこ
)
へ入ったが、この晩は、とうとう一晩
暗夜の白髪
(新字新仮名)
/
沼田一雅
(著)
... しやがつて、
其方
(
そっち
)
よりは
此方
(
こっち
)
が泣きてえ」と立掛り「さあ金を出さねえか、脇へこかしたな、
好
(
よ
)
し、尼あ引きずつて行つて、叩き売つて金にする」と
内侍
(
ないし
)
を
引立
(
ひったて
)
に掛る。
いがみの権太:(明治二十九年一月、明治座)
(新字旧仮名)
/
三木竹二
(著)
暗
(
く
)
らくなった谷を
距
(
へだ
)
てて少し
此方
(
こっち
)
よりも高い位の平地に、忘れたように間をおいてともされた市街地のかすかな
灯影
(
ほかげ
)
は、
人気
(
ひとけ
)
のない所よりもかえって自然を淋しく見せた。
カインの末裔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
此方
(
こっち
)
側の中腹から谷底へかけては、割合になだらかな斜面で、雑草や灌木が青々と生い茂り、こんもりと盛り上った椈の大木が疎らに散生して谷風にそよいでいるさまは
黒部川を遡る
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
会長のK博士が温顔をきびしく結ばれて、
此方
(
こっち
)
に
洋杖
(
ステッキ
)
の音もコツコツとやって来られたのです。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
此
漢検準1級
部首:⽌
6画
方
常用漢字
小2
部首:⽅
4画
“此方”で始まる語句
此方様
此方側
此方衆
此方面
此方等
此方向
此方持
此方組
此方樣
此方人等