トップ
>
樋
>
とい
ふりがな文庫
“
樋
(
とい
)” の例文
「水道橋の
下手
(
しもて
)
——上水の
樋
(
とい
)
の足に引っ掛っていたのを、船頭が見付けて引揚げましたが、もう虫の息さえもねエ——可哀想に——」
銭形平次捕物控:122 お由良の罪
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
ひとりの男が、長い
樋
(
とい
)
をつたって、だんだん下へおりてくるのです。この真夜中に、焼けビルの樋をはう男、じつにふしぎな光景です。
透明怪人
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
シンシンと鳴る鉄瓶の音と、スヤスヤという看護婦の寝息と、雨戸の外でチョロチョロと
樋
(
とい
)
を伝い落ちる雪水の音ばかりになった。
復讐
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
短い棒を手にして
梯子
(
はしご
)
を登って行って、
樋
(
とい
)
の中にすっかり
嵌
(
は
)
まって巣を
狙
(
ねら
)
って、逃げようともしない蛇を、やっと追立ててくれました。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
もう一
度
(
ど
)
おせんは
奥
(
おく
)
へ
向
(
むか
)
って、
由斎
(
ゆうさい
)
を
呼
(
よ
)
んで
見
(
み
)
た。が、
聞
(
きこ
)
えるものは、わずかに
樋
(
とい
)
を
伝
(
つた
)
わって
落
(
お
)
ちる、
雨垂
(
あまだ
)
れの
音
(
おと
)
ばかりであった。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
▼ もっと見る
血のまじった水はつぎに小さい
樋
(
とい
)
に流しこまれ、最後にはこの大きな樋に流れ入り、この大きな樋の流出管は穴へと通じています
流刑地で
(新字新仮名)
/
フランツ・カフカ
(著)
ここから流れ出すものがたくさんな
樋
(
とい
)
に分流しそれにいろいろの井戸から出る水を混じて書物になり雑誌になって提供される。
丸善と三越
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
雨は相変らず強く降っている、どこか
樋
(
とい
)
の
傷
(
いた
)
んでいる処があるのだろう、裏手のほうでざあざあと
溢
(
あふ
)
れ落ちる水音が聞えた。
金五十両
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
戸を細めている真暗な居酒屋の軒下に立って、一角は、
枡
(
ます
)
をうけ取った。
樋
(
とい
)
の雨水が、ざっざと、背なかを打つのであった。
無宿人国記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
滝のようなどよめきが
樋
(
とい
)
を流れ落ちて、半ばしめられた雨戸の間からは、水滴を含んだ冷かな空気が室の中に吹き込んだ。
掠奪せられたる男
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
この酷い大雨の中を
樋
(
とい
)
から落ちる雨垂れの音の合間合間に、トントントンとかすかに店の大戸を叩くものがございました。
蒲団
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
人の心を他界に誘うようにザッとさびしく降って通るかと思うと、びしょびしょと
雨滴
(
あまだ
)
れの音が軒の
樋
(
とい
)
をつたって落ちた。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
雨戸の外は
五月雨
(
さみだれ
)
である。庭の植込に降る雨の、鈍い柔な音の
間々
(
あいだあいだ
)
に、
亜鉛
(
あえん
)
の
樋
(
とい
)
を走る水のちゃらちゃらという声がする。
ヰタ・セクスアリス
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
いつまで争って見ても勝負がつかぬので、両方の山の頂上に
樋
(
とい
)
をかけ渡して、水を流して見ようということになりました。
日本の伝説
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
それは、屋根から
樋
(
とい
)
をつけて、その中に雪を入れて下へ
辷
(
すべ
)
らせるのである。樋は
斜
(
ななめ
)
に遠くまでやっておき、その樋の内側に蝋をひいておくのである。
雪
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
そして鉛を引きぬく仕事、すなわち鉛板職と称する方法で屋根をめくり
樋
(
とい
)
をはがす仕事に、大なる進歩をもたらした。
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
……池は、
樹
(
き
)
の根に
樋
(
とい
)
を伏せて裏の川から引くのだが、一年に一二度ずつ
水涸
(
みずが
)
れがあって、池の水が
干
(
ひ
)
ようとする。
眉かくしの霊
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
雨滴
(
あまだれ
)
が
樋
(
とい
)
に集まって、流れる音がざあと聞えた。代助は椅子から立ち上がった。眼の前にある百合の束を取り上げて、根元を
括
(
くく
)
った
濡藁
(
ぬれわら
)
を
挘
(
むし
)
り切った。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
それは故意か偶然か、変電所の壁を通って向いの家の
廂
(
ひさし
)
へ渡り、其の端が
錻力
(
ブリキ
)
で作った
樋
(
とい
)
に触れていたのである。
白蛇の死
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
点滴の
樋
(
とい
)
をつたわって
濡縁
(
ぬれえん
)
の外の
水瓶
(
みずがめ
)
に流れ落る音が聞え出した。もう
糠雨
(
ぬかあめ
)
ではない。風と共に木の葉の
雫
(
しずく
)
のはらはらと軒先に払い落される
響
(
ひびき
)
も聞えた。
雨瀟瀟
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
東の方の空が少しずつ
明
(
あか
)
るんできました。やがて、雲の間から太陽が現れました。
薔薇
(
ばら
)
色の雲の間から
洩
(
も
)
れて来る光は、
樋
(
とい
)
のところの羽子を照らしました。
屋根の上
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
瀬は
樋
(
とい
)
から吐き出すように流れ落ちる。瀬の中にがんばっている岩は家ほどもある。その急流へ立ち込んで、水に脚をさらわれれば、もうあの世行きである。
利根の尺鮎
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
しばらくすると、毛布の下にかがまっていた子供は、そっと顔を
覗
(
のぞ
)
き出す。屋根の上には
風見
(
かざみ
)
が
軋
(
きし
)
っている。
樋
(
とい
)
からは
点滴
(
しずく
)
がたれている。
御告
(
みつげ
)
の
祷
(
いのり
)
の鐘が鳴る。
ジャン・クリストフ:03 第一巻 曙
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
ひどいやつになりますと、
樋
(
とい
)
を逆さに伏せて、それを軒から軒へ渡して、わざわざ火を呼ぶと言いますよ。
夜明け前:02 第一部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
で、葉の色も花の色も、
活々
(
いきいき
)
と明るく健康に見えた、近くに泉水でもあるのであろう、
樋
(
とい
)
から水でも落ちてくるのであろう、トコトコという音が聞こえていた。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
やがて近いところの
樋
(
とい
)
の水を引いて、釜の中へ適度に流しかけたかと思うと、今度は、近いところの落葉枯枝をかき集めて、その釜の下へ火を焚きつけました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
三宅島時代で最も印象に残っているのは、小学校の五、六年ごろと思うが、断崖にかけてある
樋
(
とい
)
を渡って母にしかられた思い出だ。三宅島は火山島で水に不便だ。
私の履歴書
(新字新仮名)
/
浅沼稲次郎
、
日本経済新聞社
(著)
門のかたわらの板塀に沿って
樋
(
とい
)
が取りつけてある(それは職工や、組合労働者や、
辻馬車屋
(
つじばしゃや
)
などのたくさん住んでいる、こんな風の家によく設けてある種類のものだ)
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
水の音に消されて雨の音は聞こえないが、時々に軒の
樋
(
とい
)
をこぼれおちる雨だれの音で、今夜もまだ降りつづけているのが知られた。例の河鹿の声が哀れに寂しく聞こえる。
河鹿
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
一円で買った菓子折を大事にかかえて
因
(
いん
)
の
島
(
しま
)
の
樋
(
とい
)
のように細い町並を抜けると、一月の寒く冷たい青い海が漠々と果てもなく広がっていた。何となく胸の焼ける思いなり。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
松からは
樋
(
とい
)
のように下の岩へ雨だれを落としている。空気は強い吹き降りの雨に満ちている。
世界怪談名作集:12 幻の人力車
(新字新仮名)
/
ラデャード・キプリング
(著)
屋根の流れを集めた
樋
(
とい
)
が、まだ乾きもやらず、大粒な
雨垂
(
あまだ
)
れをたたくように地面へ落とす。
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
手桶
(
ておけ
)
に五六ぱい流しといて、
樋
(
とい
)
の水を引きながら湯かき棒で
掻回
(
かきまわ
)
そうとした時です。棒の先にぬらりと黒い物が
絡
(
から
)
んできた。と、それに続いて、大きな白い影がゆらりと動いた。
浴槽
(新字新仮名)
/
大坪砂男
(著)
炊事場の棚をつけなおし、落葉でつまっていた
樋
(
とい
)
を掃除して、
清水
(
しみず
)
が
流場
(
ながし
)
へ流れこむようにした。雑草のなかに倒れていた
扉
(
ドア
)
をひきおこし、骨を折ってこれを入口にとりつけた。
キャラコさん:04 女の手
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
日のある間急しく雪解の水のむせび流れて居た
樋
(
とい
)
も今は静かで、小さい町の暗さが襖の際まで迫って来るようだ。其日の新聞を読んで居ると、隣りの室で急に電話のベルが鳴った。
町の展望
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
垣根をくぐったときにね、頭に気をつけないと、物置からさがってる
樋
(
とい
)
にぶつかるよ。
病む子の祭
(新字新仮名)
/
新美南吉
(著)
この建物の軒や横にわたした
樋
(
とい
)
の
隅
(
すみ
)
などにはたくさんの
雀
(
すずめ
)
が巣くっていた。春先、多くの卵がかえり、ようやく飛べるようになり、夏の盛りにはそれはおびただしい数にふえていた。
癩
(新字新仮名)
/
島木健作
(著)
吐き出す人は
雪崩
(
なだれ
)
をうって又改札口に押し寄せる。
併
(
しか
)
し
流石
(
さすが
)
に東京駅である。改札口の人の渦は直ちに消え去ってしまう。後から後から来る人は、よく掃除された
樋
(
とい
)
の水のように流れて行く。
丸の内
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
ところが或る夏の晩、プセットは肱掛椅子の上に寝ていたが、ふと
焦々
(
いらいら
)
しく起きあがって、暗がりをのっそりのっそり歩きはじめた。外では、
他
(
よそ
)
の猫等が
樋
(
とい
)
の中でしきりに呼び声を立てていた。
老嬢と猫
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
岩角へのしかけて、三方に板を囲った見張り
櫓
(
やぐら
)
。二人ぐらいしか並べない
樋
(
とい
)
のような監視所、その板囲いの隙間から、直下の砂浜を差し覗いた——この驚駭、この動顛、この大畏怖、この寂光。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
積っていた雪は解け、雨垂れが、絶えず、快い音をたてて
樋
(
とい
)
を流れる。
渦巻ける烏の群
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
それで仕方なしに窓から出て、
樋
(
とい
)
を伝って下りて、教会へ馳けて行った。門番の老爺が庭掃除をしていたが、隙を
覗
(
うかが
)
って乃公は会堂に飛込んだ。
未
(
ま
)
だ
何人
(
だれ
)
も来ていない。最早占めたもんだと思った。
いたずら小僧日記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
家は二た間に勝手だけで、井戸はないけれども、背後の
崖
(
がけ
)
に
湧
(
わ
)
き水があり、
樋
(
とい
)
で勝手へ引いてあるのが、いくら使っても余るほど豊かであった。
榎物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
それはね、水はけ——ではない
液
(
えき
)
はけをよくすることだ。上から滲みこんで来た液は、
樋
(
とい
)
とか
下水管
(
げすいかん
)
のようなものに受けて、どんどん流してしまうことだ。
今昔ばなし抱合兵団:――金博士シリーズ・4――
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
翌朝も、細かい雨が煙っていて、竹の
樋
(
とい
)
の裂け目から落ちる
雫
(
しずく
)
に、勝手の板の間がびしょ濡れになっていた。
鳴門秘帖:04 船路の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
小畑が熊谷からやって来るという
便
(
たより
)
があったが、運わるく日曜が激しい吹き降りなので、郁治と二人
樋
(
とい
)
から
雨滴
(
あまだ
)
れが滝のように落ちる暗い窓の下で暮らした。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
血が何百というすじを引いて流れ、水ともまじらず、また小さな
樋
(
とい
)
も今回はどうにもならなかった。そして今度は、さらに最後のことまでがうまくいかなかった。
流刑地で
(新字新仮名)
/
フランツ・カフカ
(著)
崖づくりを急流で落ちます、
大巌
(
おおいわ
)
の向うの
置石
(
おきいし
)
に、竹の
樋
(
とい
)
を
操
(
あやつ
)
って、
添水
(
そうず
)
——
僧都
(
そうず
)
を一つ掛けました。
菊あわせ
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
藤六は、そう言いながら、ガラッ八に手伝って貰って、三重になっている、水槽の
樋
(
とい
)
を開きました。
銭形平次捕物控:016 人魚の死
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
あたかも
紫
(
むらさき
)
の雲のたなびけるがごとし。されどもついにそのあたりに近づくこと
能
(
あた
)
わず。かつて茸を採りに入りし者あり。白望の山奥にて金の
樋
(
とい
)
と金の
杓
(
しゃく
)
とを見たり。
遠野物語
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
樋
漢検準1級
部首:⽊
15画
“樋”を含む語句
雨樋
樋口
大樋
伏樋
樋竹
竹樋
樋放
木樋
掛樋
懸樋
樋口一葉
石樋
竪樋
戸樋
樋口兼光
大伏樋
樋田
樋速日
樋口次郎兼光
樋竹売
...