服装みなり)” の例文
旧字:服裝
半七はそれから日本橋の馬喰町ばくろちょうへ行った。死骸の服装みなりからかんがえて、まず馬喰町の宿屋を一応調べてみるのが正当の順序であった。
半七捕物帳:28 雪達磨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此時になつて初めて其の服装みなりを見ると、依然として先刻さつきの鼠の衣だつたが、例の土間のところへ来ると、そこには蓑笠が揃へてあつた。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
とくに念を入れた服装みなりをしていて、フランネルの服、派手な手袋、白の半靴はんぐつ、薄青の襟飾えりかざりゆわえていた。手には小さなむちをもっていた。
当座の用事とは、必要な手紙をかくとか、始終こざっぱりした服装みなりをしているために、まめに縫い物をするとかいうようなこと。
女中訓 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
服装みなりなども立派に成った。しかし以前の貧乏な時代よりは、今日の方が幸福しあわせであるとは、先生の可傷いたましい眼付が言わなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とちやほや、貴公子に対する待遇もてなし服装みなりもお聞きの通り、それさえ、汗に染み、ほこりまみれた、草鞋穿わらじばきの旅人には、過ぎた扱いをいたしまする。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其麽そんな事から、この町に唯一軒の小川家の親籍といふ、立花といふうちに半自炊の様にして泊つてゐるのだ。服装みなりを飾るでもなくほんを読むでもない。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
するとすぐ玄関わきの扉をあける音がして、五十恰好の薄穢い服装みなりをした女が不機嫌な顔を突出した。ギルは突然三階には何者がいるかと訊ねた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
けれどもこうした元気は、起こり初めと同じように、不意にぱったり消えてしまうのであった。彼はいつも立派な、しかも上品な服装みなりをしていた。
ただみずをかぶったような清浄せいじょう気分きぶんになればそれでよろしいので、そうすると、いつのにか服装みなりまでも、自然しぜん白衣びゃくいかわってるのでございます。
利にさとい主人は、絵を見る振りをして、孝之進の服装みなりその他に、鋭い目を投げた。そして何の興味も引かれないらしい、冷かな表情を浮べながら
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「ああそうとも走って来るよ、一人は若武士、一人は娘、後の二人は香具師らしいよ。卑しい服装みなりをしているからね」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お前はこの頃ときどき間違った帳記ちょうづけをやる。つまり仕事に身を入れていないからだ。それに、いったい服装みなりがだらしない。わしはそれも気に入らぬ。
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
四十歳前後の男で、私の隣の卓子テーブルで独り飲んでいたのだ。(足を組んだ膝頭の辺をがくがくふるわせながら。)服装みなりはひどいが、顔立は鋭く知的である。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その全体の服装みなりは、歌うがごとく燃ゆるがごとく、何ともいえない美しさだった。あおい色の薄ものの長衣をつけ、海老茶えびちゃ色の小さな役者靴をはいていた。
おれはキキイがなぜこんな服装みなりをして居るのか、夜毎よごとに盛装して散歩に出る三人の女とキキイとの間にどんな身分の懸隔けんかくがあるのかわからなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
夫人はようように夜の帽子をかぶって、寝衣ねまきを着たが、こうした服装みなりのほうが年相応によく似合うので、彼女はそんなにいやらしくも、みにくくもなくなった。
三流町でも見られぬような汚らしい貧しげな服装みなりをしたお内儀かみさん連中が、縄で括った魚をブラ下げながら、ギャンギャン高声に子供を叱り飛ばしたり
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
応対のしとやかにして人馴ひとなれたる、服装みなりなどの当世風に貴族的なる、あるひ欧羅巴ヨウロッパ的女子職業に自営せる人などならずや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
女は華奢な上品な人らしく、服装みなりも綺麗であったし、それから髪は良家の若い娘のそれのように結ばれていた。
(新字新仮名) / 小泉八雲(著)
真昼時まひるどきの、静かな蔭に泌みた部屋に、汚ない服装みなりをした此の婦人が白痴のやうに空洞カラッポな顔をして、グッタリ窓に凭れてゐる様を、私は稀に見ることがあつた。
女中に手をかれて人込みにおどおどしながら町の片端を平生の服装みなりで賑わいを見物するお屋敷の子は
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
村のわかい男の眼にその姿があった。それは秋の黄昏ゆうぐれのことであった。狩装束をした服装みなりの立派な武士が七八人の従者をれて来た。従者の手には弓や鉄砲があった。
妖怪記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
このあたりの夜店を見歩いている人達の風俗にならって、出がけには服装みなりかえることにしていたのである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おかめの面をかぶって、ピストルをもって、すっかり仮面強盗と同じ服装みなりをして、いい潮時を見はからって出ていただくんです。そうすると、きっと大騒ぎになってよ。
探偵戯曲 仮面の男 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
そして博奕打に特有の商人コートに草履ばきという服装みなりの男を見ると、いきなりドンと突き当り、相手が彼の痩せた体をなめて掛かって来ると、鼻血が出るまで闘った。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
ほんとに懶惰ものぐさでいらっしゃいますね。お服装みなりにも少しは気をつけなさらなければいけませんよ。……ふさいでばかりいらっしゃらないで、気晴しにお出かけなさいましよ。
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
部屋の真中に置かれた二つ三つの袋の他には誰ひとり人影のないのを確かめると、のこのこと煖炉ペチカから這ひだして、温かさうに著ぶくれた裘衣コジューフを脱ぎ捨てて服装みなりをなほした。
ことに漢医書生は之を笑うばかりでなく之を罵詈ばりして少しも許さず、緒方塾の近傍、中ノ島なかのしま花岡はなおかと云う漢医の大家があって、その塾の書生はいずれも福生ふくせいと見え服装みなりも立派で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
美しいと云う顔立かおだちでは無いが、色白の、微塵みじん色気も鄙気いやしげも無いすっきりした娘で、服装みなりも質素であった。其頃は女子英学塾に寄宿して居たが、後には外川先生の家に移った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と、二人が言った時は、商家の大旦那風の服装みなりの立派な見慣れない男が土間に立っていた。
蛍雪が姉娘のお千代を世帯染しょたいじみた主婦役にいためつけながら、妹のお絹に当世の服装みなりぜいを尽させ、芝の高台のフランスカトリックの女学校へ通わせてほくほくしているのも
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
へいぼろ/\したおなりで………あなたの前で申上げては済みませんが、実にひどいお服装みなり御酒ごしゅの上の悪いてえことを聞いて居りますが、わたくしは存じませんから、何だかと思って
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
華美はでに衣飾ることなど出来ようはずがない。で彼女は仕方なく質素な服装みなりをしていた。
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
三津五郎の鮨売をさきに立て、半丁ほど間をおいて職人か鳶かという風体に服装みなりを変えたアコ長、とど助、ひょろ松の三人がさりげないようすで見えかくれにその後からついて行く。
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
神田の倶楽部くらぶの二階で、エプロンをかけて、グラスを満載したお盆を持ち運ぶ時の様子とは大変な違い、第一今日は服装みなりこそ至って粗末ですが、みっちゃんの顔は後光がさすほど綺麗です。
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
なぜならば、小次郎の特徴であった髪や服装みなりも、前とは、人違いするほど変っていて、あの前髪も刈り込み、これ見よがしな派手な伊達だて羽織も、地味な蝙蝠羽織こうもりばおり野袴のばかまとに変っているのである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ブルジヨア風の服装みなりをしてゐるために
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
昇の服装みなりは前文にある通り。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
この時になって初めてその服装みなりを見ると、依然として先刻さっきの鼠の衣だったが、例の土間のところへ来ると、そこには蓑笠みのかさが揃えてあった。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雪のなかに坐っていたのは四十二三の男で、さのみ見苦しからぬ服装みなりをしていたが、江戸の人間でないことはすぐにさとられた。
半七捕物帳:28 雪達磨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
喚起よびおこす袈裟治の声に驚かされて、丑松は銀之助が来たことを知つた。銀之助ばかりでは無い、例の準教員も勤務つとめの儘の服装みなりでやつて来た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
衣類きるいに脚が生えやしめえし……草臥くたびれるんなら、こっちがさきだい。服装みなり価値ねだんづけをしやがって、畜生め。ああ、人間さがりたくはねえもんだ。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なぜならクリストフは、疲れはて、忙しく働き、服装みなりにも注意しないでいて、平素よりいっそう醜くなっていたから。
別に取り繕った様子もないが、さっぱりした豊かな優美さをそなえた服装みなりをしていた。黒い緞子どんすの長衣と同じ布の肩衣と白い縮紗クレープの帽子をつけていた。
彼の服装みなりで料理店にはいるのは妙であったが、階段のところで尋ねてから呼び出してもらうという手もあった。
煙草もめよう、カッフェや倶楽部へも行くまい。服装みなりだっておれは贅沢すぎる。とにかく子供には不自由をさせたかアないな。なアに、きに楽になるさ。
(新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
あまつさ洋襪くつしたも足袋も穿いて居ず、膝をつかんだ手の指の太さは、よく服装みなりと釣合つて、浮浪漢か、土方の親分か、いづれは人に喜ばれる種類の人間に見せなかつた。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
車を待たせておいて、用談にはいったが、人品も服装みなりも卑しからぬ、五十二、三くらいの婦人であった。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
これまでわたくしどものっている服装ふくそうなかでは、一ばん弁天様べんてんさまのお服装みなりるようにおもわれました。