まさ)” の例文
男子社会の不品行にして忌憚きたんするなきその有様は、火のまさに燃ゆるが如し。徳教の急務は百事をなげうち先ずこの火を消すにあるのみ。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「夜深うしてまさに独りしたり、めにかちりとこを払はん」「形つかれて朝餐てうさんの減ずるを覚ゆ、睡り少うしてひとへに夜漏やろうの長きを知る」
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まさに一触即発のこの時、天は絶妙な劇作家的手腕をふるって人々を驚かせた。かの歴史的な大惨禍、一八八九年の大颶風ハリケーンが襲来したのである。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
瀧口入道、都に來て見れば、思ひの外なる大火にて、六波羅、池殿いけどの、西八條のあたりより京白川きやうしらかは四五萬の在家ざいけまさに煙の中にあり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
蘭軒は既に云つた如くに、文化八年の頃より混外こんげと音信を通じてゐて、此年十三年の秋まさに纔に王子金輪寺を訪うたのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
長方形な滑かな頭と胴体をぐつと掴んで、しみじみと見ると、キララともせず、柔かく、素直で、スツキリとして、まさに清長の美人の体駆である。
魚美人 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
おほ人足にんそく使用しようしたのを一人ひとり勞作らうさくなをして、一にち平均へいきん時間じかんると、まさに八十餘日よにちつひやした計算けいさんである。
内藤岡ノ二士及ビ泥江春濤円桓同ジク舟ニ入ル。きょうともそなわル。潮ハまさニ落チテ舟ノ行クコトはなはすみやカニ橋ヲ過グルコト七タビ始メテ市廛してんヲ離ル。日すでくらシ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一蝉まさに美蔭を得て而して其身を忘れ、蟷螂かげを執りて而して之をたんとし、得るを見て而して其形を忘れ、異鵲いじゃく従つて而して之を利し、利を得て而して其真を
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
克畏こくいしんを読めば、あゝおおいなる上帝、ちゅうを人にくだす、といえるより、其のまさくらきに当ってや、てんとしてよろしくしかるべしとうも、中夜ちゅうや静かに思えばあに吾が天ならんや
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
又後世に於て、民の、吾が故にりて、己が父母かぞほろぼせりと言はむことを欲せじ。豈に其れ戦勝ちての後に、まさ大夫ますらをと言はむ哉。夫れ身をて国を固くせむは、また大夫ますらをならざらむや。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
〔譯〕心しづかにして、まさに能く白日を知る。眼明かにして、始めて青天を識りすと。此れ程伯氏ていはくしの句なり。青天白日は、常に我に在り。宜しく之を座右ざいうかゝげて、以て警戒けいかいと爲すべし。
偶〻たまたま藤床上、淵明の詩あるを見、因て取りて之を読む。欣然会心、日まさに暮れんとし、家人食に呼ぶも、詩を読むまさに楽く、夜に至つてつひに食に就かず。今之を思ふに、数日前の事の如く也。
而して某まさに炎々赫赫、寵をたのみて悔ゆるなく、召対しょうたいまさ闕下けつかに承け、萋斐せいひすなわち君前に進む。委蛇いいわずかに公より退けば、笙歌已に後苑に起る。声色狗馬せいしょくくば、昼夜荒淫、国計民生、念慮に存ずるなし。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
現代を、探偵小説流行の第二期とするなら、当時は、まさにその第一期に当っていると云い得るだろう。その翻訳小説の盛大を極めたのと同時に、探偵小説の創作も、盛んに行われたのであった。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
減じたというものの、人の命が八万年でそれより一年も若くて死ぬ者なく、女人は五百歳でまさに嫁す。日に妙楽を受け、禅定ぜんじょうに遊ぶ事三禅の天人のごとく常に慈心ありて恭敬和順し一切殺生せず。
序詞役 さていにたる情慾じゃうよくまさ最期いまはとこねぶりて
「才人桂府に登る、四座まさに思う。」
蓮花公主 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
秋はまさに寒からんとす
之をたとえば熟眠、夢まさたけなわなるのとき、おもてにザブリと冷水を注がれたるが如く、殺風景とも苦痛とも形容のことばあるべからず。
人生の楽事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
榮華の夢早やめて、沒落の悲しみまさに來りぬ。盛衰興亡はのがれぬ世の習なれば、平家に於て獨り歎くべきに非ず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
隋書以下の志がまさわづかに本草経を載せてゐる。その神農の名を冠するは猶内経ないけいに黄帝の名を冠するがごとくである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
弘独リ走ツテ帰リ泣イテ家慈かじニ訴フ。家慈嗚咽おえつシテこたヘズ。はじメテ十歳家慈ニ従ツテ吉田ニ至ル。とも函嶺はこねユ。まさニ春寒シ。山雨衣袂いべいしたたル。つまずキカツたおルコトシバ/\ナリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
〔譯〕ふんの一字、是れ進學しんがく機關きくわんなり。しゆん何人なんぴとぞや、われ何人ぞや、まさに是れふん
忠文は命を受けた時、まさに食事をしてゐたが、命を聞くと即時にはしを投じて起つて、節刀せつたうを受くるに及んで家に帰らずに発したといふ。なまぬるい人のみ多かつた当時には立派な人だつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
この世の私達の美人とは異つた愛惜をそそる美人である。感官に於ける神会の性感もものかは。まさに魚道の真諦は、その感官の意欲一点に纜らう。と云つたところで人よかゆがつてはいけない。
魚美人 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
之を喩へば熟眠、夢まさに酣なるのとき、面にザブリと冷水を注がれたるが如く、殺風景とも苦痛とも形容の詞ある可らず。
人生の楽事 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
哲學書一卷を讀破して未了の知識に逢着する時、快は則ち快ならむも、終日勞し來りて新浴まさに了り、徐ろに一盞の美酒を捧げて清風江月に對する時と孰れぞ。
美的生活を論ず (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
し此に一会社の興るあつて、正学一派のために校刻の業に従事し、毫も好事派を目中に置かなかつたら、崇文盛化そうぶんせいくわ余沢よたくまさわづかに社会に被及ひきふするであらう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
闌干方与赤城平 闌干らんかんまさ赤城せきじょうたいらなり
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
左の方よりは足助あすけの二郎重景とて、小松殿恩顧のさむらひなるが、維盛卿よりわかきこと二歳にて、今年まさ二十はたち壯年わかもの、上下同じ素絹そけんの水干の下に燃ゆるが如き緋の下袍したぎを見せ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)