指頭ゆびさき)” の例文
指頭ゆびさきも、足尖つまさきも、感じがなくなった。何処も一様に真白になって、もう一歩ひとあしも踏み出すことが出来ぬまでに四辺が分らなくなった。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
平気で日に二円ばかりの働きをするお島の帯のあいだの財布のなかには、いつも自分の指頭ゆびさきから産出した金がざくざくしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
手を引くときに、自分でカフスの奥を腕までのぞいて見る。やがて背広せびろ表隠袋おもてかくしから、真白な手巾ハンケチつまみ出して丁寧に指頭ゆびさきの油を拭き取った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして半年過ぎると齒はぶらぶらになり、もう自分で拔齒する自信がつくと或る日指頭ゆびさきでぽつきりと拔いで了つた。
(旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
咳払せきばらいをなされた木戸博士は、乾枯ひからびた色艶のわるい指頭ゆびさきを Fig. 1 に近づけられて仰有おっしゃった。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あはれ、この少女のこころはつねに狭き胸の内に閉ぢられて、こと葉となりてあらはるる便たつきなければ、その繊々せんせんたる指頭ゆびさきよりほとばしり出づるにやあらむ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
京都に今歳ことし八十幾つかになる老人としよりで、指頭画しとうぐわの達者な爺さんがある。古い支那画しなゑなどを指頭ゆびさき臨摹うつすが、なか/\上手だ。夏目漱石氏が先年京都に遊びに来てからは
しかしそれは蔵海が指頭ゆびさきかたり聞かせたからであろうと解釈して、先ず解釈は済ませてしまった。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お杉は眠っている参木の身体のここかしこを、まるで処女のように恐々こわごわ指頭ゆびさきで圧えていきながら、ああ、明日になって早く参木の顔をひと眼でも見たいものだと思った。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ついした愚痴から、お胸を痛め、御疲れの上の、御鬱陶を、麦酒びーるにでも致しましようかと。急にさゑさゑさらさらと、延ばす右手の袖軽く、喚鈴よびりん指頭ゆびさきの、かかりけるをりもよし。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
御者ぎょしゃ懶惰ぶしゃうはしため指頭ゆびさきから發掘ほじりだ圓蟲まるむしといふやつ半分はんぶんがたも鼠裝束ねずみしゃうぞくちひさい羽蟲はむし車體しゃたいはしばみから、それをば太古おほむかしから妖精すだま車工くるましきまってゐる栗鼠りす蠐螬ぢむしとがつくりをった。
心臓の動悸、指頭ゆびさきの顫え、私は全然まるで中風のようであった。視力が恐ろしく衰えてしまった。そうして強度の乱視となった。五分と物が見詰められなかった。絶えずパチパチと瞬きをした。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そを見るに橘樹の小さなる、指頭ゆびさきほどあるを、細やかにつくりなせり。
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
或は安逸以て貴重なる生命を消費し、春は花に秋は月にこの神聖なる神の職工場しょくこうじょう(God's Task-garden)を以て一つの遊戯場と見做みな懶惰らいだ男女の指頭ゆびさきと襟とに光沢を加えむためにか
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
物のあやしじにしへばかいさぐる我が指頭ゆびさきに眼はのるごとし
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
いままで、うちかえるのをわすれて手足てあし指頭ゆびさきにしてあそんでいた子供こどもらは、いつしかちりぢりにわかれて各自めいめいうちかえってしまいました。
残された日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
食い物もろくに食わずに、土間に立詰めだ。指頭ゆびさき千断ちぎれるような寒中、炭をかされる時なんざ、真実ほんとに泣いっちまうぜ。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
然しそれは蔵海が指頭ゆびさきで談り聞かせたからであらうと解釈して、先づ解釈は済ませて仕舞つた。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
爺さんは窓越しに今まで読むでゐた新聞を見せて、何処かを太い指頭ゆびさきで押へるらしかつた。
子は口をがらせて母の手の指をんだ。母は「痛ッ」といって手を引っこめた、そしてちょっと指頭ゆびさきを眺めてから「まアこの子ったら。」といった。子は黙って母をにらんでいた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
彼の指頭ゆびさきは赤い印気インキで所々よごれていた。彼は手も洗わずにそのまま座敷へ出た。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
または指頭ゆびさきで毎日ゆすぶつて後に自分で拔齒する計畫でがくがくやつてゐた。
(旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
「のどがかわいて、しかたがありませんのですが、このへんみずはありませんでしょうか。」と、薬売くすりうりは扇子せんす指頭ゆびさきでいじりながらいいました。
薬売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
お庄は形の悪い鼻を気にしながら、指頭ゆびさきが時々その方へ行った。奥の小間こまでは、お庄が出る前から飲みはじめて、後を引いている組もあった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と言つて、指頭ゆびさきで器用にぜんまいを捲いた。すると、時計はまたくつくつと笑ひ出した。
新吉は黒い指頭ゆびさきに、臭い莨をつまんで、真鍮しんちゅう煙管きせるに詰めて、炭の粉をけた鉄瓶てつびんの下で火をけると、思案深い目容めつきをして、濃い煙をいていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「へへへへへ。」と笑って、やはり枯れた指頭ゆびさきで窪んだ両眼を擦って、決して気の毒だとも何ともいわなかった。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
女の手に出来るようなそのまとめに最初働いていたお島は、縫あがった毛布にホックやボタンをつけたり、穴かがりをしたりすることに敏捷びんしょう指頭ゆびさきを慣した。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
子供は黙答して、ふるえる指頭ゆびさきで黒板の片隅から、一つ、二つと小声に言いながら書き始めた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
お雪は下梳したすきが、癖直しをしているとき、真中のすけた地を、指頭ゆびさきで撫でまわしながら、面白そうに笑った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
のねずみはのぞくと、天井てんじょうから、ぼろきれがるしてあり、バケツには、川水かわみずんであって、頭髪とうはつびた父親ちちおやらしい乞食こじきが、がった指頭ゆびさきで、もらってきたぜにかぞえていました。
縛られたあひる (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼は指頭ゆびさきや手の甲で涙をきながら、ペンを運んでいた。彼は次ぎの部屋で、すやすや明け方の快いねむりを眠っている幼い子供たちのことで、胸が一杯であった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おじいさんは、しかたがなく、ゆびあたまで、かた鬢付びんつあぶらいては、若者わかものあたまりました。ひたいからあせながれて、指頭ゆびさきいたくなりました。おじいさんは、指頭ゆびさきちかられて、かおをしかめながら
てかてか頭の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
せせつこましく屡々灰のなかへ指頭ゆびさきを突つこむといふのも、さう云ふ時の一つの癖であつた。
亡鏡花君を語る (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「小崎さん今日は見えませんでしたね。」と小原は叔母が火を入れて出す手炙てあぶりの側へ、お庄が奥から持って来た座蒲団を敷いて、小綺麗な指頭ゆびさきで両切りの短く切ったのを
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
法師は水晶の数珠じゅずの玉を指頭ゆびさきで繰ると、本を開けて見ながら笹村に言いかけた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして時々涙のにじみ出る目角めかどを、指頭ゆびさきぬぐっていたが、しまいにそこを立って暗い段梯子の方へ行った。お庄は婆さんに何か言われるたんびに、下宿の二階で見たことなどがじきに頭に浮んだ。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
笹村は、触る指頭ゆびさきにべっとりする額の脂汗あぶらあせを拭いながら、部屋を出て台所へ酒や食べ物を捜しにでも行くか、お銀が用心深くとざした戸を推し開けて、そっと外へ逃げ出すかするよりほかなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)