扮装なり)” の例文
旧字:扮裝
百人に一人位真摯まじめなものもあるかも知れないが、大抵は卒業すると直ぐ気障きざ扮装なりをして新聞受売の経済論や株屋の口吻くちまねをしたがる。
青年実業家 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「そこらをぶらつくうちにはまた出会いましょう。あの扮装なりです……見違えはしませんから、わざわざ引返すのも変ですから。……」
鼠地ねずみじ納所着なっしょぎに幅細の白くけ帯を前結びにして、それで尻からげという扮装なり。坊主頭に捻鉢巻ねじはちまきをしているさえ奇抜を通越した大俗だいぞくさ。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
△「えへゝゝ殿様なんざア男がくって扮装なりだからもてやすが、わっちどもはもてた事はなく振られてばかり居ても行きえから別段で」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
昔の作者を思わせるようなこの人の扮装なりの好みや部屋の装飾つくりは、周囲の空気とかけ離れたその心持に相応したものであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
扮装なりは男でも、名は若侍でも、弥生はやはり弥生、成らぬ哀慕に人知れず泣くあけぼの小町のなみだは今もむかしもかわりなく至純しじゅんであった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そぼうな扮装なりの、髪はぼうぼうと脂気の無い、その癖、眉の美しい、悧発りこうそうな眼付の、何処にも憎い処の無い人でした。
昇降場 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「いえ、王子で着換えたのは女形のあっしだけで、あとは六部や虚無僧や巡礼だから気が強いわけで、あの扮装なりで浅草から繰出しましたよ、ヘエ」
一つフロックコートで患者かんじゃけ、食事しょくじもし、きゃくにもく。しかしそれはかれ吝嗇りんしょくなるのではなく、扮装なりなどにはまった無頓着むとんじゃくなのにるのである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それから、十七八から二十はたちそこそこのところは、少し解つて来て、生意気に成りますから、顔の好いのや、扮装なりおつなのなんぞにはあんまり迷ひません。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この女は一方に質素な藍色の洋服を着て、せっせと働いているように見えながら、一方には派手な扮装なりをして、白粉おしろいをこてこてと塗って大金を受け取っている。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お前はこれからどうあっても、この皺苦茶しわくちゃ扮装なりのままで、三斎屋敷に駆け込まなけりゃあ駄目なのだよ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
小林はやはり仲間ちゅうげんのような扮装なりをして、看板の上には半合羽を着て、脇差を一本だけ差しておりました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夕涼ゆうすずみに出掛けるにぎやかな人出の中にお糸はふいと立止って、並んで歩く長吉のそでを引き、「長さん、あたいもきあんな扮装なりするんだねえ。絽縮緬ろちりめんだねきっと、あの羽織……。」
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
僕もあのときは、もっと上等の扮装なりをして一行に加わっていたので、『幽霊』という言葉とかねて血型の相違についての疑問とによって、夫人の生存していることを悟りました。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……がそういう扮装なりをして、結構なお屋敷に住めるのも、この十二神が見て見ぬ振り、知って知らぬふりしているからじゃ! ……出娑婆るとみっしり喰らわせるぞ! ……殿!
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いくらかまわないと言っても、この扮装なりではちょっと滑稽だ」——ピエエルは言った。
『私、甚麽どんなに困つたでせう、這麽こんな扮装なりをしてゐて!』と静子は初めて友の顔を見た。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
頭髪かみの結び方と顔の化粧振りとに対して、余りに扮装なりが粗末なので、全く調和が取れなかった。これでは誰の眼にもなぞで有ろう。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「まあ、あられもない扮装なりをしてどうしたというのだろう。く御覧、秀に限ってそういう取乱した風をする婦人おんなじゃないよ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
意気地の無いダラシの無い扮装なりをして足だけ泥にしているのや、テンヤワンヤの姿をした働き手が裏口から焼け跡へと出たり入ったりしていた。
画家えかきというものは、面白い扮装なりをしているもんですね。」と、お銀は山内のよろよろと帰って行った後で言い出した。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私は此の通りの扮装なりるぞよ、が明けたら穴の様子を見て、どうぞして此の穴を出るゆえ、心あらば助けてくれよ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
伊勢の生れで、れっきとした武家出なのが、何か感ずるところあって——経歴はとにかく、扮装なりがまた嬉しい。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
夕凉ゆふすゞみ出掛でかけるにぎやかな人出ひとでの中においとはふいと立止たちどまつて、ならんで歩く長吉ちやうきちそでを引き、「ちやうさん、あたいもきあんな扮装なりするんだねえ。絽縮緬ろちりめんだねきつと、あの羽織はおり………。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「ほんにねえ、大そう質直じみでいて、引ッ立つ扮装なりをしているのね? だれだろう?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
平生いつもの例で静子が送つて出た。糊もえた大形の浴衣ゆかたにメリンスの幅狭い平常帯ふだんおび、素足に庭下駄を突掛けた無雑作な扮装なりで、己が女傘かさは畳んで、智恵子と肩も摩れ/\に睦しげに列んだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
平次は、これも祭の扮装なりのままの長吉を、明神下の自身番に引入れると、暑いにも構わず、表の油障子を締めさして、こう当ってみました。物柔かいうちにも、退引のっぴきさせぬ手厳しさがあります。
そうしてみると、なんとなくきまりの悪いような心持にもなり、また今ごろ小林師範が、どうしてこんな扮装なりをしてここへ来合せたかということも、疑問にならないではありませんでしたけれど
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一体ちょんまげより夏冬の帽子に目を着けるほどの、土地柄に珍しい扮装なりであるから、新造の娘とは知っていても、となえるにお嬢様をもってする。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よいから夜中に掛けてツクを乗りますが、是は不思議なもので、代々近村の重次郎じゅうじろうと云う人がツク乗りを致します、其の扮装なりが誠に可笑しゅうございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
細君らしい女が二人もあって、時々厚化粧にけばけばしい扮装なりをして、客の用事を聞きに来ることのある十八、九の高島田は、どちらの子だか解らなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
色白の上品なノツペリとした御容貌ごきりやうに加へて香水やらコスメチツクやら白粉おしろいやら有る程のおつくりをして、お扮装なりは羽二重づくめに金の時計、金の鎖、金の指環
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「かわった服装なりと申すが、それもお役柄、隠密なればこそじゃ。その方とても時と場合によっては、探索の都合上、ずいぶんと変わった扮装なりをいたすのであろうがの」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
『アラ、鮎釣あゆかけには那麽扮装なりして行くわ、みんな。……昌作さんは近頃毎日よ。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「よくその扮装なりで、浅草橋御門から駆けて来たものだ。そっちを向きな」
頭髪かみ扮装なりとの不調和も、芸人の脱走としては、有り得る事と点頭うなずかれた。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
ここは、浅草山ノ宿、雪之丞が宿の一間、冬の夜を、火桶をかこんで、美しい女がたと、ひそひそと物語っているのは、堅気一方、職人にしても、じみすぎる位の扮装なりをした象牙彫師ぞうげほりしの闇太郎——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
日の暮から村の若いしゅや女中がぞめき半分で見物に出掛けますが、妙な扮装なりで若い衆は頬冠りを致しますが、全体頬冠りは顔を隠そう為に深く致しますが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
時に、当人は、もう蒲団ふとんから摺出ずりだして、茶縞ちゃじまに浴衣をかさねた寝着ねまき扮装なりで、ごつごつして、寒さは寒し、もも尻になって、肩を怒らし、腕組をして、真四角まっしかく
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下等女の阿婆摺あばずれを活動力に富んでると感服したり、貧乏人の娘が汚ない扮装なりをしてめず臆せず平気な顔をしているのを虚栄にとらわれない天真爛漫と解釈したり
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
千里万里の沖から吹いて来て、この、扮装なりも違へば姿態ふりも違ふ三人を、皆一様に吹きつける海の風には、色もなければ、心もない。風は風で、勝手に吹く。人間は人間で、勝手なことを考へる。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「その扮装なりで歩くと町内の者が気が付くはずだが——」
其時そのとき俄盲目にはかめくら乞食こじきと見えまして、細竹ほそたけつゑいて年齢としころ彼是かれこれ五十四五でもあらうかといふ男、見る影もない襤褸すぼろ扮装なりで、うして負傷けがいたしましたか
御覧なさいまし、明日、翌々日あさっての晩は、唯今のお珊の方が、千日前から道頓堀、新地をかけて宝市のねりに出て、下げ髪、緋のはかまという扮装なりで、八年ぶりで練りますから。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奇妙な風体ふうていをして——例えば洋服の上に羽織を引掛けて肩から瓢箪ひょうたんげるというような変梃へんてこ扮装なりをして田舎いなか達磨茶屋だるまぢゃやを遊び廻ったり、印袢纏しるしばんてん弥蔵やぞうをきめ込んで職人の仲間へ入って見たり
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
到頭あんなに零落おちぶれてしまったんですが、それでもお嬢様があゝって彼様あんなに親孝行をなさるんですよ、だがあんな扮装なりをして入らしっても透通すきとおるようない御器量で
これは熨斗目のしめ紋着振袖もんつきふりそでという、田舎にめずらしい異形いぎょう扮装なりだったから、不思議な若殿、迂濶うかつに物も言えないと考えたか、真昼間まっぴるま、狐が化けた? とでも思ったでしょう。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いずれ又というので無理に振り払って帰るね、二度目に通る時に又おつな扮装なりをして今度は此方こっちから声を掛けると、まア上ってお呉んなさいと引張り込んでお茶を入れる
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
麻は冷たい、さっくりとしてはだにも着かず、肩肱かたひじ凜々りりしく武張ぶばったが、中背でせたのが、薄ら寒そうな扮装なり、襟を引合わせているので物優しいのに、細面ほそおもてで色が白い。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)