怨霊おんりょう)” の例文
旧字:怨靈
この大地震も、入水なさった幼い主上始め平家一門の怨霊おんりょうのたたりではあるまいかと、人々はうわさをして一層恐れおののくのであった。
怨霊おんりょうのやつめ、三途さんずの川で見当まちげえやがって、お門違いのおひざもとへ迷ってきやがったかもしれませんぜ。ええ、そうですよ。
右門捕物帖:23 幽霊水 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
その後、どうもこの雪隠に怨霊おんりょうが残ってならぬ。何かとたたりがあって不祥のあまり、錠を卸して人の出入りを禁ずること数百年。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あすこには昔仕置き場があって、殺された人の怨霊おんりょうが迷ってるから、幽霊が出るんだよ、と何度やかましく注意されたかわからないのです。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
とても宥めたくらいでは累の怨霊おんりょう退かないと云うので、祈祷者きとうしゃを呼んで来て仁王法華心経におうほっけしんきょうを読ました。お菊はそれをさえぎった。
累物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
……ねえ、仁科さん……たとえ、どう理が合わなくとも、これがかわうそや、怨霊おんりょうのしわざだなぞと、そんな馬鹿気たことはわたしらは考えない。
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
だが、恨みに燃えた怨霊おんりょうは、あいつらをみなごろしにしてしまうまでは生きているのだ。あいつらの側を一すんと離れず、つきまとっているのだ
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
通りかかりの旅僧がそれを気の毒に思うて犬のしかばねを埋めてやった、それを見て地蔵様がいわれるには、八十八羽の鴉は八十八人の姨の怨霊おんりょうである
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
これと、同じ様に、私が見ました自分の姿も、怨霊おんりょうではありはすまいか——私は、かようなことをも考えながら、おののいていたのでございます。
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
夜叉王 いや、いや、どう見直してもしょうある人ではござりませぬ。しかもまなこに恨みを宿し、何者をかのろうがごとき、怨霊おんりょう怪異あやかしなんどのたぐい……。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ところが所天つれあいくなってからというものは、その男の怨霊おんりょう如何どうかすると現われて、可怖こわい顔をして私をにらみ、今にも私を取殺とりころそうとするのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
吉備津の釜——道楽者の夫正太郎に裏切られた貞淑な妻の磯良が、怨霊おんりょうとなって、夫の情婦を殺し、さらに夫までもとり殺すという凄惨な怪異小説。
雨月物語:04 解説 (新字新仮名) / 鵜月洋(著)
「あのクレーンには、何か怨霊おんりょういていて、そいつがクレーンの上で、泣いたり、クレーンを動かしたりするんだ」
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
吉備津の釜——道楽者の夫正太郎に裏切られた貞淑な妻の磯良が、怨霊おんりょうとなって、夫の情婦を殺し、さらに夫までもとり殺すという凄惨な怪異小説。
農民が土の怨霊おんりょうから脱けだす時がきても、人間という奴が、死んだあとでは土の中へうめられて土に還ってしまうので、どうも、これは、困った因縁だ。
土の中からの話 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
護摩の煙は御廂をき、どんな悪魔怨霊おんりょうも、世の障碍しょうげも除かれるかのような思いを人に抱かしめずにはおかない。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの人はさんざんあくどいことをしましたからね」と菊弥が云った、「もしかするとその娘というのは人間じゃあなく、怨霊おんりょうのようなものかもしれないわ」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この話が荒唐無稽こうとうむけいの作り話であることは勿論であるが、これが我国古代の作り話であったならば、必ず祈祷「まじない」などで怨霊おんりょう退散という結末であろうのに
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
若僧 (妙信に向い)ほんとに悪蛇あくじゃ怨霊おんりょうというのは、今夜の内に上って来るのでございましょうか。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
わしたちがもしことを起こさなかったらだれかがきっと起こしたろう。われわれはただ選ばれたのにすぎない。三界さんがいをさまようている怨霊おんりょうにつかれたのにすぎない。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その牛の怨霊おんりょうがたたって、その後この土地には、牛は育たないことになったのであろう。これでわけがわかったので、村人もなっとくして、酪農はあきらめてしまった。
小夜衣の怨霊おんりょうとも心附かず、背中をなでると、次郎庵さん、と顔を上げて、冷たい手でじっと握った、持たれたその手が上と下に、ふわりふわり——幇間に尾花も変だ
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その声は、もはや、怨霊おんりょうじみたものではなかった。美しい、女のような、ひびきの深い声であった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
狐の所為とか天狗てんぐの作用とか、あるいは亡者の霊魂であると思い、海上にあれば海亡魂うみぼうこんといい、陸上にあれば幽霊火、怨霊おんりょう火等の名をつけ、種々の妄説を付会するようになる。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それでは何にもならない。……元来、この葵と云う花は、必ず太陽の方に向って咲く、云わば陽の花だ。それだからこそして、悪いやまいや怨霊おんりょうを払う不思議な力があるのだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
現世げんせうらみがらせなかったから、良人おっと二人ふたりちからわせて怨霊おんりょうとなり、せめて仇敵かたきころしてやりたい……。』——これがかみさまにむかってのおねがいなのでございますから
それを見ると暑い画家の怨霊おんりょうがすすきの中から立ちのぼってくる気がしていけない。
僕は小学校へはいっていたころ、どこの長唄ながうたの女師匠は亭主の怨霊おんりょうにとりつかれているとか、ここの仕事師のおばあさんは嫁の幽霊に責められているとか、いろいろの怪談を聞かせられた。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
源氏は其怨霊おんりょうを慰めるために、其娘を養い娘として、中宮にまでするのである。
反省の文学源氏物語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
此の左大臣が有為ゆういの材を抱いて早死はやじにをしたのは、積る悪業の報いであるように当時の人々は見たのであるが、就中なかんずくその報いの最たるものは、菅公かんこう怨霊おんりょうたたりであるとされたのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そういう青年らがクリストフを取り巻いていた。あたかも、生命にすがりつくために一つの魂へ取りつこうとうかがってる「待ち伏せの怨霊おんりょう」、ゲーテのいわゆる尨犬むくいぬ、のようであった。
怨霊おんりょうを宿した金子きんすに手をふれておさよの皮膚は焼けただれたか……というに、べつにそうしたこともなく、丸にワの字の出羽様の極印も両人とも知らぬが仏で、世のつねの小判のように
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
弘経寺という寺は結城と飯沼との両処にあってともに浄土宗関東十八檀林だんりんに列せられている。飯沼の弘経寺は元禄げんろく十三年祐天上人ゆうてんしょうにんが住職の時かさね怨霊おんりょうを化脱させたというので世に知られている。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかしすべてを超えて、その口辺に浮んだ微笑は太子の御霊の天寿国に安らい給うしるしなのであろうか。永遠の慈心のごとく、同時に無念の情を告ぐる怨霊おんりょうのごとく、いずれとも分明し難い。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ほかには母屋を離れて立腐れになりたる破れまや、屋根の端の斜に地に着きて倒れつぶれたる細長き穀倉などの見ゆるのみの荒廃さ加減は、恐らくは怨霊おんりょう屋敷なんど呼ばれて人住まずなった月日が
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「こいつは天狗でなきゃ怨霊おんりょうですぜ、親分」
青年と駈け落ちした彼女は、夜になると住職の怨霊おんりょうに悩まされた。それと見た画家は女の金を奪って姿をくらましてしまった。
法華僧の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
手討ちにした用人の怨霊おんりょうとおじけあがって、いまに小胆な久之進が狂い死にするだろうと考えついたわけで、まことに小心な久之進にしてみれば
怨霊おんりょうというようなものを感じるのですよ。この船には死霊しりょうがたたっているんだなんていわれると、僕にしたってなんだかいやあな気持になりますぜ
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『お前怨霊おんりょうが見たいの、怨霊が見たいの。真実ほんとに生意気なこというよこのひとは!』と言い放ち、つッとたって自分の部屋に引込ひっこんでしまった。僕は思わず
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
怨霊おんりょうというものがあるかないかそんな机上の空論などを、いまさら筆者は諸君と論判したいとは少しも思わない。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
これなん、ひとつには怨霊おんりょうの報い、ふたつには人道のゆるさざるところ、三つには、いうまでもない武松の神力。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
りょうのたたりであろうか、もしかしたら故郷に捨ててきた妻が怨霊おんりょうとなってたたりをしているのであろうかと、正太郎は、ひとり胸をいためるのだった。
「それだけでは、まだわかりますまいね。なにしろ、それぐらいの執念ですから、この日高川の上、日高郡一帯には、まだ清姫様の怨霊おんりょうが残っているのですね」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
このように、怨霊おんりょうというやつは昔からたちの悪いもので、今度の門院の御産に大赦が行われたけれども、俊寛一人が残されたことは何としても後味が悪い気もする。
殺生谷と呼ばれるのはそのためで、それ以来其処そこには殺された土人たちの怨霊おんりょうこもって、青い鬼火が燃えたり、幽霊の叫びが聞えたり、色々と奇怪きっかいな事が起るのであった。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……あの老尼は、お米さんの守護神まもりがみ——はてな、老人は、——知事の怨霊おんりょうではなかったか。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その夜より怨霊おんりょう来たりて助八を悩ましければ、恐ろしさやるかたなく、身の毛よだちて覚えけるゆえ、妻子をすて、かみをそり、湯殿山行人にさまをかえ、諸国修行せしより後
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そのようなことが世間に洩れきこえると、口さがない京わらんべは、やれ楠の祟りじゃの、新田の怨霊おんりょうじゃのと、あらぬ事どもを言い触らして、父上の武名を傷つきょうも知れぬ。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
みことにかかってほろぼされた賊徒ぞくとかず何万なんまんともれぬ。で、それが一だん怨霊おんりょうとなってすきうかがい、たまたまこころよからぬ海神かいじんたすけけをて、あんな稀有けう暴風雨あらしをまきおこしたのじゃ。