こわ)” の例文
これからはいよ/\おたみどの大役たいやくなり、前門ぜんもんとら後門こうもんおほかみみぎにもひだりにもこわらしきやつおほをか、あたら美玉びぎよくきずをつけたまふは
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こわいことはない。念のためにきくのじゃ。遠慮のう言うてみい。さだめし咽喉のどから手が出おったろうに、なにゆえ拾わざったぞ」
「危ねい! 往来の真ン中を彷徨うろうろしてやがって……」とせいせい息をはずませながら立止って怒鳴り付けたのは、目のこわい車夫であった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「おみよ、心配しないで往ってくれ、あれが児を大事にしてくれることはおまえにも判ってるだろう、それをおまえが来ては、あれがこわがる」
前妻の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ある男が暗い夜道で、こわい怕いお化けと出逢う。無我夢中で逃げて行く。それから灯のついた一軒屋に飛込むと、そこには普通の人間がいる。
「町では表へ出られないと云つて此処に来たのにまた斯んなことを知ると、此処でも他人の顔をこわがり始めるだらうな。」
村のストア派 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
わたしではない顔のわたしがそんなにもうこわくはなかった。怕いということまでもうわたしからは無くなっているようだ。わたしが滅びてゆく。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
別に何もこわいところはないのに彼女だけは、いわば虫の好かぬとでも言うのか、その絵を限りなく恐れたのである。
怪談綺談 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
彼はひどく人見知りをした。だが私だけにはこわがらないで、側に人のいない時に、私と口をいた、そして半日も経たないうちに、私たちは直ぐによくなじんでしまった。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
そして彼のこの成長は深井にはややこわい気がしたが、和歌子には半年前までの無性に可愛いという感情よりも、彼のうちにある圧迫を強いる「男性」を見出さしめるようになった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
シッカリ握っていた——実にこわかったそうです。
(新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
石川はこわくてしかたがなかったが、女がべつにうらむようなことも云わないので、やっと安心して女のするままになっていた。
唖娘 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
出しまして、殿様に——お兄様によろしゅうと、たったひとこと申したまま、何がこわいのやら、消えるように急いで立ち去りましてござります
あゝいやだ/\と道端みちばた立木たちき夢中むちうよりかゝつて暫時しばらくそこにたちどまれば、わたるにやこわわたらねばと自分じぶんうたひしこゑそのまゝ何處どこともなくひゞいてるに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それらの罹災者が我が市民諸君に語るところは何であるかと申しますと、『いやはや、空襲はこわかった怕かった。何んでもかんでも速く逃げ出すに限る』
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
といって、余処よそのお祖母ばあさんでもないが、何だか其処に薄気味の悪い区劃しきりが出来て、此方こっちは明るくて暖かだが、向うは薄暗くて冷たいようで、何がなしにこわかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私がその時のこわかつた感想を洩らすと樫田は、真ツ赤になつて、悲しさうに眼を伏せてしまつた。
日本橋 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
何をこわがるのです、今に僕も成長おおきくなります
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
『なんだ、蛾がそんなにこわいのか——』
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「いえ、あの時のあの者でござります。江戸お旗本のお殿様とも存ぜず、何やらこわうござりましたゆえ、ついあの時は逃げましたなれど——」
女房は鬼魅きみわるくなって、金を持ったまま後すざりして庖厨かっての方へ引込んで往ったが、こわくて脊筋から水でもかけられたようにぞくぞくして来たので
海坊主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あとは言ふまじ恐ろしやと雨夜の雜談に枝のそひて、松川さまのお邸といへば何となくこわき處のやうに人思ひぬ
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
自分のものになるとほうき一本にまで愛着する順一が、この切ない、ひとの気持は分ってくれないのだろうか。……彼女はまたあの晩のこわい順一の顔つきを想い浮べていた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
出歩きをこわがって、万豊などに使を頼むのは無駄だから、これから二人がかりでそれぞれの註文主へ納め、暫くぶりで倉の外で晩飯をろうではないかと御面師が促すのであった。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
こわがっちゃだめですよ。僕だってじきに大きくなります。僕達は今こそまるで無力でも、いつまでも無力であるものですか。僕はたとえどんなことがあっても、僕はあなたなしに生きておれません。学校の奴等に僕達の心が分るものですか」
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
「おかしなことを申すのう、主水之介はふたりない。兄が駈けこんで来たゆえ参ったのじゃ。何をこわがっているぞよ」
張はこわくなったので、その男にすがって話をつけてもらおうとしたところで急に見えなくなった。
賭博の負債 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
四季押とほし油びかりする目くら縞の筒袖を振つて火の玉の様な子だと町内にこわがられる乱暴も慰むる人なき胸ぐるしさの余り、仮にも優しう言ふてくれる人のあれば
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
人間関係のすべての瞬間に潜んでいる怪物、僕はそれがこわくなったのだろうか。僕はそれが口惜しくなったのだろうか。僕にはよくわからない。僕はもっともっと怕くなるのだ。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
こういうことになるから、おらが隊長は、気むずかしくてこわいときもあるが、なかなか見すてられんです。——きいたか。丸公たまこう。事が騒動になって来たぞ。
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
「ああこわかった、乃公おいらが街を歩いてると、何をかんちがいしやがったのか、二人の仕事師が、だしぬけに鳶口を持って追っかけて来たのだから、命からがら逃げて来たのだよ」
遁げて往く人魂 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かかる中にて朝夕あさゆふを過ごせば、きぬ白地しらぢべにむ事無理ならず、美登利の眼の中に男といふ者さつてもこわからず恐ろしからず、女郎といふ者さのみいやしき勤めとも思はねば
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わたしはわたしがこわくなりかかった。突然、その後姿がわたしの方を振向いていた。突き刺すようななざしで、……ハッと思う瞬間、それはわたしの夫だった。そんなはずはなかった。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
「左様でござりましたか。あてはまた、あまり旦那はんがこわい顔していなはりますゆえ、叱られるのやないかと思うたのでござります。お尋ねというは何でござります」
源吉はこわくて体がぶるぶると顫いだしたが、知られるとどんな目に逢うかも判らないと思ったのでやっと忍えて窓から離れようとすると、女は行灯の火を吹き消して横になった。
山姑の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
書けとおつしやれば起証でも誓紙でもお好み次第さし上ませう、女夫めをとやくそくなどと言つても此方こちで破るよりは先方様さきさまの性根なし、主人もちなら主人がこわく親もちなら親の言ひなり
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一人でも人間が僕の眼の前にいたとする、と忽ち何万ボルトの電流が僕のなかに流れ、神経の火花は顔面に散った。僕は人間が滅茶苦茶にこわかったのだ。いつでもすぐに逃げだしたくなるのだった。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
けとおつしやれば起證きせうでも誓紙せいしでもおこの次第しだいさしあげませう、女夫めをとやくそくなどとつても此方こちやぶるよりは先方樣さきさま性根せうねなし、主人しゆじんもちなら主人しゆじんこわおやもちならおやひなり
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こわらしいお殿様じゃとばかり思い込んでおりましたお殿様が、どうやら御気性も頼もしそうな御旗本と、つい今あそこで承わりましたゆえ、恥ずかしさも忘れて駈け出したのでござります
章一はじぶんの家へ帰るのがこわいので山崎夫人のもとへ往こうとしていた。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
美登利みどりなかをとこといふものさつてもこわからずおそろしからず、女郎ぢよらうといふものさのみいやしきつとめともおもはねば、ぎし故郷こけふ出立しゆつたつ當時たうじないてあねをばおくりしことゆめのやうにおもはれて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ようようこん日拝まして下はるとのことでござんしたゆえ、楽しみにしてさき程、ちらりと見せて頂きましたら、御四人様が不意にこわい顔をしなはって、まさしく切支丹じゃッ、お繩うけいッ
こわいぞ、怕いぞ」
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
貴君のお顔を見てゐますのさと言へば、此奴こやつめがとにらみつけられて、おおこわいお方と笑つてゐるに、串談じやうだんはのけ、今夜は様子が唯でない聞たら怒るか知らぬが何か事件があつたかととふ
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こわがらいでもよい。番頭に用があるのじゃ! どこへ参った」
「厭だ、こわいのか」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
貴君あなたのおかほますのさとへば、此奴こやつめがとにらみつけられて、おゝこわいおかたわらつてるに、串談じやうだんはのけ、今夜こんや樣子やうすたゞでないきいたらおこるからぬがなに事件じけんがあつたかととふ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「その方のところはどうじゃ。眉間に少しこわそうな疵痕があるにはあるが、優しゅうなり出したとならば、女子おなごよりも優しゅうなるたちゆえ怕がらないでもよい。宿銭も二三百両が程は所持致しておるぞ。どうじゃ、泊めて見るか」
一人で帰りますと小さく成るに、こりやこわい事は無い、其方そちらうちまで送る分の事、心配するなと微笑を含んでつむりでらるるに弥々いよいよちぢみて、喧嘩をしたと言ふと親父とつさんに叱かられます
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一人ひとりかへりますとちいさくるに、こりやこわことい、其方そちらうちまでおくぶんこと心配しんぱいするなと微笑びしようふくんでつむりでらるゝに彌々いよ/\ちゞみて、喧嘩けんくわをしたとふと親父とつさんにかられます
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)