御嶽おんたけ)” の例文
新字:御岳
さればわが昨日きのふ遙かに御嶽おんたけの秀絶なる姿を群山挺立ていりつうちに認めて、雀躍して路人ろじんにあやしまるゝの狂態を演じたるもまたむべならずや。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
ふりかえるごとに、山々が数をます。並んでいるのが穂高の三峰、かなたが御嶽おんたけ。雪は次第次第に深くなった。もう人の足跡はない。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
これから大久手おおくて細久手ほそくてへ掛り、御嶽おんたけ伏水ふしみといふ処を通りまして、太田おおたの渡しを渡って、太田の宿の加納屋かのうやという木賃宿に泊ります。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
夜中頃よなかごろには武生たけふまちかさのやうに押被おつかぶせた、御嶽おんたけといふ一座いちざみねこそぎ一搖ひとゆれ、れたかとおも氣勢けはひがして、かぜさへさつつた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
またその殃禍篇おうかへんに、美濃の御嶽おんたけ村の土屋某、日来ひごろ好んで鶏卵を食いしが、いつしか頭ことごとく禿げて、のち鶏の産毛うぶげ一面に生じたと載す。
「えッ。不意に御嶽おんたけさまでも乗りうつったようなことをいいますが、支倉屋で売る絵図面の中には、そんなことまでが書いてあるんですかい」
上州じやうしうの三山、浅間山あさまやま木曾きそ御嶽おんたけ、それからこまヶ嶽たけ——そのほか山と名づくべき山には、一度も登つた事のない私であつた。
槍ヶ岳紀行 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と半蔵は妻に言って、父の病をいのるために御嶽おんたけ神社への参籠さんろうを思い立った。王滝村とは御嶽山のすそにあたるところだ。木曾の総社の所在地だ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
十二月に御嶽おんたけの雪は消ゆる事もあれ此念このおもいきえじ、アヽいやなのは岩沼令嬢、恋しいは花漬売とはて取乱とりみだして男の述懐じゅっかい
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこは木曾きそ御嶽おんたけつづきの山の間で、小さな谷川の流れを中にして両方から迫って来た山塊さんかいは、こっちの方は幾らかゆるい傾斜をして山路やまみちなども通じているが
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それと同時にまた一方——御嶽おんたけ方面の郡代からは、御嶽山上に籠っているマドリド司僧の遺児わすれがたみの御嶽冠者が一味を率い、降り積もる雪を踏み分けて押し寄せて来るとの風聞を
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
富士山や木曽の御嶽おんたけの、頂上の小舎に寝泊まりしたし、あるいは谷間に近く石の枕で野宿をしたことは幾度もあったが、実は今夜ほど、気味のく無かったことはない、自分は一人である
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
あの富士山や御嶽おんたけ山などへ登る行者たちが、「懺悔さんげ懺悔、六こん清浄しょうじょう」と唱える、あの六根で、それは眼、耳、鼻、舌、身の五官、すなわち五根に、「意根」を加えて六根といったので
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
御嶽おんたけの裾野を行く途中草刈りの小供に道を教えられ迷うところを無事通過、前は御嶽の雄姿、後に乗鞍の雄峰を眺めながら行く、実に景色よく心躍るものあり、途中木に御嶽道と記せり
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
三味線につれて新工風くふう國風くにぶり舞踏の一なる、「木曾の御嶽おんたけさん」を稽古し、トコセ、キナヨ、ドン/\と云ふかけ聲などを擧げたりした連中は、すべてあちらこちらの椅子に陣取つてゐる。
この地衣こけのために、いははいろ/\うつくしい模樣もようもんあらはしてゐます。日本につぽんでは木曾きそ御嶽おんたけこまたけはこのたい位置いちがよくわかります。このたい上部じようぶはそれこそ地衣こけもないはだかのまゝの岩石がんせきです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
信飛の国界にあたりて、御嶽おんたけ・乗鞍・穂高・槍の四喬岳のある事は、何人なんぴと首肯しゅこうするところ、だが槍・穂高間には、なお一万尺以上の高峰が沢山群立している、という事を知っている者はまれである。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
それを、旅から旅へ、あかの落ちねえ浪人ごろ、好きな笛をかてにして、きょうは秩父ちちぶ、あすは御嶽おんたけと、宮祭の笛吹きにまで身を落してこう妙にすねてしまったのも、持って生れた根性ばかりではない。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木曾きそ御嶽おんたけこまたけ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
御嶽おんたけ乗鞍のりくらこまたけ
県歌 信濃の国 (新字新仮名) / 浅井洌(著)
木曾の御嶽おんたけから
おさんだいしよさま (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「いや、半蔵には御嶽おんたけ参籠さんろうまでしてもらったがね、おれの寿命が今年ことしの七十歳で尽きるということは、ある人相見から言われたことがあるよ。」
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
立山たてやま御嶽おんたけ、修行にならば這摺はいずっても登りますが、秘密の山を人助けに開こうなどとはもっての外の事でござる。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御嶽おんたけ教、扶桑ふそう教といろいろ聞いちゃおるが、お富士教ってえのはあっしも初耳なんで、今に忘れず覚えていたんですよ。本所のお蔵前といや、ここよりほかにねえんだ。
これに附和するもの漸く多きを致す傾向あるはすこぶる吾人の意をたり、しかも邦人のやや山岳を識るといふ人も、富士、立山たてやま白山はくさん御嶽おんたけなど、三、四登りやすきを上下したるに過ぎず
山を讃する文 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
越路こしじの方の峰には、雲が迷っていたけれど、有明ありあけ山、つばくろ岳、大天井おてんしょう、花崗石の常念坊じょうねんぼう、そのそばから抜き出た槍、なだらかな南岳、低くなった蝶ヶ岳、高い穂高、乗鞍、御嶽おんたけ、木曾駒と
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
御嶽おんたけの雪のはだ清らかに、石楠しゃくなげの花の顔気高けだかく生れついてもお辰を嫁にせんという者、七蔵と云う名をきいては山抜け雪流なだれより恐ろしくおぞ毛ふるって思いとまれば、二十はたちして痛ましや生娘きむすめ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一時間ののち、われは鳥居峠の絶巓、御嶽おんたけ神社遙拜所の華表とりゐの前なる、一帶の草地に藺席ござを敷きて、峠を登り來りし勞を醫しながら、じつと眼下に展げられたる木曾の深谷しんこくの景を見やりぬ。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
慇懃いんぎんに吾を導くにまかせ、次第に峰に上るうち、御嶽おんたけ山頂の砦に着き、御嶽冠者に逢って見れば、噂にまさる人品骨柄こつがら、智徳兼備の大将振りに、吾ことごとく感に入り、その一党の仲間となり
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
木曾きそ御嶽おんたけ日光につこうにもゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
伊勢いせへ、津島へ、金毘羅こんぴらへ、御嶽おんたけへ、あるいは善光寺への参詣者さんけいしゃの群れは一新講とか真誠講とかの講中を組んで相変わらずこの街道にやって来る。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ただし途中で、桟道さんばし踏辷ふみすべるやら、御嶽おんたけおろしに吹飛ふきとばされるやら、それは分らなかったのです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此處こゝはわが姉のとつげる家にて、さらに心置くべきもの一人もあらねば、長くとゞまりて、御嶽おんたけにも登り給へ、王瀧わうたきにも遊び給へ、殊に、橋戸はしど村は木曾山中屈指の勝と稱せらるゝところなれば
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
伏見屋もどうしたろう、そう言って吉左衛門などがうわさをしているところへ、豊川とよかわ、名古屋、小牧こまき御嶽おんたけ大井おおいを経て金兵衛親子が無事に帰って来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
東京理科大学の標本室には、加賀の白山はくさんで取ったのと、信州のこまヶ嶽たけ御嶽おんたけと、もう一色ひといろ、北海道の札幌で見出みだしたのと、四通り黒百合があるそうだが、私はまだ見たことはなかった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
街道に添うて旅人に道を教える御嶽おんたけ登山口、路傍に建てられてある高札場なぞを右に見て、福島の西の町はずれにあたる八沢というところまで歩いて行った時だ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かけはし合渡ごうどから先は木曾川も上流の勢いに変わって、山坂の多い道はだんだん谷底へとくだって行くばかりだ。半蔵らはある橋を渡って、御嶽おんたけの方へ通う山道の分かれるところへ出た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼が父の病をいのるための御嶽おんたけ参籠さんろうを思い立ち、弟子でし勝重かつしげをも伴い、あの山里の中の山里ともいうべきところに身を置いて、さびしくきこえて来る王滝川の夜の河音かわおとを耳にした時だった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)