小賢こざか)” の例文
焼け尽したと見せたむしろを、また直ちに裏返して青々としき直す、人間の小賢こざかしい働き。自然はまたいい気になって、材料を供している。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いくら今の鍛冶が、小賢こざかしく、真似てみても、もう二度と、この日本でもできない名刀を——実に、可惜あたらくやしいことじゃございませんか
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御者台ぎょしゃだいを背中に背負しょってる手代は、位地いちの関係から少しも風を受けないので、このぐさは何となく小賢こざかしく津田の耳に響いた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「こいつは綺麗きれいだ、この秣槽かいおけは……」と、にんじんは、小賢こざかしい調子でいった——「なるほど。金物を入れて、血をやそうってわけだね」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
一向らち明かずとあってカリブ人、また鼠を遣わすとこやつ小賢こざかしく立ち廻ってたちまち獏の居所を見付けたが、獏もさる者
小賢こざかしいからすはそれをよくつてゐました。それだから、そのあたまかたうへで、ちよつとはねやすめたり。あるひは一宿やどをたのまうとでもすると、まづ
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「金沢市のもんや。」と、小賢こざかしくも都会人であるぞと深く印象させる為に特に「市」といふ所に力を入れて言つた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
雀はしきりに鳴き、枝から枝へと、気ぜわしくとび移り、鮮やかに赤い翼をそろえたり、小賢こざかしく首をかしげたりした。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
或いは多くの小賢こざかしい人が踏み迷うたように、何でもかでも文字の排列してある紙さえ見ておれば、それで学問になると安心してしまわぬとも限らぬ。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
自己の罪悪を小賢こざかしい智恵と言葉とを弄して弁解するよりも、人生の悪を身に徹して体験したトルストイが
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
母親がそっと小原に様子を訊いてみると、小賢こざかしい小原はえへら笑いばかりしていて容易に話さなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
其時そのときくるま真中まんなかに、案山子かゝしれつはしにかゝつた。……おと横切よこぎつて、たけあしを、蹌踉よろめくくせに、小賢こざかしくも案山子かゝし同勢どうぜい橋板はしいたを、どゞろ/\とゞろとらす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼女の小賢こざかしいアラビヤ馬は飛鳥のごとくに駈け出したので、わたしの騎兵用軍馬もすぐに後からつづいた。そうして、この順序で私たちは馬を崖の上に駈け登らせた。
駈け出して小賢こざかしげに納所坊主なっしょぼうず両三名がさえぎったのを、黙々自若もくもくじじゃくとして、ずいとさしつけたのは夜鳴きして参ったと言った眉間三寸、三日月形のあの冴えやかな向う傷です。
僕は一か月も大沢のうちへ通ううち、今までの生意気な小賢こざかしいふうが次第に失せてしまった。
初恋 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それにくらべると、あの女房め、眼付きばかりは小賢こざかしげでも、年甲斐もない愚か者じゃ。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
揶揄するような眼が小賢こざかしく閃いた。かと思うと、彼女は急に真面目な調子に変った。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
なぜって、私たちが笑ったりふざけたり小賢こざかしいことをやったりしてるのを見て、あなたは私たちの頭にはそれ以外に何にもないと考えて、私たちを軽蔑けいべつなすってるじゃありませんか。
されば是等これら餽物おくりもの親御からなさるゝは至当の事、受取らぬとおっしゃったとて此儘このままにはならず、どうか条理の立様たつよう御分別なされて、まげてもまげても、御受納とした小賢こざかしく云迯いいにげに東京へ帰ったやら
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
小賢こざかしい老女がこちらへ歩いて来るふうである。小君は憎らしく思って
源氏物語:03 空蝉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
小賢こざかしき口返答する下郎かな。腹の足しにもならぬ花の種子を蒔きて無用の骨を折らむよりこの間、申し付けし庫裡くりの流し先を掃除せずや。飯粒、茶粕のたぐひ淀みとゞこほりて日盛りの臭き事一方ひとかたならず。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
掻潜かひくゞり死もの狂ひに突廻つきまはれば惡者どもは是を見てヤア小賢こざかしき女の働きたゝたふせとひしめくを頭立かしらだちたる大男はあわたゞし押止おしとゞめコレ/\其女を叩き倒して成者なるものか大事の玉にきずがつくとそツと生捕いけどれと氣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さてなんぢ女人によにんよ、小賢こざかしき末の世に生れあひて
小賢こざかしい商量や、虚偽や
南洋館 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
用うるなどという容態振りからして嘔吐へどが出る。赤壁で曹操を破ったものは、呉の周瑜しゅうゆの智とその兵力だ。小賢こざかしいわれこそ顔、片腹いたい
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな小賢こざかしい言い方をされると、自分の腹の中まで探られるような気がして、小癪こしゃくにさわらないでもない。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
此の場合逃るのは悪いといふ小賢こざかしい智慧が働いて居た。私は尚頭を抱へたまゝ其処に立ちすくんで居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
引込思案な臆病、小賢こざかしくて功利的な知恵、それよりも根本的には私を善良な青年とみていた世間の評判が、ただ私を不道徳の実行者にならしめないのみであった。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
お久はお菊よりも七歳ななつの年上で、この店に十年も長年ちょうねんしている小賢こざかしげな女であった。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……その小賢こざかしい口を閉めろ、そして飲みたまえ、ぼくはぼくの野心のいかなるものかを知っている、計画もみとおしもついている、きみはきみを信じなければいかん、飲みたまえ
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この茫々ぼうぼうたる大地を、小賢こざかしくも垣をめぐらし棒杭ぼうぐいを立てて某々所有地などとかくし限るのはあたかもかの蒼天そうてん縄張なわばりして、この部分はわれの天、あの部分はかれの天と届け出るような者だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
揶揄するような小賢こざかしい光があった。嫉妬してはいけない、と彼は心の中で彼女に云った。そして、自分の子でないという焦燥を彼女の心に起させるのは、最もいけないことだと思った。
子を奪う (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
導く人のやはりわが仲間であったことは、或いは時代に相応せぬひなぶりをただしえない結果になったか知らぬが、そのかわりにはなつかしい我々の大昔が、たいして小賢こざかしい者の干渉を受けずに
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
素朴そぼくな、小賢こざかしい、ずるい男で、打たれ、奪われ、勝手なことをされ——妻を愛され、畑を荒らされ、人からされるままになり——それでいて飽かずに、自分の土地を耕し——戦争にやらされ
「おのれッ……小賢こざかしい文句……誰が教えたッ……」
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
先生もこれには少し行き詰まったので僕はたたみかけて『つまり孟子の言った事はみな悪いというのではないでしょう、読んで益になることが沢山あるでしょう、僕はその益になるところだけが好きというのです、先生だって同じことでしょう、』と小賢こざかしくも弁じつけた。
初恋 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
風においてはすたれ、ただ売名にけた、小賢こざかしき者のみが、横行する時代であることを、証拠だてておるのではなかろうかな。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はまだ子供の折のことを根に持つて居るといふ訳ではないけれど、何となくお桐を好かなかつた、平三にはお桐は小賢こざかしいおせつかいな負惜みの強い女に見えた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
がんりきはりきみ返る。竜之助は苦笑にがわらい。この小賢こざかしい小泥棒め、おれに張り合ってみようというのでさえ片腹痛いのに、死んだ肉は食わないというような一ぱしの口吻くちぶり
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いかにも小賢こざかしげな人物であって、自分の供をして出た主人を見失って、それで平気で済ましていられるようなにぶい人間でないことは、多年の経験上、半七には一と目で判っていた。
半七捕物帳:11 朝顔屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かかる罪悪を小賢こざかしい智恵を弄して弁護し弁解しようという傲慢な心である。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
左榎と書くような小賢こざかしい誤りも多いのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「へっ」と彼は小賢こざかしく肩をしゃくった
しじみ河岸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
笑ってもよいわ。わしは、侍の子だ。いちどいったことは、後へ退くのはきらいだ。わしが行って、小賢こざかしのわっぱめの土偶仏でくぼとけ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何という小賢こざかしい言いぶりだろう。二個の簑笠は顔を見合わせてしまいました。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小賢こざかしい江戸の女を見馴れた澹山の眼には、何だかぼんやりしたような薄鈍うすのろい女にみえながら、邪宗門の血を引いているだけに、強情らしい執念深そうな、この田舎娘に飽くまでもこまれたら
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この頃のように、こう小生意気な兵法青年がうようよ歩いて、すぐ印可の目録のといって誇っていることが、彼には、小賢こざかしく聞えてならない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小賢こざかしい人間の復興ぶりの存外に有力なるに業を煮やし、同時に以前の焼野原に、慢心和尚という山師坊主の手によって立てられた木柱に向って、十二分の憎悪と嘲笑を浴びせたところ。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして、人々が見聞みききしたうわさを持って町の方へながれて行くと、その間を、例の六波羅わっぱが、しきりと、小賢こざかしい眼をして、罪をいであるく。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きわどいところでこわれそうじゃわい、ほかでもない、それは駒井能登めが為すわざじゃ、あの小賢こざかしい駒井能登が邪魔をして、惜しい縁談が壊れかかったわい、残念じゃ、腹が立ってたまらぬわい
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)