めと)” の例文
軽蔑けいべつをして、まだ年のゆかない、でき上がっていない子などを、この方をさしおいてめとるというようなことができるものなんだねえ。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
妻をめとるは品物のやり取り位に思っていたであろうから、お品の好い御殿風な三枝未亡人を驚かしたも無理ならぬことと思われます。
直参大名とは譜代と同格の意味であって、明くる二年、従五位下の兵部少輔に任じ、同じ四年に立花たちばな左近将監さこんしょうげん忠茂ただしげの妹をめとった。
五百の姉安をめとった長尾宗右衛門は、兄の歿した跡をいでから、終日手杯てさかずきかず、塗物問屋ぬりものどいやの帳場は番頭に任せて顧みなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
恥ずかしくない家がらで都会の子弟とあっては、伊豆の片田舎からわざわざ妻をめとろうなどという聟君むこぎみは、まずないと云ってもよい。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この強健で活発快活な小さな男は、まったく性質の違った女——その土地の司法官の娘で、リュシー・ド・ヴィリエという女をめとった。
教師が媒酌人となるは勿論もちろん、教師自から生徒をめとる事すら不思議がられず、理想の細君の選択に女学校の教師となるものもあった。
男の側のそれらの道と職業を以て人類の幸福の増加に熱中している人たちの中の或人人が一生めとらずかつ父とならないのと同じく
母性偏重を排す (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
殊に彼はルイザをめとってから彼に皇帝の重きを与えた彼の最も得意とする外征の手腕を、まだ一度も彼女に見せたことがなかった。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
この年まで妻というものをめとらなかった男です。併し、瑠璃さん、それはわしが異性に対して余りに贅沢であったからかも知れません。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
自分は三沢とかず女の話をした。彼のめとるべき人は宮内省に関係のある役人の娘であった。その伴侶つれは彼女と仲の好い友達であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「およそ人心じんしんうちえてきのこと、夢寐むびあらわれず、昔人せきじんう、おとこむをゆめみず、おんなさいめとるをゆめみず、このげんまことしかり」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
現にバツグの話によれば、或若い道路工夫などはやはり偶然この国へ来た後、雌の河童を妻にめとり、死ぬまで住んでゐたと云ふことです。
河童 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ウドぐらき柳のかげに一軒の小屋あり、主は牧勇蔵と言う小農夫、この正月阿園おそのと呼べる隣村の少女をめとりて愛の夢に世を過ぎつつ
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
他の二人の娘の家でも、おなじくその娘を贈ることにしたので、李は一度に三人の美女をめとった上に、あっぱれの大福長者だいふくちょうじゃになりました。
コスタンティーンが鷲をして天の運行にさからはしめし(ラヴィーナをめとれる昔人むかしのひとに附きてこの鷲そのかみこれにしたがへり)時より以來このかた 一—三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
結婚するふたりが貧乏だったら貧乏のままにしておいてやれ、おいにはお気の毒様だ、一文なしの女をめとるなら彼も一文なしになるがいい。
一たび妻をめとったが和さなかったので離別し、終生独身でくらした。随斎はこの年三十九で枕山より長ずること二十歳である。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もし「それほど嫌でなかったら——」自分の娘をめとってれて、できた子供の一人を檜垣の家に与え、家の名跡だけで復興さして貰いい。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
牛屋うしや手間取てまとり牛切ぎうきりのわかいもの、一婦いつぷめとる、とふのがはじまり。やつ女房にようばうにありついたはつけものであるが、をんな奇醜きしう)とある。
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私は新佃の下宿から、下渋谷伊達跡の岡田三郎助のところへ移り、それから妻をめとって、岡田の家のつい近くに家を持った。
芝、麻布 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
源はやがてそれを北山の麓に葬ったが、女の情に感じて他からめとろうともせずに独りでいた。そのうちに霊隠寺に入って僧となってしまった。
緑衣人伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
家什かじゅうはいまだ整わずとも細君だけはまずとりあえずとて、望みのとおりに若き婦人をめとり、身の治まりもつきて倹約を守り
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
めとり、伜勇三郎を生みましたが、困つたことに、私の新嫁には、私のところへ嫁入りする前に許婚があつたのでございます
実隆の妻の実家なる勧修寺尚顕の女をめとって、実隆とも別懇にしているので、苧船が着くと早速にこれを留め置いて三条西家に報告してくれた。
ほとんど同時に、院長のなにがしは年四十をえたるに、先年その妻をうしなひしをもて再び彼をめとらんとて、ひそかに一室に招きて切なる心を打明かせし事あり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
武の長男のしんが王という家のむすめめとっていた。ある日武は他出して林児を留守居にしてあった。そこの書斎の庭に植えてある菊の花が咲いていた。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
はっと固唾かたずをのむばかりの真剣さだったから、登勢は一途にいじらしく、難を伏見の薩摩屋敷にのがれた坂本がやがてお良をめとって長崎へ下る時
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
ある若者、その師より戒められたは、妻をめとるは若い娘か後家に限り、年取った娘や、嫁入り戻りの女を娶るなかれと。
お負けに血族婚礼は生理上にそむいている。支那では同姓をめとらずといった位だから昔風の老人にもその訳は解るだろう。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
斉に落着き大夫たいふ国氏こくしの娘をめとって二児を挙げるに及んで、かつての路傍一夜のちぎりなどはすっかり忘れ果ててしまった。
牛人 (新字新仮名) / 中島敦(著)
北村君は石坂昌孝氏の娘にあたる、みな子さんをめとって、二十五歳(?)の時には早や愛児のふさ子さんが生れて居た。
北村透谷の短き一生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だから、基督も天国では「めとらず、かず」だと言つてゐる。天国のやうな結構づくめなところでは、結婚は賭博ばくちと一緒に御法度となつてゐるのだ。
これだけの資産を蓄えながら再び妻をめとろうともせずプラツア・デ・カタルニアの陋巷で独り暮しを続けております。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
私の妻に會ふやうに招きます! 私があざむかれてどんな人間をめとつたかお目にかけます、そして私がその契約を破つて
一雄が出征する直前に、両親や親戚の反対を押し切ってめとったこの夫人は、その当時売り出しの映画女優であった。
恐怖の幻兵団員 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
花若は主人から娘の婿になってくれといわれましたけれども、三人のうちいずれの娘をめとってよいかわかりませぬ。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
めとらず丁稚時代より八十三歳の老後まで春琴以外に一人の異性をも知らずに終り他の婦人に比べてどうのこうのと云う資格はないけれども晩年やもめ暮らしを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
我は嘗ておん身をめとりしことなし。誰かおん身が婚儀の松明まつを見しものぞ。この詞を聞きたるときの心をば、ヂドいかに巧にその眉目の間に畫き出しゝ。
祖父はヴォローネシ県の農奴で、やがて自由をあがなってウクライナに移住した。父の代になるとロストフに近いタガンローグに定住して、商家の娘をめとった。
爆心地で罹災りさいして毛髪がすっかり脱けた親戚しんせきの男は、田舎いなかの奥で奇蹟きせき的に健康をとり戻し、惨劇の年がまだ明けないうちに、田舎から新しい細君をめとった。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
丸山学氏の採集した一例では、天女の着物を匿してそれをめとった若者は、その家に一匹の犬を飼っていた。そうして二人の間に児があったことは説かない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかし、今や、わが中野秀人は、お伽噺とぎばなしの中の王女をめとって国際恋愛の範を垂れようとしているのではないか。これだけは誰にも出来るという芸当ではない。
エチオピアの王ヒダスペスはきさきペルシナをめとりて十年の間子無かりしに、十年目に姫君誕生ありし由に候。
と云うは一つに、彼地にてめとりし仏蘭西フランスブザンソンの人、テレーズ・シニヨレにはなむける引手箱なりと云う。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
(一生めとらず、俗世間の縁を避け、心血を結集して五大編を書きあげた。骨は倫敦ロンドン郊北の地に埋葬されて、ありあまる光輝は千年もよみじを照らすであろう。)
南半球五万哩 (新字新仮名) / 井上円了(著)
胤頼は定家の門弟で歌が巧みに、その孫胤行たねゆきは為家の女をめとって、為家の門弟となり、その後も代々二条派正統の武家歌人としてすべて勅撰集に入集している。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
両親もなく、妻をめとらずむろん子供のない重明には、叔父の重武が唯一人の肉親だった。重武は重明の祖父重和の妾腹の子で、父の重行には異母弟に当っていた。
キリストも「天国にあるものはめとらず、嫁がず」といっている。あるいは罰せられたるもののすえなるわれらには絶対的の聖潔に達することは不可能かもしれない。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ところで僕は、あなた以上の妻をめとることもできなければ、またあなたよりほかには僕を選んでくれる人もありません。僕はこのことをもうよく考えてみました。