各自めいめい)” の例文
女役おやま実悪じつあく半道はんどうなんて、各自めいめい役所やくどこが決まっておりましてな、泣かせたり笑わせたり致しやす。——春の花見! これがまた大変だ!
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一日の売揚の勘定が始まる頃には、真勢さんをはじめ、新どん、吉どんなどの主な若手が、各自めいめい算盤そろばんを手にして帳場の左右に集った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「家にいても話をしたんじゃ何にもならない。晩の弁当を喰べて各自めいめい部屋へ引っ込んだら、もうその日一日の縁が切れたと思ってくれ」
変人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼の老妻や、他の娘や、娘たちの婿なども寄りあつまったが、客座敷ではなく常の食事をする室で、各自めいめいぜんで車座になってお酒も出た。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
一方に馬から離れた茶摘男たちは、一休みする間もなく各自めいめいに、長い長い綱を附けた猿を肩の上に乗せて、お茶摘みに出かけるのです。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
要心のために、誰か一人ぐらいずつ代る代る起きてはいたが、あとのものは相当の時間に各自めいめいの寝床へ引き取って差支さしつかえなかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
階下で兩親や才次などが一家の雜務に取り掛つてゐる間に、二階では三人が各自めいめいの部屋に籠つて、それぞれに讀んだり書いたりしてゐた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
いままで、うちかえるのをわすれて手足てあし指頭ゆびさきにしてあそんでいた子供こどもらは、いつしかちりぢりにわかれて各自めいめいうちかえってしまいました。
残された日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
各自めいめいは直接に圧迫を加えるつもりでなくとも、少くとも部落民全体に対しては、間接に立派に圧迫を加えているのであります。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
各自めいめい考えていたんでしょう。しばらく誰も口を利くものがなかったわ。あたしも考えて見たんだけれども何の事かちっとも分からなかったわ。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
手品師め、手品には失敗しくじつたが、うまい事を言つたもので、少将と蕃山と左源太とは、各自めいめい腹のなかでは、「その偉い器量人は多分乃公おれだな。」
しかし何日いつどう云う風にして各自めいめいが別れ別れになるにしても、きっとうちの者は誰一人あのちびのティムのことを——うん
自分等じぶんらてるひゞきさそはれてさわ彼等かれらきまつたはやしこゑが「ほうい/\」と一人ひとりくちからさうして段々だん/\各自めいめいくちから一せいほとばしつて愉快相ゆくわいさうきこえた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
みんなソワ/\して、沈着おちついてる顔は一人も無かった。且各自めいめいが囲んでる火鉢は何処からか借りて来たと見えて、どれも皆看馴れないものばかりだ。
「みんな口先ばかりだわ。だれでも各自めいめい自分のためにばかり生きていて、人をかまってくれる者はいないし、人を愛してくれる者はいないことよ。」
今日の多くの人たちは、各自めいめい、お金を使っているようで、その実、お金に使われているのではないでしょうか。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
その天分てんぶんなり、行状おこないなりが各自めいめいちがうからである。ただおうとおもえば差支さしつかえないかぎりいつでもえる……。
また横合よこあいから飛び出して行つて、どちらかの影を踏まうとするのもある。かうして三人五人、多いときには十人以上もりみだれて、地に落つる各自めいめいの影を追ふのである。
私たちの性格は両親からけ継いだ冷静な北方の血と、わりに濃い南方の血とが混り合ってできている。その混り具合によって、兄弟の性格が各自めいめい異なっているのだと思う。
私の父と母 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
で、思い思いではあるけれども、各自めいめい暗がりの中を、こう、……不気味も、好事ものずきも、負けない気もまじって、その婆々ばばあだか、爺々じじいだか、稀有けぶやつは、と透かした。が居ない……
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
各自めいめいの家によくある赤く塗った消火器のような恰好をした円筒を背にかけ、その下端に続いている一条のゴム管を左の脇下から廻して、その端は、仮面めんになっていて鼻と口とを塞いで
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
趣向は何なりと各自めいめいに工夫して大勢の好い事が好いでは無いか、幾金いくらでもいい私が出すからとて例の通り勘定なしの引受けに、子供中間の女王様によわうさま又とあるまじき恵みは大人よりも利きが早く
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
真実ほんとの事はなかなか出ない、髣髴として解るのは、各自めいめいの一生涯を見たらばその上に幾らか現われて来るので、小説の上じゃ到底うそッぱちより外書けん、と斯う頭から極めて掛っている所があるから
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「それは御各自めいめいに、一応はおへやに引き上げられたようでございました。そして、曲目の次が始まるちょうど五分前頃に、三人の方はお連れ立ちになり、また伸子さんは、それから幾分遅れ気味にいらっしゃったよう、記憶しておりますが」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
幾個いくつかの異国的の食器の類が、各自めいめいの持っている色と形とを、いよいよ美しく見せて居るのが、いちじるしい特色ということが出来る。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
主人あるじや客をはじめ、奉公人の膳が各自めいめいの順でそこへ並べられた。心の好いお仙は自分より年少とししたの下婢の機嫌きげんをもそこねまいとする風である。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ふん、そうか——さあ御茶がげたから、一杯」と老人は茶碗を各自めいめいの前に置く。茶の量は三四滴に過ぎぬが、茶碗はすこぶる大きい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
各自めいめいが直接に損害を与えるつもりでなくとも、少くとも部落民全体に対しては、間接に立派に損害を与えているのであります。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
各自めいめい荷物と合乗りで九段上の叔父さんの家へ向った。堀尾君も御無沙汰のお詫びながら上り込んだが、奥田君がいないから、早目に引き揚げた。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
後には六人一並びぐらいの板張り机になったが、各自めいめい寺小屋式の机を持っていたころ、あたしが一年生時分は放り出しておく幼稚園といってよかった。
と一人が声をひそめて、仲間のものを見返る。仲間のものは、各自めいめいに竹槍と、山刀なたとを持っていた。今、物を言った一人は、本籠もとごめの二連発銃を持っていた。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そう云ううちに古参の彼が居ることに気が付くと、慌てて敬礼をしいしい帯剣を外したが、そのまま各自めいめいの椅子に就いてヒッソリと口をつぐんでしまった。
老巡査 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「おゝかいい」とぴしやりたゝいた。かれうたつれ各自めいめいさらうたつた。みなはし茶碗ちやわんたゝいて拍子ひやうしあはせた。さういふさわぎにつてからさけらなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すると、子供達は小島のやうにさつと散らばつて各自めいめいの位置に着いた。そして力一杯声を張りあげて
君たちは各自めいめい他に誇るべき何物かを持っているだろうが、僕には誇るべき何ものもないのだ。何をしているか、と問われると、お恥ずかしいわけだが、なんと答えてよいやらわからない
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
間へ二ツ三ツずつ各自めいめいの怪談が挟まる中へ、木皿に割箸わりばしをざっくり揃えて、夜通しのその用意が、こうした連中に幕の内でもあるまい、と階下したで気を着けたか茶飯の結びに、はんぺんと菜のひたし。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人は黙って各自めいめいの枝を眺めていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
被衣かつぎを冠った一人の乙女を、十数人の娘達が、守護するように囲繞して、各自めいめい野花を手にかざして、歌いながらこっちへ歩いて来ていた。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
四人よつたり各自めいめい木箸きばしと竹箸を一本ずつ持って、台の上の白骨はっこつを思い思いに拾っては、白いつぼの中へ入れた。そうして誘い合せたように泣いた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こうした父の話を聞くよりも、二人の子供は各自めいめいそこへ取出して来たものを父に見せようとした。その子供らしいよろこびを父にも分けようとした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
玄関の横の八畳には通りにむかって窓があった。ここの畳へ座る人種は我々と違っていた。特別の机が配置してあって、手焙てあぶりが冬は各自めいめいについている。
とこれは、内済ないさいの申入れだった。私は黙っていた。四人のものはもうそれけで各自めいめい床へ潜り込んだ。予定の行動で方々から私の枕元へ這って来たのだった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
われわれが誰と親しく交わろうが、どこで品物を買おうが、誰と結婚しようが、それは各自めいめいの自由意志に従うべきもので、決して他から差図さるべきはずはない。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
今日持っていった賭博ばくち資金もとで各自めいめいに相違なく返し遣わすのみならず、賃銀は望みに任するであろう。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
Bの眼にはただ虫が紙の上に各自めいめい勝手な姿をして動いているように文字が見えた。この瞬間、全く文字というものを忘れてしまった。考えたが一字すら読めなかった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
手品には失敗したが、巧い事を言つたもので、少将と蕃山と左源太とは、各自めいめい肚のなかでは、「その偉い器量人は多分乃公わしだな。」と思つたらしかつた。この人達にだつて自惚うぬぼれは相当にあつたものだ。
手品師と蕃山 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
二人は各自めいめいへやに引き取ったぎり顔を合わせませんでした。Kの静かな事は朝と同じでした。わたくしじっと考え込んでいました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それからひとしきり武芸にいそしみ、そうした後に各自めいめいの仕事——牧畜、耕作、香具師、伐採、鉱山かなやまの坑夫や選婦などに進んで従事するのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
湯屋ゆやより、もちっとのびのびした自由の天地だ。まず各自めいめいの家が——家並が後景はいけいになって天下の往来が会場だ。
細君は別に鶏と茄子なすの露、南瓜とうなすの煮付を馳走振ちそうぶりに勧めてくれた。いずれも大鍋おおなべにウンとあった。私達は各自めいめい手盛でやった。学生は握飯、パンなぞを取出す。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)