十日とおか)” の例文
「ええ、ええ、もうこれから百もあって、くだけに十日とおかあまりかかって、かえりにもやはりそれだけかかるのですからね。」
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それは、正月しょうがつのことでありました。学校がっこう十日とおかあまりやすみがあった、そのあとのことです。学校がっこうへゆくと、水野みずの姿すがたえませんでした。
青いボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
現に十日とおかほど前にも、千次郎が先に来て待っていると、ひる頃になって娘が来て、日が暮れるころ一緒に帰ったとのことであった。
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
このようなさわがしさのなかで、緒方洪庵先生おがたこうあんせんせいが、急病きゅうびょうでなくなりました。それは、文久ぶんきゅう三(一八六三)ねんがつ十日とおかのことでした。
ただの時なら四五日が十日とおかでもさして心配にはならぬ。過去に追いつかれた今の身にはくしけずる間も千金である。逢えば逢うたびに願のまとは近くなる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十日とおかほどたって、ごんが、弥助やすけというお百姓の家の裏を通りかかりますと、そこの、いちじくの木のかげで、弥助の家内かないが、おはぐろをつけていました。
ごん狐 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
渡邊祖五郎殿という表書うわがき、只今のように二日目に来るなどという訳にはまいりません。飛脚屋へ出しても十日とおか二十日はつかぐらいずつかゝります。読下よみくだして見ると
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
世俗の怖れる二百十日とおかの前一日、二三日来の驟雨しゅうう模様の空がその朝になって、南風気みなみげの険悪な空に変り、烈風強雨こもごも至ってひとしきり荒れ狂うていたが
死体の匂い (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それから十日とおかばかりして、叔母は私のうちに同居した。私の親類では外に、従弟いとこ貞助さだすけと、三人が出征した。センチ(戦地という言葉をこの頃覚えた)から、時折グンジユウビンが来た。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
そこには十日とおかほど念頭から絶え果てていたようなものが海面から浅くもれ上がって続いていた。葉子は好奇な目をかがやかしながら、思わず一たんとめた足を動かして手欄てすりに近づいてそれを見渡した。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
日數ひかずかさねて、九夜ここのよ十日とおかでございます。
日には十日とおかを。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
津の国屋の女房はその後十日とおかほども寝ていたが、まだ自由に歩くことが出来なかった。そのうちに文字春は又こんな忌な話を聞かされた。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたしはちょうど三百さいになります。だいぶんとしをとりました。まえは百五十にちめでここまできましたのが、二百十日とおかもかかります。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
そんなことをいいいい、毎日まいにちらしているうちに、十日とおかたち、二十日はつかたち、もうかれこれ一月ひとつきあまりの月日つきひがたちました。
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ところが、あきになってまもない九がつ十日とおかごろ、おかあさんから、九がつ三日みっかにいさんがなくなったから、すぐかえってくるようにとのらせがありました。
もし昔から世俗で云う通り安心あんじんとか立命りつめいとかいう境地に、坐禅の力で達する事ができるならば、十日とおか二十日はつか役所を休んでも構わないからやって見たいと思った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おまけに今年の秋は八朔はっさくと二百十日とおかと二度つづいた大暴おおあれで田も畑もめちゃめちゃ。こうなったら何も悪いことだらけで……。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十日とおかばかりまえのことでした。新緑しんりょくがすがすがしいしいのしたで、たたみやが、しごとをしているのを、かねさんは、ってていました。
赤土へくる子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、ひやかし半分はんぶんにみているものもありましたが、十日とおかたち、十五にちたっても、さけをのみません。
「なんだか知りませんけれども、この十日とおかばかりはちっとも商売に出ないで、おかみさんと毎日喧嘩ばかりしているようです」
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「これはぼくのかわいがっていたボンだよ。十日とおかばかりまええなくなったのだ。いま、つけたから、つれてかえるんだよ。」
少年の日の悲哀 (新字新仮名) / 小川未明(著)
江戸を出てから、まだ十日とおかばかりだが、このごろはおまえが恋しくなって、ゆうべもお前の夢をみた。いや、嘘じゃあない。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのなかを、新聞しんぶん一つで、わざわざとおくからきてくださる配達はいたつさんにおどくですので、どうか、十日とおかめぐらいに一かいおくってくだされば結構けっこうです。
母の心 (新字新仮名) / 小川未明(著)
僕はその後十日とおかほども滞在していたが、かの狛犬が掘り出されてから、小袋ヶ岡に怪しい啼声はきこえなくなったそうだ。
こま犬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
真吉しんきちは、おかあさんからきた手紙てがみだとおもうと、なつかしくてだいじにしまっておきました。また、十日とおかばかりたつと、おかあさんがこいしくなりました。
真吉とお母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
その後十日とおかばかりは何事もなかったが、盂蘭盆うらぼんが過ぎると、山城屋の女房お菊と、女中のお咲が奉行所へ呼び出された。
十日とおかばかり まえに、あちらの あたらしい 二かいやへ、こして きた おうちが ありました。そこには かわいらしい おんなの が います。
マルは しあわせ (新字新仮名) / 小川未明(著)
十日とおかあまりは唯ぼんやりと暮らしていたらしかったが、その後ひる間は酒を飲んで寝て暮らして、夜になると小名木川のあたりへ釣りに出て行った。
深川の老漁夫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「二百十日とおかかぜだね。」と、とくちゃんが、いいました。おもおもいに、そらあおぐと、ほしひかりが、えたりかくれたりしました。くもはしっていたからです。
二百十日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
兄に頼んで一緒に連れて行ってもらったが、一度見たが最後、ほとんど寝食を忘れて十日とおかあまりも眺め暮らしていた。
「ああ、そんならきみのところのいぬだったのかい。十日とおかばかりまえに、牛乳屋ぎゅうにゅうやがいいいぬひろってきたといってくれたのだよ。そんなら、それはきみうちのだかい……。」
少年の日の悲哀 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その夢が醒めると、火を吹いていた口唇くちびるがひどくれあがって、なんだか息が切れて、十日とおかばかりは苦しみました
おまえは下界げかいったのは、二百十日とおかまえだ。それまでにわたしは、どれほどすなみずをまいたかしれない。いまごろはもっとたくさんな人間にんげんものんでいるだろう。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
亀吉は承知して帰ったが、それから十日とおかほど後に、かの孤芳は太宗寺のそばを立ち退いてしまったと報告した。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「やさしいおかあさんだ。それなら、十日とおかめぐらいに、雑誌ざっしでもおくってあげよう。」と、母親ははおや気持きもちをよくっている良吉りょうきちは、毎日まいにち新聞しんぶんおくることをよしたのでした。
母の心 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし重ねがさねの心労で、彼はその後十日とおかばかりは病いの床についた。その間のある夕に、千枝太郎は看病の枕もとをぬけ出して行くえが知れなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おれも、出征しゅっせいする十日とおかばかりまえのことだった。平常ふだんからかわいがっていたくりのがある。
戦友 (新字新仮名) / 小川未明(著)
松島君ももう全快したのですが、十日とおかほど遅れて帰京することになります。ついては、君がひと足さきへ帰るならば、田宮さんを一度おたずね申して、先日のお礼を
鰻に呪われた男 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから、十日とおかばかりたつと、金持かねもちは、かぜがもとでんだのであります。
町の真理 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのなかで、女の死体は死んでから十日とおかを越えまいと思われました。妹の顔はもう骨になっていました。ゆうべの二枚の餅はめいめいの胸の上に乗せてありました。
明日あしたは、二百十日とおかだよ。かわせきをはらって、さかなるのだね。」
二百十日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お角は六月の十日とおか過ぎに家を出て、二十日はつか頃まで姿を見せませんでしたが、又ふらりと帰って来て、別に変ったこともなしに暮らしていましたが、その晦日みそかの朝です。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
からすがってから、やく十日とおかめにふくろうがかえってきました。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
お聞き及びかも知れませんが、この十日とおかの初午の晩に具足町の和泉屋で素人芝居がございました。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あと十日とおか。」
十日とおかのあいだに四日も訪ねて来たが、しみじみと話をするひまもないように急いで帰ってしまった。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それから小ひと月も立ちまして、十月の十日とおかとおぼえています」と、宇兵衛は話しつづけた。
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
万次郎も「絵馬の会」に加入している一人で、丸多の主人とはかねて懇意の仲であったが、十日とおかほど前の夜にたずねて来て奥の間で多左衛門と何かの密談に時を移して帰った。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかもそれから又十日とおかと経たないうちに、強い人々もいよいよ臆病者の仲間入りをしなければならないような事件が重ねて出来しゅったいした。鬼娘が又もや一人の女をほふったのである。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)