其角きかく)” の例文
同じように、たとえば「炭俵」秋の部の其角きかく孤屋こおくのデュエットを見ると、なんとなく金属管楽器と木管楽器の対立という感じがある。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あとの君子自重は、其角きかくの「このところ小便無用花の山」に似て、後者の風流を狙って俗なるに比し、ずっと道学的に洒脱である。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
五元集ごげんしゅう』の古板こはん其角きかく自身の板下はんしただからいくら高くてもかまわない買いたいと思うのはわれわれの如き旧派の俳人の古い証拠で
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それらは貧しい中から苦心してあつめたもので、兄から貰った小使で買った其角きかくの五元集、支考の俳諧十論などの古い和本も入れてある。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
(菰を被て手拭をかぶる。)たしか其角きかくの句にあつたな。「なき骸を笠にかくすや枯尾花」おれの姿もそれに似てゐるやうだな。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
又曰猿の歯白し峰の月といふは其角きかくなり。塩鯛の歯ぐきは我老吟なり。しもを魚の店と唯いひたるもおのづから句なりとのたまへり。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
芭蕉の弟子に芭蕉のような人がなく、其角きかくの弟子に其角のような人が出ないばかりでなく、ほとんど凡ての俳人は殆ど皆独り独りに違って居る。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
頃は元禄十四年師走しわす半ばの十四日に宝井其角きかくが着ていたような妙ちきりんな十徳じっとくみたいなものを引っ掛けて私にネラわれているとも知らず
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それからまた二、三年たって他のある友人のうちで其角きかくという俳諧はいかい師の名前を聞かされたことがありました。その人から
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
一蝶や其角きかくは取り巻とはいっても一見識備えた連中だけに、民部や半兵衛が周章あわてるようには二人は周章てはしなかった。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
このふうは談林とともに衰えたが、其角きかくのごときはいつまでもそれを得意とし、また『冬の日』『春の日』の二集には、若干その気習がのこっている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
むかし元禄の頃に大野秀和しうわといふ俳人が居た。同じ俳人仲間の宝井其角きかくが、自分の事をざまに噂をしてゐるといふ事を聞いて、大層腹を立てた。
遠い昔の芭蕉や其角きかくの句は諳誦あんしょうしていても毎日食べる玉子はどれが新しいか古いか知らんような迂闊うかつな心掛ではどうしてこの文明世界へ進む事が出来よう。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
講演は、あまり修行にもなりません。剣道の先生も、一日限りでたくさん也。みみずくの、ひとり笑いや秋の暮。其角きかくだったと思います。十一月十六日夜半。
みみずく通信 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と、しゃの宗匠頭巾ずきんを被った、宝井其角きかくと云ういでたちで奥から現れた老人は、玄関まで送って出たお久と要とにそう云い残すと、白足袋の足に利久を穿いた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
出淵でぶち様。いつぞや、御家中の岡村の旦那から伺いますに、其角きかくの句を読み入れた新作をおくんなすって、それを藤七が節付ふしづけしたってお話じゃござんせんか。そういうものを
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
芭蕉ばしょう其角きかく嵐雪らんせつなどの俳諧師はいかいし、また絵師では狩野家かのうけ常信つねのぶ探信守政たんしんもりまさ友信とものぶ。浮世絵の菱川吉兵衛ひしがわきちべえ鳥井清信とりいきよのぶ浄瑠璃じょうるりにも土佐椽とさのじょう江戸半太夫えどはんだゆうなど高名な人たちもたくさん出ている。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いほを隔つることもりひとつ、名宗匠其角きかく堂永機住めり、一日人に誘はれて訪ひ行きつ、閑談やゝ久しき後、彼の導くまゝに家のうちあちこちと見物しけるが、華美を尽すといふ程にはあらねど
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
客「然うでしょう、少し声がしゃがれてるし、一中節いっちゅうぶしったろう、あのーなにを唄ったろう……あれは端物はものだがいゝねえ、はなぶさちょう其角きかくさんをしたという、吉田の兼好法師の作の徒然草を」
元禄げんろくの昔其角きかくがよんだ句にもある、金物問屋が角並かどなみにある、大門通りのめぬきの場処である——その他に、利久という蕎麦屋そばや、べっこう屋の二軒が変った商売で、その家の角にほんとに小さな店の
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
賣歩行うりあるきとき晋子しんし其角きかくが贈りし述懷じゆつくわい名吟めいぎんなる事は世の人の知る所にしてに定めなきは人の身の上ぞかし偖も越後浪人新藤市之丞が心がらとは云ひながら今は紙屑かみくづ屋長八と名乘なのり裏店うらだな住居ずまひとなりしかど追々商賣に身を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其角きかく句あり。——もどかしや雛に対して小盃こさかずき
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
江戸の都会詩人、其角きかくの句に
女性と庭 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
得て気のつまるものと俊雄は切り上げて帰りしがそれから後は武蔵野へ入り浸り深草ぬしこのかたの恋のお百度秋子秋子と引きつけ引き寄せここらならばと遠くお台所より伺えば御用はないとすげなく振り放しはされぬものの其角きかくいわくまがれるを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
漢語は延宝えんぽう天和てんなの間其角きかく一派が濫用してついにその調和を得ず、其角すらこれより後、また用ゐざりしもの、蕪村に至りてはじめて成功を得たり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
朝またまた時雨しぐれす。思ひがけなく東武とうぶ其角きかく来る。(中略)すぐに病床にまゐりて、皮骨ひこつ連立れんりつしたまひたる体を見まゐらせて、且愁ひ、且悦ぶ。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
という其角きかく越人えつじん両吟りょうぎんは、親がまじないのためにわが子に他人という名を付ける風習をえいじたもので、この俗信は今でもまだ地方にはあとを留め
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この景色は荒れた寺の門とそのへんの貧しい人家などに対照して、私は俳人其角きかく茅場町薬師堂かやばちょうやくしどうのほとりなる草庵の裏手、たで花穂はなほに出でたる閑地に
すると、座敷の隅の方で、其角きかくを相手に話し込んでいたはなぶさ一蝶が坊主頭を、半兵衛の方へ振り向けたが
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
日本橋区茅場町かやばちょう一番地、喜可久。其角きかくの三日月の文台、あかざの軸を見る。
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
其角きかく風雪らんせつ去来きよらい丈草ぢやうさう野坡やば杉風さんぷう北枝ほくし凡兆ぼんてう支考しかう……」
新月やいつをむかしの男山という其角きかくの句とが添えてある。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
綱が立って綱が噂の雨夜かな——其角きかくの句である。
其角きかくの家に、きょうも運座があっての』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちなみにいふ。太祇たいぎにも蕪村ぶそんにも几董きとうにも「訪はれ顔」といふ句あるは其角きかくの附句より思ひつきたるならん。(三月二十四日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その「枯野抄」といふ小説は、芭蕉翁ばせををう臨終りんじゆうに会つた弟子でし達、其角きかく去来きよらい丈艸ぢやうさうなどの心持をゑがいたものである。
芭蕉の弟子の中でも、才子其角きかくはほとんとその一生の間、他の人々も初期にはみなこの句風にかぶれている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その同じ夜の暁であったが、其角きかくは揚屋の二階座敷の蒲団の上に端座して、じっと考えに更けっていた。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
希臘ギリシヤ羅馬ローマ以降泰西たいせいの文学は如何ほどさかんであったにしても、いまだ一人いちにんとして我が俳諧師其角きかく一茶いっさの如くに、放屁や小便や野糞のぐそまでも詩化するほどの大胆をあえてするものはなかったようである。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
灌仏かんぶつや捨子則ち寺のちご 其角きかく
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
其角きかくだつて、「おく細道ほそみち」の講釈はするだらうが、ハムレツトと来た日にや名を聞いた事もあるまいからね。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
去来きょらい丈草じょうそうもその人にあらざりき。其角きかく嵐雪らんせつもその人にあらざりき。五色墨ごしきずみの徒もとよりこれを知らず。新虚栗しんみなしぐりの時何者をかつかまんとして得るところあらず。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
江戸は紅霞こうかに埋ずもれてしまった。鐘は上野か浅草か。紅霞の中からボーンと響く。こんな形容は既に古い。「鐘一つ売れぬ日はなし江戸の春」耽溺詩人其角きかくの句、まだこの方が精彩がある。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二本榎高野山の向側むこうがわなる上行寺じょうぎょうじは、其角きかくの墓ある故に人の知る処である。
糞、尿、など多く用ゐたるは其角きかくなり。其角の句はやや奇を求めてことさらにものせしが如く思はる。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
今更ここに其角きかく嵐雪らんせつの句を列記して説明するにも及ばぬであろう。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この時代の俳人といえば、江戸には其角きかくという大たて者があって、句もうまいが、弟子も多く、著書もしたたかあるという訳で、一人で江戸を背負って立つという勢です。
俳句上の京と江戸 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
江戸の方は其角きかく嵐雪らんせつの句でも白雄しらお一派の句でも仮令たといいくらかの美しい処はあるにしても、多少の渋味を加へて居る処はどうしても寒牡丹にでも比較せねばなるまい。(五月七日)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
其角きかく嵐雪らんせつもその人にあらざりき。『五色墨ごしきずみ』の固よりこれを知らず。『新虚栗しんみなしぐり』の時何者をかつかまんとして得る所あらず。芭蕉死後百年になんなんとして始めて蕪村は現れたり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
論者は前に糞、焼芋といふ例を挙げたれど、焼芋の句は古俳書に見当らず、糞小便等の句は其角きかく・蕪村などに一、二句あるのみ。決して糞の句などは俳句に多き者といふべからず。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)