すこ)” の例文
「御母堂にも、寧子ねねどのにも、宵よりいたくお待ちかねでおられます。ともあれ奥へ渡らせられ、殿のおすこやかぶりもお見せ申しては」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
追々薄紙はくしぐが如くにえ行きて、はては、とこの上に起き上られ、妾の月琴げっきんと兄上の八雲琴やくもごとに和して、すこやかに今様いまようを歌い出で給う。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
これをすこやかな、豊かな、調和そのものであるようなギリシア女の画に比べて見ると両者の相違はきわめて明瞭にわかると思う。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
兎に角己はいつに無い上機嫌になつて来た。己は酒にのぼせて、顔がすこやかな濃いくれなゐに染まつた。それを主人は妬ましげに見てゐるらしい。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
寄宿舎を出てしまうと同時に、彼には幻視も幻聴も現われなくなり、間もなくすこやかな青春を取り戻すことが出来たのだからね。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
たとえば「大きく空洞うつろになっているへそは美しいものとされているばかりでなく、幼児にあってはすこやかに生い立つしるしであると思われている」
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
宮詣を終えて彼らはナザレの家に帰り、幼児は次第に成長してすこやかになり、知恵みち、かつ神の恵みがその上にあった。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
いま私は私自身の内面を検査してそれらの外道を発見し、わが道を直くし、わが歩をすこやかにすることを企てたいと思う。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そして、みんなのすこやかなかおて、こころから、よろこんでくれるのでした。姉弟きょうだいうちでも、二ばんめのおんなは、もっともこの小父おじさんをしたったのでした。
二番めの娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
水清く魚すこやかに、日光樹梢を漏りてかすかに金をふるふところ、梭影さえい縱横して魚はしるさま、之を視て樂んで時の經つのを忘れしむるものがある。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
庭へおりて見ると、小篠こざさの芽が、芝にまじって、すこやかな青さで出ていた。そのかげを赤い小蟹こがにが、横走りにけたり、はさみで草を摘んで食べている。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
くびから彼女の小さな手をゆるめて接吻をし、不思議な感動で彼女に向つて泣き、私の啜泣すゝりなきが靜かなすこやかな休息を破ることを恐れて彼女の許を去つたのを。
髪は二七三績麻うみそ二七四わがねたる如くなれど、手足いとすこやかなる翁なり。此の滝のもとにあゆみ来る。
彼らはいつもすこやかに朝な夕なを迎えるではないか。顧みられない個所で、無造作に扱われながら、なおも無心に素朴に暮している。動じない美があるではないか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
とうを執る者は、虎松という九十に近い小吏だった。刑死人の死体の脂肪がにじみ出ているのではあるまいかと思われるような、赤黒い皮膚をしたすこやかな老人であった。
蘭学事始 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
緩端えんばた平伏へいふくしたる齋藤茂頼、齡七十に近けれども、猶ほ矍鑠くわくしやくとしてすこやかなる老武者おいむしや、右の鬢先より頬をかすめたる向疵むかふきずに、栗毛くりげ琵琶びはもゝ叩いて物語りし昔の武功忍ばれ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
お前は、おれが病気になるたびに、自分も加減がわるいと称して寝てしまふ。これで幾度だ。平生は至つてすこやかなお前が、一日や二日の看護に、疲れるといふわけがない。
医術の進歩 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
また兩者の衝突もなくて美くしくすこやかにして協立することが出來たであらうと想はれます。
姑と嫁に就て(再び) (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
お島は長いあいだ養父母の体を揉んでから、やっと寝床につくことが出来たが、お茶屋の奥の間での、刺戟しげきの強い今日の男女ふたりの光景を思浮べつつ、じきすこやかな眠に陥ちて了った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
平次の手が動くと、錦太郎の後ろの金屏風きんびやうぶが取拂はれました。その奧に置かれたやうに坐つて居るのは、何と、錦太郎が殺したと思ひ込んでゐる、お福のすこやかな姿ではありませんか。
「身に余るお言葉、かたじけのう存じまする」老人は平伏しながら泣いた。「おすこやかに御成人あそばされめでたく——御世継ぎとして御帰館あらせられ、わたくしども一同、祝着に存じ奉りまする」
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「しかし出水もなく近い火のあやまちもなかったかわりに、もう、お姿を拝むことがなくなりました。あのようにすこやかにわたらせていながら、あえなくなるとは、人のいのちのもろさがはかられませぬ。」
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
おいらくのとしにもめげず、すこやかに、まめなる聲の
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
安土あづちにある三法師君さんぼうしぎみも、明けて五歳になった。この正月を迎え、そのすこやかな成長を拝すべく、年賀に伺候しこうする大名も多かった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はただ、一つの部屋におりましたというのみのこと、伝染うつるのを恐れて、投げ入れられましたなれど、実はこのとおりすこやかなのでございますから
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
あなたはすこやかで仕事に励んでいられるそうで喜びます。私は一時はずいぶん苦しみましたが、この頃は熱もなく、気分もよくなりましたから喜んで下さい。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
其処そこにはなつかしき母上の飛び出で給いて、やれ無事に帰りしか、大病をわずらいしというに、かくすこやかなる顔を見ることの嬉しさよと涙片手に取りすがられ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
イエスの目はたちまち愛に和らいで、「娘よ、汝の信仰汝を救えり、安らかに往け、病癒えてすこやかになれ」と祝福し給うたのであります(五の二九—三四)。
ここにもまた我々は肥満せる大人のそれに全然見られない、そうしてただすこやかに太れる嬰児の肉体においてのみ見られるあの清浄な豊満さを認め得るのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
材料に無理がある時、器は自然のとがめを受ける。また手近くその地から材料を得ることなくば、どうして多くを産み、やすきを得、すこやかなものを作ることが出来よう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかし、みんなすこやかにそだったので、いえうちは、まずしいながら、つねににぎやかでありました。
二番めの娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
すこやかなること六月の若木の樹體のなめらかさと強靱さが充ちきつてゐる。
裸女の画 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
おいらくのとしにもめげず、すこやかに、まめなる声の
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
人を清くすこやかにする
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「いえ皆んな本当です、この環玉枝が生きてこの壇に起って居ると同じように、志津子は北海道の果てに、すこやかに暮して居るのです。もう絵も描きません。歌も歌いません。四季とりどりの大観は、大自然のキャンバスに、神様が御自分の手で描いてくれます」
かくすこやかに大きく成られた姿を、父なる官兵衛にも見せたや、ご主君のお目にもかけたやと存じ、昨夜、南禅寺において
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どのひとまれてくるときも、すこやかに、平和へいわそだつようにとおもって、心配しんぱいするかしれません。
いいおじいさんの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この堂は光明皇后こうみょうこうごう建立こんりゅうにかかるもので、幾度かの補修を受けたではあろうが、今なお朗らかな優美な調和を保っている。天平建築の根強いすこやかさも持っていないわけではない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
パリサイ人の抗議に対して「すこやかなる者は医者を要せず、ただ病ある者これを要す。我は正しき者を招かんとにあらで、罪人を招かんとて来たれり」(二の一七)と答え給うた。
「されば、配所のお住居も、いつか十七年とおなり遊ばし、至っておすこやかに、為人ひととなりもまた尋常でいらっしゃいます」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「では、母上にも、どうぞ毎日を、今朝のごとく、おすこやかにお暮しくださいますように。……寧子ねねも、またしばらくの留守を、たのむぞ、たのむぞ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中間者ちゅうげんものの着る腰切こしきりの上着に三尺帯をしめ、木刀をさしている。柔軟ですこやかな体つきから見ても若さが知れる。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生きてゆく国土のさきに、いよいよ多事多端を感じるほど、身を、命をすこやかに備えておこうという気もちは、たれよりも老公自身が強かったにちがいない。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、すこやかだよ。何よりは、いやな思いもなく、戦陣の過労もえ、すっかり心がらくになったからの」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田舎いなかへ避難あそばして、おすこやかに、お産をお果しになるのも、御主人への貞節ではございませんか」
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、たった今、下総領しもうさりょうから来たばかりです。大和の大先生にも、その後、おすこやかでおられますか」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうじゃろう、なみよりは、ずんとすこやかじゃ」と、自慢気である。するとまた、吉光の前は
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや正季の一勢は、まだいささかすこやかです。多くは失っておりません」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このとおり、すこやかじゃ。——して、お養父ちち君も、その後は、お達者か」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かたじけのうござる。主人は、至ってすこやかなたちでござる故、その辺はわれ等も心づよく、働けますし、式事は、吉良殿が御親切におさしず下さります故、お蔭をもって、万端、整いましてござりまする』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)