便べん)” の例文
ここに於て守る者便べんを得、連夜水をみて城壁にそそげば、天寒くしてたちまち氷結し、明日に至ればまた登ることを得ざるが如きことありき。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いん平仄ひょうそくもない長い詩であったが、その中に、何ぞうれえん席序下算せきじょかさん便べんと云う句が出て来たので、誰にも分らなくなった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
選にれたる重要な作曲家のうちから、さらに数十人をいて年代順に略伝し、その重要作品と優秀レコードを掲げて、参考に便べんした次第である。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
陸路運輸の便べんを欠いてゐた江戸時代にあつては、天然の河流たる隅田川と此れに通ずる幾筋の運河とは、云ふまでもなく江戸商業の生命であつたが
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
けれどもぼく故郷くに二萬石にまんごく大名だいみやう城下じやうかで、縣下けんかではほとんどふにらぬちひさまちこと海陸かいりくとも交通かうつう便べんもつとかいますから、純然じゆんぜんたる片田舍かたゐなか
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
蟠「うっかりしていた、困ったなア、何処どこかへ往って借りよう、通り道にうちがあるだろう、構わず便べんをしなよ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
政治家なる者が教育の学校を自家の便べんに利用するか、または政治の気風が自然に教場に浸入したるものか、その教員生徒にして政の主義をかれこれと評論して
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
で、その便べんを得るためにそこでだんだん頼みましたが幾ら金を遣るからと言っても誰も行ってくれない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
歐文おうぶん日本歴史にほんれきしくとき、便宜上べんぎじやう日本年紀にほんねんきとも西歴せいれきちうして彼我ひが對照たいせう便べんするは最適當さいてきたう方法はうはふであり、歐文おうぶん歐洲歴史おうしうれきしくとき、西歴せいれきしたがふは勿論もちろんである。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
時に九月二日午前七時、伏木港ふしきこうを発する観音丸かんのんまるは、乗客の便べんはかりて、午後六時までに越後直江津えちごなおえつに達し、同所どうしょを発する直江津鉄道の最終列車に間にあわすべき予定なり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人の足立あしたてがたき処あれば一でうみちひらき、春にいたり雪うづだかき所は壇層だん/\を作りて通路つうろ便べんとす。かたち匣階はこばしごのごとし。ところものはこれを登下のぼりくだりするにあしなれ一歩ひとあしもあやまつ事なし。
いへには垣なければ盜人ぬすびとり、ひとには咎あれば、てき便べんとなる。やくといふのはそんなものだ。
その子分として用いた者が多くは無学の熊公くまこう八公はちこうるいであったから、かくのごとき紋切形コンヴェンションもうけ、これによりて統御とうぎょ便べんはかったのも、あるいは止むを得なかったことであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
譬えばスナワチということばにもそくの字があり、ないの字があり、そくの字があり、便べんの字があり、ヨルという詞にもいんの字があり、の字があり、えんの字があり、ひょうの字があり、きょの字があり
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
明朝までに便べんを少量届けてほしいと頼んで医学士は帰っていった。
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
こういう場合ばあいは、南蛮渡来なんばんとらい新鋭しんえい武器ぶきもかえって便べんがわるい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陸路運輸の便べんを欠いていた江戸時代にあっては、天然の河流たる隅田川すみだがわとこれに通ずる幾筋の運河とは、いうまでもなく江戸商業の生命であったが
姦言かんげんかざり、近事きんじり、時勢を窺伺きしし、便べんはしげきに投じ、冨貴ふうきを以て、志とす。これ利禄りろくう。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
冬分ふゆぶん往々わう/\敦賀つるがからふねが、其處そこ金石かないはながら、端舟はしけ便べんがないために、五日いつか七日なぬかたゞよひつゝ、はて佐渡さどしま吹放ふきはなたれたり、思切おもひきつて、もとの敦賀つるが逆戻ぎやくもどりすることさへあつた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
し建文帝にして走って域外にで、崛強くっきょうにして自大なる者にるあらば、外敵は中国をうかがうの便べんを得て、義兵は邦内ほうないに起るく、重耳ちょうじ一たび逃れてかえって勢を得るが如きの事あらんとす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)