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黄昏
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たそがれ
ふりがな文庫
“
黄昏
(
たそがれ
)” の例文
室
(
へや
)
に入つて
洋燈
(
ランプ
)
を點けるのも
懶
(
ものう
)
いので、暫くは
戲談口
(
じやうだんぐち
)
などきき合ひながら、
黄昏
(
たそがれ
)
の微光の漂つて居る室の中に、長々と寢轉んでゐた。
一家
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
分担金の必要はないのだが、菱苅と同様、停年近くの
黄昏
(
たそがれ
)
の状態で、みな、くすみにくすんでいる。谷川岳など、飛んでもない話だ。
一の倉沢
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
晩春の
黄昏
(
たそがれ
)
だったと思う。半太夫は腕組みをし、棒のように立って空を見あげており、その脇でお雪が、
袂
(
たもと
)
で顔を
掩
(
おお
)
って泣いていた。
赤ひげ診療譚:03 むじな長屋
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
市兵衛町の表通には
黄昏
(
たそがれ
)
近い頃なのに車も通らなければ人影も見えず、夕月が
路端
(
みちばた
)
に
聳
(
そび
)
えた老樹の梢にかかっているばかりであった。
枇杷の花
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
またあたりは妙に
森閑
(
しいん
)
と静まり返って再び山の墓場は木の葉の落ちる音一つ聞えるくらいの侘しい澄んだ
黄昏
(
たそがれ
)
の色に包まれ
初
(
そ
)
めたが
逗子物語
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
▼ もっと見る
どうしてこのように無心な者の言葉が、聴けば身に
沁
(
し
)
むのかということを考えて見るのもよい。風のない晩秋の
黄昏
(
たそがれ
)
に町をあるいて
こども風土記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
黄昏
(
たそがれ
)
がすつかり迫つて、アデェルが、私を殘して子供部屋に行つて、ソフィイと遊ぶ頃になると、私は堪へがたく逢ひたいと思つた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
黄昏
(
たそがれ
)
——その、ほのぼのとした
夕靄
(
ゆうもや
)
が、地肌からわき
騰
(
のぼ
)
って来る時間になると、私は何かしら
凝乎
(
じっ
)
としてはいられなくなるのであった。
腐った蜉蝣
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
海岸へ出る頃には、
黄昏
(
たそがれ
)
の明るみが月の光りに代りかけていた。茫と青白く光る海岸線が、魔物のような波音をのせて遠く続いていた。
月明
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
青年
(
せいねん
)
は、
赤
(
あか
)
い
旗
(
はた
)
が、
黄昏
(
たそがれ
)
の
海
(
うみ
)
に、
消
(
き
)
えるのを
見送
(
みおく
)
っていました。まったく
見
(
み
)
えなくなってから、
彼
(
かれ
)
はがけからおりたのであります。
希望
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
もう
黄昏
(
たそがれ
)
に近く、西日の影が、町の豆腐屋や織物屋の軒に赤々とさしこんでいる。——その一軒に、何か、まっ黒に人がたかっていた。
新書太閤記:05 第五分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
私は以前とは反対に溪間を冷たく沈ませてゆく夕方を——わずかの時間しか地上に
駐
(
とど
)
まらない
黄昏
(
たそがれ
)
の厳かな
掟
(
おきて
)
を——待つようになった。
冬の蠅
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
私は、朝の八時から、
黄昏
(
たそがれ
)
どきまで、十時間ほど、しゃっくりをつづけた。危いところであった。もう少しで死ぬところであった。
春の盗賊
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
壁にかけられた油絵のけばけばしい金縁の
光輝
(
ひかり
)
さえ、
黄昏
(
たそがれ
)
時の室の中の、鼠紫の空気の中では毒々しく光ることは出来ないらしい。
沙漠の古都
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
時既に
黄昏
(
たそがれ
)
ぬ。正午頃より今に至るまで、米を計りて待構えたる鮫ヶ橋の貧民等恩に浴せんとて
来
(
きた
)
る者無く、貧童一
人
(
にん
)
の影だに見えず。
貧民倶楽部
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
黄昏
(
たそがれ
)
は、誰も知るとおり、
曲者
(
くせもの
)
である。物みなが煙のように
輪郭
(
りんかく
)
を波打たせ、
蚊
(
か
)
が飛んでも、
雷
(
かみなり
)
が近づくほどにざわめき立つのである。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
さういふ
伴侶
(
なかま
)
の
殊
(
こと
)
に
女
(
をんな
)
は
人目
(
ひとめ
)
の
少
(
すくな
)
い
黄昏
(
たそがれ
)
の
小徑
(
こみち
)
につやゝかな
青物
(
あをもの
)
を
見
(
み
)
ると
遂
(
つひ
)
した
料簡
(
れうけん
)
からそれを
拗切
(
ちぎ
)
つて
前垂
(
まへだれ
)
に
隱
(
かく
)
して
來
(
く
)
ることがある。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
汝が僧とならんといふは、けふの
黄昏
(
たそがれ
)
の暗黒なる思案にて、あすは旭日の光に觸れて泡沫のごとく消え去るべきものにはあらずや。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
陽春のある
黄昏
(
たそがれ
)
である。しかし、万物
甦生
(
そせい
)
に乱舞するこの世の春も、ただこの部屋をだけは訪れるのを忘れたかのように見える。
黄昏の告白
(新字新仮名)
/
浜尾四郎
(著)
しかして、
黄昏
(
たそがれ
)
帰家せざるをもって家僕を迎わせんとせしに、あいにく不在なるにより、妻、一婢をもって出迎えせしは、すでに夜七時。
妖怪報告
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
もはや
黄昏
(
たそがれ
)
であった。こうしてさまざまに無駄骨を折ったあげくに見る我が宿は、世にも惨めな、きたならしいものに思われた。
鼻
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
店舗
(
みせ
)
にはみな煌々と
燈
(
あか
)
りがついて、通りかかる女たちも、人も、物も、すべてこの春の
黄昏
(
たそがれ
)
の幸福な安逸と、生の楽しさとを物語っていた。
孤独
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
着て居た羽織を
騙
(
かた
)
り取られた上、
黄昏
(
たそがれ
)
の場末の街上に置き去りにされた苦い経験があつたので、尚更不安に感じたのであつた。
乳の匂ひ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
小笠原はその持前の物静かな足取りで
黄昏
(
たそがれ
)
に
浸
(
ひた
)
り乍ら歩いていたが、やがて、伊豆の心に起った全ての心理を
隈
(
くま
)
なく想像することが出来た。
小さな部屋
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
はるかに火薬庫の煙筒は高く三田村の岡を
抽
(
ぬ
)
いて
黄昏
(
たそがれ
)
の空に現われているけれども、黒蛇のような煤煙はもうやんでしまった。
駅夫日記
(新字新仮名)
/
白柳秀湖
(著)
さてそれから、いかに現代が理想の
黄昏
(
たそがれ
)
であり空虚な時代であるかについて、軽快無比のアレグロ調の雄弁が際限もなく展開するのである。
チェーホフ序説:――一つの反措定として――
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
じりじりと濃さを深めて行く
黄昏
(
たそがれ
)
も、私には昨日もくりかえされ、また明日につづいて行く時間の重苦しさ以外のものを語りかけなかった。
軍国歌謡集
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
たださえ、人をこころの
故郷
(
ふるさと
)
に立ち返らさずにはおかない
黄昏
(
たそがれ
)
どき……まして、ものを思う身にはいっそう思慕の影を深める。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
庭の芝生は、
黄昏
(
たそがれ
)
の光の底に、濡れたやうなグリーンで、ゆき子の白い靴先が、木の卓子の下で、富岡の足とたはむれてゐる。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
時とすると生涯の
黄昏
(
たそがれ
)
がすでに迫って来て、このまま自滅するのではないかと思われもしたが、今においていくらかの取返しをつけるのに
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
長くながめていればいるほど、いよいよ見わけがつかなくなり、いっさいがいよいよ深く
黄昏
(
たそがれ
)
のうちに沈んでいくのだった。
城
(新字新仮名)
/
フランツ・カフカ
(著)
密林は、死んだような
黄昏
(
たそがれ
)
の闇のなかを、ときどき
王蛇
(
ボア
)
がとおるゴウッという響きがする。と、とつぜん、カークがポンと
膝
(
ひざ
)
をうって言った。
人外魔境:01 有尾人
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
駒井は今、その海と船との信仰に、全身燃ゆるが如き思いを抱いて、万里の海風に吹かれながら、
黄昏
(
たそがれ
)
の道をおのが住家へと戻って来ました。
大菩薩峠:24 流転の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
最も名残の惜しまれる
黄昏
(
たそがれ
)
の
一時
(
ひととき
)
を選んで、半日の行楽にやや
草臥
(
くたび
)
れた足を
曳
(
ひ
)
きずりながら、この神苑の花の下をさまよう。
細雪:01 上巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
ある秋の日の
黄昏
(
たそがれ
)
近くのころ、私はロンドンのD——コーヒー・ハウスの大きな弓形張出し窓のところに腰を下していた。
群集の人
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
そしていつか薄明は
黄昏
(
たそがれ
)
に入りかわられ、苔の花も赤ぐろく見え西の
山稜
(
さんりょう
)
の上のそらばかりかすかに黄いろに
濁
(
にご
)
りました。
インドラの網
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
高い天井には古風なシャンデリアが点いていたが窓外にはまだ
黄昏
(
たそがれ
)
の微光が
漾
(
ただよ
)
っているせいか、なんとなく弱々しい暗さを持った大広間だった。
赤耀館事件の真相
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
そのあいだに、イカバッドはあの大きなエルムの木の下の泉のほとりや、あるいは、
黄昏
(
たそがれ
)
のなかをぶらぶら散歩しながら、娘を口説くのだった。
スリーピー・ホローの伝説:故ディードリッヒ・ニッカボッカーの遺稿より
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
もう
黄昏
(
たそがれ
)
の人影が蝙蝠のようにちらほらする回向院前の往来を、側目もふらずまっすぐに、約束の場所へ駈けつけました。
妖婆
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ずっと向う側の卓で、話し声が
漸
(
ようや
)
く高くなって来た。上半身裸になって、汗が玉になって流れている。出口の方に、
黄昏
(
たそがれ
)
の色がうすれかかった。
桜島
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
それが済むと、菓子折を
奪
(
と
)
り合う子供の声がした。
凡
(
すべ
)
てがやがて
静
(
しずか
)
になったと思う頃、
黄昏
(
たそがれ
)
の空からまた雨が落ちて来た。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
連て立ち出しは既に
時刻
(
じこく
)
を計りし事故
黄昏
(
たそがれ
)
近き折なれば僅かの内に日は
暮切
(
くれきり
)
宵闇
(
よひやみ
)
なれば辻番にて三次は用意の
提灯
(
ちやうちん
)
へ
灯
(
あか
)
りを
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
麓の方で
晩鐘
(
いりあい
)
が鳴り出した。其鐘の
音
(
ね
)
に
促
(
うな
)
がさるゝかの如く、
鴉
(
からす
)
が
唖〻〻
(
あああ
)
と鳴いて、山の暮から野の
黄昏
(
たそがれ
)
へと飛んで行く。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
行きづまった山合いへ、一町ほど急な
降
(
くだ
)
りになっている。その底を流れる細谷川のかすかな水音の聞える
黄昏
(
たそがれ
)
であった。
花幾年
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
私達は晩餐のあとかかさず湖畔の草原へ出て、奇麗に露を綴った羽衣草を踏みながら、
黄昏
(
たそがれ
)
の長い北国の夕を味わった。
続スウィス日記(千九百二十三年稿)
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
目覺めても
黄昏
(
たそがれ
)
になつても、そして夜になつても、泣いて歸つて來る我兒がゐないことを思ふと、彼女は安らかに瞳を閉ぢることが出來なかつた。
珠
(旧字旧仮名)
/
素木しづ
(著)
すると、私のこの最後の疑問に対する明白なる答えとして、まだ
黄昏
(
たそがれ
)
だというのに、またもや例の幽霊がわたしの行く手をふさいでいるのを見た。
世界怪談名作集:12 幻の人力車
(新字新仮名)
/
ラデャード・キプリング
(著)
天も
焦
(
こ
)
げよと燃えあがる熖の紅ではなく、淋しい不可思議な花の咲く秋の野の
黄昏
(
たそがれ
)
を、音もなく包む青ばんだ
靄
(
もや
)
である。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
貨幣の
豪奢
(
ごうしゃ
)
で化粧されたスカートに廻転窓のある女だ。
黄昏
(
たそがれ
)
色の歩道に靴の市街を構成して意気に気どって歩く女だ。
女百貨店
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
一二五頁「花冠」は詩人が
黄昏
(
たそがれ
)
の途上に
佇
(
たたず
)
みて、「活動」、「楽欲」、「
驕慢
(
きようまん
)
」の
邦
(
くに
)
に漂遊して、今や帰り
来
(
きた
)
れる幾多の「想」と相語るに擬したり。
海潮音
(新字旧仮名)
/
上田敏
(著)
“黄昏”の意味
《名詞》
夕方、たそがれ時。
(出典:Wiktionary)
“黄昏”の解説
黄昏(たそがれ、たそかれ、コウコン、英:twilight)は、一日のうち日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯である。「黄昏時(たそがれどき)」。「黄昏れる(たそがれる)」という動詞形もある。
(出典:Wikipedia)
黄
常用漢字
小2
部首:⿈
11画
昏
漢検準1級
部首:⽇
8画
“黄昏”で始まる語句
黄昏時
黄昏方
黄昏頃
黄昏刻
黄昏曲
黄昏色
黄昏近
黄昏無常偈
黄昏一片麋蕪雨