鬼魅きみ)” の例文
と、その拍子に女はコートの右のそでに男の手がさわったように思った。で、鬼魅きみ悪そうに体を左にらしながら足早に歩いて往った。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
鶴生つりう(福島県西白河郡西郷村大字)の奥なる高助たかすけと云ふ所の山にては炭竈すみがまに宿する者、時としては鬼魅きみの怪を聴くことあり。其怪を伐木坊きりきぼう又は小豆磨あずきとぎと謂ふ。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
狐狸こり妖異よういや、鳥のつらをした異形の鬼魅きみ、そのほか外道げどう頭とか、青女あおおんなとか、そういった怪物あやしものが横行濶歩する天狗魔道界の全盛時代で、極端に冥罰めいばつ恠異かいいを恐れたので
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
たう開元年中かいげんねんちうこととぞ。戸部郡こぶぐん令史れいし妻室さいしつにしてさいあり。たま/\鬼魅きみところとなりて、疾病やまひきやうせるがごとく、醫療いれうつくすといへどもこれ如何いかんともすべからず。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と申しましても私自身その行動に就いては或る鬼魅きみの悪い疑問を持っているのでありますが、然も己が罪悪を認めるにいささかも逡巡しゅんじゅんする者でなく会う人ごとに自分は人殺しだと告白するにも拘わらず
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
暑いを吸うていたかわらすな鬼魅きみ悪くほかほかしていた。その時莚包むしろづつみ焼明たいまつを持って背の高い男が、を持った角顔の男のほうを見て
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
鳥の面をした異形いぎょう鬼魅きみ外法頭げほうあたまとか、青女あおおんなとか、怪物あやしものが横行濶歩する天狗魔道界の全盛時代で、極端に冥罰や恠異を恐れたので、それやこそ、忠文の死霊の祟りだということになった。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
とうとううす鬼魅きみが悪くなって、そのの練習を中止したことがあったが、こうした錯覚や幻想は決して珍らしいことではない。
追っかけて来る飛行機 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
生徒は鬼魅きみが悪くなったので、寝床ねどこを飛びだして二階へあがり、洋燈ランプを明るくしてふるえていると、間もなく二人の生徒が帰って来た。
女の姿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのうちでも最もはげしかったのは、函館市の東南になった大森浜であった。従ってここには、多くの哀話とともに鬼魅きみ悪い話が残っている。
焦土に残る怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
武士は声をかけられて初めてわれに返った。そこには一ちょう山籠やまかごを据えて籠舁かごかきが休んでいた。武士は一刻も早く鬼魅きみ悪い場所を離れたかった。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
姪は鬼魅きみ悪くなって寄宿舎を逃げ出そうと思ったが、ふと其の男を何処どこかで見たことがあるような気がしたので、いろいろと考えているうちに
阿芳の怨霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わたしはその車にいるのが鬼魅きみがわるいので、なんの事も思わず、その客にいておりたのです、その客は皆電車の前を横に切って往くのです。
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは曇った日の夕方のことで、ねずみ色に暮れかけた湖の上は蝸牛かたつむりった跡のようにところどころ鬼魅きみ悪く光っていた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
章一はそこに暗い鬼魅きみ悪いものを見たが、それよりも己にすがって己あるがために生きているように思われていた女が
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女房は鬼魅きみわるくなって、金を持ったまま後すざりして庖厨かっての方へ引込んで往ったが、こわくて脊筋から水でもかけられたようにぞくぞくして来たので
海坊主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
T機関士はうす鬼魅きみが悪かったが、それでも勇気を出して客室の方へ進んで往った。客室はがらんとしていた。
飛行機に乗る怪しい紳士 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二人は吾妻橋のたもとの交番の前を通って往った。入口に立っていた一人の巡査は、小女こむすめわかい男の姿をじろじろと見ていた。山西はそれがうす鬼魅きみ悪かった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
船頭同志はがたがたと跫音あしおとをさしながら橋板を渡って往った。その二人の黒い影が鬼魅きみ悪く忰の眼に見えた。
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
平三郎は刀の異状に力を得て、若党と三人で松明たいまつけて庭の隅隅すみずみを調べて廻った。曇った空に鬼魅きみ悪い冷冷ひえびえする風が出ていた。庭には何の異状もなかった。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「やんでるよ、すぐ御飯ごはんにするから、瓦斯ガスけて、表の戸を開けておくれよ」主翁は寒い風に当りたくなかった。それに家の外には鬼魅きみ悪い暗い夜があった。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
血で汚れた鬼魅きみ悪い首を見て女達は逃げ走った。村の騒ぎが大きくなったので、土地の役人が出て来た。
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
老婆はぎろりと眼を光らして、きいろにしなびているあごを右の方へ一二度突きだした。道夫は鬼魅きみがわるいので、もう何も云わないで老婆の頤で指した方へ往った。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
こう云って女はぶ鬼魅きみそうにして、そそくさと出て往った。飯田は呆然としてその後を見送っていた。
怪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
蒼白あおじろ鬼魅きみ悪い肉体の感じは緑青色の蛇の腹の感じといっしょになった。彼はまた胃のぬくみを感じた。彼はいさしの二串目の雉子焼を置いて急いでビールを飲んだ。
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
名音は変だから続いて縁側へ駈けあがって、室々へやへやの障子を開けて見たが怪しい男の姿は見えなかった。名音は鬼魅きみが悪いので自分の室へ入るなり寝床の中へもぐりこんだ。
法華僧の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
エルマは町の人と思ったので鬼魅きみ悪く思いながらも馬を止めた。馬はおびえたようにいなないた。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
旧幕のころであった。江戸の山の手に住んでいるさむらいの一人が、某日の黄昏ゆうぐれ便所へ往って手を洗っていると手洗鉢ちょうずばちの下の葉蘭はらんの間から鬼魅きみの悪い紫色をした小さな顔がにゅっと出た。
通魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あまり外がはっきり見えるのが鬼魅きみがわるいから、見るのをよして、また窓際に頬杖ほおづえをしていたのですが、なんだかじぶんの顔を見ている者があるような気がするので、ふと見ると
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこには鬼火が出るとか狸がいるとかと云うので、少年の橋田君は鬼魅きみがわるかった。
朝倉一五〇 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
由平は鬼魅きみがわるかったが、強いて気を強くして箸を執った。そして、椀の蓋を取ろうとしたところで、別なあおい手がすうっと来て由平の手を押えた。由平ははっとして顔をあげた。
阿芳の怨霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
朝陽を受けて水に映ったじぶんの影の上に、その時大きな物の影がふうわりとかかったが、それは人間の手のような、また見ようによっては蟹の鋏のようにも見える鬼魅きみの悪いものだった。
蟹の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この見すぼらしい姿を一眼見た用人は、気の毒と思うよりも寧ろ鬼魅きみが悪かった。
貧乏神物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「なにが鬼魅きみがわるいものか、あんな人は親切だよ、べろべろめてくれるよ」
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「それがさ、ほんとに鬼魅きみのわるい話だよおまえ。きもをつぶしちゃいかんぞ」
雪女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
傍へ寄って往ったら鬼魅きみを悪がるかも判らないが一つ聞いてやろうと思った。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
青暗く沈んでいた淵の水が急に動きだしたかと思うと、白い大きなあい色の魚の背が見えて来た。人間の大人ほどある鬼魅きみ悪い大きな岩魚が白い腹をかえしながら音もなく浮んだのであった。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
またわかい女があまり慣れなれしくするのもうす鬼魅きみがわるいので躊躇ちゅうちょした。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
鶴は依然として暢気のんきそうに頸を傾げていた。丹治は鬼魅きみ悪くなって来た。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
父親の左の眼が青く鬼魅きみ悪く見えた。父親はじっとせがれの顔に眼を移した。
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夫人の耳には正義のことばが鋭い力を持って響いた。夫人は鬼魅きみが悪かった。
白っぽい洋服 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
茶かすつもりであったことばはしに何か神秘的なものがつながった。賢次は洋燈ランプへ眼をやった。しんの切りようでもわるいのか、洋燈は火屋ほやの一方が黒く鬼魅きみわるくすすけていた。広巳はその時うなずいた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのぼうとした光の中には鬼魅きみの悪い毒どくしい物の影がしていた。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「おや、まあ、まるで生きてるようだね、鬼魅きみが悪いじゃないの」
偶人物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
謙蔵はうす鬼魅きみ悪く思わないでもないが、生死の判らない病人のもとへ帰って往くのに、汽車賃以外に一銭の小使こづかいのないのを心苦しく思っている処であったから、その心は黄金きん指環ゆびわきつけられた。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
章一は鬼魅きみが悪いのではかま羽織はおり鷲掴わしづかみにしてそこを飛びだした。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
讓の口元から頬にかけて鬼魅きみ悪いあたたかな舌がべろべろとやって来た。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
宅悦はお岩の鬼魅きみのわるい顔を避けながらもじもじしていた。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と云って、うなされるので、女房のとめ鬼魅きみをわるがって
位牌と鼠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
菊江は鬼魅きみが悪くなったので、急いですたすたと歩いた。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)