骸骨がいこつ)” の例文
「きみ、ごまかそうとしたって、そうはいかないよ。あと骸骨がいこつは五、六、七、八と四つあるじゃないか。早く開いて見せなさい」
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
烏瓜の花は「花の骸骨がいこつ」とでも云った感じのするものである。遠くから見ると吉野紙よしのがみのようでもありまた一抹の煙のようでもある。
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
へんなかたちをしたものは、こう返事をするなり、黒いヴェールを、ぱっとうしろへはねて、かさかさにひからびた骸骨がいこつを見せました。
骸骨がいこつの顔に大きな即効紙を張ったおばあさんも死んだ、善兵衛さんはどうしたのか、勝梅さんは天理教をやめて耶蘇ヤソになったといった。
空屋か、知らず、窓も、かども、皮をめくった、面にひとしく、おおきな節穴が、二ツずつ、がッくりくぼんだまなこを揃えて、骸骨がいこつを重ねたような。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その窓の下に見えていて骸骨がいこつのような鉄骨の穴から降る雪が消えこむ大屋根の廃墟の印象をかかずにいられないし、その廃墟をかけば
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
一同はそれらを皆ふさいでいった。また発見された物にはずいぶん珍しいものがあった。なかんずく猩々ひひ骸骨がいこつはすぐれたものであった。
江戸開城かいじょうの後、予は骸骨がいこつい、しばらく先生とたもとわかち、あと武州ぶしゅう府中ふちゅうの辺にけ居るに、先生は間断かんだんなく慰問いもんせられたり。
毎日幾時間かの間、氷に覆われて麻痺してる水の声がまたつぶやき出した。骸骨がいこつのような森の中には、清い鋭い歌を小鳥がさえずっていた。
骸骨がいこつの形をして脅すような容貌をした悪鬼の姿や、そのほか実に恐ろしい画像などが、一面にひろがって壁をよごしていた。
落穴と振子 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
「じゃ、その女の邪鬼だ、だから云わないことか、お前さんが骸骨がいこつと抱きあっている処を、ちゃんとこの眼で見たのだもの」
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
奇怪な骸骨がいこつのように砂に寝そべって、濃い、長い影を水のうえに吹き流していた。岸にはぴちゃぴちゃと川波が騒いでいた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
絵本だと、骸骨がいこつばかりの、恐ろしい姿にかかれているけれども、そんなふうじゃないね。それどころか、銀のししゅうをした、上着を着ている。
正成の姿は、たちまち、留守していた骸骨がいこつのような人々や、傷負ておいの片輪たちに、取りすがられ、また行く道をふさがれて、歩けないほどだった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆる荒熊あらくまと一しょにもつながれう、はかなかにも幽閉おしこめられう、から/\と骸骨がいこつむさくさ向脛むかはぎばんだあごのない髑髏しゃれかうべ夜々よる/\おほかぶさらうと。
斜めにうしろの地面に落ちてゐる二つの影——その一つは確かに自分の影であつたが、他の一つは骸骨がいこつの影であつたので、要次郎もあつと驚いた。
ひとつこわすように言わなけりゃいかんな、庭のあの小劇場はね。むき出しで、醜く立っているざまは、まるで骸骨がいこつだ。幕は風でばたついているし。
墓地の骸骨がいこつでも引張り出して来て使いたい此頃には、死人か大病人の外は手をあけて居る者は無い。盲目めくらの婆さんでも、手さぐりで茶位ちゃぐらいかす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「さあ、そっくりしている様だが、まあ待ちなさい」探偵はかんの中に横わる黒ずんだ腐れ骸骨がいこつの上に乗しかかるようにして見ながらしわがれ声で云った。
だが、すぐさま乗ったりはしないで、ロクは車賃を聞いて、それは高い、そんな値段じゃ駄目だと、骸骨がいこつみたいにせた老車夫を相手にかけあった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
顔も、胸も、手も、足も、まるでロウがとけたように、形を失い、あっと思う間に、肉はすっかりとけさって、あとには、骸骨がいこつだけが、残ったのです。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
円柱はとり外され、土台は高くもちあげられて、あたかも宙につるされた骸骨がいこつのようであった。御堂の内部はうつろなまま暗黒にとざされてみえない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
骸骨がいこつのような流木に腰を下し、砂に潜った足先に感ずる余熱の温りを慈しみ、ざざあ、ざざあ、と鳴る単調な汐の音に、こと新しく聞き入るのであった。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
が、彼の水兵服は勿論、皮や肉も焼け落ちたために下っているのは骸骨がいこつだけだった。こう云う話はガンルウムにいたK中尉にも伝わらないわけはなかった。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あの傷々いた/\しい、骸骨がいこつのようにせた老翁が、たま/\若い美しい妻をち得て、後生大事にその人にかしずき、それに満足しきっているらしい様子を見ては
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
民間にて天狗の骸骨がいこつと称して保存せるものがある。これは魚の頭骨に相違ない。多分、海豚いるかの骨ならんということじゃ。また、天狗の爪というものがある。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
骸骨がいこつの上をよそうて花見かな」(鬼貫)とはいうものの、花見に化粧して行く娘の姿は美しいものです。骸骨のお化けだ、何が美しかろうというのは僻目ひがめです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
骸骨がいこつ妖怪ようかいせみ蜻蛉とんぼ蜘蛛くもの巣、浴衣ゆかた、帷子、西瓜すいか、などいろいろと控えていて夏を楽しんでいる。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
その親譲りの恐怖心をててしまえ。わしは何もそう気味の悪い者ではない。わしは骸骨がいこつでは無い。男神おがみジオニソスや女神めがみウェヌスの仲間で、霊魂の大御神おおみかみがわしじゃ。
一番大きなのは骸骨がいこつとしての感じも堅く、歯並も揃い、髪の毛までもいくらか残って、まだ生々なまなまとした額の骨の辺に土と一緒に附着していた。それが泉太や繁の姉達だ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
最初は江戸の町人達も、どうせ、山かん野郎のペテン師だらうと多寡たくわをくくつて、——お寺の墓を掘り返して見ねえ、骸骨がいこつと一緒に、間違ひもなく六道錢は入つて居るよ。
いま一つは一休禅師いっきゅうぜんじの『一休骸骨がいこつ』『一休草紙』などによって、宗教を知り始めたことである。
明治十年前後 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
骸骨がいこつんなに歩きます。」彼れは弁解するというより、寧ろ、陳謝する如く、そう私へさゝやいた。私はその一言を聴くと、最早んな難詰の言葉を見出す力をも失った。
ラ氏の笛 (新字新仮名) / 松永延造(著)
そのとき、騎士は突然骸骨がいこつだけになり、ブラウワー老人を川になげこみ、木々のこずえよりも高く飛びあがり、雷鳴のようなとどろきとともに、消え去ったということである。
馬車から助け下された印度の紳士は、骸骨がいこつのように痩せ衰えた体を毛皮で包んでいました。大屋敷の主人はひどく心配そうでした。まもなく、お医者様の馬車が着きました。
その顔は骸骨がいこつのようにみえた、「待っていた」と十左衛門は云った、「いつかは来られると思っていた、いつかはここで会えると思っていた、原田どの、とうとう来られましたな」
展望の北隅を支えているかしの並樹は、ある日は、その鋼鉄のような弾性でない踊りながら、風を揺りおろして来た。容貌をかえた低地にはカサコソと枯葉が骸骨がいこつの踊りを鳴らした。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
それから少し離れて大変綿密なのがある。まず右のはじに十字架を描いて心臓を飾りつけ、その脇に骸骨がいこつと紋章を彫り込んである。少し行くとたての中にしものような句をかき入れたのが目につく。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ないしは珍らしい地図や模型、または金文字を表紙や背革へ、打ち出したところの沢山の書籍、かと思うと色の着いた石や金属、かと思うと気味の悪い人間の骸骨がいこつ、そう云ったものが整然と
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうしてその真中には顔や手足の肉が落ちて、濡れた髪毛かみのけをふり乱して、眼をき歯を噛み出した生きた骸骨がいこつのようなものが、呼吸いきをぜいぜい切らして、あおむけに寝ているではありませんか。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「顔だけ見ているとそうでもないが、裸体はだかになると骸骨がいこつだ。ももなんか天秤棒てんびんぼうぐらいしかない。能く立ってられると思う、」と大学でがんと鑑定された顛末てんまつを他人のはなしのように静かに沈着おちついて話して
妙念 お前たちは本門の傍で見張りをしているのだ、また眠りこけてなんぞいると、総身の膚膩ふにが焼き剥がれて生きながら骸骨がいこつばかりになってしまうのだぞ。早く行け、何をぐずぐずしているのだ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
その頃新聞に骸骨がいこつ物語とかいふ続き物ありしがある時これに画をはさまんとてその文の大意を書きこの文にはまるやうな画をかいてもらひたしと君に頼みやりしに君はただちにその画をかいて送りこしたり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ちらと滑稽おどけた骸骨がいこつ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あの爆発のおこる前「骸骨がいこつの四」だけが箱の中になかった。それで博士があわてだした。そのことを、いま蜂矢探偵は思いだした。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
からすうりの花は「花の骸骨がいこつ」とでもいった感じのするものである。遠くから見ると吉野紙よしのがみのようでもありまた一抹いちまつの煙のようでもある。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
崖のくずれを雑樹またやぶの中に、月夜の骸骨がいこつのように朽乱れた古卒堵婆ふるそとばのあちこちに、燃えつつ曼珠沙華まんじゅしゃげが咲残ったのであった。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふたりともその中に埋没し終わって、二つの骸骨がいこつとなり、その暗夜の片すみに横たわるに至りはすまいか。それは彼自身にもわからなかった。
「なるほど。わかったよ。ところで、僕にはもう一つだけ合点のゆかぬことがある。あの穴のなかにあった骸骨がいこつはなんと解釈すべきだろうね?」
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
のぞいてみると、女のおこもだの、業病ごうびょう乞食こつじきだの、尺八を持った骸骨がいこつみたいな菰僧こもそうだの、傀儡師だの、年老いた顔に白いものを塗っている辻君だの
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)