食卓テーブル)” の例文
そして思わずポスターから眼を外へ向けたとき、食卓テーブルの上へころころと紙を丸めたものが転げ落ちた。——誰か投げたものらしい。
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
トクさんは塩辛くて喰べられないというし、ピロちゃんは鮎子さんがいつまでも食卓テーブルにへばりついているといって拳固げんこで背中をこづいた。
今のあまったれたような声がまた聞えて、それが私のいる食卓テーブルの前へ来た。女給のおこうちゃんが客を送り出して帰って来たところであった。
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
にいさんはおとうさんとマリちゃんのをとって、みんなそろって、よろこいさんで、うちはいり、食卓テーブルまえすわって、一しょに食事しょくじをいたしました。
まかないも変ってから、白い頭巾ずきんを冠った亭主が白い前垂を掛けたおかみさんと一緒に出て、食卓テーブルの指図をするように成った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今夜もし夫人と同じ食卓テーブル晩餐ばんさんを共にしなかったならば、こんな変な現象はけっして自分に起らなかったろうという気が、彼女の頭のどこかでした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もっと燭火あかして、家來共けらいども! 食卓テーブルたゝんでしまうて、せ、あま室内ざしきあつうなったわ。……あゝ、こりゃおもひがけん慰樂なぐさみであったわい。
そこで今晩飯が嵐の後の凪のように平和に食われつつあるのだ、家政婦のアンソニー夫人はむっとしたような面持で食卓テーブルの足のところにしゃがんでいる。
食卓テーブル對端むかふには、武村兵曹たけむらへいそうほか三名さんめい水兵すいへい行儀ぎようぎよくならび、此方こなたには、日出雄少年ひでをせうねんなかはさんで、大佐たいさわたくしとがみぎひだりかたならべて、やが晩餐ばんさんはじまつた。
選挙人は頭の禿げた老人としよりで、自分達の選挙した代議士と差向ひに食卓テーブルに就くのが、何よりも愉快で溜らなかつた。
さう云ひながら、瑠璃子は右の手に折り持つてゐた、真紅の大輪のダリヤを、食卓テーブルの上の一輪挿に投げ入れた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
いちごを一摘み分捕って、乃公は食卓テーブルの下にかくれた。テーブル掛が下まで垂れているから見つかる気遣いはない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
……さつき悲鳴をあげて食卓テーブルに突ツ伏したのも、実は、この酒が不味くて、何うしても胸を落ちないので、一思ひにウノミにするために、あんな挙動をしたんだぞ。
素書 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
廣いがらんとした廣間ホールの隅で、小鳥が時時囀つて居た。ヱビス橋の側に近く、晩秋の日の午後三時。コンクリートの白つぽい床、所在のない食卓テーブル、脚の細い椅子の數數。
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
食卓テーブルにぴたりとつけて四脚の椅子が置かれ、更にもう一脚の椅子が、少し離れて、沢々つやつやしい箝木はめきの床に影を落し、そして何処ともなく煙草と果実くだものの匂いがほのかに残っていた。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
食卓テーブル前掛けをかけるとか、小さい子供は何時に昼寝をするとか、大きい子供は、学校から帰って来たならこうこうするとか、どこの家でも、子供にはみなそれぞれの規律きまりがあります。
女中訓 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
食卓テーブルの上には、珍らしい果物——ドリアンと、マンゴースチンがおかれてあった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
広い食卓テーブルには、いろんな御馳走が、きれいに並べてあるのです。
母の日 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
「どうぞ食卓テーブルにお就きになつて下さい!」
朝三人は食卓テーブルにすわつた
咽喉のどしめしておいてから……」と、山西は一口飲んで、隣の食卓テーブル正宗まさむねびんを二三本並べているひげの黒い男を気にしながら
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
居間いまなかでは、おとうさんとおかあさんとマリちゃんが、食卓テーブルまえすわっていました。そのとき、おとうさんはこういました。
そう云いながら、瑠璃子は右の手に折り持っていた、真紅しんくの大輪のダリヤを、食卓テーブルの上の一輪挿いちりんざしに投げ入れた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
先刻さっきから二人の様子を眺めていた下女が、いきなり来て、わざとらしく食卓テーブルの上を片づけ始めた。それを相図のように、インヴァネスを着た男がすうと立ち上った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もっさりした棉紗のカーテン越しにおずおずと内部なかのぞき込んで見ると、ジメジメした土間にじかに食卓テーブルを置いた横長の部屋で、「望郷ペペ・ル・モコ」に出てくる悪党フィルウそのままの
犂氏の友情 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
以前、外国人である父の友達が滞在した時、ここの田舎町の家具屋で急拵きふごしらえにつくつた箱のやうな寝台があつた。涼み台のやうな長椅子があつた。武骨な食卓テーブルがあつた。
F村での春 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
酒亭さかやはひった當座たうざには、けん食卓テーブルしたたゝきつけて「かみよ、ねがはくは此奴こいつ必要ひつえうあらしめたまふな」なぞといってゐながら、たちまち二杯目はいめさけいて、なん必要ひつえういのに
私は食卓テーブルの布の上に爪の延びた手を置いて、あの前垂掛で雑巾ざふきんを手にしたやうな無智な下婢達と犬とから、斯うした自分を先づ教育されたことを考へて、思はず微笑ほゝゑまずには居られなかつた。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
乞食はそばでじっとその様子を見ていたが、自分の食料として持っていた小さな麺麭片パンきれをば、食卓テーブルの下でそっと割って犬にやった。そして、盲が肉菜汁スープと肉をすっかり食べ終ったときに、彼はいった。
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
コンクリートの白つぽい床、所在のない食卓テーブル、脚の細い椅子の数数。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
その折サアゼントは或る知合の午餐会にばれて往つて、ひどく自分を崇拝してゐる一人の娘に出会つた。娘は食卓テーブル越しに、じつとこの画家の姿に見惚みとれてゐたが、暫くするとやつと重い口を開いた。
大尉はうれしそうに、拳骨げんこつでごつんと食卓テーブルをなぐった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
お幸ちゃんが声をかけると、その男は私の隣になった何人だれもいない食卓テーブルへ往って、私と同じように壁を背にして身を投だすように腰をかけた。
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「もっとくれ! のこすのはしい、おれが一でいただいちまおうよ。」といいながら、とうとう一人ひとりで、みんなべてしまって、ほね食卓テーブルしたげました。
津田は仕方なしに無言のまま、彼のすわっている食卓テーブルそばまで近寄って行ってこっちから声をかけた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
凝つとそればかりを眺めてゐれば何か斯う感傷的気分になつて来るぢやないか! 食卓テーブルがある! クロースが白い! お互ひの肴が、お互ひの前に置いてある! 食ひかけたのもあれば
夏ちかきころ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
暖炉の前の食卓テーブルえらんで盲を坐らせ、自分もその前に腰をかけた。
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
白いコンクリートの床、所在のない食卓テーブル、脚の細い椅子の數數。
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
次第に客がたて込んで二人の食卓テーブルにも洋服を着た客が来た。岩本はそれに気がいて、体をねじ向けて帳場ちょうばの上の柱にかかった八角時計に眼をやった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
卓上に掛けた白い布がまたこの明るさを助けるように、いさぎいい光を四方の食卓テーブルから反射していた。敬太郎はこういう都合のいい条件の具備したへやで、男の顔を満足するまで見た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白いコンクリートの床、所在のない食卓テーブル、脚の細い椅子の数数。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
二人は左手のすみ食卓テーブルについてビールを注文すると、顔馴染かおなじみふとった給仕女が二つの洋盃コップを持って来た。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
むこう側の食卓テーブルで二人の会社員らしい男の対手あいてをしている女がこっちを見た。
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)