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顋
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あご
ふりがな文庫
“
顋
(
あご
)” の例文
浦原嬢は強いて此の怪美人の傍へ来るは見識に障ると思ったか
顋
(
あご
)
で松谷嬢を指して「本統に貴女は化けるのがお上手です」と叫んだ
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
それで暫らく二人の無邪気な会話は
途切
(
とぎ
)
れたが、着物を畳んでいるお君の手は休まない。米友は両手で
顋
(
あご
)
を押えて下を向いていたが
大菩薩峠:09 女子と小人の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
彼の頭には
願仁坊主
(
がんにんぼうず
)
に似た比田の
毬栗頭
(
いがぐりあたま
)
が浮いたり沈んだりした。猫のように
顋
(
あご
)
の詰った姉の息苦しく
喘
(
あえ
)
いでいる姿が薄暗く見えた。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
お勢
母子
(
ぼし
)
の者の出向いた
後
(
のち
)
、文三は
漸
(
ようや
)
く
些
(
すこ
)
し
沈着
(
おちつい
)
て、
徒然
(
つくねん
)
と机の
辺
(
ほとり
)
に
蹲踞
(
うずくま
)
ッたまま腕を
拱
(
く
)
み
顋
(
あご
)
を
襟
(
えり
)
に埋めて
懊悩
(
おうのう
)
たる物思いに沈んだ。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
陳は
小銭
(
こぜに
)
を探りながら、女の指へ
顋
(
あご
)
を向けた。そこにはすでに二年前から、延べの
金
(
きん
)
の
両端
(
りょうはし
)
を
抱
(
だ
)
かせた、約婚の指環が
嵌
(
はま
)
っている。
影
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
▼ もっと見る
彼の大きく
窪
(
くぼ
)
んだ
眼窩
(
がんか
)
や、その突起した
顋
(
あご
)
や、その影のように暗鬱な顔の色には、道に迷うた者の極度の疲労と
饑餓
(
きが
)
の苦痛が現れていた。
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
渡辺刑事は、口を結んで黙っている下
顋
(
あご
)
の張った同僚の横顔をチラリと見て軽く舌打をしたが、然し
対手
(
あいて
)
の気を引き立てるように言った。
支倉事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
父親は脚を重ねたなり、自分の安楽椅子にもたれかかりながら、片手には株式新聞を持ち、片手で頬髯の間の
顋
(
あご
)
を、おもむろになでていた。
道化者
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
顋
(
あご
)
だけ見えて顔は見えない。どうかして顔が見たいものだ。あ。
下脣
(
したくちびる
)
が見える。右の口角から血が糸のように一筋流れている。
鼠坂
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
客の一人が旅は遠慮もなく、一人のコートの裾を牽き、お光を
顋
(
あご
)
で指し「中々美人だねえ、此処らにゃ惜しいもんじゃないか」
漁師の娘
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
「井かね、井は直ぐ
其
(
その
)
裏
(
うら
)
にあるだよ、それ其処をそう往ってもえゝ、
彼方
(
あっち
)
へ廻ってもいかれるだ」辰爺さんが
顋
(
あご
)
でしゃくる。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
額がそげて
顋
(
あご
)
がこけて、おまけに後頭部が飛び出していてなんとも言われない妙な顔であった、どこかロベスピールに似ているような気がした。
自画像
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
「叡山かい、叡山はそれさ」と山本は
顋
(
あご
)
で東北隅に聳えてゐる山を指した。「あれが叡山か」と三藏は感心する。
俳諧師
(旧字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
待つ間
稍々
(
やゝ
)
久しくして
主人
(
あるじ
)
は扉を排して出で来りぬ、でつぷり
肥
(
ふと
)
りたる五十前後の
頑丈造
(
ぐわんぢやうづく
)
り、牧師が
椅子
(
いす
)
を離れての
慇懃
(
いんぎん
)
なる
挨拶
(
あいさつ
)
を、
軽
(
かろ
)
くも
顋
(
あご
)
に受け流しつ
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
同様に眼は色が変り果てております。口は
顋
(
あご
)
が外れたと見えまして開きっ放しになっております。耳は大熱に浮かされて火のように赤く燃え上っております。
鼻の表現
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
阿Qの記憶ではおおかたこれは生れて初めての屈辱といってもいい、王鬍は
顋
(
あご
)
に絡まる
鬍
(
ひげ
)
の欠点で前から阿Qに侮られていたが、阿Qを侮ったことは無かった。
阿Q正伝
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
お孝が、ふと無意識の
裡
(
うち
)
に、一種の暗示を与えられたように、
掌
(
てのひら
)
を
反
(
そ
)
らしながら片手の指を
顋
(
あご
)
に隠した。
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「なに小林様? 御家老のお長屋はついその左手のお家がそうだ」と、
顋
(
あご
)
をしゃくって教えてくれた。
四十八人目
(新字新仮名)
/
森田草平
(著)
彼女は
顋
(
あご
)
で差し招くと、供の侍は麻の
幣
(
しで
)
をかけた
榊
(
さかき
)
の枝を白木の三宝に乗せて、うやうやしく捧げ出して来た。玉藻はしずかにその枝を把って、眼をとじて祈り始めた。
玉藻の前
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
剃
(
そ
)
り立てた
顋
(
あご
)
のあたりも青く生き生きとして、平素の金兵衛よりもかえって若々しくなった。
夜明け前:01 第一部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
と、油断の
面
(
つら
)
を切ッ尖に撫でられたのがたしかに二、三人、
顋
(
あご
)
を押さえてパッと飛び開いた。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
短かく刈り込んだ
顋
(
あご
)
ひげに、白髪の交じった、年の頃は五十余り、何だかスウィスらしくない男だ、英語も少しは話す、先ず我々の計画を話して置いて、扨て賃金の問題だが
スウィス日記
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
湯呑へ入れて店の
若衆
(
わかいし
)
に隠して食べて居るから、お母さんお呉れって云ったら、
遣
(
や
)
らないと云ってね、広がって居るから
縫物
(
しごと
)
を踏んだら突飛して
此処
(
こゝ
)
を打って、
顋
(
あご
)
へ疵が出来たの
敵討札所の霊験
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
斉明天皇の七年八月に、筑前朝倉山の
崖
(
がけ
)
の上に
踞
(
うずく
)
まって、大きな笠を着て
顋
(
あご
)
を手で支えて、天子の御葬儀を
俯瞰
(
ふかん
)
していたという鬼などは、この系統の鬼の中の最も古い一つである。
山の人生
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
私の前に坐つて居る市子の方を
顋
(
あご
)
で指し乍ら、何か
密々
(
ひそひそ
)
話し合つて笑つた事、菊池君が盃を持つて立つて来て、西山から声をかけられた時、怎やら私達の所に座りたさうに見えた事
菊池君
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
「この山河大地みな
仏性海
(
ぶっしょうかい
)
なり。」山河大地はそのままに「仏性海のかたち」なのである。山河を見るはすなわち仏性を見るのであり、仏性を見るとは
驢馬
(
ろば
)
の
顋
(
あご
)
、馬の口を見ることである。
日本精神史研究
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
と父は上り段に腰掛け
仰向
(
あおむ
)
けになって了った。浅七は
草鞋
(
わらじ
)
の紐を解いて両足を
盥
(
たらい
)
の中へ入れさせた。母は
冷
(
さ
)
めかけた汁の鍋を炉に吊して火を燃やした。恭三は黙って立膝の上に
顋
(
あご
)
をもたせて居た。
恭三の父
(新字新仮名)
/
加能作次郎
(著)
十時も過ぎたと思うに
蚕籠
(
こかご
)
はまだいくつも洗わない。おとよは思い出したように洗い始める。格好のよい肩に何かしらぬ
海老色
(
えびいろ
)
の
襷
(
たすき
)
をかけ、白地の
手拭
(
てぬぐい
)
を日よけにかぶった、
顋
(
あご
)
のあたりの美しさ。
春の潮
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
二十間許り西に離れた木立を
顋
(
あご
)
でしゃくって、跛の鬚男を追立てる。
奥秩父の山旅日記
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
横にあった火鉢を正面に引き寄せて、両手で火鉢の縁を押えて、肩を怒らせた。そして
顋
(
あご
)
を
反
(
そ
)
らして斜に僕の方を見た。傍へ来たのを見れば、褐色の八字
髭
(
ひげ
)
が少しあるのを、上に向けてねじってある。
花吹雪
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
年配の男は、向ふを見ながらお喜乃に
顋
(
あご
)
でしやくつた
都会と田園
(新字旧仮名)
/
野口雨情
(著)
一人は胸を、一人は
顋
(
あご
)
をくだかれて倒れた。
奇巌城:アルセーヌ・ルパン
(新字新仮名)
/
モーリス・ルブラン
(著)
三百両の金を
蔵
(
しま
)
って立ち上ろうとする。お松は情けない
面
(
かお
)
をして、眼にはいっぱいの涙を含んで、小さな
顋
(
あご
)
を
襟
(
えり
)
にうずめて
頷
(
うなず
)
きます。
大菩薩峠:01 甲源一刀流の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
襖
(
ふすま
)
をあけて、
椽側
(
えんがわ
)
へ出ると、向う二階の
障子
(
しょうじ
)
に身を
倚
(
も
)
たして、那美さんが立っている。
顋
(
あご
)
を
襟
(
えり
)
のなかへ
埋
(
うず
)
めて、横顔だけしか見えぬ。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
が、豪傑肌の父親よりも昔の女流歌人だった母親に近い秀才だった。それは又彼の
人懐
(
ひとなつ
)
こい目や細っそりした
顋
(
あご
)
にも明らかだった。
玄鶴山房
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
昇は
顋
(
あご
)
を
撫
(
な
)
でてそれを聴いていたが、お勢が悪たれた一段となると、不意に声を放ッて、大笑に笑ッて、「そいつア痛かッたろう」
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
土肥君は余の同郷、小学校の
同窓
(
どうそう
)
である。色の浅黒い、
顋
(
あご
)
の四角な、
鼠
(
ねずみ
)
の様な可愛いゝ黒い眼をした
温厚
(
おんこう
)
な子供であった。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
小さい新聞紙の包を大事そうにかかえて電車を下りると立止って何かまごまごしていたが、薄汚い
襟巻
(
えりまき
)
で丁寧に頸から
顋
(
あご
)
を包んでしまうと歩き出した。
まじょりか皿
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
鬢毛
(
びんもう
)
が薄くて
髯
(
ひげ
)
が濃いので、少女は
顋
(
あご
)
を頭と
視
(
み
)
たのである。優はこの容貌で洋服を
著
(
つ
)
け、時計の
金鎖
(
きんぐさり
)
を
胸前
(
きょうぜん
)
に垂れていた。女主人が立派だといったはずである。
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
其の上からお紺が口に人の肉を咬え
顋
(
あご
)
へ血を垂らしてソロソロ降りて来ると云う事だ、何分にも薄暗いから、先ず窓の盲戸を
推開
(
おしあ
)
けたが、錆附いて居て好くは開かぬ。
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
阿Qの
考
(
かんがえ
)
では、
外
(
ほか
)
に格別変ったところもないが、その
顋
(
あご
)
に絡まる
鬍
(
ひげ
)
は実にすこぶる珍妙なもので見られたざまじゃないと思った。そこで彼は
側
(
そば
)
へ行って並んで坐った。
阿Q正伝
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
山霊
(
さんれい
)
に対して、小さな
身体
(
からだ
)
は、既に茶店の屋根を
覗
(
のぞ
)
く、
御嶽
(
みたけ
)
の
顋
(
あご
)
に呑まれていたのであった。
栃の実
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
青
毛布
(
ケット
)
をおおい、顔には
白木綿
(
しろもめん
)
のきれをかけて
有之
(
これあり
)
、そのきれの下より見え候口もと
顋
(
あご
)
のあたりいかにも見覚えあるようにて、尋ね申し候えば、これは千々岩中尉と申し候。
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
一、本頭蓋骨の頭蓋は中型にして高型、顔面は稍長形、鼻は中型、
顋
(
あご
)
は前反型なりとす。
支倉事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
成程、新聞記者社会には先づ類の無い風采で、極く短く刈り込んだ頭と、真黒に縮れて、
乳
(
ち
)
の
辺
(
あたり
)
まで延びた頬と
顋
(
あご
)
の髭が、皮肉家に見せたら、顔が逆さになつて居るといふかも知れぬ。
菊池君
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
顋
(
あご
)
をグッと突き出すと同時に、青白い瞳を一パイに
剥
(
む
)
き出して私を
睨
(
にら
)
み付けた。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
色気の有る物にゃア仏様でも
敵
(
かな
)
いませんね、女がお参りに来なくっちゃアいけません、何うも鼻筋の通った口元の締った
所
(
とこ
)
は
左團次
(
さだんじ
)
に似て、
顋
(
あご
)
の斯う…
髪際
(
はえぎわ
)
や眼の
所
(
とこ
)
は故人
高助
(
たかすけ
)
にその儘で
松の操美人の生埋:02 侠骨今に馨く賊胆猶お腥し
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
小屋の入口に固まった黒い影は、
先登
(
せんとう
)
のフォイツであった、彼は近づくと両手に
顋
(
あご
)
をささえて、身動きもしないでナイン! とたった一言答えたまま、まるで呼吸が無いように黙ってしまった。
スウィス日記
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
顋
(
あご
)
と
頸
(
くび
)
のくくれもまた同じく推古時代の彫像においては用いられず
日本精神史研究
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
と、他の郎党へも、鞍の上から
顋
(
あご
)
をすくう。
新書太閤記:01 第一分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
顋
漢検1級
部首:⾴
18画
“顋”を含む語句
二重顋
顋髯
顋鬚
下顋
上顋
角顋
顋下
顋髭