隧道トンネル)” の例文
いや、駆け出そうとしたのですが、十メートル四方ほどの広間ホールを出て、外へ出る隧道トンネルへかかろうとして立ちすくんでしまったのです。
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
にしろよわつたらしい。……舞臺ぶたい歸途かへりとして、いま隧道トンネルすのは、芝居しばゐ奈落ならくくゞるやうなものだ、いや、眞個まつたく奈落ならくだつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この汽車が通って来た碓氷うすい隧道トンネルには——一寸ちょっとあの峠の関門とも言うべきところに——巨大な氷柱の群立するさまを想像してみたまえ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
拘留された俘虜達が脱走を企てて地下に隧道トンネルを掘っている場面がある、あの掘り出した多量な土を人目にふれずに一体どこへ始末したか
映画雑感(Ⅵ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それは迷路のように曲折しながら、石畳のある坂を下に降りたり、二階の張り出した出窓の影で、暗く隧道トンネルになった路をくぐったりした。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
桂から沓掛くつかけ、老ノ坂隧道トンネル——丹波篠村しのむら——千代川、薗部そのべ、観音峠——須知町、山家、綾部——そして舞鶴線に沿って、梅迫うめさこ、上杉
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて隧道トンネルの口が見えた。そこはかなり水かさのある河だったが、二人は堤防の石垣に手をかけて無事に地上へはい上がった。
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
しかし汽車はその時分には、もう安々と隧道トンネルすべりぬけて、枯草の山と山との間に挾まれた、或貧しい町はづれの踏切りに通りかかつてゐた。
蜜柑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
隧道トンネルに入って不思議に電灯が点かなかったこと、そこへ今の惨事さんじが発生したこと、これだけあれば車掌たちのるべき手段は至極しごく明瞭めいりょうだった。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
解脱げだつの路に近づくのでせう。」なんて云ふと、「人生は隧道トンネルだ。行くところまで行かずに解脱の光が射してくるものか。」
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
緑の隧道トンネルの遥か彼方に大斜面スロープが延びていたがすなわち富士の山骨であって、大森林、大谿谷、谷川、飛瀑を孕みながら空へ空へとしている。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私はその後「即興詩人」を読み返して、彼の隧道トンネルじょうに至る毎に、当時を回想し、戦慄を新たにしないではいられぬのだ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
川が生意気だって橋をかける、山が気に喰わんと云って隧道トンネルを堀る。交通が面倒だと云って鉄道をく。それで永久満足が出来るものじゃない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まだ汽車が蒸氣機關車の煤煙と共に碓氷の隧道トンネルに走り入つてゐた頃は、まるで白晒しらされた一本の脊髓骨の捨てゝある樣な、荒れ果てた古驛であつた。
樹木とその葉:26 桃の実 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
分岐線をがたがたと飛び越えてから、汽笛一声、マルセーユの市街の胴なかに明けられた長い隧道トンネルのなかへ走り込んだ。
階下居間の暖炉中の厚い鉄板をはずすと、そこもまた抜け穴になって、広いグラウンドの下を石の隧道トンネルで、思いもかけぬ遥か裏門までの出道があり
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
労働者たちは、時とすると半日も石炭に密閉されて、隧道トンネルに密閉された土工のように、暗い中で働いているのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
つまり隧道トンネルである。出入口には機関銃でそなえる。周囲の山々は八路軍がひそんでいる。最前線と言ってもよろしいが、大した戦闘というものはない。
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ここには名士の別荘もあり、汽車も隧道トンネルはすでに電化されており、時間も短いので、相当開けていることと思っていたが、降りて見て均平は失望した。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
監督の命令で崩れた土はすぐ停車場ステーション前の広場に積み上げる、夜を日についでも隧道トンネル工事を進めよというので、土方は朝からいつにない働き振りである。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
午後土河内どこうち村をう。堅田隧道トンネルの前を左に小径こみちをきり坂を越ゆれば一軒の農家、山のふもとにあり。一個の男、一個の妻、二個の少女麦の肥料を丸めいたり。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
兵庫県と岡山県の境になった上郡と三石みいし間の隧道トンネル開鑿かいさく工事は、多くの犠牲者を出してようやく竣工しただけに、ここを通る汽車は、その車輪の音までが
隧道内の怪火 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
うさぎあなしばらくのあひだ隧道トンネルのやうに眞直まつすぐつうじてました。まらうとおもひまもないほどきふに、あいちやんは非常ひじようふか井戸ゐどなかちて、びッしよりになりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
彼等の抱く如き思想は、もはや眼前の一大惨禍を喫着きっちゃくして、実は甚だ行詰っているのである。隧道トンネルの前には山勢まりて窮谷きゅうこくをなし、前に進むべき一条の路だに存せぬ。
列強環視の中心に在る日本 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
彼女の軽快に床を踏む靴先で私達の心臓にパミルの隧道トンネルをつくるぐらいは訳ないことなのです。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
少年の時に地理書で教へられた長い隧道トンネルを越えて伊太利イタリイはひり、マヂオル湖に沿うて汽車のはしまゝに風物は秋に逆戻りして、葡萄ぶだうの葉は赤く、板屋楓プラタアン広葉ひろばを光らし
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
一劃ごとに扉が附いているので、その間は隧道トンネルのような暗さで、昼間でもがんの電燈がともっている。左右の壁面には、泥焼テルラコッタの朱線が彩っているのみで、それが唯一の装飾だった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
創作する心象上の古い隧道トンネルを埋めるためには故郷との完全なる別離に頼る他はなかつた。
心象風景(続篇) (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
神が深き隧道トンネルつて、その人々の心にも愛を植ゑ、救の道を通ずるやうにして居らつしやると云ふ有難い本然の啓示を、栄一は貧民窟の多くの性格破産者を通じて教へられた。
しかしちょうど隧道トンネルの出口に見るような薄明りがぼんやりと射しているような気がした。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
湿ぽい深緑の葉の隧道トンネル。此処は既に石手いして川の堤の取り付きだ。三人は堤の上へ上る。三人の姿は僅に略筆にて沿へられた点景人物程に蔑視されて仕舞ふ程、雄大な欅の並木が続く。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
彼等は、木の幹に隧道トンネル穿うがち、列を分けて擦り減らして行つて、硬い樫の木も粉になるし、柔かい柳も同様だ。更に又そんなものよりは動物の体を腐らしたものを好きな奴がゐる。
贄川より隧道トンネルを過ぐるまでの間、山ようやく窄り谷ようやく窮まりて、岨道の岩のさまいとおもしろく、原広く流れ緩きをもて名高き武蔵の国の中にもかかるところありしかと驚かる。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ついに隧道トンネルから出た……。沈黙がもどってきた。ふたたび音楽が聞こえてきた。
隧道トンネルにさしかかると魔物のような音を立て、全速力で走っているらしかった。
林檎 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
左岸の城山しろやまに洞門を穿うがつのである。奇岩突兀とっこつとしてそびえ立つその頂上に近代のホテルを建て更に岩石層のたて隧道トンネルをくりぬき、しんしんとエレヴェーターで旅客を迎える計画だそうである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
鉄道の始めて通じた時はさぞ驚いたろうと思いますが、今では隧道トンネルなども利用しているかも知れませぬ。火と物音にさえ警戒しておれば、平地人の方から気がつくおそれはないからであります。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それから汽車は Zugerツウゲル Seeゼエ の湖に沿うて南下した。その湖畔には綺麗で小さっぱりとした村落などが見える。長い短い隧道トンネルを幾つかくぐり、隧道を出ると電気工場などがあった。
リギ山上の一夜 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
籠つて湿つた空気の臭ひと薄暗い隧道トンネルとが人を吸ひ込まうとしてゐる。十燭の電灯が隧道の曲り角にぼんやりと光つてゐる。其の下をちらと絹帽が黒く光つて通つた。僕は降りかけた足を停めた。
珈琲店より (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
夜の隧道トンネルの下を、ゆるやかに、物事が通って行こうとする。
向うの山の 新らしく出來た隧道トンネル
山果集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
隧道トンネルは骨をしゃぶって口を開け
サガレンの浮浪者 (新字新仮名) / 広海大治(著)
隧道トンネル洞穴ほらあなを潛行すれば
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
穿うが隧道トンネル二十六
県歌 信濃の国 (新字新仮名) / 浅井洌(著)
健一はさすがに元気一杯で、その間に東京から着いた人夫を督励して一度壊された堤防を築き直し、隧道トンネルの中から水をかい出しました。
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
帆柱が二本並んで、船が二そうかかっていた。ふなばたを横に通って、急に寒くなった橋の下、橋杭はしぐいに水がひたひたする、隧道トンネルらしいも一思い。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
するともなくすさまじいおとをはためかせて、汽車きしや隧道トンネルへなだれこむと同時どうじに、小娘こむすめけようとした硝子戸ガラスどは、とうとうばたりとしたちた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
解脱げだつの路に近づくのでせう。」なんて云ふと、「人生は隧道トンネルだ。行くところまで行かずに解脱の光が射してくるものか。」
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ちょうど二つ目の隧道トンネルへはいった時に青年はこう言ってじっと息を殺していた。私も石のようになって立ちどまった。
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
地下鉄道で長い間隧道トンネル内の空気を呼吸するのは衛生上有害ではないかという事を近頃ニューヨークで調査した。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)