遁出にげだ)” の例文
うぬ野狐、またせた。と得三室外へ躍出づれば、ぱっと遁出にげだす人影あり。廊下の暗闇やみに姿を隠してまた——得三をぞ呼んだりける。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
折々をり/\には會計係くわいけいがゝり小娘こむすめの、かれあいしてゐたところのマアシヤは、せつかれ微笑びせうしてあたまでもでやうとすると、いそいで遁出にげだす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わたくしはハツトおもつて一時いちじ遁出にげださうとしたが、今更いまさらげたとてなん甲斐かひがあらう、もう絶體絶命ぜつたいぜつめい覺悟かくごしたとき猛狒ゴリラはすでに目前もくぜん切迫せつぱくした。
相助たれて気が逆上のぼあがるほど痛く、眼もくらみ足もすわらず、ヒョロ/\と遁出にげだどぶへ駆け込む。時藏もたれて同じく溝へ落ちたのを見て
「今夜遁出にげだすようじゃ、お島さんも一生まごつきだぞ。何でもいから、おれに委して我慢をして……いいかえ」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一目散に遁出にげだしてしまっていた方が、寺田にとって、どんなに幸福だったかしれないのだが……。
魔像 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
それにその時分はふすまだの障子しやうじだのがたて切つてあるものだから、自分の思想や情緒とかいふものが、部屋の中から遁出にげだしてゆかないやうな安心した処があつてよく書ける。
一番気乗のする時 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
このはなしは一どういちじるしき感動かんどうあたへました。なかには遁出にげだしたとりさへあり、年老としとつた一かさゝぎ用心深ようじんぶかくも身仕舞みじまひして、『うちかへらう、夜露よつゆ咽喉のどどくだ!』としました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
折々おりおりにわ会計係かいけいがかり小娘こむすめの、かれあいしていたところのマアシャは、このせつかれ微笑びしょうしてあたまでもでようとすると、いそいで遁出にげだす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ええ、と吃驚びっくり身をひるがえして、おもて遁出にげだし雲を霞、遁がすものかと銀平は門口まで追懸け出で、前途ゆくてを見渡し独言ひとりごと
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遁出にげだすのを、もう是までと覚悟を決めて引戻す長二の手元へ、お柳は咬付かみつき、刄物をろうと揉合もみあう中へ、よろめきながら幸兵衞が割って入るを、お柳が気遣い
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おそ野蠻人やばんじん巣窟さうくつでゞもあればそれこそ一大事いちだいじ早速さつそく遁出にげだ工夫くふうめぐらさねばならぬ、それをるにはかくこのしま一周いつしうしてなければならぬとかんがへたので
「今度と云う今度は島ちゃんも遁出にげだ気遣きづかいはあるまい。おれの弟は男が好いからね」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これは、寺男の爺やまじりに、三人の日傭取ひようとりが、ものに驚き、泡を食って、遁出にげだすのに、投出したものであった。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
という内に富五郎は遁出にげだしましたが、悪運の強い奴で、表へ遁げれば弟子でしが頑張っているからすぐに取って押えられるのでございますが、裏口の方から駈出し、畑を踏んで逃げたの逃げないの
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そうか、と云って、よる夜中よなか、外へ遁出にげだすことは思いも寄らず、で、がたがた震える、突伏つッぷす、一人で寝てしまったのがあります、これが一番可いのです。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だって、姉さんがおどかすんですもの。私吃驚して遁出にげだしましたけれど、(お竹蔵。)の前でしょう、一人じゃ露地へ入れませんもの、可恐こわくって、私……」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今更遁出にげだそうッたってすきがあるんじゃなし、また遁げようと思ったのでもないが、さあ、じっとしていられないから、手近の障子をがたりといきおいよく開けました。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それじゃ退学にならずにいません。佐原の出で、なまじ故郷が近いだけに、外聞かたがた東京へ遁出にげだした。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先年せんねん麹町かうぢまち土手三番町どてさんばんちやう堀端寄ほりばたよりんだ借家しやくやは、ひど濕氣しけで、遁出にげだすやうに引越ひつこしたことがある。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
風説うわさの通り、あの峠茶屋の買主の、どこのか好事ものずきな御令嬢が住居すまいいたさるるでも理は聞える。よしや事あるにもせい、いざと云う時に遁出にげだしましてもさそうなものじゃったに……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遁出にげだすような。後へするするきぬの音。階子段はしごだんの下あたりで、主税が思出したように
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(わっ。)と云ってな、三反ばかり山路やまみちの方へ宙を飛んで遁出にげだしたと思え。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしそれにしてもあんまりなおびえ方だ。夢を見て遁出にげだすなんざ、いやしくも男子たるべきものが……と云って罵倒ばとうするわけじゃないが、ちとしっかりしないかい。串戯じょうだんじゃない、病気になる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
国民皆堕落だらく、優柔淫奔いんぽんになっとるから、夜分なあ、暗い中へ足を突込つッこんで見い。あっちからも、こっちからも、ばさばさと遁出にげだすわ、二疋ずつの、まるでもって螇蚸ばった蟷螂かまきりが草の中から飛ぶようじゃ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何、抱ッこで寝るッ、若い奴等、気のわり談話はなしをしてるな。」と表の戸がらりと開け、乱髪の間より鬼の面をぬっと出すは、これ鉄蔵という人間の顔なり。これにおびえてかの女の児は遁出にげだしたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
興を覚まして客は遁出にげだし、貴婦人方は持余して、皆休息所に一縮ひとちぢみ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は門まで遁出にげだしたよ。あとをカタカタと追って返して
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我知らず声を立てて、わッと泣きながら遁出にげだしたんです。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「成程、そこでうなされたんだ。その令夫人に魘されたのは、かえって望む処かも知れんが、あとの泥水はいやだったろう、全く気の精だな。遁出にげだしたも道理もっともだ。よく、あの板廊下が鉄道の線路に化けなかった。」
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わしはそうそうに遁出にげだした。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わし匆々さう/\遁出にげだした。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)