しず)” の例文
このおんなの日頃ねんじたてまつる観音出でて僧とげんじ、亡婦ぼうふの腹より赤子をいだし、あたりのしずにあづけ、飴をもつて養育させたまひけり。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
争う二人、——大名の若君と、町のしずと、その不思議な図は、丁度通りかかった高力家の家来達によって掻き乱されてしまいました。
亡き勝家の怨念おんねんをなぐさめ、しずたけ中入なかいりの不覚の罪を、ひたすら詫びせん心底なり——と、平然として云い払うのでありました
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此時からもう二人の間は、お互に警戒し合っている。こんな状態で済む筈はなく、ついにしずだけの実力的正面衝突となった。
賤ヶ岳合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さりながら、かの端唄はうたの文句にも、色気ないとて苦にせまいしず伏家ふせやに月もさす。いたずらに悲みいきどおって身を破るが如きはけだし賢人のなさざる処。
「じゃ、お内のお嬢さんは柳屋さんというんですね、屋号ですね、お門札かどふだの山下おしずさんというのが、では御本名で。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おのれきものぬぎかへてしずるつづりおりに似たる衣をきかへたり、この時扇一握いちあく半井保なからいたもつにたまひて曙覧にたびてよと仰せたり、おのれいへらく
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
いにしえのしず苧環おだまきり返して、さすがに今更今昔こんじゃくの感にえざるもののごとくれと我が額に手を加えたが、すぐにその手を伸して更に一盃を傾けた。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
演ずるに当って、演者は、たとえしずを演ずる場合にも、先ず『花』(美しいという観念)を観客に与えることを第一としなければならぬ。先ず『花』を
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その愉快なる声に和してしずの女らが美しき声で謡う歌は楽器か、雲雀の声は歌か、いずれがいずれとも分ち難きに、なお天然の真妙を現実に顕わしたるカックー
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しず手業てわざに暇のない、画にあるような山家の娘に見え出した、いや何となくそのように思われたので。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
世が世ならば猿面かんじゃめをあべこべに追いつめて腹をきらせてくれようものを、さくまげんばがおれの云いつけを守らなんだためにしずヶ岳においておくれをとり
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これなどは明らかにしず伏屋ふせやの最も凡庸なる者の生活であって、和歌にはすでに見離され、俳諧はなおその客観の情趣を、取り上げてあわれとながめているのであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
世に貴族と生れしものは、しずやまがつなどの如くわがままなる振舞、おもひもよらぬことなり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いやしきしずが小歌も心をとめて聞く時は。おしえにならざるはなし。げにその地にあらざれば。これをううれども生ぜず。その人にあらざれば。これを語れども聞えず……。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
月はうてなに輝くであろうが、しずをも照らすであろう。貧しき者も無学な者も、共に神の光を浴びる。イエスは学者を友とするより、好んで漁夫たちに交わったではないか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
身をやつす、しずが思いを、夢ほどさまに知らせたや、えい、そりゃ、夢ほど様に知らせたや……
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しずが伏せ屋の見すぼらしい母子おやこが只の人でないと眼をつけられ、綾羅錦繍りょうらきんしゅううちかしずかるる貴婦人がお里を怪しまるるそもそもの理由も、またここにあるのではありますまいか。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
炭焼はしずの中にもしずの業とは云いながら、都の華奢な浮世の手ぶりに慣れ慣れて、栄耀栄華に飽きの来た人々には、そこにまた一種のなつかしみを感ぜしむるものがあったのである。
殺風景だと思っていたコンクリートの倉庫も見慣れるとしず伏屋ふせやとはまたちがった詩趣や俳味も見いだされる。昭和模様のコーヒー茶わんでも慣れればおもしろくなるかもしれない。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「はるの野をふご手にうけて行しずのたゞなとやらんものあはれ也とは慈鎮の言なり」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
この時二の手で目付役の軍監を兼ねていた佐久間大学(しずたけの佐久間玄蕃げんばの後裔)
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
口の減らないじじいめが、何を痴事たわごとかしおる! 我が日本ひのもとは神国じゃ。神の御末みすえは連綿と竹の園生そのうに生い立ちおわす。海人あまが潮汲む浦の苫屋とまやしずまき切る山の伏屋ふせや、みなこれ大君おおぎみの物ならぬはない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夕貌ゆうがおの宿の仮寝の夜の、あの、源氏の君の頭もとに来て鳴いている蟋蟀こおろぎのことから、源氏ほどの人を、あの市井の中に連れて来て、しずの生活の物音を近間ちかまにきかせた手腕に驚いて、そういう意味で
大納言様でいらっしゃいましたか?………このような人里離れた下人しもびとしずにしげしげとお通いなさる御方が、よもや大納言様でいらっしゃろうとは、このじいめ、夢にも考えてはおりませなんだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
作「おしずさん是がかさねの墓だ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
神前の落葉掃くしず相ついで
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
まだ十七歳というこの姉の子に、秀吉は、河内かわち北山で、二万石を与えていた。そして、しずたけ、その他に、転戦させ、すこし功があると
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あおいで空を見ようともしない、この時に限らず、しずたけが、といって、古戦場を指した時も、琵琶湖びわこの風景を語った時も、旅僧はただ頷いたばかりである。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
演ずるに当つて、演者は、たとへしずを演ずる場合にも、先づ「花」(美くしいといふ観念)を観客に与へることを第一としなければならぬ。先づ「花」を
FARCE に就て (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「山科郷にわびしゅう暮らすみくずというしずでござります。殿にお目見得めみえを願いとうて参じました」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
月はうてなに輝くであろうが、しずをも照らすであろう。貧しき者も無学な者も、共に神の光を浴びる。イエスは学者を友とするより、好んで漁夫たちに交わったではないか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
国語に「あやし」といふ語幾様の意味に用うるや能くきわめずといへども、昔は見苦しきしずをあやしげなる家など言ひたるは少からず。されどそは此処ここに用うべきにあらず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しずたけ七本槍の時、あの連中が使った槍に竹の柄があった、竹を削って菊の花形に組合せてうるしを塗る、見たところではかしの柄と少しも変らぬのだが、間違っても折れることはない
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
世に貴族と生れしものは、しずやまがつなどのごとくわがままなる振舞い、おもいもよらぬことなり。血の権のにえは人の権なり。われ老いたれど、人の情け忘れたりなど、ゆめな思いそ。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しず上総念仏かずさねぶつに茶をみて 芭蕉
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しずなお祭めかしや髪かしら 盛弘
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「聞えたって、なあに、かまうもんか。なにかいったらしずたけで、すこしらなかったこしものに、生血いきち馳走ちそうさせてやるさ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「越後長岡出身のしずが、旧藩主の御同族なる旧田辺藩主より私と同行する様に求められるに至っては、晩香の名誉この上もなく、死して瞑すべきである」
こりゃ何んです、小石川青柳町、お夏さんで名がついた、式部小路の内に居る、おしずッて女房かみさんがちょうどその時、行燈あんどうを持って二階へ上って、見たんでがすと。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
呉羽 今更いうも愚痴なれど、ありし雲井のむかしには、夢にも知らなんだしず手業てわざに、命をつなぐ今の身の上。浅ましいとも悲しいとも、云おうようはござらぬのう。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かつてあの「大名物おおめいぶつ」は貧しい日常の用器に過ぎなかったではないか。あの茶人たちがしずを切って、簡素な器で茶をてた時、聖貧の徳に宇宙の美を味わっていたのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いかなるしずも、養蚕の方法と、製糸の一通りを心得ていないものはない。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
九重ここのえ大宮人おおみやびともかしはもち今日はをすかもしずさびて
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
本能寺変からしずたけ、北ノ庄の陥落と、かれには、あり得ない世の中の急変も、次から次へ、事実となって、身に迫って来た。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとい賤しゅう育っても、色好紙の色よくば、関白大臣将軍家のおそばへも、召しいだされぬとは限るまいに、しずがなりわいの紙砧、いつまで擣ちおぼえたとて何となろうぞ。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「はあ、お次に控えておりました、しずでござんすわいな。」とふらふらする。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの茶人たちがしずを切って、簡素な器で茶を立てた時、聖貧せいひんの徳に宇宙の美を味わっていたのである。茶器への讃美さんびは、働く器への讃美である。それはもともと雑器であったではないか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それから三上山みかみやま、近江富士ともいう、田原藤太が百足むかでを退治したところ——浅井長政の小谷おだにの城、七本槍で有名なしずたけ。うしろへ廻って見給え、これが胆吹の大岳であることは申すまでもあるまい。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夕貌ゆうがおの花しらじらと咲めぐるしず伏屋ふせやに馬洗ひをり
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)