虚言うそ)” の例文
秘密にする必要がない事でも、君江は人に問われると、唯にやにや笑いにまぎらすか、そうでなければ口から出まかせな虚言うそをつく。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
虚言うそいて……革財布は彼方で入用いりようとはなんだ、ちゃんと此処こゝに百金届いていますよ……其の百両の金は何処どっから持って来たんだ
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ほんとうに双鶴館の女将おかみが来たのではないらしくもあり、番頭までが倉地とぐるになっていてしらじらしい虚言うそをついたようにもあった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
かやうな訳で、運命は全く前定して居るものとすることは虚言うそであります、又全く前定して居ないと申すのも虚言であります。
運命は切り開くもの (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
だって、虚言うそをいっちゃあなりませんって、そういつでも先生はいう癖になあ。ほんとうに僕、花の方がきれいだと思うもの。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その様子が「御気の毒ですが事実だから仕方がありません。医者は自分の職業に対して虚言うそく訳に行かないんですから」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「チョイとチョイと本田さん、敢て一問を呈す、オホホホ。貴方は何ですネ、口には同権論者だ同権論者だと仰しゃるけれども、虚言うそですネ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
虚言うそけ」と、保さんはしっした。取組は前から知っていて、小柳やなぎが陣幕の敵でないことを固く信じていたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
旦那様に虚言うそを申すわけには参りませんからありのままをお話し致しますが、実際上一割ぐらいのコンミッションは、今のところ一般に必要と致します。
ある人は蓮太郎の人物を、ある人はその容貌ようばうを、ある人はその学識を、いづれも穢多の生れとは思はれないと言つて、どうしても虚言うそだと言張るのであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
篠田は語りつづく「人間のもつとも耻づかしいのは、虚言うそを吐くことです、喧嘩けんくわすることです、まけることです」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
西宮さんがそんな虚言うそを言う人ではないと思い返すと、小万と二人で自分をいろいろ慰めてくれて、小万と姉妹きょうだいの約束をして、小万が西宮の妻君になると自分もそこに同居して
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
見え透いた虚言うそ、藤吉はにっこりした。そしてなれなれしく、一本ずいと突っ込んだ。
桑名十一万石のご当主の御身おんみ、田沼ごときに抑えられ、家臣は殺されその娘はかどわかされ、しかも下手人の九十郎を、引き渡すよう掛け合われても、みすみす田沼に虚言うそをいわれ
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
可笑しい事だが虚言うそではない、止めても止めても涙が出る位に感動したのだつた。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
「ふん、またおばけか」と検事は顔をしかめてつぶやいたが、同時に唇の奥で、それとも伸子の虚言うそか——と附け加えたのは当然であろう。しかし、熊城はただならぬ決意をうかべて立ち上った。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しほに九郎兵衞は此方よりとんで出九助のもとゞりをつかみ取て捻伏ねぢふせ喰切くひしめこぶしかためて散々さん/″\に叩きすゑおのれはふとやつ江戸へ出て金をため親父が質田しちた取返とりかへすの又は百八十兩たくはへたの貰つたのと虚言うそ八百を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
自分の虚言うその見破られた意識から、ナースチャは困って泣きそうになった。
赤い貨車 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
して外国の書をよん欧羅巴ヨーロッパの制度文物をれと論ずるような者は、どうも彼輩あいつ不埒ふらちな奴じゃ、畢竟ひっきょう彼奴等あいつら虚言うそついて世の中を瞞着まんちゃくする売国奴ばいこくどだと云うような評判がソロ/\おこなわれて来て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
出陣間際に縁起でもないことをわざわざ報告に来たわけである。義元も敗けて居ずに「汝は我が怨敵おんてきである、どうして我に吉凶を告げよう」、人間でなくても虚言うそをつくかも知れないとやり込めた。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この間言ったこともまるで虚言うそかも知れぬ。この夏期の休暇に須磨すまで落合った時から出来ていて、京都での行為もその望を満す為め、今度も恋しさにえ兼ねて女の後を追って上京したのかも知れん。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「ええ、何もそんな事虚言うそいわないわ。それに仲々美人いいひとよ」
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
わたくしはお雪の家を夜の散歩の休憩所にしていたに過ぎないのであるが、そうする為には方便として口から出まかせの虚言うそもついた。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だつて、虚言うそをいつちやあなりませんつて、さういつでも先生せんせいはいふくせになあ、ほんとうママぼくはなはうがきれいだとおもふもの。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
花「それは有り難い、仮令たとえ虚言うそでも日の下開山横綱と云って貰えばなんとなく心嬉しい、やア、お茶を上げろよ、さア此方こっちへ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
恐るれば福を致し、或は侮り、或はたかぶれば災を致すのは、何事に於ても必ず然様有る可き道理である。古人は決して我等に虚言うそを語つて居らぬ。
震は亨る (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
真実ほんとか、虚言うそか——もし其が事実だとすれば、無論高柳の復讐ふくしうに相違ない。まあ、丑松は半信半疑。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
翁の頭脳あたまには一人の大きな戯曲家が住んで居る。其れ故、始めて翁と語る者は、彼は幻視まぼろしと事実と混同して居るんじや無いかと思ふ。或は彼は誇大な虚言うそを吐く男だと思ふ。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
二人が二人ながら見えすいた虚言うそをよくもああしらじらしくいえたものだ。おおそれた弱虫どもめ。葉子は世の中が手ぐすね引いて自分一人ひとりを敵に回しているように思った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかるに保は入舎を欲せないので、「母病気につき当分のうち通学許可相成度あいなりたく」云々という願書を呈して、旧にって本所から通っていた。母の病気というのは虚言うそではなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「あんな事を云ッて虚言うそですよ、慈母おっかさんが小遣いを遣りたがるのよ、オホホホ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
かき成程なるほど不審ふしん道理もつともの事實は我等が大病なりと手紙にかきやりしは虚言うそなりわけ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
虚言うそばッかし。ようござんすよ。たんとお一人でおいでなさいよ」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
吾々は時とすると理詰の虚言うそかねばならぬ事がある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
虚言うそと思うなら目にも三坪の佗住居わびずまい。珍々先生は現にその妾宅においてそのお妾によって、実地に安上りにこれを味ってござるのである。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かれがいう処のしらじらしさ、虚言うそは見透きてあきらかなれど、あらずというべき証拠なければ、照子は返さん言葉も無く、しおれてこうべれたまいぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はい、ありがたうはござりまするが、虚言うそは申せず、厭なりや出来ませぬ。おのれよく云つた、源太の言葉にどうでもつかぬ歟。是非ないことでござります。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
南無大慈大悲なむだいじだいひ観世音菩薩くわんぜおんぼさつ……いやアおほきなもんですな、人が盲目めくらだと思つてだますんです、浅草あさくさ観音くわんおんさまは一すんだつて、虚言うそばツかり、おほきなもんですな。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
自分があれほどの愛着をこめて看護してもよくならなかったものが、愛子なんぞの通り一ぺんの世話でなおるはずがない。また愛子はいいかげんな気休めに虚言うそをついているのだ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
道柏は利章に、「己はお主が父卜庵の友ぢやが、卜庵は生涯虚言うそは言はなんだ、お主は父に生れ劣つたぞ」と云つた。利章は「貴殿は近頃の事を御存じないから分からぬ」と云つた。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
たちまち座敷の一隅に声あり「お虎さんは、今日俺に鉛筆呉れるなんて虚言うそを言つたぜ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
虚言うそ仰しゃい。たとえばネ熱心でも、貴君のような同権論者は私ア大嫌だいきらい」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
はゝゝゝゝ、瀬川君の病気は不良わるくなるのも早いし、くなるのも早い。まあ大病人のやうに呻吟うなつてるかと思ふと、また虚言うそを言つたやうになほるから不思議さ——そりやあ、もう、毎時いつも御極りだ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
虚言うそばッかし。ありゃ初緑さんだよ」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
行先を教えて先へ行って待っていて下さいと虚言うそをついて、それなり寐こかしを食わしてしまうつもりであったのだ。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
はい、ありがとうはござりまするが、虚言うそは申せず、厭なりゃできませぬ。おのれよく云った、源太の言葉にどうでもつかぬか。是非ないことでござります。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
だって、私、母様おっかさんのおっしゃること、虚言うそだと思いませんもの。私の母様がうそをいって聞かせますものか。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
市「誰が呉れやした、虚言うそばかりいて、此の体は木彫きぼりじゃアねえし仏師屋ぶっしやが造ったなんてえ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ナニ、鍛工組合が決議した——吾妻、又た虚言うそいちや承知せぬぞ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「そんなことは、虚言うそだ」とお種は腹立たしげに打消した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)