薄日うすび)” の例文
洋一はちょいとためらったのち大股おおまたに店さきへ出かけて行くと、もう薄日うすびもささなくなった、もの静な往来を眺めまわした。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
くもうごいて、薄日うすびして、らしたむねと、あふいだひたひかすかにらすと、ほつとつたやうないろをしたが、くちびるしろく、血走ちばしるのである。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一歩一歩自信ありげに歩いてみるのだが、春の薄日うすびを受けて路上に落ちているおのれの貧弱な影法師を見ては、どうにも、苦笑のほかはなかった。
花燭 (新字新仮名) / 太宰治(著)
気がついたときは、風もしずまり、波もひくくなり、そして空は明るさを回復し、雲の間から薄日うすびがもれていた。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お宮のいちょうが黄色になればあぜにはすすき、水引き、たでの花、露草つゆくさなどが薄日うすびをたよりにさきみだれて、その下をゆくちょろちょろ水の音に秋が深くなりゆく。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
他田部子磐前おさたべのこいわさきという者の作。「ひなぐもり」は、日の曇り薄日うすびだから、「うすひ」の枕詞とした。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
む粟の薄日うすびあはれとほうやれと追ふ鳥すらや眼には見なくに
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
左膳の青眼せいがん薄日うすびに笑う。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
薄日うすびのかげもおとろへて
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
僕等はやむを得ずふねばたに立ち、薄日うすびの光に照らされた両岸の景色を見て行くことにした。もつとふなばたに立つてゐたのは僕等二人に限つたわけではない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
薄日うすびよわくもさず、くろいた黄蒲公英きたんぽゝ咲交さきまじまめはなの、むらさきにも、ぽつりともくろかげえぬ。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
墓地裏もつどふ子供の影さむき冬の薄日うすびの照りとなりにき
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
雪枝ゆきえいきせはしくつて一息ひといきく。ト老爺ぢい煙草たばこはたいた。吸殻すゐがらおち小草をぐさつゆが、あぶらのやうにじり/\とつて、けむりつと、ほか/\薄日うすびつゝまれた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼はそこにたたずんだまま、しばらくはただあたりの机をめつけたように物色していたが、やがて向うの窓を洩れる大幅おおはば薄日うすびの光の中に、余念なく書物をはぐっている俊助の姿が目にはいると
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
墓地裏もつどふ子供の影さむき冬の薄日うすびの照りとなりにき
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しぐれは、いまのまにんで、薄日うすびがさす……かへで小枝こえだのこつた、五葉いつはばかり、もみぢのぬれいろうつくしい。こぼれてるのはをしい。ばせば、せまにはで、すぐとゞく。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
素戔嗚は何となく、非難でもされたような心もちになって、思わず眼を薄日うすびがさした古沼ふるぬまの上へただよわせた。古沼の水は底深そうに、まわりにぐんだ春の木々をひっそりとほの明るく映していた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
薄日うすび鴛鴦おしどり
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ちやうど、空模樣そらもやうくも同一おなじどんよりとして、くもうごはうへ、一所いつしようごいて、時々とき/″\、てら/\とてん薄日うすびすと、ひかりけて、晃々きら/\ひかるのが、ぬまおもてまなこがあつて
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おうなつむりは白さを増したが、桂木のひざのあたりに薄日うすびした、ただくだん停車場ステエションに磁石を向けると、一直線の北に当る、日金山ひがねやま鶴巻山つるまきやま十国峠じっこくとうげを頂いた、三島の連山のすそただち枯草かれくさまじわるあたり
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おお沢山な赤蜻蛉あかとんぼじゃ、このちらちらむらむらと飛散とびちる処へ薄日うすびすのが、……あれから見ると、近間ちかまではあるが、もみじに雨の降るように、こううっすりと光ってな、夕日に時雨しぐれが来た風情ふぜいじゃ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きつね豆府屋とうふやたぬき酒屋さかやかはうそ鰯賣いわしこも、薄日うすびにそのなかとほつたのである。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)