葭簀張よしずばり)” の例文
そのへんに同じように葭簀張よしずばりの小屋を仕つらえた乞食芝居こじきしばい桶抜おけぬ籠抜かごぬけなどの軽業師かるわざしも追々に見物を呼び集めている処であった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
葭簀張よしずばりの茶店が一軒、色の黒いしなびた婆さんが一人、真黒な犬を一匹、膝にひきつけていて、じろりと、犬と一所いっしょに私たちをながめましたっけ。……
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葭簀張よしずばりの葭も同字なり。しかるに近頃葮の字を用ゐる人あり。後者は字引に「むくげ」とあるはたしかならねど「よし」にあらざるは勿論なり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
一方は銭形平次と八五郎、赤羽橋有馬屋敷の角、お濠端ほりばた葭簀張よしずばりの中に、辰刻いつつ(午前八時)過ぎから眼を光らせました。
テラスの葭簀張よしずばりの下へ出て見たが、雨のあとでひとしお青々としている庭の芝生の上に、白いちょうが二匹舞っており、ライラックと栴檀せんだんの樹の間の
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
折之助は葭簀張よしずばりの小屋の中にいた。そこは日本堤の東南の端で、うしろ(土堤どての下)に山谷堀の舟着きがある。
雪と泥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いちめん茫々とひろい草地の上のところどころに葭簀張よしずばりのかこい場がある。はるかむこうの川入りの池のそばで、十二三羽の鶴が長い首をふって歩きまわっている。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
急ぎ足ですた/\/\/\と馬籠の宿を出外ではずれにかゝりますると、其処そこには八重やえに道が付いて居て、此方こっちけば十曲峠じっきょくとうげ……と見ると其処に葭簀張よしずばり掛茶屋かけぢゃやが有るから
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
米友はつ憤慨し、且つ悲観してしまって、柳原の昨晩騒ぎのあったところまで来て見たけれども、河岸かしに材木が転がっていたり葭簀張よしずばりがしてあったりするくらいのもので
ところがチャント門限があって出ることが出来ぬから、当直の門番を脅迫して無理にけさして、鍋島なべしまの浜と云う納涼すずみ葭簀張よしずばりで、不味まずいけれども芋蛸汁いもだこじるか何かで安い酒をのん
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
二人は砂山の下の、昼間は海に入る人の着物を預かる葭簀張よしずばりの茶店の中にかけ込んだ。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
夏は紅白の蓮の花が咲いた。土手には草が蓬々ほうほうと茂っていた。が、濠端を通る人影はまばらだった。日影のすくない、白ちゃけた道が、森閑しんかんとして寂しく光った。葭簀張よしずばりの店もなかった。
四谷、赤坂 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
正面はたかき石段にて、上には左右に石の駒寄こまよせ、石灯籠などあり。桜の立木の奥に社殿遠くみゆ。石段の下には桜の大樹、これに沿うて上のかたに葭簀張よしずばりの茶店あり。店さきに床几しやうぎ二脚をおく。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
安政元年に竜池父子の贔屓にした八代目団十郎が自刃した。二年は地震の年である。江戸遊所の不景気は未曾有で、幇間は露肆ろし天麩羅てんぷらを売り、町芸妓は葭簀張よしずばりにおでん燗酒かんざけひさいだそうである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
土手の上には枝を張つた大きなとちの樹があつて、其傍の葭簀張よしずばりには、午後四時過ぎの日影が照つて居た。兄の少年は其の隣の老人がとぼ/\と土手に登つて行くのを見えなくなるまで見送つて居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
その頃、両国りょうごく川下かわしもには葭簀張よしずばり水練場すいれんばが四、五軒も並んでいて、夕方近くには柳橋やなぎばしあたりの芸者が泳ぎに来たくらいで、かなりにぎやかなものであった。
向島 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ちょっとした葭簀張よしずばりの茶店に休むと、うばが口の長い鉄葉ブリキ湯沸ゆわかしから、渋茶をいで、人皇にんのう何代の御時おんときかの箱根細工の木地盆に、装溢もりこぼれるばかりなのを差出した。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ついシュトルツ家の裏庭の方で、子供たちの声がしているのでお春が呼びに行こうとするのを、雪子は止めて、ひとりテラスの葭簀張よしずばりの下へ出て、白樺しらかばの椅子に掛けた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
御新造が此方こちら縁付かたづいてから二日目のこと、丁度三年以前の五月三十日の晩ですが、水道町の仕事の帰りに勘定を取って、相変らず一口やった揚句あげくはて、桜の馬場の葭簀張よしずばり
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
葭簀張よしずばりの水茶屋で、喧嘩にも夕立にも、閉める戸がありません。三千兩の吊臺つりだいはその儘土間を通つて磨き拔いた茶釜の後ろ、——ほんの三疊ばかりの茣蓙ござの上に持込まれました。
その頃、小田原の城跡には石垣や堀がそのまま残っていて、天主台のあった処には神社が建てられ、その傍に葭簀張よしずばり休茶屋やすみぢゃやがあって、遠眼鏡とおめがねを貸した。
十六、七のころ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
葭簀張よしずばりの水茶屋で、喧嘩にも夕立にも、閉める戸がありません。三千両の釣台はそのまま土間を通って磨き抜いた茶釜の後ろ、——ほんの三畳ばかりの茣蓙ござの上に持込まれました。
やなぎおくに、けて、ちひさな葭簀張よしずばり茶店ちやみせえて、よこ街道かいだう、すぐに水田みづたで、水田みづたのへりのながれにも、はら/\燕子花かきつばたいてます。はうは、薄碧うすあをい、眉毛まゆげのやうな遠山とほやまでした。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もうこのテラスに渡してある日覆ひおおいの葭簀張よしずばりも、近日取りけなければならない。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これから案内あんないれてき、はしわたると葭簀張よしずばり腰掛こしか茶屋ぢやゝで、おく住居すまゐになつてり、戸棚とだなみつつばかりり、たないくつもりまして、葡萄酒ぶだうしゆ、ラムネ、麦酒ビールなどのびん幾本いくほんも並んで
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
両側とも菜飯田楽なめしでんがく行燈あんどうを出した二階だての料理屋と、往来おうらいせばむるほどに立連たちつらなった葭簀張よしずばり掛茶屋かけぢゃや
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
花「お父様とっさま、あの毎日あすこの葭簀張よしずばりに炭屋さんが休んで居りますねえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そこを——三光坂上の葭簀張よしずばりを出た——この老人はうらがれを摘んだかごをただ一人で手に提げつつ、曠野あらのの路を辿たどるがごとく、烏瓜のぽっちりと赤いのを、蝙蝠傘こうもりがさからめていて、青い鳶を目的めあて
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
テラスの上には、もう例年のように葭簀張よしずばりの日覆いが出来ていた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その女学校の門を通過ぎた処に、以前は草鞋わらじでもら下げて売ったろう。葭簀張よしずばりながら二坪ばかりかこいを取った茶店が一張ひとはり。片側に立樹の茂った空地の森を風情にして、如法にょほうの婆さんが煮ばなを商う。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)