腑甲斐ふがひ)” の例文
「兄さん、後生だから、そんな事は止して下さい。捨てられたのは私の腑甲斐ふがひなさで、お駒に少しも惡いことはありません」
さびしき微笑びせう)わたしのやうに腑甲斐ふがひないものは、大慈大悲だいじだいひ觀世音菩薩くわんぜおんぼさつも、お見放みはなしなすつたものかもれません。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あはれなるは繼子まゝこ身分みぶんにして、腑甲斐ふがひないものは養子やうしれと、今更いまさらのやうになかのあぢきなきをおもひぬ。
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しか宗助そうすけにはまる時間じかんつぶしにやう自覺じかくあきらかにあつた。それをつくろつてつてもらふのも、自分じぶん腑甲斐ふがひなさからであると、ひとつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
妻にびる愚かなる父の為めに遂には旅の空にやつて来て下等な労働者をしなければならぬ腑甲斐ふがひない自分を思ふと歯ぎしりして故郷の空をにらみたい気もしたが
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
が、馬越は友達は扨置さておき、母にさへ妻にさへ、へりくだつてゐなければならぬ腑甲斐ふがひなさを悲んでゐた。——この二人も知らず識らず自分を内海に比べてゐるらしかつた。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
取分とりわけて申候迄まうしさふらうまでもなし実際においてかゝる腑甲斐ふがひなき生活状態の到底たうてい有得ありうべからざるとなり申候まうしそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
人間にんげんうまでにりませずば、表向おもてむ貴下あなたのおともをいたしまして、今夜こんやなんぞ、たとひ對手あひて藝者げいしやでも、御新姐樣ごしんぞさまには齋檀那ときだんな施主方せしゆがた下足番げそくばんでもしませうものを、まつた腑甲斐ふがひない
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
妻の此の生活に疲れたさまが保雄の心には気の毒で成らぬけれども、此の境遇から救ひ出す方法も附か無いので腑甲斐ふがひない良人をつとだと心の内で泣乍なきながむを得ず其日其日そのひ/\を無駄に送るより外は無かつた。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
幸ひにかく御預おんあづかり申さんなどと云て受取たるに相違あるまじエヽおのれは腑甲斐ふがひなき女かな武士の女房には似合にあは心底しんていかく零落れいらくしても大橋文右衞門なるぞ心まで困窮こんきうはせぬおのれまでさもしき根生こんじやうになりたるやと女房お政を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
う語り終つたお嘉代は、亡夫の望を果し得なかつた腑甲斐ふがひなさと、十五年間の爪にともすやうな苦心を思ひ起して、たゞさめ/″\と泣くのです。
やがて伍長ごちやうの肩書も持たば、鍛工場たんこうじやうの取締りとも言はれなば、家は今少し広く、小女こおんなの走り使ひを置きて、そのかよわき身に水はまさじ。我れを腑甲斐ふがひなしと思ふな。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「あれは極楽も地獄も知らぬ、腑甲斐ふがひない女の魂でござる。御仏を念じておやりなされ。」
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いやさ決して卑下致すわけに之なく實に長兵衞樣其方はとても及ばぬ事故どういつその事町人に成度なりたしと申ければ長兵衞は腑甲斐ふがひなき事に思へども夫なら先私しが申通りになされて御覽じませ夫には資本金もとできんの入ぬやうに紙屑買かみくづかひよろしからんといへいづれにもよきに頼むとの事に付終に紙屑買かみくづかひと相談を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何んといふ腑甲斐ふがひない人間かと、胸をかきむしつて口惜しがつたが、主人始め多勢の人、わけても多與里殿に、心から禮を言はれると、自分のした事も忘れてしまつて
れを腑甲斐ふがひなしとおもふな、うでにはしよくありすこやかなるに、いつまでくてはあらぬものをと口癖くちぐせあふせらるゝは、何處どこやらこゝろかほでゝいやしむいろえけるにや
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
燒場やきばへ送りし時金子は何程取しぞかくさず申せと云はるゝに願山は大いに驚き扨々さて/\兄は腑甲斐ふがひなきやつとは思へども今更いまさらちんずる事も出來ざれば其儀は嘉川樣にたのまれしせつ金二兩もらひしと申ければ大岡殿笑はせられおのれも安い人間ぢやしかし兄より利發りはつ者兄の多兵衞は主税之助にたのまれて島の施主せしゆに立ながらたツた一兩もらつたと申其方は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一人並いちにんなみをとこになりながらなん腑甲斐ふがひない車夫しやふ風情ふぜいにまで落魄おちぶれずとものことほか仕樣しやうのあらうものを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私の腑甲斐ふがひないのに腹を立てゝ、新吉がやつたのかしらと、一應は思ひましたが、この男は生れ付きの善人で、氣の弱い事この上なしですから、人を殺せる筈はありません。
一日いちにちとこいてふせつてこと一度いちど二度にどでは御座ござりませぬ、わたし泣虫なきむし御座ございますから、その強情がうじやう割合わりあひ腑甲斐ふがひないほど掻卷かいまきえりくひついてきました、唯々たゞ/\口惜くやなみだなので
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
駒吉はいろ/\と立ち働くお秀の後ろ姿を眼で追ひ乍ら腑甲斐ふがひなくも涙組むのです。
千本金之丞あわてたやうに合槌あひづちを打つのでした。役高をあはせて百五十石取の武家にしては、影が薄くて、卑屈で、島家の用人風情に引廻されて居る腑甲斐ふがひなさを、事毎に平次は見せつけられます。
喜八郎は腑甲斐ふがひなくもさう言ふのでした。