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脹
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ふく
ふりがな文庫
“
脹
(
ふく
)” の例文
其處にお京の床は紅い木綿の裏を見せて、淋しく敷き捨てたまゝ、枕の
脹
(
ふく
)
らみ具合では、一度も寢なかつたことが一と目で解ります。
銭形平次捕物控:080 捕物仁義
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
石橋を渡る駄馬の蹄の音もした。そして、満腹の雀は
弛
(
たる
)
んだ電線の上で、無用な
囀
(
さえず
)
りを続けながらも尚おいよいよ
脹
(
ふく
)
れて落ちついた。
南北
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
勇がふかし
甘薯
(
いも
)
を
頬張
(
ほおば
)
ッて、右の頬を
脹
(
ふく
)
らませながら、モッケな顔をして文三を
凝視
(
みつ
)
めた。お勢もまた不思議そうに文三を凝視めた。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
眼もなければ口もないのに、胃袋は自尊と虚栄でパンクせんばかりに
脹
(
ふく
)
れている。こいつが時々思い出したように竜之助を挑みにくる。
西隣塾記
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
いつどこの地方へ行って見ても、女が腹を
脹
(
ふく
)
らして居るのを沢山見受けるです。ネパール位腹の脹れた女を沢山見る所はどこにもない。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
▼ もっと見る
兄の岩太郎は、顔や胸を泥に穢したまま
鳩尾
(
みぞおち
)
をフイゴのように
脹
(
ふく
)
らしたり
凹
(
へこ
)
めたりしながら、係長がはいって行くから睨みつづけていた。
坑鬼
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
萎
(
しぼ
)
んだ軽気球が水素ガスを吹込まれると満足げに
脹
(
ふく
)
れあがつて、大きな影を落しながら、ゆるゆると昇つて行くのを眺めたり
日本三文オペラ
(新字旧仮名)
/
武田麟太郎
(著)
つつましやかな
脹
(
ふく
)
らみを有つてゐる胸のあたりの線も、此年頃の大抵の日本の女に見られるやうな醜い欠点とはならなかつた。
水と砂
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
その時、水平線がみるみる
脹
(
ふく
)
れ上がって、
美
(
うるわ
)
しい
暁
(
あけぼの
)
の息吹が始まった。波は
金色
(
こんじき
)
のうねりを立てて散光を彼女の顔に反射した。
潜航艇「鷹の城」
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
今や
人々戲言
(
ざれごと
)
と
戲語
(
たはけ
)
とをもて教へを説き、たゞよく笑はしむれば僧帽
脹
(
ふく
)
る、かれらの求むるものこの
外
(
ほか
)
になし 一一五—一一七
神曲:03 天堂
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
その南風が吹き募ると、海と空が茫と
脹
(
ふく
)
らんで白く燃え上るようであった。どうかすると真夏よりも
酷
(
きび
)
しい光線で野の緑が射とめられていた。
秋日記
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
それでも、私の視線は乱れ、冷たい汗が一度に全身から流れ、こめかみのあたりが
脹
(
ふく
)
れあがる気がし、ひどい耳鳴りがした。
死刑囚最後の日
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
お鳥は
冷
(
ひや
)
っこい台所の板敷きに、
脹
(
ふく
)
ら
脛
(
はぎ
)
のだぶだぶした脚を投げ出して、また浅草で関係していた
情人
(
おとこ
)
のことを言いだした。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
そこは稼業でございますから、花里も嫌だと思っていましたって、まさか
脹
(
ふく
)
れッ面もしていられない。座敷へ這入りますと
根岸お行の松 因果塚の由来
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
「お父つあん、それ
面皰
(
にきび
)
。……」と、自分は父の
脹
(
ふく
)
れた口元にポツリと白く
膿
(
うみ
)
を持つた、小さな腫物を指さしつゝ言つた。
父の婚礼
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
そして彼はまた黙々たる
脹
(
ふく
)
れ顔に返った。
揶揄
(
やゆ
)
されようと、杯に酒を盛られようと、何をされても機嫌がなおらなかった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
忠太は、お定に言つたと同じ樣な事を、繰返してお八重にも語つたが、お八重は返事も
碌々
(
ろく/\
)
せず、
脹
(
ふく
)
れた顏をしてゐた。
天鵞絨
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
ビールをしょっちゅう飲んでいるので、からだはすばらしく
脹
(
ふく
)
らんでいるが、そのうえ外套を何枚も着こんでいるから、いよいよもって大きくなる。
駅馬車
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
「
二十歳
(
はたち
)
でせうか、二十一でせうか」「聞いて御覽な」「厭なお孃樣、そんなに仰しやらなくつてもいゝぢやありませんか」と今度はお常が
脹
(
ふく
)
れて
俳諧師
(旧字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
衣裳の裾のように
脹
(
ふく
)
れ上がり前歯を
露出
(
むきだ
)
した上下の唇、左半面ベッタリと色変えている紫色の
痣
(
あざ
)
、醜く恐ろし気な人間の顔が箱の底から睨んでいる。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
丑松は冷い空気を呼吸し乍ら、岩石の多い坂路を下りて行つた。
荒谷
(
あらや
)
の村はづれ迄行けば、指の
頭
(
さき
)
も赤く
腫
(
は
)
れ
脹
(
ふく
)
らんで、寒さの為に感覚を失つた位。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
「どれ——」と、近くの人夫は大野を押しのけて行った、「要領がありましてな、首だけ取るとまたあとが
脹
(
ふく
)
れる」
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
此の食ひ荒しやは、きれいな緑色で、背中に白い筋をもつてゐて、そして前の方が細くなつて後へ
脹
(
ふく
)
れてゐる。その虫の事を、木虱の獅子と云ふのだ。
科学の不思議
(新字旧仮名)
/
ジャン・アンリ・ファーブル
(著)
牛飼いの若者は
否
(
いや
)
と返事をする代りに、
頬
(
ほお
)
を
脹
(
ふく
)
らせたまま黙っていた。すると相手は流し眼に彼の顔を覗きこんで
素戔嗚尊
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
此蟲が飛び跳ねてゐる最中、毛むくじやらの
脹
(
ふく
)
れた腹の處から、蜘蛛が出て來て、幻術の書の
邊
(
へり
)
を這つて行く。
サバトの門立
(旧字旧仮名)
/
ルイ・ベルトラン
(著)
すべての理性が、
脹
(
ふく
)
れ返っている感情の片隅に小さく蹲っているような心持であった。その時に、雄吉の頭に、故郷に残している白髪の両親の顔が浮んだ。
青木の出京
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
わずかに低く薄く生えた
叢
(
くさむら
)
の上に伏すもなお見分けにくい、それを支那人が誤って骨があるいは伸び
脹
(
ふく
)
れあるいは縮小して虎の身が大小変化するとしたんだ。
十二支考:01 虎に関する史話と伝説民俗
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
髯
(
ひげ
)
の
旦那
(
だんな
)
は、
眉
(
まゆ
)
の
薄
(
うす
)
い、
頬
(
ほゝ
)
の
脹
(
ふく
)
れた、
唇
(
くちびる
)
の
厚
(
あつ
)
い、
目色
(
めつき
)
の
嚴
(
いかつ
)
い
猛者構
(
もさがまへ
)
。
出尻
(
でつちり
)
で、ぶく/\
肥
(
ふと
)
つた四十ばかり。
銭湯
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
ほとんど息をする暇さえないのである。いったいどこからこんなにいろんな言葉が出てくるのか、呆れるよりほかはない。顔はもうおそろしく
脹
(
ふく
)
れ上ってしまった。
墓地へゆく道
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
森君は犬の脚を高く上げて、爪の間に
西瓜
(
すいか
)
の種ほどの大きさに
脹
(
ふく
)
れている
蒼黒
(
あおぐろ
)
い蝨をつまんで、力一杯引張って
漸
(
ようや
)
くの事で引離して、地面に投げつけると踏み潰した。
贋紙幣事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
榮子は英也の向側に坐つたお照の横に、
綿入
(
わたいれ
)
を何枚も重ねて
脹
(
ふく
)
れた袖を
奴凧
(
やつこだこ
)
のやうに広げて立つて
帰つてから
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
彼等は甲板のあちこちに寝ころんで
呶鳴
(
どな
)
りながら話し合っていた。ほんのちょっとした命令が出されたところが、
脹
(
ふく
)
れっ
面
(
つら
)
をし、不承不承にぞんざいにそれをやった。
宝島:02 宝島
(新字新仮名)
/
ロバート・ルイス・スティーブンソン
(著)
潜然
(
さめざめ
)
と心が泣きながら、自分で自分に後指さしながら、たゞ目の前の充実を計る。あの人に甘える。さうしてあの人が、私と同じ心持に引下つて来ないといつて
脹
(
ふく
)
れる。
脱殻
(新字旧仮名)
/
水野仙子
(著)
それは牛皮のようなものですが、焼けば大きく
脹
(
ふく
)
れるといいます。けれどもいつもそのままで食べました。珍しく大きな軽焼を白雪といいました。握り
拳
(
こぶし
)
くらいあります。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
摘んだり道草は喰へど腹は
脹
(
ふく
)
れず何やら是だけが餘計の道のやうに思はれて小腹も立てば
木曽道中記
(旧字旧仮名)
/
饗庭篁村
(著)
思わず呼吸が
弾
(
はず
)
んで来るのだった。にわかに
弾
(
はじ
)
いたように見ひらいた彼の瞳孔には生気の盛り上るイタリー街の男女の群の
揉
(
も
)
み合う光景が華々しく映った。太陽の熱に
脹
(
ふく
)
れ上る金髪。
巴里祭
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
泥のように色艶が全くなく、ちょっとつつけば膿汁が飛び出すかと思われるほどぶくぶくと
脹
(
ふく
)
らんで、その上に眉毛が一本も生えていないため怪しくも間の抜けたのっぺら棒であった。
いのちの初夜
(新字新仮名)
/
北条民雄
(著)
土地の
脹
(
ふく
)
らみやなだらかな線や——苔やヒースの花や、花の咲いた芝や、きら/\した
蕨
(
わらび
)
や、色の柔らかい
花崗岩
(
みかげいは
)
等で山の背や峽谷に與へられてゐる荒い
彩色
(
いろどり
)
を眺めて私の眼は樂しんだ。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
空地の前には鉛色をした潮が
脹
(
ふく
)
らんでいて、風でも吹けばどぶりと
陸
(
おか
)
の方へ崩れて来そうに見えていた。
縁
(
へり
)
には咲き残りの
菜種
(
なたね
)
の花があり、遥か沖には二つの白帆が
靄
(
もや
)
の中にぼやけていた。
春心
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
顔も胴体ももくもく
脹
(
ふく
)
らんでいて、一見土左衛門を
彷彿
(
ほうふつ
)
させた。近頃は相変らず丸々とむくんだなりに、生臭い疲労の
翳
(
かげ
)
がどことなく射しはじめたが、いわば疲れた土左衛門となったのである。
小さな部屋
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
一了簡あり顔の政が
木遣
(
きやり
)
を丸めたような声しながら、北に
峨々
(
がが
)
たる
青山
(
せいざん
)
をと
異
(
おつ
)
なことを吐き出す勝手
三昧
(
ざんまい
)
、やっちゃもっちゃの末は
拳
(
けん
)
も下卑て、
乳房
(
ちち
)
の
脹
(
ふく
)
れた奴が臍の下に紙幕張るほどになれば
五重塔
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
「内藤君、きみは
懐
(
ふところ
)
が
脹
(
ふく
)
らんでいるが、何を入れているんですか?」
苦心の学友
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
病人の腹部に
触
(
さわ
)
って見ると、食物が僅かしか通らないのにいつも
脹
(
ふく
)
れている。もし果して腹部に大きな疾患があるとすれば、今の呼吸器科の医者よりも誰か胃腸専門の医者に
診
(
み
)
さしたらどうであろう。
生あらば
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
紺
(
こん
)
の
絆天
(
はんてん
)
の上に前垂をしめて、丸く
脹
(
ふく
)
れている。
千鳥
(新字新仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
そして、うらめしさうな
脹
(
ふく
)
れツつらをしてゐる。
泡鳴五部作:03 放浪
(旧字旧仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
そこにお京の
床
(
とこ
)
は紅い木綿の裏を見せて、淋しく敷き捨てたまま、枕の
脹
(
ふく
)
らみ具合では、一度も寝なかったことが一と目で解ります。
銭形平次捕物控:080 捕物仁義
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
私は
脹
(
ふく
)
れ
面
(
つら
)
をして容易に
起
(
た
)
たない。すると、
最終
(
しまい
)
には渋々会いはするが、後で金を
持
(
もっ
)
てかれたといって、三日も
沸々
(
ぶつぶつ
)
言ってる。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
「お前の背負って居るものは何か。」「こりゃ喰物だ。」「懐の
脹
(
ふく
)
れて居るのは何か。」「これは銀貨だ」といいました。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
忠太は、お定に言つたと同じ様な事を、繰返してお八重にも語つたが、お八重は返事も碌々せず、
脹
(
ふく
)
れた顔をしてゐた。
天鵞絨
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
はっきりした顔だち、少し
脹
(
ふく
)
れっ気味の肉。どれもみな、かなり格好はよいが、たいてい卑俗で、特質のない小さな鼻。
ジャン・クリストフ:07 第五巻 広場の市
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
脹
漢検準1級
部首:⾁
12画
“脹”を含む語句
膨脹
腫脹
蚯蚓脹
下脹
脹脛
青脹
膨脹力
脹満
泣脹
脹切
着脹
火脹
水脹
蒼脹
鼓脹
膨脹律
通貨膨脹
酒脹
腫脹上
三段膨脹
...