はず)” の例文
真黒まっくろの木綿著物——胸の釦をはずして幅広の黒帯をだらしなく腰のまわりにくくりつけ、入口へ来るとすぐに老栓に向ってどなった。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
腰からさやはずして、刀をおさめると、それを頭のうしろに当てて、深喜は仰向けに寝ころんだ。そうして、彼は、ながいこと泣いていた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
其の長い手袋をはずし爾して手首の所を露出むきだしにして余に示した、示されて余は見ぬ訳に行かぬ、見たも見たも歴々ありありと見たのだが
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
肩からたすきはずしたことのめったに無い母親の姿などが、非常な速度をもって入り替りつつ、小さい頭の中に影絵のように浮かんで来るのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
うす鈍い光りを放って寝ていた坊主頭が、煉瓦の柱の角からはずれると、瘤にひっかかって眼をさました。豆ランプが煤けたホヤの中で鳴り始めた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そう思いながら、信一郎は死者の右の手首から、恐る恐る時計をはずして見た。時計も、それを腕にく腕輪も、銀か白銅ニッケルらしい金属で出来ていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「ああ、可いとも、」といって向直って、お品は掻潜かいくぐってたすきはずした。斜めに袈裟けさになって結目むすびめがすらりとさがる。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして私の接吻を受けるべく、手袋をはずして片手をさし伸べながら、喪服の面紗ヴェールを挙げて昂然と言うのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
心のなかのどこかにふだを掛けておいたなりではいつまでも気にかかる。それを鍵からはずして見たいのである。
それは青龍刀せいりゅうとうの様にギザギザのついた、幅の広い刀だった。彼はそれを、も一度床につき立てて、切れ味を示したのち、さて、錠前をはずして、箱の蓋を開けた。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これは渋川のもく八と云う奴で、元より峰松と馴合って居りますからはずしたので、車を林のかげに置き、先へ廻って忍んで居りましたがゴソ/″\と籔蔭やぶかげから出て
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
女は足で自分の椅子を押し退けた。そして鉄のたがはずすように、自分の頭を病人の手から引き放した。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
もとより人里には遠く、街道はずれの事なれば、旅の者の往来ゆききは無し。ただ孵化かえり立のせみが弱々しく鳴くのと、山鶯やまうぐいすしゅんはずれに啼くのとが、れつ続きつ聴えるばかり。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
袖は涙にれて、白茶地に牛房縞ごぼうじま裏柳葉色うらやなぎはいろを曇らせている。島田まげはまったく根が抜け、藤紫ふじむらさきのなまこの半掛けははずれて、枕は不用いらぬもののように突き出されていた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
部屋に這入って見ると、机の上に鹿の角や花束が載っていて、その傍にはずして置いて出た古襟があった。窓を開けて、襟を外へ投げた。それから着物を脱いで横になった。
(新字新仮名) / オシップ・ディモフ(著)
いつか心持に余裕のできた時にお伽噺とぎばなしにでも書きなおそうなどと思っているが、それも今まで忘れていたのだった。球だけ取りはずして、よく江川の玉乗りの真似などして
地球儀 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
また、別の俵をけて見ると、天冠、台坐がはずれ、手足などが折れたりしたなりで出て来る。
タイヤをはずして、チューブに空気を入れて、あかぼううでのようにやわらかくふくれたチューブを水にくぐらせてあなの場所をさがす。ぷくぷくぷくと小さいあわの出るところがみつかる。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
傀儡師はツカツカと進み寄り、縁にドカリと腰を据え、頭巾ずきんをパラリと取りはずした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その不完全な工事のめに、高い崖の上にかよっている線路がはずれたり、深い谿谷たにの間にかかっている鉄橋が落ちたりして、めに、多くの人々が、不慮ふりょの災難に、非命ひめいの死をげた事が
大叫喚 (新字新仮名) / 岩村透(著)
少焉しばらくあって、一しきり藻掻もがいて、体の下になった右手をやッとはずして、両のかいなで体を支えながら起上ろうとしてみたが、何がさてきりで揉むような痛みが膝から胸、かしらへと貫くように衝上つきあげて来て
しかし、少し動いてもすぐはずれそうで不安であった。——
ある心の風景 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
わざとらしくはずした黒い金縁眼鏡きんぶちめがねの曇りを拭きはじめた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「猿股もはずしちまえ、とてもたまらん」
(新字新仮名) / 徳永直(著)
手をはずれたものは勝手に逃がし
掛けていた目金をはずして、可哀い娘の顔を見る日は、爺いさんのためには祭日である。娘が来れば、きっと目金を脱す。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ほら、羽根から視線をはずした瞬間、まわっていることが分るでしょう。僕もいま飛び出したばかりですよ。ほら。」
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「能く其の戸がはずれましたよ、私しも開け度いと思い、推して見ましたけれど女の力には合いませんでしたが」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
男は腰から刀と脇差をはずし、それを丹三郎のほうへさしだした。丹三郎は甲斐を見た。そして、甲斐がうなずくと、その両刀を受取りながら、するどく相手のようすを見た。
彼は人に笑われちゃ大変だと思って正確に丸を書こうとしたが、にくむべき筆は重く、ガタガタ顫えて、丸の合せ目まで漕ぎつけると、ピンと外へはずれて瓜のような恰好になった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ハハハ……、この眼鏡かね。これは滅多なことでははずさないのだよ。例えば婚礼とか臨終とか、そんな風な一生涯の大事の場合の外はね。わしは熱帯地方の烈しい日光の為に目を
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なまぬるい風のような気勢けはいがすると思うと、左の肩から片膚かたはだを脱いだが、右の手をはずして、前へ廻し、ふくらんだ胸のあたりで着ていたその単衣ひとえまるげて持ち、かすみまとわぬ姿になった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕らが大酔のあまりかかる超現実性を帯びた亢奮状態をあらわしたのは、そのおよそ十年近き以前の一夜だけで、今日まで僕たちの間では平調をはずれた音声すら一言だって交されたためしもないのである。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
二三日はずされない用があるんだとか言ッていたんだからね。明後日あさッてあたりでなくッちゃア、来ないんだろうと思うよ。先日こないだお前さんのことをね、久しく逢わないが、吉里さんはどうしておいでだッて。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
席をはずした。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
携帯品預所の台の上へ短剣をはずして出した栖方は、剣の柄のところに菊の紋の彫られていることを梶に云って
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
お上さんの内には昨夜ゆうべ骨牌会かるたかいがあった。息子さんはたれやらと札の引張合いをして勝ったのが愉快だというので、大声に笑った拍子に、顎が両方一度にはずれた。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼等は一回に決して二つやそこら生むものではないが、哺乳が平均しないため、十分はぐくむことが出来ないで、先きへ生れた者は餓死するのである。これはたいがいはずれっこはない。
兎と猫 (新字新仮名) / 魯迅(著)
扈従こじゅうの少年がゆいつけ草履をぬがせると、雅楽頭はあがって、さっさと奥へとおった。座敷には敷物と火鉢が出ていた。雅楽頭は腰から刀をはずしながら、敷物の上にあぐらをかいて坐った。
顔の皮膚は青いのを通り越してまるで藍色あいいろに見え、眼鏡をはずした両眼は、日頃の突き通す様な光が全く消え失せて、トロンと力なく濁り、口は、死人の様に顎が落ちて、下歯がむき出しになり
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
からめ倒そうとする糸が乱れて、網の目のように、裾、袂、帯へ来て、懸ってははずれ、またまとうのを、身動きもしないで、たたずんで、目も放さず、面白そうに見ていたが、やや有って、ねらいを着けたのか
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると、肱がはずれて、がくりとお杉の膝の上へ顎を落した。お杉は赤くなりながら、落ちかかろうとしている参木の顔をぶるぶるふるえる両膝で支えていた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「売切れた!」趙太爺の声は調子がはずれた。「どうしてそんなに早く売切れたのだ!」
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
彼は刀を腰からはずし、左手に持って、六畳の唐紙からかみを手荒くあけた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
梶は十年も前、自宅の標札をかけてもかけてもはずされたころの日のことを思い出した。長くて標札は三日とたなかった。その日のうちに取られたのも二三あった。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼は時々、吸入器の口を妻の口の上からはずしてみた。すると彼女は絶えだえな呼吸をして苦しんだ。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
すると、ひさしはずれた日の光は、彼の腰から、まるい荷物のような猫背の上へ乗りかかって来た。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
卑弥呼は首から勾玉まがたまをとりはずすと、瞠若どうじゃくとして彼女の顔を眺めている反耶の首に垂れ下げた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
甲谷は乗り出す調子がはずれて来ると、駈け込むようにベンチの背中をつかんで周章あわて出した。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
使部は石窖の前まで来るとそのかんぬきをとりはずし、けやき格子こうしを上に開いて跪拝ひざまずいた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)