くわ)” の例文
「どうも貴方は不思議な人ですね。まるで探偵のようなことを云うじゃありませんか。それに科学にもなかなかくわしいようだし……」
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
医者は病人の様子を見て、脈を取って今血をいたばかりのところだから、くわしい診察は出来ないと云って、色々養生の事を話した。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
合戦のありさまをくわしくするいとまはないが、このたびは大阪軍もその運命をしていたので、ずいしょに激しい戦闘が展開した。
青竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これらの会見始末はくわしく三山に通信して来たそうだが、また国際上の機微にわたるが故に世間に発表出来ないと三山はいっていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
漢学者で仏典もくわしい。鄧完白とうかんぱく風の篆書てんしょを書く。漢文が出来て、Y県人の碑銘を多くえらんでいる。純一も名は聞いていたのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
節子の手紙には泉太や繁の成人して行く様子をくわしく知らせてよこしたが、何時いつでも単純な報告では満足しないようなところがあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
馬の性は白を本とするといったから、当時アヲウマと云って、白馬を用いていたという説もあるが、私にはくわしい事は分からない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
くわしくいえばこれはソデカクチ、すなわち背戸のカクチであり、カクチはやはり垣内で、屋敷全体のことであったかと思われる。
垣内の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私のまいりましたわけをあまりくわしく訊かれますと、私もあがることができませんし、あなたもまた私を入れてくださらないでしょうから。
五通 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
欧人湖南にこの獣ありと聞き往ってくわしく捜せしも見出さず全然法螺話だろうという(アストレイ『新編紀行航記全集ア・ニュウ・ゼネラル・コレクション・オブ・ウオエージス・エンド・トラヴェルス』巻四、頁三一三)
先生の病気に対してはまるで同情も頓着とんじゃくもなかった。病気の源因と、経過と、容体をくわしく聞いて貰おうと思っていた先生はあてはずれた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それがために今まででも互に知り合うていた俳句の標準などもいよいよくわしくわかって来るので、その標準の一致して居る点
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
鮎の講釈に玉江嬢も感心し「何のお魚でもあるいは野菜でもくわしく吟味したらその通りでございましょうね」中川「如何いかにもこの通りです。 ...
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
鹽「手前の先祖は下野の国塩谷郡塩原村の郷士鹽原角右衞門という事が書類に残って居りますが、くわしくも調べては見ません」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
くわしく工事の計数を立ておりますれば、その者をこれへお召しくださるなら、直々じきじき、明瞭なお答えができ得るかとぞんじます。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
王騎射もっとくわし、追う者王をるをあえてせずして、王の射て殺すところとなる多し。適々たまたま高煦こうこう華衆かしゅう等を率いて至り、追兵を撃退して去る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「なんでも強盗が、はいったと云う事ですが、私はくわしいことは知りません。何しろ、早う来て下さるようにとの事でした」
ある抗議書 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
くわしく云えばこの中には身辺にある可動性の器物や人間や一切のものの引力も加わっていてこれらが動けばそれだけの影響はあるはずである。
方則について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ある日のこと、フトした機会はずみから出札の河合が、千代子の身の上についてややくわしい話を自慢らしく話しているのを聞いた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
あたかも弟子が、そのくわしく知れる事においては、わが才能ちからを現はさんため、くかつ喜びて師に答ふるごとく 六四—六六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そこで歴史のことについては、他日別にややくわしいものを発表することを予約しておきましたが、今やその予約を果たそうと思うのであります。
ただこの方面を細論するにくわしき結果、国民的教養の先決問題たる所以を看過せらるるは予輩の本旨にあらざるが故に、ここに本論に入る前に
古墳ノ掃苔そうたいニオケルヤマタ彼ハ専ラ尾陽所在ノモノニノミくわシキコトアタカモ我ノ東都ニ限ラレシニ似タリトイフベシ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それで数学的な分析が出来るほどのくわしい測定をすると、特定な壺の形を示す曲線が、何十本と出て来ることになる。
こちらで訊きもしないのにそんなくわしいことまで喋って、今度は仕事の話になって、自分は指物師としていい仕事をしたい、幸い島は桑の本場だし
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
製図にたくみに、機械にくわしい。醤油のエッセンスにて火をともし、草と砂糖を調じて鉱山用のドンドロを合せたなどは、ほんの人寄せの前芸に過ぎない。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
省三は舟のことは女がくわしいから云うとおりに乗ろうと思ってそのまま乗り移った。舟のどこかに脚燈をけてあるように脚下あしもときいろくすかして見えた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
翌日の新聞に「高円寺老婆殺し」の真相がくわしく報道された。それによると、生活費に窮した衣川は、友人をかたらって老婆から金を強奪する計画を立てた。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
しかしそれは先生が猟期になると狩猟をやられるので、その年の小鳥のつき方にくわしい葛岡を案内に立てゝ猟場を見て廻られるのが目的でしたでしょう。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これを今少しくわしくいってみようならば、極楽の文学というのは地獄を背景に持った文学である。地獄の文学というのは極楽を背景に持った文学である。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
くわしい人智も自然の叡智えいちの前にはなお粗笨そほんだと見える。本能から生れるものには何か抗し難い力がある。あの素朴な苗代川の黒物には自然が味方している。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
日本にも天台の宗義にくわしいとか唯識ゆいしきあるいは真言の宗義にくわしいというえらい学者は沢山ありますけれども
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
私もくは知りません。たれも好くは知りますまい。あなたが御存じのないのも御尤ごもっともです。これまでのところでは、履歴もくわしくはおおやけにせられていないのですから。
それはくわしく前夜の事を私に語って下さって、何先生は、どうだとか、あれは愚物だとか、無口なあなたらしくもなく、ずいぶんつまらぬお喋りをはじめます。
きりぎりす (新字新仮名) / 太宰治(著)
不幸な二人の旅客の来歴をくわしく探査するにつれて、カラタール氏なる人が中央亜米利加アメリカにおける財政家で、政治的代表者であったこと、彼が欧洲への航海中
打候聴候だこうちょうこうは察病にもっとも大切なるものなれども、医師の聴機穎敏えいびんならずして必ず遺漏いろうあるべきなれば、この法を研究するには、盲人の音学にくわしき者を撰びて
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ファラデーによりて提出された光の電磁気説は、余がこの論文にくわしく述ぶるものと、実質において同じである。ただ一八四六年の頃には、電磁波の伝わる速度を
が、さっきの腕の強さを見れば、——殊に兵法にもくわしいのを見れば、世の常の坊主ではありますまい。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
女の容色の事も、外に真似手のない程くわしく心得ている。ポルジイが一度好いと云った女の周囲には、耳食じしょくが集まって来て、その女は大幣おおぬさ引手ひくてあまたになる。
専門たるりつれきえきのほかに道家どうかの教えにくわしくまたひろじゅぼくほうめい諸家しょかの説にも通じていたが、それらをすべて一家のけんをもってべて自己のものとしていた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
留守居の者が私の出立しゅったつの模様やそれから日頃の有様などをくわしく話して聞かせると、その男までつい貰い泣きをし、「ともかくもその事を殿に早くお知らせ申しましょう」
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
なお平常の事務に関してもくわしく記載しておいて、その死後どんな人が三司官になっても、これを繙きさえすればどんな時でもまごつくことのないようにしたとのことです。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
なんでもふいと盗んだのだ。その時の事はもうくわしくは知っていない。忘れてしまった。とにかくその青金剛石はおれが持っている。世界に二つとない正真正銘の青金剛石だ。
橋の下 (新字新仮名) / フレデリック・ブウテ(著)
教員をして日本国中を流浪して歩くからくわしいものさ。今は岡山にいるが、彼処あすこは十万と号してその実七八万しかない証拠に上等の食パンは神戸から取り寄せると言っていたよ
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
沢には最もくわしい人夫の一人が、一は高く一は低く相接して雲の上に尖った頭を露している山を指して、「大烏帽子小烏帽子はあれではないかなあ」と半ば独語のようにいうたが
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ここから土地の案内にくわしい輿水象次氏が一行に加わって、泥道を歩き始める。川俣川にかけた橋を渡って、大門川の峡流を見下しながら、弘法水こうぼうみずに立ち寄り甘美な泉をむすんで飲む。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
女房は是非縛ってもらいたいと云って、相手を殺したという場所をくわしく話した。
マクミラン会社出版の、くわしい註釈を添えた書物であったから、理解するのに其れ程困難ではなかったが、しかし、正直に白状すると、己はの一ぺんを読み終った時、少からず失望した。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
古池の句に対する居士の見解は早く「芭蕉雑談」(明治二十六年)の中に示されているが、「古池の句の弁」の説く所は、それに比してはるかにくわしく、議論としても深く掘下げられている。
「俳諧大要」解説 (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
昔から家事にはくわしいのですが、そこらに本があっても見ようとはなさらず、ただ倹約ということばかりをいっていられたのですし、まして近頃は気力も衰えて、はっきりもなさらないのに
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)