つつ)” の例文
円筒というのは、ブリキ製のつつで、その中の二メートルを落下するに要する時間を測った。その測定器の概略は第33図に示す如くである。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
私は、まっ黒の、大きなつつのようなものが、私の背中にもうすこしで突き当りそうになっているのを発見して、愕いたのである。
竹のつつでもつぼえないこともないが、そう名づけるのにもっと適切な、或いはひさごのようなものをかつては利用していたのではなかったか。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
手に手に吹矢のつつ弾弓はじきゆみ、鳥笛などをもてあそび、べつの一組は、きざはしの口を立ちふさいで、通せンぼをしているとしか思われない群れである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つつっぽのそでに鼻をつけると、こんの匂いがぷんぷん鼻の穴にはいってきて、気取り屋の豹一にはうれしい晴着だったが、さすがに有頂天うちょうてんになれなかった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
ことりとも云わぬうちに、片寄せた障子しょうじに影がさす。腰板のはずれから細い白木のつつがそっと出る。畳の上で受取った先生はぽんと云わして筒を抜いた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人はそのままつつのような廊下の真中に立ち停っていた。しばらくして彼は病室の方へ歩き出した。すると、付添いの看護婦がまた近寄って来て彼を呼びとめた。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それをどうかちょいと拭いてくれないかと言うと、ようございますと言ってじきに取り上げて、自分の鼻汁を拭いた長いつつの先で茶碗を拭き取るのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
が、やがて竹のつつを台にした古風なランプに火がともると、人間らしい気息いぶきの通う世界は、たちまちそのかすかな光に照される私の周囲だけに縮まってしまった。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この人は前にも話しました通り高橋鳳雲の息子さんで、その頃は鉄筆てっぴつつつって職業としていました。
岐阜の雑炊ぞうすいとか、加賀のくず葉巻はまきとか、竹のつつに入れて焼いて食うものもあるが、どれも本格の塩焼きのできない場合の方法であって、いわば原始的な食い方であり
鮎の食い方 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
テッポウユリは沖繩方面の原産で、つつの形をした純白の花が横向きに咲き、香気こうきが高い。このユリを筑前ちくぜん〔福岡県北東部〕では、タカサゴと呼ぶことが書物に出ている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
紺無地の腰きりのつつっぽを着てフランネルの股引ももひきをはいて草鞋ばきで、縁側に腰をかけて居る。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
つんつるてんの飛白かすりつつっぽに、白木綿の兵古へこ帯を太く巻いた大男が、茶筌ちゃせんあたまを振り立てて、そこらで根から抜いて土のついてる六尺ほどの若木を獲物えものに渡り合うのにも
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
床柱とこばしらには必ず皮のついたままの天然木てんねんぼくを用いたり花をけるに切り放した青竹のつつを以てするなどは、なるほど Rococoロココ 式にも Empireアンピイル 式にもないようである。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ノコギリやヤスリなどのついた万能ばんのうナイフ、虫メガネ、じょうまえやぶりの名人が持っているような万能かぎたば、それから、なんだかわからない銀色の三十センチほどの長さの太いつつなど。
鉄塔の怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いわれた通りの飛白かすりつつっぽ、天竺木綿の兵児帯へこおび……勿論それに汚れくさった手拭を下げることをかれは忘れなかった……という昨日とはまるで違った拵えで再びその茶屋の門に立った。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
わたくしはその品を見ませんので、くわしいことは申上げられませんが、その印籠のようなものというのは本当の印籠よりも少し細い形で、どちらかといえばつつのような物であったそうです。
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
銀ごしらえは、吸いかけた煙草をてのひらではたいて、それをつつに納めながら
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
派手なゴルフ服に黒の風呂敷包みを西行背負じょいにし、マザラン流の古風なるつつ眼鏡を小脇にかかえ大ナイフを腰につるし、女子なる方は乗馬服に登山靴、耳おおいのついた羅紗の防寒帽をかむり
このめぐりの野は年毎に一たびきて、木のしげるを防ぎ、家畜飼う料に草を作る処なれば、女郎花おみなえし桔梗ききょう石竹せきちくなどさき乱れたり。折りてかえりてつつにさしぬ。午後泉に入りてかになど捕えて遊ぶ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
……(翁は無限に遠くの世界を思い浮べる心)……おう、あれはいつのことじゃったろう?……貴方はあれがどこから生れ出たか御存知かな? あれは、もと光る若竹のつつの中から生れ出たのじゃ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
八十センチぐらいの太い竹のつつが台になっていて、その上にちょっぴり火のともる部分がくっついている、そしてほやは、細いガラスの筒であった。はじめて見るものにはランプとは思えないほどだった。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
このガラスのつつの中は 地きうおん度とおなじにしてあるのです
血相けっそうかえて、小山の素天すてッぺんへけあがってきた早足はやあし燕作えんさく、きッと、あたりを見まわすと、はたして、そこの粘土ねんどの地中に狼煙のろしつつがいけてあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時安さんは、煙草を二三ぶくふかして、煙管きせるつつへ入れかけていたが、自分の顔をひょいと見て
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ほら、例のものだ。モール博士から預けられた例の密封みっぷうした二本の黒いつつを持ちだすのだ」
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
けてのこう、その花は茎頂けいちょうに集合して咲き、また梢葉腋しょうようえきにも咲く。花下かか緑萼りょくがくがあって、とがった五つの狭長片きょうちょうへんに分かれ、花冠かかんは大きなつつをなし、口は五れつして副片ふくへんがある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
それから人の前でもどこでも自分の着物の裾裏すそうらをまくってはなをかみ、そうして其涕それをうまくすり付けてしまう。余りが多いとつつの方にもそれをすり付けて置くんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
御鷹おたかの獲物はかかり次第、まるを揚げねばなりませぬと、なおも重玄をさんとせし所へ、上様にはたちまち震怒しんどし給い、つつを持てと御意あるや否や、日頃御鍛錬ごたんれん御手銃おてづつにて
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そんなひとりごとをいいながら、ポケットから、つつのようにまるめた、レザーのシースをとりだし、鉄ごうしの外から、のぞかれやしないかと、注意しながら、そのシースをひらきました。
超人ニコラ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
紺絣こんがすりつつっぽに下駄をひっかけての一人旅で、汽車はもちろん三等であった。丁度漱石先生の『三四郎さんしろう』が出たばかりの時だったので、その新しい『三四郎』を一冊ふところに入れて出かけて行った。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
これはガラスのつつの中だ
つつ抜けに聞こえてきた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と桐井角兵衛は、机に山積している各地の郡奉行こおりぶぎょうの報告よりは、眼八が、煙草入れのつつと一緒に抜いた心当たりという一句に、すっかり引きずり込まれて
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると或晩主人がちょっと御邪魔をしても好いかと断わりながら障子しょうじを開けて這入はいって来た。彼は腰から古めかしい煙草入たばこいれを取り出して、そのつつを抜く時ぽんという音をさせた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「大切な品物だ。私は黒いつつをもっていたんだが、ニーナはそれを見なかったかね」
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは、赤くぬった大きな鉄のつつのようなもので、水面から上にでている部分は、上の方がじょうご形にせまくなっているので、道化師どうけしのまっかなトンガリ帽を、うんと大きくしたような形なのです。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そしてそこは広いつつをなして、たがいに重なっているのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
いうまでもなく、この数十日前から、国境につつをかまえて、或る場合に備えていた姫路、岡山の諸藩の兵だ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄砲は博物館にでもありそうな古風な大きいもので、どれもこれもさびを吹いていた。弾丸たまを込めても恐らくつつから先へ出る気遣きづかいはあるまいと思われるほど、安全に立てかけられていた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
落ちていった小さな黒点こくてんは、目にもとまらず直線ちょくせん谷底たにそこへ、——そしてくるった大鷲おおわしは、せつな! つつをそろえて釣瓶つるべうちにってはなした鉄砲組てっぽうぐみたまけむりにくるまれて、一しゅん
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところへみょうつつっぽうを着た男がきて、こっちへ来いと云うから、いて行ったら、港屋とか云う宿屋へ連れて来た。やな女が声をそろえてお上がりなさいと云うので、上がるのがいやになった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しめた! 狼煙のつつは、うまく、地上に見えるその焔のくるわのなかへ落ちた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火薬袋のひもをクルクルと短銃のつつに巻いて、さき羽織ばおりの後ろへ差した最前の武士が、こういって止め合図をかけると、その露をふくんだ春草の上へ駕尻軽く下ろされて、若党らしい者三、四名
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)