祖父じい)” の例文
夕飯ゆうはんのあとは、お祖父じいさん、お祖母ばあさん、少年しょうねんの三にんが、いろりのはたでえだ松葉まつばをたき、毎晩まいばんのようにたのしくおはなしをしました。
おかまの唄 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私は狐仙こせんだよ。百年前、お前さんのお祖父じいさんに可愛がられてたが、お祖父さんがくなったので、私もとうとう身を隠してしまった。
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
長者のうちのお祖父じいさんも出て来て、大きなまんまるい眼鏡めがねの下に眼をまんまるくして、「ほほう」と感心したように眺め入りました。
影法師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
……親は子に、杢介とも杢蔵とも名づけはしない。待て、御典医であった、彼のお祖父じいさんが選んだので、本名は杢之丞もくのじょうだそうである。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「大旦那と云やあ、今の旦那のお祖父じいさんだね、じゃ三代、変な死方をしたと云うのだね、こりゃ、いよいよただごとじゃないよ」
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
していた時だが、鍵はあの時お祖父じいさんのそばにいた、九人の人たちの身辺に隠したことは、いろいろの事情から考えてまちがいもない
九つの鍵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
祖父じいさんが尾崎さんのことを話して僕の為めに弁じてくれたのさ。祖父さんも尾崎さんも吉川閣下も皆同年の寅兵とらへいだったそうだ」
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
地蔵堂より少し下の、神田川のおち口に近い河岸へ、——そこは、あの火事の夜、お祖父じいさんや幸太と火をよけていた場所である。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その時には箕作麟祥みつくりりんしょうのお祖父じいさんの箕作阮甫げんぽと云う人が調所の頭取とうどりで、早速さっそく入門を許してれて、入門すれば字書をることが出来る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
コゼット、僕たちには三万フランの年金がはいってくる、二万七千はお前の方から、三千はお祖父じいさんから下さるので、というんです。
恐る恐る丸薬を拾ってうちへ駈け込んでみますと、いつの間にかお祖父じいさんがお帰りになって、火鉢にあたっておいでになります。
若返り薬 (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
そうすると、今の啼声は矢張やっぱりポチだったかも知れぬと、うろうろとする目の前を、土耳其帽トルコぼうかぶった十徳姿の何処かのお祖父じいさんが通る。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
祖父じいさんがよくそんなことをしたと云ううわさを聞いたが、「白狐の命婦之進みょうぶのしん」とやらはいつの代にか姿を現わさないようになり
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その話を妙善から、直接すぐ祖父じいが聞いたんです。ある祖父じいが僕を連れて、その墓場へ見せに行った。見ると、ちゃんとしゅが入っている。——
□本居士 (新字新仮名) / 本田親二(著)
畢竟ひっきょう、これを父親に似せてはならない、お祖父じいさんに似せなくてはならないということが、与八の頭へ熱鉄の如く打込まれるのであります。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
従祖父おおおじ平田将監ひらたしょうげん様の眼は、こげ茶色をしていて凄かったといういい伝えだから、おまえはおそらくお祖父じいさん似に生れたのであろう……と。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここに父上の祖父じい様らしくなられ候に引き換えて母上はますます元気よろしくことに近ごろは『ワッペウさん』というあだ名まで取られ候て
初孫 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
家人を見ると直ぐ「パパもママも死んじゃったの。伯父さんとお祖父じいさんがパパとママのお迎えに行ったから今日は自動車で帰って来るの、」
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
お前たちにも一遍日本のお祖父じいさんお祖母ばあさんをわせてやりたいなあということで、急に日本へ帰ることになったのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
お美夜、おまえそれはほんとうかい? おお、よく言っておくれだ。わたしも、お祖父じいちゃんとあんなあわただしい別れ方を
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
年をったお祖父じいさんが先に立って仇討などという事を勧めちゃアいかん、それは時節が違うから、まア私の云う事をいて思いとゞまんなさい
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
サト子はお祖父じいちゃん子なので、ショックを受けると困るから、死んだことは、まだ話さずにありますが、そんなことを
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
医者はさじを投げたようだった。祖父じいさんと祖母ばあさんとはそのわきにしょんぼりと座ってただ黙々としていた。私は泣いた。
「いや別にどこへ来たというのでもないです。お祖父じいさんの墓参をかねて、九十九里くじゅうくりへいってみようと思って……」
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
祖父じいさんがもういなくなった時、お前はこれを見て、年とったお祖父じいさんのことを思い出してくれるだろう、ねえ! お祖父じいさんをわすれやしないね。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
かねて見向みむきもしない村の人達が、殊更ことさらにお世辞を云って、お祝いに来たりした。恵美のうちのお祖父じいさんも来た。私は、なんだかうれしくて仕様しようがなかった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
だってわたしは、ここで生れたんだし、お父さんもお母さんも、お祖父じいさんも、ここに住んでいたんですもの。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
御恩のあるお祖父じい様の代わりと思いますだけでも、私の一身を伯父様の犠牲にしてもいいと信じているのですが、どんなことがお気に入らなかったのでしょう。
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
背後うしろき上げて、例のタラアルまがいの黒い服を着て、お祖父じいさん椅子に、たれやらに貰ったという、北海道の狐の皮を掛けて、ベルタンさんが据わっている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「そうだよ。お祖父じいちゃんとなら、どこへでも連れてって貰うよ」無心の三吉が、嬉しそうな声をあげた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は小供の時分よく江戸時代の浅草を知っている彼の祖父じいさんから、しばしば観音様かんのんさま繁華はんかを耳にした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ある朝、明石一太郎君のお祖父じいさんが、老眼鏡をどこかへおき忘れて、いくらさがしても見つからないので、新聞がよめないといって、困っていらっしゃいました。
智恵の一太郎 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
元が唐土を一統した勢いに乗じて、この日本を征伐しようと企てた時、われわれの祖父じいや父は手をってよろこんだが、日本は神の国じゃで悪魔の呪いも仇となった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
扇沢から吹きげられた千切れ雲が気紛れに手を伸して、時々祖父じい岳の額を撫でに来るが、双尖を聳やかした鹿島槍ヶ岳の威容におびえて、慌てたように黒部の大谷に逃げ込む。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
蝶子は顔じゅうしわだらけに笑って「いらっしゃい」駆け寄ったのへつんと頭を下げるなり、女学生は柳吉の所へ近寄って低い声で「お祖父じいさんの病気が悪い、すぐ来て下さい」
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
禾場うちばには村の人達が寄って、板をけず寝棺ねがんこさえて居る。以前もとは耶蘇教信者と嫌われて、次郎さんのお祖父じいさんの葬式の時なぞは誰も来て手伝てつどうてくれる者もなかったそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ジャッキイのお母様が死んでから、ジャッキイは、育てられたお祖父じいさんお祖母ばあさんに別れて、お母様の形見のヴァイオリンを、たった一つ持ったままで、街へ出てゆきました。
街の子 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
もしくなったお前のお祖父じいさんに、そんな軽口かるぐちをわしがこれっぱかりでも言ってみろ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そうさな、ずっと古いことはおれにもまあよくわからないが、吾家うちのお祖父じいさんにしても、おとっさんにしても、ほとんどこの街道や宿場のために一生を費やしたようなものさね。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、すぐ、としよりのお祖父じいさんを食卓へつれてきて、それからは、しょっちゅういっしょにたべさせ、おじいさんがちっとぐらい何かこぼしても、なんとも言いませんでした。
「やっぱりその……つまりこのお祖父じいさんとだね、いろいろな衝突もあったし……」
地球儀 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
「お祖父じいさまですか。このごろ少し気が弱くなったようだけれど、でも大丈夫よ。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
祖母ばあさんが築山つきやまに座って、祖父じいさんに小言をいわれている。早く行ってやれ。」
「悲しければ大人だって泣かずにおらるるものか」と母親は子供の頭をでさすった、「そうじゃろう?——これがかなしゅうなかろうか、祖父じいさん祖母ばあさんの云う通りにしとったら、 ...
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ごんごろがねができたのは、わたしのお祖父じいさんのわかかったじぶんで、わたしもまだまれていなかったむかしのことだが、そのころむら人達ひとたちはみなおかねというものをすこししかっていなかったので
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
勉を生かそうとする努力の裡で乙女は友達の着物をかりて質に入れるようなひどい苦面をし、やっと夜汽車にのってミツ子を祖父じいさん祖母ばあさんのところへ謂わば押しつけに置いて来たのであった。
小祝の一家 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
大事にかわいがってくれたお祖父じいさんお祖母ばあさんにゃ早く死に別れるし、引き取られた義理の親のうちアいやに上品ぶってて、俺を医者にばかりしたがるからすッ飛び出して好きな落語家になって
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
ときどき兄がその相伴をしていた。兄は祖父じいさん祖母ばあさん子で、また、母の心は私にあった。あるとき、祖父が兄をひどく叱ったことがあった。私はそばにいたが、「ごめんなさい。」と云った。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
友人辻本工学士に拠ると信濃越中の国境に聳えている祖父じいヶ岳は、「種蒔き爺さん」がざるを持った具合に現われるので、山腹雪解の頃、偃松はいまつが先ずその形にひろがって、出るのではないかという話である
雪の白峰 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「お祖父じいさんは道楽したせに伯父おっさんが小んまい石塔建てたんど」
(新字新仮名) / 壺井栄(著)