真暗まつくら)” の例文
旧字:眞暗
川沿かはぞひ公園こうゑん真暗まつくら入口いりぐちあたりから吾妻橋あづまばしはしだもと。電車通でんしやどほりでありながらはやくからみせめる鼻緒屋はなをやちつゞく軒下のきした
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
中が真暗まつくらこはかつたので、半ときばかり泣いてあばれてゐて、やうやく許された。あのやり方は随分ききめがあつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
男——帽子はかぶつたまゝ、部屋へはひりました。それに、月が出てゐて、真暗まつくらといふほどでもありませんでした。
クロニック・モノロゲ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
り込んで見ると、だれも居なかつた。くろ着物きものた車掌と運転手のあひだはさまれて、一種のおとうづまつてうごいて行くと、うごいてゐるくるまそと真暗まつくらである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
が、小人数こにんずとはへ、ひとがなかつたら、友染いうぜんそでをのせて、たゞ二人ふたり真暗まつくらみづたゞよおもひがしたらう。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大正十二年の冬(?)、僕はどこからかタクシイに乗り、本郷ほんがう通りを一高の横から藍染橋あゐそめばしくだらうとしてゐた。あの通りは甚だ街燈の少い、いつも真暗まつくら往来わうらいである。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「何と大きな樟のだなア、何と大きな樫の樹だなア。」とあきれながら、馬鹿七は真暗まつくらい森の中で木の根に腰をかけて、腹鼓の鳴るのを、今か/\と待つてゐました。
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
そんなわけで、悪魔が衣嚢かくしへ月を匿すと同時に、急に全世界が真暗まつくらになつてしまつたため、補祭のところは愚か、酒場へ行く道もおいそれとは見わけることが出来なかつた。
腹の黒い悪魔の吐く息は、雲かかすみのやうに空をたてこめて、まだ生れてから若い、お天道様の美しい光りも覆ひ隠し、地上はまだ世界がひらけない前のやうに真暗まつくらになりました。
悪魔の尾 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
真暗まつくらな、しいんとした夜です。どこにも人の足音も、物の動くけはひもしません。空には星がいつぱい出てゐます。茂みの間からその星をながめてゐると、エミリアンはやうやく落付おちつきました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
かひこみなお玉の母親の心に感じたものか眼もまばゆい金銀の糸を吐いて大きな繭を家中うちぢうにかけてりましたから今まで真暗まつくらなみじめなお玉のいへの中はまるで王様のお住居すまゐの様に光り輝いてりました。
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
彼れは何処へ? 真暗まつくら
秋の小曲 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
火事があつて、とほれないんです。廻り道をしたら自転車のチェーンがはづれて、真暗まつくらなもんで、なかなか……。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
道子みちこはし欄干らんかんをよせるとともに、真暗まつくら公園こうゑんうしろそびえてゐる松屋まつや建物たてもの屋根やねまど色取いろど燈火とうくわ見上みあげるを、すぐさまはしした桟橋さんばしから河面かはづらはううつした。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
嵐気らんきしたゝる、といふくせに、なに心細こゝろぼそい、と都会とくわい極暑ごくしよなやむだ方々かた/″\からは、その不足ふそくらしいのをおしかりになるであらうが、行向ゆきむかふ、正面しやうめん次第しだい立累たちかさなやまいろ真暗まつくらなのである。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
野々宮さんは外国ぢやひかつてるが、日本ぢや真暗まつくらだから。——だれも丸で知らない。それで僅ばかりの月給を貰つて、穴倉へ立籠つて——、実に割に合はない商買だ。野々宮さんの顔を
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
どのうちも戸締りをしてねてゐます。それに所所街燈がついてゐます。これはいけないと思つて、野原の方へ逃げました。真暗まつくらな野原の中を、むちゆうに駆けていきました。やぶのなかにかくれました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
とほりがゝりに時間を見るためこしをかゞめてのぞいて見るとのきの低いいへの奥は真暗まつくらであつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
むかぎしまたやますそで、いたゞきはう真暗まつくらだが、やまからその山腹さんぷくつきひかりらしされたあたりからは大石おほいし小石こいし栄螺さゞえのやうなの、六尺角しやくかく切出きりだしたの、つるぎのやうなのやらまりかたちをしたのやら
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
真暗まつくらな夜で、窓の下に何があるかさへ見分けがつきません。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
声——真暗まつくらでは帽子を掛けることもできないだらう。
クロニック・モノロゲ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
つゝみの上に長くよこたはる葉桜はざくら木立こだち此方こなたの岸から望めばおそろしいほど真暗まつくらになり、一時いちじ面白おもしろいやうに引きつゞいて動いてゐた荷船にぶねはいつのにか一さう残らず上流のはうに消えてしまつて
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その掻毮かきむしるやうにまどけた、が、真暗まつくらである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うち四辺あたり真暗まつくらつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)