浅葱あさぎ)” の例文
旧字:淺葱
日光の隠顕いんけんするごとに、そらの色はあるいは黒く、あるいはあおく、濃緑こみどりに、浅葱あさぎに、しゅのごとく、雪のごとく、激しく異状を示したり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
着ている物は浅葱あさぎ無紋むもん木綿縮もめんちぢみと思われる、それに細いあさえりのついた汗取あせとりを下につけ、帯は何だかよく分らないけれども
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
つややかな丸髷まるまげってうす色の珊瑚の玉をさしていた。桃色の鶴や、浅葱あさぎのふくら雀や、出来たのをひとつひとつ見せてはつづけてゆく。
折紙 (新字新仮名) / 中勘助(著)
幼い時から筑波を見ては「あらお山が紫の着物着た。そら浅葱あさぎの着物着た。あら白い衣物きもの着た。あれ幕の中に入ってしまった」
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
川は目のさめるような緑の両岸にふちどられて、水面みのも浅葱あさぎいろの空を映しながら、ところどころ陽の光を銀色に射返して、とてもきれいだった。
接吻 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
この土地で奴僕ぬぼくの締める浅葱あさぎの前掛を締めている。男は響のい、節奏のはっきりしたデネマルク語で、もし靴が一足間違ってはいないかと問うた。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
お聞きになったらどうお思いになることだろう。貴公子でおありになっても、最初の殿様が浅葱あさぎほうの六位の方とは
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
日比谷の公園外を通る時一隊の職工が浅葱あさぎの仕事着をつけ組合の旗を先に立てて隊伍整然と練り行くのを見た。その日は欧洲休戦記念の祝日であったのだ。
花火 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
浅葱あさぎの股引に草鞋わらじがけ、桐油に上半身を包んで、目ばかり出した風体ふうていは、腰の矢立てと懐の画帳が無かったら、葛飾在から来た水見舞と間違えられるでしょう。
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
五助が墓地にはいってみると、かねて介錯を頼んでおいた松野縫殿助ぬいのすけが先に来て待っていた。五助は肩にかけた浅葱あさぎふくろをおろしてその中から飯行李めしこうりを出した。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
浅葱あさぎか藤色にして見ようといっていられましたが、それからさっぱり客が来なくなったそうで、やっぱり赤くなければ人目をかないと見えるといわれました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
能登湯のとゆといって、その頃は入口の欄間に五色の硝子ガラスが装われていた。それだけやっと近代化した伝統のある家で、浅葱あさぎ暖簾のれんを昔ながらにまだ懸けていたかと思う。
薄黄水仙の浅葱あさぎの新芽枯れたる芝生のなかに仕切られたる円形或は長方形の花壇のなかに二寸ばかり萌えいづ。その幾何学的なる配列のつつましさよ、風かすかにかよふ。
春の暗示 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
斯く打吟うちぎんじつゝ西の方を見た。高尾、小仏や甲斐の諸山は、一風呂浴びて、濃淡のみどりあざやかに、富士も一筋ひとすじ白い竪縞たてじまの入った浅葱あさぎの浴衣を着て、すがすがしくんで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
凝つた上衣スクニャアや、浅葱あさぎの古代絹の下袴ペチコートや、銀の踵鉄そこがねを打つた長靴の素晴らしさに度胆を抜かれたが、それにもまして、彼女の老父がいつしよに来なかつたことを奇異に思つた。
目元きりゝっとして少し癇癪持かんしゃくもちと見え、びんの毛をぐうっと吊り上げて結わせ、立派なお羽織に結構なおはかまを着け、雪駄せった穿いて前に立ち、背後うしろ浅葱あさぎ法被はっぴ梵天帯ぼんてんおびを締め
その日の彼の支度を見ると、肌には練絹ねりぎぬの二ツ小袖、上には墨で蝶散らしを描いた白の鎧直垂ひたたれをかけ、かぶとはかぶらず、浅葱あさぎ絹のふくろ頭巾に、朱の頬楯ほおだてをして、緒をあごにむすんでいた。
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日は不漁しけで代物が少なかったためか、店はもう小魚一匹残らず奇麗に片づいて、浅葱あさぎ鯉口こいぐちを着た若衆はセッセと盤台を洗っていると、小僧は爼板まないたの上の刺身のくずをペロペロつまみながら
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「はい。」浅葱あさぎ服の職工は飛んだ失敗しくじりでも見つけられたやうに恐縮した。
一条の裂目が雪田を横断して深さ六、七尺の溝を穿っている先に、小山のような雪の高まりがあって、向う側は山からにじみ出した水の流れが、氷河の如く堅く凍ったまま浅葱あさぎ色に冴えていた。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
近きは紫紺に、遠きは浅葱あさぎ色に、さらに奥山は銀鼠色に。
わが童心 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
重なれる山は浅葱あさぎの繻子のひだ渾河は夏のうすものの襞
墨と浅葱あさぎを盛り重ね
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
娘の帯の、銀の露の秋草に、円髷の帯の、浅葱あさぎに染めた色絵の蛍が、飛交とびかって、茄子畑なすばたけへ綺麗にうつり、すいと消え、ぱっと咲いた。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つややかな丸髷まるまげってうす色の珊瑚の玉をさしていた。桃色の鶴や、浅葱あさぎのふくらすずめや、出来たのをひとつひとつ見せてはつづけてゆく。
小品四つ (新字新仮名) / 中勘助(著)
深い緑の松原の中に花紅葉もみじかれたように見えるのはほうのいろいろであった。赤袍は五位、浅葱あさぎは六位であるが、同じ六位も蔵人くろうどは青色で目に立った。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
浅葱あさぎの手拭を頬冠ほおかむりに、少し猫背で、栗色の肌をした中年男は全く醜い昆虫のような感じかするのでした。
薄黄水仙の浅葱あさぎの新芽枯れたる芝生のなかに仕切られたる円形或は長方形の花壇のなかに二寸ばかり萠えいづ。その幾何学的なる配列のつつましさよ、風かすかにかよふ。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
よい加減の厚さになると浅葱あさぎなどに染めたのを上に被せ、薄い布海苔ふのりを引きます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
持物は浅葱あさぎ手拭一筋である。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
浅葱あさぎの色に明るし。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
浦子は辛うじて蚊帳の外に、障子の紙に描かれた、胸白き浴衣の色、腰の浅葱あさぎも黒髪も、夢ならぬその我が姿を、歴然ありありと見たのである。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身体は至って小さく、強靱ではあるが、決して逞しさはなく、ひょっとこの面に豆絞りの手拭、至って粗末な半纒に、浅葱あさぎの股引、素足が小さいのも、妙に気になります。
「兄さん、おい、兄さん。」と、別の大型のランチから、たくましいかお浅葱あさぎの背広が呼び立てた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
左右の大臣、内大臣、納言以下はことごとく供奉ぐぶしたのである。浅葱あさぎの色のほうに紅紫の下襲したがさねを殿上役人以下五位六位までも着ていた。時々少しずつの雪が空から散ってえんな趣を添えた。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
浅葱あさぎ納簾のれんあひだから
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
打悄うちしおれた、残んの嫁菜花よめなの薄紫、浅葱あさぎのように目に淡い、藤色縮緬ちりめんの二枚着で、姿の寂しい、二十はたちばかりの若い芸者を流盻しりめに掛けつつ
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「使い屋かも知れません。——浅葱あさぎ股引ももひき素草鞋すわらじを履いて頬冠ほおかむりをしていました」
浅葱あさぎの色の位階服が軽蔑けいべつすべきであった私を、今だってあなたの良人にさせておくのが残念で、何かほかの考えを持っている者などがあって、いろんなないうわさをあなたに聞かせるのだろう。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
牡丹ぼたんたちまち驚いてひるがえれば、花弁はなびらから、はっと分れて、向うへ飛んだは蝴蝶ちょうちょうのような白い顔、襟の浅葱あさぎれたのも、空が映って美しい。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親分、恐れ入ったぜ。頬冠りに浅葱あさぎの股引、素草鞋を履いて、手紙を持って歩くのは、なるほど使い屋だ。——それから人の家の前へ立って、呼出しでもかけるように、ウロウロ中を
浅葱あさぎほうを着て行くことがいやで、若君は御所へ行くこともしなかったが、五節を機会に、好みの色の直衣のうしを着て宮中へ出入りすることを若君は許されたので、その夜から御所へも行った。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
浅葱あさぎの絵の具を取って、線を入れた。白雪の乳房に青い静脈はうねらないで、うすく輪取って、双の大輪の朝顔が、面影を、ぱっと咲いた。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大将や左衛門督さえもんのかみなどの息子むすこの、自分よりも低いもののように見下しておりました者の位階が皆上へ上へと進んで行きますのに、自分は浅葱あさぎほうを着ていねばならないのをつらく思うふうですからね。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
庫裡くりの腰高障子を開けて出て来た一人の男、赤い大黒頭巾を冠せた子供を深々とおんぶして、浅葱あさぎの手拭で頬冠りをしたまま、甚々端折じんじんばしょりに長刀草履を穿いて、ヒョコヒョコと裏門を出て行きました。
「はい、何を差上げます。」と言う声が沈んで、泣いていたらしい片一方の目を、俯向けに、紅入べにいり友染ゆうぜんの裏が浅葱あさぎの袖口で、ひったりおさえた。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
掴寄つかみよせられた帯もゆるんで、結び目のずるりと下った、扱帯しごき浅葱あさぎは冷たそうに、提灯のあかりを引いて、寂しくおんなの姿をかばう。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五尺ばかり前にすらりと、立直たちなおる後姿、もすそを籠めた草の茂り、近く緑に、遠く浅葱あさぎに、日の色を隈取くまどる他に、一ぼくのありて長く影を倒すにあらず。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
首抜くびぬき浴衣ゆかたに、浅葱あさぎこん石松いしまつ伊達巻だてまきばかり、寝衣ねまきのなりで来たらしい。てらされると、眉毛まゆげは濃く、顔はおおきい。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……浅葱あさぎたすき、白い腕を、部厚な釜のふたにちょっとせたが、丸髷まるまげをがっくりさした、色の白い、歯を染めた中年増ちゅうどしま
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)