気焔きえん)” の例文
旧字:氣焔
そこでいよいよ現代文芸の理想に移って、少々気焔きえんを述べたいと思います。現代文芸の理想は何でありましょう。美? 美ではない。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それすこぎて、ポカ/\するかぜが、髯面ひげつらころとなると、もうおもく、あたまがボーツとして、ひた気焔きえんあがらなくなつてしまふ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
修造にしろ、「頭の中の兵士」という茂緒にとってわけの分らぬ詩があった。若い詩人たちは、よるとさわると気焔きえんをあげていた。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
何らの気焔きえんぞ。彼はこの歌に題して「戯れに」といいしといえども「戯れ」の戯れにあらざるはこれを読む者誰かこれを知らざらん。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
それから、籐椅子とういすに尻を据えて、勝手な気焔きえんをあげていると、奥さんがゆびで挨拶に出て来られたのには、少からず恐縮した。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先日、私が久しぶりで阿佐ヶ谷の黄村先生のお宅へお伺いしたら、先生は四人の文科大学生を相手に、気焔きえんげておられた。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
へんな気焔きえんを上げるようだが、この俺も、お前のためには、どんな時、どんな場合でも、命をかけて、後見うしろみをするつもりだよ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
おもてはなやかに、うらの貧しいこんな文明人はついそこいらの牛店にもすわり込んで、肉鍋と冷酒ひやざけとを前に、気焔きえんをあげているという時だ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
変ったところで気焔きえんをあげる。庄吉もまだ限度のわかる酔態で、都落ちの悲惨まだ胸につかえて残っているから、案外おとなしく立ちあがる。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ゴルフ場や飛行機の着陸場はすぐここに出来るようになろうという熊八氏の気焔きえんを聞いた。ここには熊八氏の五万坪ほどの別荘の敷地がある。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
上方へゆく目的は、熊沢蕃山ばんざんの門をたたくためだという。蕃山といっても経学をきくためではない、笛をまなびたいのだ、などと気焔きえんをあげた。
社長は、「ある——大いにある」と怒鳴ったが、誰も酔いの上の気焔きえんと思って相手にしない。社長は口をつぐんで仕舞った。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それにしても、来朝早々こんな会のメムバーになって、夜おそくまで皆が勝手な気焔きえんをあげる仲間になっていたのであるから、かなり変っている。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ひとつには当時の上流と目される大名の奥方や、姫君などは、かごとり同様に檻禁かんきんしてしまったので、勢い下々しもじもの女の気焔きえんが高くなったわけである。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
何か別な極めて呑気のんきな私の性格位にしか映っていないし、時々ビーヤホールなどで大気焔きえんを挙げられる彼には、私の気持に立ち入り得る筈がなく
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
と朱唇おおい気焔きえんを吐けば、秘密のすでにあらわれたるに心着きて、一身の信用地に委せむことを恐るれども、守銭は意を決するあたわず。辞窮して
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
至極結構なれども、実はその気焔きえんの一半は、昨夜うちにてさんざんに高利貸アイスクリームいたまいし鬱憤うっぷんと聞いて知れば、ありがた味も半ば減ずるわけなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
佐分利さぶりと甘糟はかねて横浜を主張してゐるのだ。何でもこの間遊仙窟ゆうせんくつを見出して来たのだ。それで我々を引張つて行つて、大いに気焔きえんを吐くつもりなのさ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「その時が日本の驥足きそくを伸ぶべき時、自分が一世一代の飛躍を試むべき時だ」と畑水練はたけすいれん気焔きえんを良く挙げたもんだ。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
悲憤慷慨こうがい気焔きえんを吐く者が多いから、わずと知れた加藤等もその連中れんじゅうで、慶喜さんにお逢いを願う者に違いない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そして、そういう酒もりが開かれるたびに、若者たちが聞かされるのは、老人たちの酒の機嫌での気焔きえんであった。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
かれはもう五十をすぎたが女房にょうぼうも子もない、ほんのひとりぽっちで毎日生徒を相手に気焔きえんをはいてくらしている
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
タヌの気焔きえんに頓着なく、七八人の手で二人の自動車を、ぬかるみの細い田舎道へ、「一昨日おととい来い」とばかりに押し出した。タヌは烈火のごとく猛り立って
赤瀬の家で相当飲んで居ったので、二人とも、赤い顔をして、声も大きく、大いにやろう、はあ、大いに、大いに、と盛んにとりとめもない気焔きえんをあげた。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
それがたちまち茶袋にとっつかまったのはあたりまえです。取捉まって引き出されるまで道庵は気焔きえんを揚げていましたけれど、茶袋は取り上げる限りではない。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
気焔きえんを挙げていたものであるが、期熟して、その秋、第一回展を京橋角にあった読売新聞の楼上に開催した。
ヒウザン会とパンの会 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
日本兵のなすに足らざるを言って、にじのごとき気焔きえんを吐いた。その室に、今、垂死の兵士の叫喚うめきが響き渡る。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
とにかく自分の現在の生活が都合よくはこびうるならば、ブルジョアのために、気焔きえんも吐こうし、プロレタリアのために、提灯ちょうちんも持とうという種類の人である。
広津氏に答う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「門外漢には分らないけれど、吉川君は気焔きえん当り難いものがある。もう間違ないようなことを言っている」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
諾威ノウルエー船の機関長として横町の闇黒で売春婦と交歩してるのや、なかには波蘭土ポーランドの共産党員を気取って聖ミシェルのLA・TOT0で「赤い気焔きえん」を上げてみたり
ふと一軒の茶店からしきりに江戸江戸と江戸を売りに来ているような声がするので、泰軒、何ごころなくみやると、見たことのある町人がさかんに気焔きえんをあげている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
たいへんな気焔きえんである。費褘ひいは少しも逆らわなかった。で、彼はいよいよ調子に乗って大言した。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
談話はなしをすると言うよりかむしろその愚痴やら悪口あっこうやら気焔きえんやら自慢噺じまんばなしやらの的になっている。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
気焔きえんを吐いたり、英語交りにまくし立てたり、ハイカラな衣裳や持ち物などを見せびらかしたり、まるで貴族のお嬢様が貧民窟ひんみんくつを訪れたように、威張り散らしていやしないか。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私は、次第にそんな大チャンにいらいらとしてきて、だが一方、自分の気焔きえんに逆にあおりあげられるみたいになり、しまいに収拾がつかなくなり、酔っぱらってそこにノビてしまう。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
そして私が着物を着換えたりするのを待ち合せながら『昨夜ゆうべは大変な気焔きえんだったね』
二癈人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「君、前山が来て近い中にきっと志野を焼いて持って来るって大気焔きえんだったよ……」
彼女はまたノートを開いて、私のその身の程知らずの気焔きえんを一々書き留めている。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
独身の将校のためのその寄宿舎は、営門をはいって左手へ降りた窪地くぼちにあった。ひら家の陰気な建物だが、錦旗革命を夢みている青年将校たちがそこでにじのような気焔きえんをあげていたものだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
すべて革命的の気焔きえんあおぎたる『柳子新論りゅうししんろん』の著者山県大弐が大不敬ふけい罪の名義によりて、死罪申附けられ、その徒藤井右門は獄門ごくもんけられ、竹内正庵(式部)が遠島えんとう申し附けられたるが如き
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
僕はこれを見て、ハハア、この人が今までの大言壮語たいげんそうごも、その磊落らいらくの行儀も、思いつかずになしたわざでなく、一こしら気焔きえんで人をおどかすつもりか、あるいは豪傑をてらってのわざであったのだな。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
盛岡もりをかの電燈はかすかにゆらいでねむさうにならびただ公園のアーク燈だけ高いところでそらぞらしい気焔きえんの波を上げてゐる。どうせ今頃いまごろは無鉄砲な羽虫が沢山集ってぶっつかったりよろけたりしてゐるのだ。
秋田街道 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
どこまで阿呆あほうになっていても辛抱できるだけ辛抱する気で、婆さんが、どんなに偉そうなことをいったり、凄まじい気焔きえんを吐いても、ただ「へいへい」して、じっと小さくなってそこに坐っていた。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それが、ぐいぐいあおりながら、虹のような気焔きえんをあげはじめる。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
教員は信心ぶかい父のまへにかう云つて気焔きえんを吐いた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
くだを巻いたり、気焔きえんいたりして居ることがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
平次も、お舟の気焔きえんには少したじたじと来ました。
フーラー博士は、いよいよすごい気焔きえんを吐く。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
「僕、もう貴女は結婚してしまわれたのではないかと思った。軽井沢で、この一筋と思うような人でなければならんというような気焔きえんだったが、まだ見つからないんですか。この一筋が見つからんので、ちょっと道草ですか。」
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と辻永はにじのような気焔きえんいた。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)