案外あんぐわい)” の例文
ひげのないとおもつたのに、ひげやしてゐるのと、自分じぶんなぞにたいしても、存外ぞんぐわい丁寧ていねい言葉ことば使つかふのが、御米およねにはすこ案外あんぐわいであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
つぎ巡査じゆんさとなり傭人やとひにんれて壁際かべぎはしらべさせたがくぬぎ案外あんぐわいすくなかつた。それでもおつぎのではれなかつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
無意識の芸術的衝動だけは案外あんぐわい生死の瀬戸際せとぎはにも最後の飛躍をするものだからね? 辞世の歌で思ひ出したが
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
頻々ひん/\たる地震ぢしんたいしても、古代こだい國民こくみん案外あんぐわい平氣へいきであつた。いはんや太古たいこにあつては都市としといふものがない。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
俊男は其のさかしい頭が氣にはぬ。また見たところ柔和にうわらしいのにも似ず、案外あんぐわい理屈りくつツぽいのと根性こんじやうぽねの太いのがにくい。で、ギロリ、其の横顏をにらめ付けて
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
これしからん、無礼至極ぶれいしごくやつだ、なん心得こゝろえる、これほどの名作めいさくの詩を、詩になつてらんとは案外あんぐわいうも失敬しつけいな事をまうやつだ、其分そのぶんには捨置すておかん、入牢じゆらう申附まうしつける。
詩好の王様と棒縛の旅人 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
本心ほんしんにはるまじきふみ趣向しゆかう案外あんぐわいのことにて拍子へうしよくき、文庫ぶんこをさたまひしとはがもの、と一たびいさみけるが、それよりのち幾度いくど幾通いくつうかきおくりしふみに一たび返事へんじもなく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さだめしいま時分じぶん閑散ひまだらうと、その閑散ひまねらつてると案外あんぐわいさうでもなかつた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
細君さいくんところによると、かれ郷里きやうりかへつてから當日たうじついたまで一片いつぺん音信おんしんさへ下宿げしゆくへはさなかつたのである。宗助そうすけ案外あんぐわいおもひ自分じぶん下宿げしゆくかへつてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
くらゐのものらしいやうでしたな、案外あんぐわいすくなかつたんですな」巡査じゆんさ手帖ててふ反覆くりかへしながらいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すなは太古たいこ國民こくみんは、頻々ひん/\たる地震ぢしんたいして、案外あんぐわい平氣へいきであつたらうとおもふ。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
僕はこの死骸をものあはれに感じた。しかし妻にその話をしたら、「それはきつと地震の前に死んでゐた人の焼けたのでせう」と云つた。成程なるほどさう云はれて見れば、案外あんぐわいそんなものだつたかも知れない。
さりとてはほど人品じんぴんそなへながらおぼえたげいきか取上とりあげてもちひるひときかあはれのことやとはまへかんじなり心情しんじやうさら/\れたものならずうつくしきはなとげもあり柔和にゆうわおもて案外あんぐわい所爲しよゐなきにもあらじおそろしとおもへばそんなもの
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
産婆さんばゆつくりふし、脱脂綿だつしめん其他そのた準備じゆんびこと/″\不足ふそくなくそろへてあつた。さん案外あんぐわいかるかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)